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パリオリンピック2024 NBC 視聴率大幅増 東京五輪の82%増 視聴者増 Peacock躍進 五輪復活 NBC Universal

2024年08月26日 13時12分04秒 | パリ五輪2024


NBCユニバーサルの視聴者大幅増に成功 1日平均3,070万人 減少傾向に歯止め  NBCU幹部は胸をなでおろす
  2024年8月11日(日)、Paris2024はにスタッド・ド・フランスで閉会式が行われ、ロサンゼルスに次の夏季オリンピック大会へ引き継ぎをして閉幕した。
NBCユニバーサル(NBC Universal 以下NBCU)は、全プラットフォームの合計平均視聴者数(TAD:Total Audience Delivery)が、17日間の平均で3,070万人(「Paris Prime」と「U.S. primetime」の合計)を記録したと発表した。
*「Paris Prime」  昼間 米国東部時間午後2~5時
*「U.S. primetime」 夜間 米国東部時間午後8~11時 
*Nielsen and Adobe Analytics調査

出典 Paris2024

 NBCUは視聴者数を確保させるため、日中の「Paris Prime」には水泳、体操、陸上競技などの人気競技を生中継し、夜間の「U.S. primetime」には編集したハイライト・コンテンツを編成する戦略で臨んだ。総放送時間は7000時間(内デジタル・ストリーム5500時間)にも達した。
 この数字は東京2020の17日間の平均視聴者数1,690万人(NBCTV U.S. primetimeだけでは1550万人 NBCTV全体では1510万人)を82%も大幅に上回り、リオデジャネイロ2016の2670万人(NBCTVのみは2580万人)も超えた。ロンドン2012の3110万人は超えられなかったが“五輪復活”の道筋が開けた。
 ちなみにNBCの平均最高視聴者数はアトランタ五輪1996の3310万人。当時は、デジタル・プラットフォームはなくNBCTVとCable、衛星のテレビ視聴者数である。
史上最低を記録した前回の東京2020は、新型コロナウイルスのパンデミックで無観客開催された上に、米国との時差はパリよりもがはるかに大きい(東京-ニューヨーク13時間、パリ-ニューク6時間 夏時間)というハンディがあった

 “TV Everywhere ”を掲げたNBCU はParis2024では、傘下のPeacockやその他のデジタルプラットフォーム(NBCSports.com/the NBC Sports app)でのストリーミング配信を史上最大規模に拡大して、開会式や閉会式を始め329 個のメダル競技のすべてをライブとオンディマンドでサービスすることに踏み切った。テレビ放送サービスとデジタル・ストリーミングを含めたNBCU全体では総計7000時間以上、史上最高の放送時間を達成した。
NBCUの旗艦メディア、NBCは17夜連続で250時間の放送を実施、デジタル・ストリーミングで同時配信されたライブ・イベント数は最大で60、総配信時間は5500時間超となった。
NBCUの全てのプラットフォームでは、合計235億分が視聴された。これは米国民3億3000万人が「5時間」視聴したことになる。


出典 Paris2024

出典 Paris2024

出典 Paris2024
セーヌ川開会式、2012年以来の夏季オリンピック最大の視聴者数
 205の国と地域の選手団7000人余りがボートに乗ってパレードを繰り広げたParis2024セーヌ川開会式、レディー・ガガやセリーヌ・ディオンらが出演して話題満載の史上最も華麗なイベントとなった。この開会式は、ニールセンとAdobe Analyticsのカスタムファストデータによると、NBCUネットワークとピーコックで2,860万人、スペイン語サービスのTelemundo Deportesで666,000の視聴者を集め、合計2926万6000人を記録した。
これは、4,070万人を記録したロンドン2012開会式の以来の夏季五輪開会式最大の視聴者数となった、リオデジャネイロ2016の2,650万人や東京2020の1,790万人を上回り、復調の兆しが見えてNBCUの幹部は胸をなでおろした。
 開会式は初めてNBCU傘下のデジタル・プラットフォーム、Peacockでライブ・ストリーム・サービスが行われ、 250 万人以上の視聴者を獲得した。
 8月10日(土)の米国とフランスによる男子バスケットボール決勝戦は、NBCとピーコックで平均1,950万人の視聴者を獲得した。これは、東京での決勝戦(同じ米国とフランスが対戦)の視聴者数の2倍以上であり、1996年以来最も視聴された金メダルバスケットボール戦となった。
また開会式当日の競技初日の視聴者数は、TVサービスとストリーミングで3,200万人を超え、新型コロナウイルスのパンデミックで無観客開催された東京2020の競技初日と比べて83パーセント増加した。

出典 Paris2024

出典 Paris2024

NBCU 開会式の翌日の日曜日 視聴者数は4150万人超 Tokyo2020の倍に 
 NBCユニバーサルは、傘下のNBC、ピーコック、その他のNBCUプラットフォームで、開会式翌日の日曜日には合計視聴者数(TAD)は4,150万人に達し、東京オリンピック大会(2170万人)のほぼ2倍を記録した。毎回、開会式の翌日の日曜日は、最も多い視聴者数を記録する。
この日のハイライトは、女子体操予選でシモーネ・バイルズが米国をトップスコアに導いたことや、100mバタフライでトーリ・フスケとグレッチェン・ウォルシュが1-2フィニッシュを果たしたこと、米国女子ラグビーチームがブラジルに勝利、そしてレオン・マルシャンが400m個人メドレーで金メダルを獲得したことなで米国視聴者の関心が高かった。
開会式から3日間で、NBCUは、パリ・プライム(東部時間午後2~5時)と米国のプライムタイム(東部時間/太平洋時間午後8~11時)のライブ時間帯を合わせた視聴者総数平均を3,450万人と発表した。これは東京(1,930万人)から79%増加している。
 日曜日には、団体スポーツでの米国の2つの勝利も視聴者数に新たな記録をもたらした。米国男子バスケットボールチームは、セルビアとの初戦で勝利し、NBCとピーコックで平均1,090万人の視聴者数を獲得した。これは、東京オリンピックの金メダル決定戦での勝利(930万人)を上回る視聴者数だ。
同日遅くには、米国女子サッカーチームがドイツに勝利し、USAネットワークとピーコックで平均420万人の視聴者数を獲得し、東京オリンピックとリオオリンピックの男子と女子の試合でトップとなった。
 Team USAのメダル獲得数は、合計126個で第一位、金メダル数でも中国と同数の40個で第一位、Team USAの活躍がNBCUの視聴者数増を支えたともいえる。


Peacock Power NBCUの視聴者増を牽引
 Paris2024のストリーミング・プラットホームのフラッグシップとして、NBCU傘下のPeacock は米国メディア史上最も強力なサービスを展開した。5,000 時間を超えるオリンピックのコンテンツをAIと使って自分の興味やスケジュールに最も合った方法で視聴することを可能にした
Paris2024ではPeacockとその他のデジタル・プラットフォームでの視聴時間が235億分(デジタル・ストリーミングだけでは206億分)に達し、“ストリーミング記録”を樹立。NBCUが初めてオリンピック競技のライブストリーミングをサービスしたのは2008年、それ以来のすべてのオリンピック大会(夏季・冬季)の合計視聴時間は168億分、それより40%も多い。
17日間の大会開催中のNBCUのデジタル・プラットフォームのストリーミング視聴者数は、1日平均410万人(昼間の「Paris Prime」と夜間の「U.S. primetimeの合計」、NBCU全体のテレビを含めたプラットフォームの視聴者数の約13%を占めた。その大半がPeacockでの視聴者だった。
 ちなみに東京2020ではストリーミングの合計視聴時間は55億分(NBCソーシャル・プラットフォーム12億分を含む)でリオデジャネイロ2016の22%増、プライムタイムの視聴者数は1日平均47万7000人となり過去最高、Peacockは大会開催期間中の内、2週間は過去最高のアクセスを達成した。


Peacock 新機能搭載で視聴者数を増やす
Peacock は、最初の 1 週間だけで、1日最大 60 件の同時ライブ中継ストリームと 1 日最大3000件のライブ・イベントを配信、17日間のオリンピック期間中に合計 3,200 件を超えるライブ・イベントを配信して、ライブ・イベントのマルチビュー実現した。
オリンピック期間中は、毎日午前 7 時から午後 5 時 (東部標準時) までをゴールド ゾーンとしてライブ・ストリーミングが行われた。ゴールド ゾーンの視聴者は通常のほぼ 4 倍に増加し、オリンピック視聴者全体の 20% 以上が視聴した。
 PeacockのParis2024のコンテテンツで最も人気を集めた番組は“Gold Zone”、金メダル獲得のほぼすべての瞬間を特集したスタジオ番組コンテンツで、NBC Sports (CATV)の人気番組をストリーミングしたコンテンツである。Paris2024で新たに開始した新番組。Peacockのオリンピック視聴率上位 5 位以内に常にランクインし、オリンピック期間中に視聴者数がほぼ 4 倍になり、視聴者の 5 人に 1 人がアクセスした。

 Peacockは、サービスに新機能を開発して搭載してParis2024に臨んだ。
そのツールは、ピーコック・ディスカバリー・マルチビュー、ライブアクション、有名なスポーツキャスターのアル・マイケルの声を使ったAIによる生成型のナレーションで制作されたハイライト動画をサービスするデイリー・オリンピック・リキャップなどで、5,000時間以上に及ぶオリンピックの視聴者数を押し上げたといえる。
ピーコック・ディスカバリー・マルチビューは “enhanced four-view experience”と呼ぶ4分割画面で同時に4つの競技を視聴可能なサービス(クアッド ボックス ビュー:Quad box view)。これは従来のテレビ放送では不可能な機能である。

 ”Live Actions”は視聴者が、最も興味のあるイベントをフォローできる新しいインタラクティブ・ツールである。
AI を駆使したアプリ機能、“Your Daily Olympic Recap on Peacock”で、視聴者が見たい競技の名前などを入力すると、NBCの配信する膨大な数の五輪ハイライト動画の中からパーソナライズされたクリップ・プレイリストが作成できる。サービスされる動画は、生成AI搭載して米名物スポーツ実況キャスターのアル・マイケルズの声を再現したナレーションで制作されている。
Peacockは、名実共にデジタル・プラットフォームから“Olympics HUB”に成長した。
Xfinity のオリンピック デスティネーションは、NBCU のCATVおよび放送ネットワークで放映され、Peacock でストリーミングされるすべてのコンテンツを、1 つのシンプルなサービスで視聴できるようにまとめる。
 視聴者は、数回クリックするだけで、X1 の視聴体験をカスタマイズして、お気に入りのスポーツを優先的に視聴者できるため、最も関心のある瞬間を見逃すことはない。X1 音声リモコンに「オリンピック」と言うだけでアクセスできるデスティネーションでは、どこで放映されているかに関係なく、ライブ報道を簡単に見つけることができる。また、厳選されたハイライト、テーマ別のプレイリスト、スポーツ ページ、インタラクティブな毎日のスケジュールなどが含まれている
NBCUのデジタル・プラットフォームは、Peacockの他に、NBCOlympics.com (desktop), NBC.com (desktop), the NBC Sports App, the NBC App、 NBCU Apps ( Telemundo, USA, and Bravo)があるが、その中でPeacockのパワーは群を抜いており、NBCUのデジタル視聴者数増を牽引している。

Peacockサービスは、有料契約者数 約3300万人
 Peacockサービスは、有料契約者数は約3300万人(2024年第二四半期)、
 史上最高を記録した3250万人(2024年第一四半期)から50万人減少した。
視聴契約料金は、広告付きPeacock Premiumは月額 7.99 ドル (年間 79.99 ドル)、最高位級の広告なしPeacock Premium Plusでは月額 13.99 ドル (年間 139.99 ドル) となっている。
Peacockは、Paris2024前に値上げをした。新規顧客については7月18日から、既存の加入者 8 月 17 日以降の請求日から適用される。
広告付きのPeacock Premiumは2 ドル値上げして月額 7.99ドルに、広告なしのPeacock Premium Plus も2 ドル値上げして月額 13.99ドルにした。また年間サブスクリプション料金も値上げされ、Peacock Premium は $59.99 から $79.99 に、Peacock Premium Plus は $119.99 から $139.99 とした。
 コムキャストは、2024 年第 2 四半期にPeacockから 3 億 4,800 万ドルの損失があったことを明らかにした。これは、2023年の第 2 四半期の 6 億 5,100 万ドルの損失とは対照的である。一方、Peacockのストリーミング プラットフォームの収益は前年同期比 28% 増加し、10 億ドルに達した。
Peacockの配信コンテンツは、夏季・冬季オリンピック以外にも、Apples Never Fall、In The Know、The Traitors、Ted などのオリジナル作品、Oppenheimer、Lisa Frankenstein、Drive-Away Dolls、Night Swim などのヒット映画、NBC Sports や WWE のライブ スポーツやエンターテイメント、50 を超える「常時オン」ストリーミング チャンネルにアクセスできる。
PeacockはParis2024を契機に若者を中心にした契約者増に期待をかけている。


新型コロナウイルスのパンデミックで1年延期され東京五輪大会は史上初の無観客で開催 スリートや大会関係者には厳しい感染防止のための規制が 出典 Tokyo2020
東京2020に照準を合わせてサービス開始したが1年延期で惨々たるスタート
 Peacockがサービスを開始したのは、2020年1月、東京2020に照準を合わせた。
NBCの親会社のCATVの大手、Comcastの一部の利用者は、4月15日から利用できる。全米一般公開は7月15日。
料金プランは3種類。広告付きで、視聴できる番組に制限のある「Peacock Free」、広告付きで月額4.99ドル、あるいは広告なしの月額9.99ドルの「Peacock Premium」だ。月額5ドルのプランは、Comcastの約2400万人の加入者には無料で提供する。
 Peacock FreeはNBCの番組を1日遅れで視聴できる他、傘下のUniversalの既存の映画などを含む7500時間分のコンテンツで構成される。
 米国にはNetflix、Hulu、Appleの「Apple TV+」、VerizonとWalt Disney Companyの「Disney+」などの動画配信サービスがあるが、いずれも無料プランは用意していない。Peacockをランチングするにあたって、視聴者数獲得の“目玉”のプランだった。Peacockの初期のマーケティングスローガンは「鳥のように自由」だった。
 しかし、2023年1月、収益の悪化を理由に、無料プランの新規ユーザーの受け入れは廃止された。Peacockのサービス開始以来の累積赤字は約85億ドル程度(約1兆2750億円)とされている。
 Peacock Premiumは、Freeのコンテンツに加え、サッカーのプレミアリーグを含むライブスポーツと深夜番組への早期アクセスを含み、Peacockのオリジナル番組など1万5000時間以上のコンテンツで構成される。しかし、ライバルのNetflex(全世界で2億7700万人、US-Canadaで8000万人超の契約者)には大きく差を付けられてい上に、Netflexがオリジナル・コンテンツの制作・配信に力を入れているのに対してPeacockにはオリジナル・コンテンツがほとんどなくNBCテレビのコンテンツのサイマル・サービスがほとんどである。
 アグレッシブに新たなコンテンツを手に入れているAmazon(2億人)や映画コンテンツで強みを発揮するDesney+も契約者数は全世界で1憶5860万人、Peacockはライバルに大きく後れをとっている。
 Peacockのサブスクライバーの契約形態比率は、Peacock Premium が全体の約半分の約46%、Peacock Premium Plus が約20%、そしてPeacock Freeが約33%程度でPeacock Freeは新規受け入れを止めたにも拘わらず、全体の約3分の1を占め、1000万人超の無料サブスクライバーがいると見られていて、無料契約者数も含めた全体の契約者数は4300万人程度(内3300万人が有料契約者)と思われる。
 こうした中でPeacockが期待をかけるのはなんといってもオリンピック・コンテンツだろう。サービス開始の照準を合わせた東京オリンピックでは、開会式と閉会式はCATVでのプライムタイム放映より前に配信した。オリンピック期間中は毎日最新番組を提供して合計44億分のストリーミング・サービスを実施、NBCU全体のプラットフォームでは、プライムタイムで1日平均47万7000人の視聴者を達成して過去最高となった。またPeacockは大会開催中の2週間は過去最高のアクセスを記録した。
しかし、東京2020は新型コロナのパンデミックに見舞われて1年延期、惨々なランチングだった。2021年のランチング時の有料契約者数は400万人程度とされている。
2021年の東京オリンピックでは、数千時間に及ぶストリーミング・サービスを実現して、ストリーミングとしては五輪史上最高の視聴者数を獲得した。その後。Peacockは2年目を迎えて知名度が徐々に獲得し、契約数も2024年初頭には3350万人と史上最高数を達成した。
 しかし、東京夏季五輪2020では史上最低の視聴者数、1690万人(TAD)を記録、リオデジャネイロ夏季五輪の2670万人を37%も下回っった。ロンドン夏季五輪2012の3110万人からはほぼ半減と惨澹たる結果に終わった。続く北京冬季五輪2020でも歴史的な低視聴率を記録し、NBCユニバーサルは衝撃的な結果に動揺を隠せなった。
 Paris2024では劇的な回復を果たしが、、それを牽引した一つがPeacockの躍進である。

視聴者数の算定にTADの導入
Tota lAudience Delivery(TAD)は、テレビ放送とCATV視聴者数、モバイル、タブレット、スマートTVの視聴者を合計する。また、放送とケーブル TV、ソーシャル メディア、デジタル メディア全体の視聴率を測定する。
NBCは、リオデジャネイロ五輪2016でTV視聴者が、ロンドン五輪2012比較して21%減少したのを受けて、ここ数年増大しているデジタル・サービスのアクセスの評価を加ええるという新たな指標を平昌冬季五輪2018でランチングさせた。
 アメリカでは視聴者のTV離れが急速に進行し、オリンピックの視聴者も減少している。その中でデジタル・ストリーミング・サービスを利用する視聴者が増えていることを反映させたものである。
視聴者のテレビ離れの主因は、急激に増加しているケーブルテレビ(CATV)の契約解除、“コードカッター”である。CATVの契約を解除して、映画・ドラマのNetflex、Amazon Prime、Desney+・Huluや、スポーツのDAZN 、ESPN +、Fox Sports Go、Peacockなどのデジタル・ストリーミングに乗り換える視聴者が急増している。
TADは、ストリーミング・サービスで視聴している主に若い層の視聴者数を加えることで視聴者数の算出に実態を反映させたという見方もできるが、本音はテレビの視聴者数減少を補って、全体の視聴者数を“多く見せる“という”苦肉の策”であろう。視聴者数減少は、広告料の売り上げにつながる。


北京冬季五輪2022開会式 出典 Beijing2022
北京冬季五輪2022 視聴者数 歴史的な低水準
 2022年2月、米NBCUは、北京冬季五輪2022の開会式の視聴者数を発表した。プライムタイムの開会式のテレビとデジタルサービスを含めた視聴者数(TAD)は、1600万人で、平昌冬季五輪2018の視聴者数2830万人に比べて約43%と大幅に減少し、過去最低を記録した。
またNBC(プライムタイム)を視聴した人はわずか平均1070万人で、平昌2018から47パーセント減少した。テレビ離れはNBCUにとって極めて深刻である。
ちなみに新型コロナのパンデミックに見舞われて無観客と開催された東京夏季五輪2020は視聴者数(TAD)1,690万人(総視聴者数1憶5000万人)、リオデジャネイロ夏季五輪2016から約40%も減少し、夏季五輪としては過去最低だった。
 北京オリンピックはNBCユニバーサルにとって視聴率の大失敗となった
 NBCは、視聴者数の激減を補償するためオリンピック期間中に、広告主に追加の無償コマーシャル時間を与えた。
テレビ離れはNBCの経営にも深刻な打撃を与えている。
「このオリンピックはNBCにとって大惨事だった。半日しか時差のない独裁国家で、話題性のない密閉されたイベントだった。そこでの印象は、薬物に汚染されたフィギュアスケート競技の後のロシアの10代の若者(ドーピング違反で失格したカミラ・ワリエワ)の感情の崩壊と、スキー場に座って何が悪かったのかと嘆くミカエラ・シフリン(女子大回転の金メダリスト)の悲しみだけだろう」とAP通信は伝えている。

視聴者数減を補ったPeacockの躍進
 一方、NBCUのテレビ放送とデジタルメディアプラットフォーム(ソーシャルメディアを含む)で会期中の18日間で合計1億6000万人の視聴者(全時間帯)を集めている。東京2020では1憶5000万人、わずかに東京2020を上回った。
 会期中の18日間で視聴された総時間は43億分(TAD)、これは冬季オリンピックでは最多で、平昌2018からは78%増加し、東京2020の56億分に次ぐものだった。
これを支えたのは、Peacockなどのデジタル・プラットフォームの大躍進である。
ストリーミング視聴者数は、測定方法にもよるが、これまでのオリンピックの中で最大か2番目だった。Peacock、NBCOlympics.com、NBC Sportsアプリでのストリーミングの平均プライムタイム視聴者数は51万6000人で、東京2020から8%増加し、ストリーミング時代のオリンピックとしては過去最高となった。ストリーミングは、オリンピックのプライムタイム視聴者全体の約4.5%を占めた。
 NBCU系列のデジタル・プラットフォームの大黒柱、Peacockは2019年1月のサービス開始以来19か月間で「最高の18日間利用」を記録した。ピーコックはすべてのイベントをライブ配信した。
 開会式の2月4日、1日で1億9000分のアクセスがあり、過去最高を記録し、順調に伸びている。
 NBCやCATVの視聴者数が低調な中で、NBCU全体の視聴者数をなんとか支えたのが、Peacockなどのデジタル・プラットフォームのサービスである。

“人権問題”、パンデミックの逆風
 NBCUは17日間の会期中に約2800時間のコンテンツを放送したが、平均視聴者数は1140万人(TAD)、NBCテレビだけでは1070万人と歴史的な低水準だった。
Peacock、NBC Sports Digital、およびソーシャル メディア プラットフォームのデジタルサービス・プラットフォームでは、冬季オリンピックの記録となる 43 億分のストリーミングが視聴された。Peacock、NBCOlympics.com、および NBC Sports アプリでストリーミングされたコンテンツ は39 億分、2018 平昌冬季銀2028から 78%も増加した。
 Peacockは、東京夏季五輪2020とは異なり、9.99ドルを支払ったPeacock Premium会員向けに、北京2022の全ての競技やイベント(ライブとリプレイ)をサービスしたことが視聴者増に寄与した。
 しかし北京冬季五輪2018は、パンデミックのため2020年から延期された東京夏季オリンピックの閉会からわずか6か月後に始まった上に、2月13日にNBCで放送されるスーパーボウルと重なったことで大きなハンディを抱えていた。

 さらに深刻な影響を与えたのが、新疆ウイグル自治区の人権問題で、中国はが世界各国から激しい批判にさらされた。米国は中国に対して「外交的ボイコット」を発動し英、豪、カナダ、ベルギーなどは米国に同調した。岸田政権は、“外交的ボイコット”という言葉使用せず、人権問題に言及しないで、「総合的な判断」として政府関係者は派遣しないと表明。
 まさに逆風の中での大会だった。
 また新型コロナのパンデミックが視聴者数低迷につながったと思われる。
 観客が少ないことや選手がマスクを着用していること、スタンドに家族や友人がいないこと、新型コロナに関連する「中国の非常に厳しいプロトコル」などで、大会全体が熱気に欠いたものになった。
 新型コロナ感染対策で、NBCはプレゼンターチームを始めスタッフを北京ではなく米国内のスタンフォードの拠点に留め「リモート制作」を加速させた。5 つの主要スタジアムの中継制作やプライムタイムのプレゼンテーションに関わるすべての制作はスタンフォードでオペレーションを行った。
 それが臨場感が薄い「熱気を欠いた」放送につながったという見方も出ている。NBCのスタッフは、スタンフォード(コネチカット州)のスポーツ放送センターには1600人、北京には600人を配置することになり、米国内と北京の位置が完全に逆転した。(東京夏季五輪2020では現地派遣は1600人 米国内1700人 合計3300人 通常の現派遣は2000人規模)
 NBCUは、NBC、USAネットワーク、CNBC、そしてピーコック、NBCOlympics.com、NBCスポーツアプリなどのプラットフォームを総動員して合計2,800時間を放送した。
 しかし、北京大会2022のプライムタイム視聴者数は視聴者数は1600万人と歴史的な大惨敗、また東京夏季五輪2020は平均1550万人で、NBCが1988年に放送を開始して以来、最低の視聴率を記録した。
  2022年の北京冬季オリンピックは、NBCUにとって18回目のオリンピック、通算12回目、そして6回連続の冬季オリンピックだった。


NBC USA Network  出典 NBCU
ケーブルネットワーク
 NBCU傘下のケーブルテレビ・プラットフォーム、USA Network、E!、CNBC、GOLF Channel、Universo(スペイン語チャンネル)は、Paris2024で、競技中継や予選やメダルラウンドなどのライブイベント、関連番組を放送する。
 USA Network は、水泳予選、陸上競技、サッカー、バスケットボール、3x3 バスケットボール、ビーチバレー、ラグビー、サイクリング、バレーボール、水球など、米国のチームスポーツ競技のライブ中継や長編コンテンツをほぼまる1日放送するのメインチャンネルとなる。
7 月 24 日(水)と 7 月 25 日(木)には、USA Network が男子と女子のサッカーの複数の試合をライブで放送。これには、Team USA の開幕戦 (男子開催国フランスと対戦、女子はザンビアと対戦) が含まれます。
 CNBC は、ボクシング、サイクリング、ラグビー、スケートボードなどを放送。 7月27日(土)、混合団体エアライフル射撃決勝を生中継。週末にサービスする。
E!では、陸上競技、体操、カヌー、飛び込み、馬術、アーティスティックスイミング、ブレーキング、フェンシング、水球などの競技をほぼまる1日放送。
GOLFチャンネルでは、サンカンタンアンイヴリーヌのルゴルフナショナルからパリオリンピックのゴルフ競技を完全生中継。チームUSAの男子チームには、世界ランキング1位のスコッティシェフラー、前回金メダリストのザンダーシャウフェレ、ウィンダムクラークなどが出場する。
 東京2020でサービスをしたNBC SNとOBSがコンテンツを提供するオリンピック・チャンネルは廃止した。


出典 Telemundo
スペイン語チャンネル、テレムンド(Telemundo)
 NBCU傘下のスペイン語チャンネル、テレムンド(Telemundo)は、オリンピック放送開始20周年を記念して、スペイン語メディア史上最も強力なオリンピック放送を行った。
Telemundoと傘下のUniverso(ケーブルチャンネル)は、315時間以上のライブ競技とハイライト・スペシャルを放送。ほとんどの毎日、夏季オリンピックの昼間の放送を少なくとも6時間、サッカーの日は最大12時間の番組をサービスする。さらに、Telemundoは、7月26日から8月11日まで、平日の午前12時(東部標準時)に、その日の最高のオリンピックストーリーを要約した2時間のハイライト番組を放送する。Telemundoは初めて開会式のライブ放送を実施した。
 PeacockはTelemundoとUniversoのすべての番組をライブ配信し、米国メディア史上最も充実したオリンピックのスペイン語ストリーミング体験をサービスする。ピーコックはヒスパニック系視聴者向けに厳選されたスペイン語のフルイベント・リプレイや独占短編コンテンツを特集した。
テレムンドはサッカー中継の本拠地となり、男子と女子のトーナメントのすべての試合、すべてのチーム、すべてのゴールをスペイン語でライブで視聴できる。7月24日の開会式の2日前からテレムンド、ユニベルソ、ピーコックを通じて8月11日まで放送された。
 スペイン語サービスのオリンピック視聴者は、東京2020に比べて26%増えた。

東京2020でも活躍したTelemundo
 スペイン語放送局テレムンド・デポルテス(Telemundo Deportes)とUniverso(ケーブルチャンネル)は、合計1060万人の視聴者数を達成した。
さらに、Telemundo Deportesのデジタルプラットフォームは1,650万人の視聴者を獲得、リオデジャネイロ2016から22%増加した。
Telemundoの午前6時から午後6時までの平均視聴者は過去最高の28万7000人を記録、サッカーのメキシコ対ブラジル戦は49万9000人の視聴者を獲得した。
25人以上のタレント、専門家、オリンピック選手を含む約250人のTelemundoのスタッフが300時間以上の本格的なオリンピック番組を提供し、デジタルプラットフォーム全体では1,000本以上の短編ストリーをサービスした

NBCニュースも好調
 オリンピックの盛り上がりはNBCニュースにも及び、TodayとNBC Nightly Newsは、大会期間中(8月8日まで)にネットワークのライバル局に勝利した。Todayは同期間中に平均310万人の視聴者を獲得し、Nightlyは764万人の視聴者に成長した。大会開始前の4週間の視聴者数はそれぞれ252万人と573万人だった。


4KUHDサービス
 NBCUの親会社Comcast のNBCスポーツは、Paris2024の一部を高解像度4KUHD・ハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range:HDR)を、5.1 サラウンド サウンドで放送し、一部の通信事業者はドルビー・アトモス(Dolby Atmos)でサービスする。
4 KUHD/HDRコンテンツはオリンピック放送機構(OBS)が国際映像として配信するコンテンツで、NBCは特定のイベントに独自の4K HDRカメラフィードとグラフィックスを挿入する。4KUHDの高解像度のコンテンツ配信は、アルティス・オプティマム(Altice’s Optimum)、エコースター・ディッシュネットワーク(Echostar’s Dish Network)、DirecTV、Fubo、Verizon Fios 、YouTube TVなどのパートナーを通じてUSAネットワークで利用可能になる。チャーター・スペクトラムTV(Charter’s Spectrum TV)は含まれていない.
 NCTCコンソーシアムの一部である一部の地域ケーブルシステムも、USAネットワークを通じてオリンピックの4K/HDRフィードのサポートを提供する予定であるとNBCは述べた。
USA ネットワークは主に、サッカー、バスケットボール、ビーチバレーボールなど、米国チームの競技に焦点を当てますが、水泳や陸上競技などの一部の個人競技もこのUHDチャンネルで放送される。
 USA ネットワークでのUHDサービスは、7 月 24 日から 8 月 1 日の夕方まで行われ、ほとんどのイベントは生放送されますが、パリとニューヨーク市の 6 時間の時差に対応するために、一部のイベントは録画で提供される。
ただし、NBCUの4Kコンテンツはピュア4Kコンテンツではない。
 OBSは開会式・閉会式を始めてすべての競技やイベントを4KHDRでライブ中継制作を行い、4KHDRでMRHsに国際映像として配信する。クリップ素材や企画ストリーなども含めると4KHDRのフィードは81チャンネルにも及ぶ。 
 NBCUはこの国際映像をグラスバレーのXIP・フレーム シンクロナイザーを使用して、HD1080p-HDR にダウンコンバートしてスタンフォードのNBCUスポーツ制作オペレーション センター (SPOC)に送信する。
 SPOCのシステムはまだ4KHDRに対応していないので、HD1080p-HDRでコンテンツ制作を行い、4KHDRにアップコンバートして4Kサービス・プラットフォームに配信する。これでは高精細・高画質の4KHDRの魅力が伝わらない。
Peacockは、すべてのイベントを生放送するが、4K/HDRの配信は行わない。

NBCU、4K HDRでライブ中継配信は東京2020から開始
 NBCユニバーサルは、一部の市場のプライムタイムに夏季オリンピックのテレビ中継を4K HDRフォーマットで配信すると発表した。オリンピックのライブ番組を4KUHDで配信するのはこれが初めてとなる。
NBC スポーツ グループの一部門である NBC オリンピックは、その 4K HDR 対応範囲が、ドルビー ラボラトリーズが独自に開発したサラウンド サウンド テクノロジーである Atmos もサポートするとした。
 またNBCU のゴルフ チャンネルとオリンピック チャンネルで 4K HDR の追加番組を提供することで、4KUHDサービスで NBC のライブ中継を補完する。
NBCUは、体操、陸上競技、飛び込み、ビーチバレーボール、ゴルフ、テニス、などの厳選された競技が含まれるとしている。
 NBCU の 4K 対応範囲は、Ultra HD (3,840 x 2,160 ピクセル)、HDR (より明るく豊かなピクセルを生成)、および Atmos 没入型サウンドで実現される。 NBCU は、4K HDR の対象範囲を米国の配信パートナー (ケーブル事業者、通信会社、衛星 TV プロバイダー、OTT サービスプロバイダーなど) にも配信する。
 この内、X1は、ライブおよびオンデマンド で4Kコンテンツへのアクセスを提供する。
Consumer Technology Association (CTA) の最近のデータによると、米国の家庭の半数以上 (52%) が 4K テレビを所有しており、2020 年から 16 ポイント上昇しており、同団体が調査した製品の中で最大の伸び率となっている。
 2016 年、NBCUは、リオデジャネイロ2016のコンテンツを、ケーブル、衛星テレビ、デジタル配信のプロバーダーに 4KUHD画質で提供したが、1 日遅れだった。 平昌冬季五輪2018でも 4K HDR 中継をプロバーダーに提供したが、再び 1 日遅れで配信された。

米NBCUは広告枠ほぼ完売 東京2020の2倍のペース 配信広告枠で出稿ブランド数も倍増
 Paris2024の米国内の放送権を持つNBCUは2023年10月半ばに、主な広告枠がすでに完売していると発表した。Paris2024のセールスは東京2020大会(21年に延期して開催)の2倍のペースで進み、東京大会の約12億5,000万ドルという売り上げ総額を超え、NBCUのこれまでの五輪放送を上回る見込みだという。
 NBCUによると、ライブ中継/配信される開会式の広告枠は地上波のNBCとスペイン語放送のテレムンド、配信サービスのピーコックの広告付き有料サービスと無料サービスの広告枠を完売。サッカーやバスケットボールなどの人気スポーツの生中継でのハーフタイム広告枠も完売したという。
 Peacockは、東京夏季五輪2020では、テレビ放送の補助的な位置付けだったが、北京冬季大会2022を経て、Paris2024では夏季大会はで初めて開会式、閉会式を含めてオリンピックとパラリンピックの全試合をライブとオンデマンドで配信するという大攻勢に出た。
 NBCユニバーサル全体の視聴者増には貢献したが、広告料収入やサブススクリプション収入で、どれだけの収益を上げたかまだよくわからない。
 Peacockは、2023年1月、収益の悪化を理由に、無料プランの新規ユーザーの受け入れを廃止して有料プランだけにして収入増を図った。Peacockのサービス開始以来の累積赤字は約85億ドル程度(約1兆2750億円)とされている。


Paris2024の閉会式で五輪旗を受け取るカレン・バスロサンゼルス市長出典 Paris2024

閉会式ではハリウッドのレジェンド、トムクルーズが登場 出典 Frane24

反転攻勢の絶好のチャンス LA2028
 ベイ
 2014年5月、米国のメディア・コングロマリット大手、コムサット(NBCユニバーサルの親会社)は、2021年から2032年までの夏季・冬季6大会の米国内の放送権を、76億5000万ドル(1憶ドルのボーナスを追加)という破格の額で獲得した。この巨額の放送権料を大会ごとに集める広告料で賄わなければならない。オリンピック放送の視聴者数は、広告料収入に大きく影響する。
 Paris2024では、東京夏季五輪2020、北京冬季五輪と2大会続けて惨敗した視聴者数は、Paris2024では凋落傾向に歯止めをかけることに成功した。問題は次のミラノ・コルティナ・ダンベッツォ冬季五輪2026だろう。
 Peacockは今大会では健闘したが、長年の“赤字体質”を脱して、NBCユニバーサルの収入に貢献できるのか、オリンピックが終わったこれからの結果が勝負となる。
 Paris2024が幕を閉じて、いよいよロサンゼルス2026に向けての動きが一斉に始まった。今度は、久しぶりにNBCユニバーサルの自国開催となる、しかもNBCユニバーサルの拠点、ハリウッドが控えている。
 米国内でのテレビ離れ深刻で、ケーブルテレビはNetflex、Amazon、Desney+などのデジタル・プラットフォームに押されてコードカットが止まらない。またオリンピック離れの逆風は強く、NBCユニバーサルが反転攻勢に出るにはなかな厳しい環境に立たされている・。
 こうした中で期待を集めているのが自国開催のロサンゼルス五輪2028である。このチャンスを活かすためにNBCユニバーサルはどのようなアグレッシブで魅力的な戦略を描けるか、正念場を迎えている。




2024年8月26日
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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
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