![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/47/93289829061595ed4cbfa07dc8b00707.jpg)
Ⅰ 私たちの「顔」は誰のもの? ~肖像権(Portrait rights)~
深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催明言 コーツIOC副会長
国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/c3/9c3f1adf4140fdc42f3d186dbe8e3b75.jpg)
映像素材(Image source)を扱うアーカイブやライブラリーの担当者なら「肖像権」という言葉を一度は聞いたことがあるであろう。世界各国でも「肖像権」という権利は、幅広く浸透してきた。
しかし、権利を明確に規定する法律がある国はまだ少ないといわれている。
こうした状況の中でも、フランスでは大統領夫妻の写真を無断で航空会社が広告に使用し、慰謝料支払いを命令されたり、アメリカでは、女優マリリン・モンローの肖像権は消滅しており、遺産管理団体へ使用料を支払う必要はないという判決が下されたり、日本では、繁華街を歩く女性をウエッブに掲載し、肖像権侵害で損害賠償支払い命令を受けたりして、世界各地で「肖像権」をめぐるトラブルが続発している。
勿論、映像には「著作権」があり、映像使用するには著作権処理が必要である。「肖像権」は「著作権」とは別の権利で、映像の中に写り込んでいる肖像に対する権利なのだ。
「肖像権」の解釈の仕方は、世界各国で少しずつ異なる。本稿では、日本における「肖像権」の情報を中心にまとめた。
Ⅱ 肖像権の二つの構成要素 「プライバシー権」(Privacy rights)と「パブリシティ権」(Publicity rights)
日本では、「肖像権」を規定する明確な法律は存在しない。
しかし、「肖像権」を巡っての訴訟がたびたび起こされ、判例の積み重ねの中から「肖像権」という権利の内容が少しずつ明らかになっている。
「肖像権」には、「肖像プライバシー権」と「肖像パブリシティ権」の二つ構成要素があるとしている。
「肖像プライバシー権」とは、『その承諾なしに、みだりにその容貌、姿態を撮影されない自由』(撮影拒否権)という権利だ。また、撮影された自分の肖像を無断で使用や公表をさせないという権利(公表拒否権)も存在する。
「肖像プライバシー権」は「人格権」とも呼ばれ、あらゆる人が保有する基本的な権利である。
これに対して、「肖像パブリシティ権」とは、肖像の経済的な利益を専有する一種の「財産権」である。著名な俳優、芸能人、スポーツ選手などの肖像や氏名は、CMなど商品の宣伝で利用され、パブリシティ(顧客吸引力)と呼ばれる経済的価値が存在する。米国で確立していった概念で、ニューヨーク、カリフォルニアなどアメリカの一部の州は、パブリシティ権に関する法律があるという。日本では「肖像パブリシティ権」規定する法律は存在しないが、関連する訴訟の判決の積み重ねの中で、少しずつ認め始められた権利だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/6a/7f05d4f44ea1970002fa3f1ff4445a42.jpg)
*「肖像権」、「肖像プライバシー権」、「肖像パブリシティ権」の関係は図1を参照
Ⅲ-1 通行人や群衆の肖像はどうなる?~市民の肖像プライバシー権~
ロンドンやパリ、東京の繁華街の町並みを撮影すると、画面には必ず市民が映り込んでいるだろう。こうした映像に映っている市民は自分の肖像権を主張できるだろうか? アーカイブやライブラリーは、このフッテージを自由に売ることは可能なのだろうか?
日本の場合では、「条件付き」でYESだ。
その映像を見た時に、映っている人が誰だが「容易に」特定できない程度の小さなサイズの場合は肖像権侵害にならない。繁華街のワイドショットやロングショットに群衆として映りこんでもまず問題はない。
映っている人が誰かが特定できるサイズで人が映りこんでも、「受忍限度」の範囲なら問題はないとされている。
日本では、「受忍限度」として下記のような例が挙げられる。
1 撮影した映像の中に「偶発的」に、特定の個人が写りこんだ場合
繁華街で記者がリポートしている背景に写りこんだ通行人
2 不特定多数の人混みや群衆を撮影している中に特定の個人が写りこんだ場合
商店街の人ごみ 駅の通勤者の群れ 横断歩道を渡る市民
空港の混雑
3 季節の風物を写した「風景」映像に人が写りこんだ場合
しかし、雪道で転倒したり風で服装が乱れたりするシーンや、海水浴場、プールで水着着用の人の映像や、過度にその人に焦点をあてて、顔がはっきりとわかるように撮影した場合などは、「受忍限度」を超え、プライバシー侵害と判断される場合もある。
また写される人が撮影を明らかに拒否した場合や、「隠し撮り」など不適切な取材方法で撮影した場合も同様だ。
また、利用目的の公益性が問われる場合もある。
東京・銀座で歩いていたところを無断で写真撮影され、ウエッブに掲載された東京都内の女性が、肖像権を侵害されたとして損害賠償を求めた訴訟で、裁判所は「無断撮影や顔がわかる形での掲載は違法だ」と認め、慰謝料の支払いをウエッブ運営者に命じた。
有名ブランドのTシャツを着ていたこの女性を無断で撮影し、ファッションの紹介サイトに女性の顔がわかる写真が掲載した。その後、別の掲示板サイトに女性を中傷する書き込みがされ、女性は精神的苦痛を受けたという。
判決は「写っているのが原告だと特定されない形で掲載してもファッションを紹介するという目的は達成できる」と指摘し、「表現行為として正当だった」という被告側主張を退けた。
このウエッブ運営者は、「悪意」を持ってこの女性を撮影し、ウエッブに掲載したわけではないか、掲載後の予期しなかった中傷行為の発生で、結果として「肖像権侵害」という責任を取らされたと言える。
特定の個人に焦点を合わせて撮影し、その個人が識別可能な映像には十分配慮が必要で、トラブルを避けるためには、本人の承諾を取るのが基本だと思われる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/4e/7db3db093819e58d1165e85ccdd87909.jpg)
* 図2 横断歩道を渡る通勤者のNHKの取材映像。ほとんどが「後ろ向き」の姿を撮影する。
Ⅲ-2 アメリカ イギリス ドイツ ~市民の肖像プライバシー権~
アメリカでは、憲法修正第1条 (The Constitution #1 of USA)で掲げている「言論もしくは出版の自由」(The freedom of speech, or of the press)が、著作権や肖像権のトラブルでもかならず議論される基本権利だ。「表現の自由」(Freedom of expression)は尊重するという考え方が最初にある。
こうした中で、「群衆の中の顔」や「偶発的使用」という概念があることが知られている。
米国・カリフォルニア州の民法(Civil Codes)は、ニュース、公共的事件、スポーツ放送、解説等で氏名、声、署名、写真を使用することは、同意を要しないと規定している。
スポーツイベントの群衆、街頭や公共的な建物での群衆、劇場や演劇の顧客などを例示としてあげ、「写真が撮影された時点で、そこに居合わせた結果として写真の中に表現され、個人としてはより分けられていないこと」(「群衆の中の顔」)と規定している。
「偶発的使用」は、ニューヨーク地裁判決が知られている。ニューヨークの夜景を実写した映画のタイトルの中に娼婦二人が客引きしているシーンがあり、その中の一人がニューヨーク州法のプライバシー権に違反するとして訴えたものだ。裁判所は「偶発的な使用に過ぎない」として、この訴えを退けている。
ただ、トラブルを避けるために、映画やドラマのロケーションの場合は、市民の写り込みを徹底して避けるのが通常の手法だという。偶然に市民が写り込んだ場合は、その場で、スタッフが駆け回り、一人一人許諾を求めているという。
一方、イギリスでは、肖像権と著作権が同じ法律で規定されており、①偶発性、②非本質性、③従属性、④単なる背景性などの要素を検証して、4つの要素のうちどれか一つでも該当すれば、「実質的でない利用行為(付随的利用)」として、肖像権や著作権侵害とならないと明示している。「表現の自由」を幅広く認めている。
ドイツでは、「美術および写真的著作物に関する法律」の中で、肖像権の条文がある。
「肖像は肖像本人の承諾を得なければ、これを頒布し、又は公衆に提示することができない。肖像本人の死後においては、10年を経過するまでは、その親族の許諾を要する。」としている。
しかし、「肖像権の制限」の条文あり、以下の4つの条件にあてはまる場合は、承諾なしで頒布したり、公開することができるとしている。
①現代史の領域に属する肖像
②人物が風景又はその他の場所に単に附随しているにすぎない画像
③描かれた人物が参加した集会、パレード及び同様の催しの画像
④注文によらずに作成された肖像。但し、頒布又は展示がより高い芸術の利益に資する場合に限る。
またドイツにおいては「パブリシティ権」に相当する権利は存在しない。
Ⅲ-3 政治家や著名人の肖像プライバシー権
著名人の場合、肖像権(プライバシー権)は大幅に限定されている。
皇室、大統領、首相、閣僚、政治家、官僚、大企業の幹部、団体の代表者等いわゆる「公人」も同様だ。
但し、撮影の場所が自宅や病院など「私的領域」で行われた場合や、撮影の手段が著しく不当な場合はプライバシー権侵害に該当する場合もあるとしている。しかし、ほとんど場合は、問題にならないと思われる。
こうした考え方は、アメリカで発展したものである。
アメリカでは、著名人のプライバシーは、「公的存在の法理」(著名人の法理)として定着している。「自己の業績、名声、生活方法などによって公的存在(著名人)となった者や、公衆がその行為や性格に興味を持つであろう職業を選択することによって公的存在となった者は,プライバシーの権利の一部を失う」という法理だ。
肖像権(プライバシー権)もこの法理の対象だ。
アメリカでは、政治家のほか、公務員、発明家、俳優、音楽家、スポーツ選手などにこの法理が適用されるとしている。
Ⅳ 著名人(セレブリティ)の「顔」は財産?~肖像パブリシティ権~
これに対して、著名人については、肖像パブリシティ権が重要なポイントになる。
映画俳優、歌手、スポーツ選手などの著名人(セレブリティ)に対しては、肖像や氏名の経済的価値を利用する権利、パブリシティ権が多くの先進国で認められている。著名人はこれを根拠に対価を請求することができる制度だ。
日本では、有名人(セレブリティ)は、自分の肖像や氏名を商業的目的で使用されるとパブリシティ権が主張できる。
CMなどの広告・宣伝、肖像や氏名を商品化(カレンダー、ブロマイド、写真集など)、肖像や氏名を利用した商品(スナック菓子、飲料、スポーツ用品)、肖像や氏名をジャッケトに使用したDVDやCD、専ら特定の著名人の肖像や氏名だけを掲載した出版物などだ。
氏名や肖像が商品やサービスの販売促進目的で使用し、顧客求心力を利用する場合が該当すると考えられている。
こうした中で、俳優やタレントなどが所属している芸能プロダクションの団体、日本音楽事業者協会は、「Stop! 肖像権侵害」というスローガンを掲げ、俳優やタレントの小さな顔写真70枚余りを並べて「この顔は私たちの財産」というコメントを付けて肖像権啓蒙キャンペーン始めている。パブリシティ権を主張する風潮は最近さらに高まっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/04/141c511ceef1503eadabc0870faaaece.jpg)
* 図3 「Stop! 肖像権侵害」キャンペーン
音楽事業者協会(Japna Association of Music Enterprises)のウエッブより
但し、パブリシティ権を主張できない場合も多い。
テレビや新聞、雑誌、DVD、ウエッブなどで、報道目的で、著名人の氏名や肖像が無断で使用されたとしても、パブリシティ権侵害にはならない。
通常のテレビ番組(ニュース・情報番組、トーク番組)では、ほとんどの場合が「パブリシティ価値」を専ら利用していることにはならないので、問題になることはない。
要は、肖像や氏名を商業目的で利用したかどうかが問題なのある。
もちろん、著名人が俳優や歌手が、ドラマや舞台、ステージで実演している肖像は、パブリシティ権が認められない場合でも、実演家として権利はあるので、別途、権利処理が必要なのは言うまでもない。
記者会見、イベントへの出席・挨拶、サイン会、空港での出発・到着時の肖像についてのパブリシティ権である。
よく問題になるのは、猫や犬のペット、競走馬など動物のパブリシティ権である。これについては、そもそもパブリシティ権は「人」」与えられる権利なので、どんなに著名な動物でもパブリシティ権はないという判決が下され、決着した。同様に、建築物、乗り物、花も同様である。「物」には、パブリシティ権は存在しないのである。
日本ではパブリシティ権に関する法制度は一切なく、その権利の内容は必ずしも整理されていない。個々の判例の積み重ねの中で、これから体系化していく段階にある。
Ⅴ 結び
テレビ、映画、DVD、ウエッブ、そして新聞、雑誌。映像は、現代の情報文化を支える重要な担い手であることは間違いない。
民主主義社会において「表現の自由」(freedom of expression)や「報道の自由」は根幹をなすものだ。
映像文化の健全な発展は守らねばならいと考える。
その一方で、撮影される側の権利意識の高まりにも配慮しなければならい。
「撮影し公表する側の表現の自由」と「撮影される側の肖像権」、世界各国での基準はそれぞれ微妙に違うと思われる。映像を扱うアーカイブやライブライーはトラブルを避けるために、お互いに情報を交換しながら交流を深め、国際的な映像文化の発展に寄与していくべきだと考える。
参考文献
(1) 「著作権研究(連載2) 肖像権・撮る側の問題点」 著作権委員会
(監修 北条行夫)
(2) 「著作権、情報モラルQ&A 」~街頭風景のなかでの肖像権の問題について~(社)コンピュータソフトウェア著作権協会
(3) 「ドイツにおける肖像の営利利用」 新潟大学 渡邉 修
(4) 「テレビ番組制作の法律相談」 梅田康宏 中川達也 角川学芸出版
(5) 「名誉・プライバシー保護関係訴訟法」竹田稔 堀部政男編 青林書院
ARCHIVE ZONES
The official journal of Focal International
Summer 2009 No 70
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/f7/5ddc860a9e3c8c31af69c1d099eea8a7.jpg)
国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
2015年4月14日
Copyright (C) 2015 IMSSR
**************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net / imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
**************************************************
深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催明言 コーツIOC副会長
国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/c3/9c3f1adf4140fdc42f3d186dbe8e3b75.jpg)
映像素材(Image source)を扱うアーカイブやライブラリーの担当者なら「肖像権」という言葉を一度は聞いたことがあるであろう。世界各国でも「肖像権」という権利は、幅広く浸透してきた。
しかし、権利を明確に規定する法律がある国はまだ少ないといわれている。
こうした状況の中でも、フランスでは大統領夫妻の写真を無断で航空会社が広告に使用し、慰謝料支払いを命令されたり、アメリカでは、女優マリリン・モンローの肖像権は消滅しており、遺産管理団体へ使用料を支払う必要はないという判決が下されたり、日本では、繁華街を歩く女性をウエッブに掲載し、肖像権侵害で損害賠償支払い命令を受けたりして、世界各地で「肖像権」をめぐるトラブルが続発している。
勿論、映像には「著作権」があり、映像使用するには著作権処理が必要である。「肖像権」は「著作権」とは別の権利で、映像の中に写り込んでいる肖像に対する権利なのだ。
「肖像権」の解釈の仕方は、世界各国で少しずつ異なる。本稿では、日本における「肖像権」の情報を中心にまとめた。
Ⅱ 肖像権の二つの構成要素 「プライバシー権」(Privacy rights)と「パブリシティ権」(Publicity rights)
日本では、「肖像権」を規定する明確な法律は存在しない。
しかし、「肖像権」を巡っての訴訟がたびたび起こされ、判例の積み重ねの中から「肖像権」という権利の内容が少しずつ明らかになっている。
「肖像権」には、「肖像プライバシー権」と「肖像パブリシティ権」の二つ構成要素があるとしている。
「肖像プライバシー権」とは、『その承諾なしに、みだりにその容貌、姿態を撮影されない自由』(撮影拒否権)という権利だ。また、撮影された自分の肖像を無断で使用や公表をさせないという権利(公表拒否権)も存在する。
「肖像プライバシー権」は「人格権」とも呼ばれ、あらゆる人が保有する基本的な権利である。
これに対して、「肖像パブリシティ権」とは、肖像の経済的な利益を専有する一種の「財産権」である。著名な俳優、芸能人、スポーツ選手などの肖像や氏名は、CMなど商品の宣伝で利用され、パブリシティ(顧客吸引力)と呼ばれる経済的価値が存在する。米国で確立していった概念で、ニューヨーク、カリフォルニアなどアメリカの一部の州は、パブリシティ権に関する法律があるという。日本では「肖像パブリシティ権」規定する法律は存在しないが、関連する訴訟の判決の積み重ねの中で、少しずつ認め始められた権利だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/6a/7f05d4f44ea1970002fa3f1ff4445a42.jpg)
*「肖像権」、「肖像プライバシー権」、「肖像パブリシティ権」の関係は図1を参照
Ⅲ-1 通行人や群衆の肖像はどうなる?~市民の肖像プライバシー権~
ロンドンやパリ、東京の繁華街の町並みを撮影すると、画面には必ず市民が映り込んでいるだろう。こうした映像に映っている市民は自分の肖像権を主張できるだろうか? アーカイブやライブラリーは、このフッテージを自由に売ることは可能なのだろうか?
日本の場合では、「条件付き」でYESだ。
その映像を見た時に、映っている人が誰だが「容易に」特定できない程度の小さなサイズの場合は肖像権侵害にならない。繁華街のワイドショットやロングショットに群衆として映りこんでもまず問題はない。
映っている人が誰かが特定できるサイズで人が映りこんでも、「受忍限度」の範囲なら問題はないとされている。
日本では、「受忍限度」として下記のような例が挙げられる。
1 撮影した映像の中に「偶発的」に、特定の個人が写りこんだ場合
繁華街で記者がリポートしている背景に写りこんだ通行人
2 不特定多数の人混みや群衆を撮影している中に特定の個人が写りこんだ場合
商店街の人ごみ 駅の通勤者の群れ 横断歩道を渡る市民
空港の混雑
3 季節の風物を写した「風景」映像に人が写りこんだ場合
しかし、雪道で転倒したり風で服装が乱れたりするシーンや、海水浴場、プールで水着着用の人の映像や、過度にその人に焦点をあてて、顔がはっきりとわかるように撮影した場合などは、「受忍限度」を超え、プライバシー侵害と判断される場合もある。
また写される人が撮影を明らかに拒否した場合や、「隠し撮り」など不適切な取材方法で撮影した場合も同様だ。
また、利用目的の公益性が問われる場合もある。
東京・銀座で歩いていたところを無断で写真撮影され、ウエッブに掲載された東京都内の女性が、肖像権を侵害されたとして損害賠償を求めた訴訟で、裁判所は「無断撮影や顔がわかる形での掲載は違法だ」と認め、慰謝料の支払いをウエッブ運営者に命じた。
有名ブランドのTシャツを着ていたこの女性を無断で撮影し、ファッションの紹介サイトに女性の顔がわかる写真が掲載した。その後、別の掲示板サイトに女性を中傷する書き込みがされ、女性は精神的苦痛を受けたという。
判決は「写っているのが原告だと特定されない形で掲載してもファッションを紹介するという目的は達成できる」と指摘し、「表現行為として正当だった」という被告側主張を退けた。
このウエッブ運営者は、「悪意」を持ってこの女性を撮影し、ウエッブに掲載したわけではないか、掲載後の予期しなかった中傷行為の発生で、結果として「肖像権侵害」という責任を取らされたと言える。
特定の個人に焦点を合わせて撮影し、その個人が識別可能な映像には十分配慮が必要で、トラブルを避けるためには、本人の承諾を取るのが基本だと思われる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/4e/7db3db093819e58d1165e85ccdd87909.jpg)
* 図2 横断歩道を渡る通勤者のNHKの取材映像。ほとんどが「後ろ向き」の姿を撮影する。
Ⅲ-2 アメリカ イギリス ドイツ ~市民の肖像プライバシー権~
アメリカでは、憲法修正第1条 (The Constitution #1 of USA)で掲げている「言論もしくは出版の自由」(The freedom of speech, or of the press)が、著作権や肖像権のトラブルでもかならず議論される基本権利だ。「表現の自由」(Freedom of expression)は尊重するという考え方が最初にある。
こうした中で、「群衆の中の顔」や「偶発的使用」という概念があることが知られている。
米国・カリフォルニア州の民法(Civil Codes)は、ニュース、公共的事件、スポーツ放送、解説等で氏名、声、署名、写真を使用することは、同意を要しないと規定している。
スポーツイベントの群衆、街頭や公共的な建物での群衆、劇場や演劇の顧客などを例示としてあげ、「写真が撮影された時点で、そこに居合わせた結果として写真の中に表現され、個人としてはより分けられていないこと」(「群衆の中の顔」)と規定している。
「偶発的使用」は、ニューヨーク地裁判決が知られている。ニューヨークの夜景を実写した映画のタイトルの中に娼婦二人が客引きしているシーンがあり、その中の一人がニューヨーク州法のプライバシー権に違反するとして訴えたものだ。裁判所は「偶発的な使用に過ぎない」として、この訴えを退けている。
ただ、トラブルを避けるために、映画やドラマのロケーションの場合は、市民の写り込みを徹底して避けるのが通常の手法だという。偶然に市民が写り込んだ場合は、その場で、スタッフが駆け回り、一人一人許諾を求めているという。
一方、イギリスでは、肖像権と著作権が同じ法律で規定されており、①偶発性、②非本質性、③従属性、④単なる背景性などの要素を検証して、4つの要素のうちどれか一つでも該当すれば、「実質的でない利用行為(付随的利用)」として、肖像権や著作権侵害とならないと明示している。「表現の自由」を幅広く認めている。
ドイツでは、「美術および写真的著作物に関する法律」の中で、肖像権の条文がある。
「肖像は肖像本人の承諾を得なければ、これを頒布し、又は公衆に提示することができない。肖像本人の死後においては、10年を経過するまでは、その親族の許諾を要する。」としている。
しかし、「肖像権の制限」の条文あり、以下の4つの条件にあてはまる場合は、承諾なしで頒布したり、公開することができるとしている。
①現代史の領域に属する肖像
②人物が風景又はその他の場所に単に附随しているにすぎない画像
③描かれた人物が参加した集会、パレード及び同様の催しの画像
④注文によらずに作成された肖像。但し、頒布又は展示がより高い芸術の利益に資する場合に限る。
またドイツにおいては「パブリシティ権」に相当する権利は存在しない。
Ⅲ-3 政治家や著名人の肖像プライバシー権
著名人の場合、肖像権(プライバシー権)は大幅に限定されている。
皇室、大統領、首相、閣僚、政治家、官僚、大企業の幹部、団体の代表者等いわゆる「公人」も同様だ。
但し、撮影の場所が自宅や病院など「私的領域」で行われた場合や、撮影の手段が著しく不当な場合はプライバシー権侵害に該当する場合もあるとしている。しかし、ほとんど場合は、問題にならないと思われる。
こうした考え方は、アメリカで発展したものである。
アメリカでは、著名人のプライバシーは、「公的存在の法理」(著名人の法理)として定着している。「自己の業績、名声、生活方法などによって公的存在(著名人)となった者や、公衆がその行為や性格に興味を持つであろう職業を選択することによって公的存在となった者は,プライバシーの権利の一部を失う」という法理だ。
肖像権(プライバシー権)もこの法理の対象だ。
アメリカでは、政治家のほか、公務員、発明家、俳優、音楽家、スポーツ選手などにこの法理が適用されるとしている。
Ⅳ 著名人(セレブリティ)の「顔」は財産?~肖像パブリシティ権~
これに対して、著名人については、肖像パブリシティ権が重要なポイントになる。
映画俳優、歌手、スポーツ選手などの著名人(セレブリティ)に対しては、肖像や氏名の経済的価値を利用する権利、パブリシティ権が多くの先進国で認められている。著名人はこれを根拠に対価を請求することができる制度だ。
日本では、有名人(セレブリティ)は、自分の肖像や氏名を商業的目的で使用されるとパブリシティ権が主張できる。
CMなどの広告・宣伝、肖像や氏名を商品化(カレンダー、ブロマイド、写真集など)、肖像や氏名を利用した商品(スナック菓子、飲料、スポーツ用品)、肖像や氏名をジャッケトに使用したDVDやCD、専ら特定の著名人の肖像や氏名だけを掲載した出版物などだ。
氏名や肖像が商品やサービスの販売促進目的で使用し、顧客求心力を利用する場合が該当すると考えられている。
こうした中で、俳優やタレントなどが所属している芸能プロダクションの団体、日本音楽事業者協会は、「Stop! 肖像権侵害」というスローガンを掲げ、俳優やタレントの小さな顔写真70枚余りを並べて「この顔は私たちの財産」というコメントを付けて肖像権啓蒙キャンペーン始めている。パブリシティ権を主張する風潮は最近さらに高まっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/04/141c511ceef1503eadabc0870faaaece.jpg)
* 図3 「Stop! 肖像権侵害」キャンペーン
音楽事業者協会(Japna Association of Music Enterprises)のウエッブより
但し、パブリシティ権を主張できない場合も多い。
テレビや新聞、雑誌、DVD、ウエッブなどで、報道目的で、著名人の氏名や肖像が無断で使用されたとしても、パブリシティ権侵害にはならない。
通常のテレビ番組(ニュース・情報番組、トーク番組)では、ほとんどの場合が「パブリシティ価値」を専ら利用していることにはならないので、問題になることはない。
要は、肖像や氏名を商業目的で利用したかどうかが問題なのある。
もちろん、著名人が俳優や歌手が、ドラマや舞台、ステージで実演している肖像は、パブリシティ権が認められない場合でも、実演家として権利はあるので、別途、権利処理が必要なのは言うまでもない。
記者会見、イベントへの出席・挨拶、サイン会、空港での出発・到着時の肖像についてのパブリシティ権である。
よく問題になるのは、猫や犬のペット、競走馬など動物のパブリシティ権である。これについては、そもそもパブリシティ権は「人」」与えられる権利なので、どんなに著名な動物でもパブリシティ権はないという判決が下され、決着した。同様に、建築物、乗り物、花も同様である。「物」には、パブリシティ権は存在しないのである。
日本ではパブリシティ権に関する法制度は一切なく、その権利の内容は必ずしも整理されていない。個々の判例の積み重ねの中で、これから体系化していく段階にある。
Ⅴ 結び
テレビ、映画、DVD、ウエッブ、そして新聞、雑誌。映像は、現代の情報文化を支える重要な担い手であることは間違いない。
民主主義社会において「表現の自由」(freedom of expression)や「報道の自由」は根幹をなすものだ。
映像文化の健全な発展は守らねばならいと考える。
その一方で、撮影される側の権利意識の高まりにも配慮しなければならい。
「撮影し公表する側の表現の自由」と「撮影される側の肖像権」、世界各国での基準はそれぞれ微妙に違うと思われる。映像を扱うアーカイブやライブライーはトラブルを避けるために、お互いに情報を交換しながら交流を深め、国際的な映像文化の発展に寄与していくべきだと考える。
参考文献
(1) 「著作権研究(連載2) 肖像権・撮る側の問題点」 著作権委員会
(監修 北条行夫)
(2) 「著作権、情報モラルQ&A 」~街頭風景のなかでの肖像権の問題について~(社)コンピュータソフトウェア著作権協会
(3) 「ドイツにおける肖像の営利利用」 新潟大学 渡邉 修
(4) 「テレビ番組制作の法律相談」 梅田康宏 中川達也 角川学芸出版
(5) 「名誉・プライバシー保護関係訴訟法」竹田稔 堀部政男編 青林書院
ARCHIVE ZONES
The official journal of Focal International
Summer 2009 No 70
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/f7/5ddc860a9e3c8c31af69c1d099eea8a7.jpg)
国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
2015年4月14日
Copyright (C) 2015 IMSSR
**************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net / imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
**************************************************
事前に転載許可をされているよでしょうか?
転載許可をされていないのであれば盗用ですので通報致します。
[該当ページ]
https://ameblo.jp/maakiko35/entry-12429379713.html
なお、このブロガーのページ冒頭には以下の記載があります。
「私のブログの写真や文章を無断で使用した場合
著作権、肖像権の侵害で法的措置をとらせて
頂きます。」
つまり、著作権侵害をしているのは国際メディアサービスシステム研究所だと主張しているようです。