一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

大山の名局・6

2017-07-26 00:57:09 | 名局
日付かわって今日7月26日は、大山康晴十五世名人の命日である。平成4年の没だから、四半世紀も経ってしまった。月日の経つのは早いものだ。
では今年も「大山の名局」を記す。
今回の舞台は平成元年度の第48期A級順位戦最終局。この期のA級は大混戦で、すべてのカードが挑戦者か降級に絡んでいた。

1位・米長邦雄九段(5勝3敗)―7位・塚田泰明八段(3勝5敗)
2位・桐山清澄九段(3勝5敗)―4位・大山康晴十五世名人(3勝5敗)
3位・内藤國雄九段(5勝3敗)―5位・中原誠棋聖・王座(5勝3敗)
6位・青野照市八段(3勝5敗)―9位・田中寅彦八段(4勝4敗)
8位・南芳一棋王・王将(4勝4敗)―10位・高橋道雄八段(5勝3敗)

南二冠だけが純粋な「順位」戦で、あとは名人挑戦か降級に関わる。各棋士勝ち越しも負け越しも星2つの差しかなく、いかに混戦だったか分かるだろう。
大山十五世名人は前半の5局を1勝4敗と苦しい展開。6、7回戦に勝って安全圏に入ったと思いきや、8回戦の青野八段戦を凡戦で落とし、一気に寒くなった。もし最終局で敗れると3勝6敗になり、塚田八段か青野八段のどちらかに勝たれると、降級してしまう。つまり残留するには勝利しかなく、大山十五世名人、絶体絶命の危機だった。

平成2年(1990年)3月5日
第48期A級順位戦9回戦
持ち時間:6時間
於:東京・将棋会館

▲九段 桐山清澄
△十五世名人 大山康晴

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲5八金右△8二玉▲9六歩△9四歩▲5七銀△7二銀▲6八銀上△6四歩
▲3六歩△4三銀▲2五歩△3三角▲5五歩△5二金左▲5六銀△6三金▲4六歩△1二香▲1六歩△7四歩▲3七桂△4一飛▲2六飛△8四歩▲4五歩△同歩▲2四歩△同歩
▲4五銀△5一角▲5六銀△5二銀(第1図)

大山十五世名人は十八番の四間飛車。これが最後のA級順位戦になるかもしれない対局を、この戦法に賭けた。
対する桐山九段の作戦は、この頃にはすでに下火になっていた中央位取り戦法。大山十五世名人も居飛車を持って得意にしていた戦法で、大山十五世名人は対局中、昔を懐かしみながら指していたという。

第1図以下の指し手。▲5九金寄△3三桂▲5四歩△同歩▲3五歩△6五歩▲4二歩△同角▲3四歩△6四角▲5五歩△4八歩▲同金寄△2五桂▲同桂△同歩▲同飛△5五歩▲4二歩△3一飛
▲4五銀△5六桂▲2二飛成△4八桂成(第2図)

当時大山十五世名人は66歳。この時第15期棋王戦五番勝負で南棋王に挑戦中(!)だったが、第2局を終わって0勝2敗。第3局が4日後に迫っていたが、はっきり言って、タイトル戦を指す心境ではなかったと思う。
桐山九段の▲5九金寄は、飛車成りを受けて当然。と同時に、金銀の連携を良くした。
▲4二歩は△4一飛・△5一角型の時の手筋で、どちらかの働きを減殺することができる。大山十五世名人は△同角と取り、△6四角と要所に据えた。
△5五歩に▲同銀は△6六桂▲同歩△5五角の狙いか。桐山九段は再び▲4二歩を利かし、▲4五銀と躱す。
△4八桂成にはどうするか。

第2図以下の指し手。▲4八同金△5一飛▲1二竜△3六歩▲同銀△5六歩▲5五歩△4六歩▲6九桂△9五歩▲2三竜△9六歩▲9八歩△5三銀▲4五香△6二銀▲5四桂(第3図)

桐山九段は▲4八同金と取ったが、私だったらよろこんで▲3一竜とするところ。
大山十五世名人はここで飛車を逃げ、△3六歩~△5六歩~△4六歩と歩を駆使したあと、△9五歩。大山十五世名人は美濃囲い側からも平気で端攻めをしていた。また盤のあっちこっちに手が行くのは、盤面を広く見ている証左である。

第3図以下の指し手。△3五歩▲同銀△3六金▲6二桂成△同金上▲4一歩成△7一飛▲2五竜△4七金▲4九歩△8五歩▲3六竜△8六歩▲同歩△8七歩▲7九角(第4図)

大山十五世名人は△3五歩から△3六金と張り付き、またも△8五歩と攻め場所を転じる。相手の立場になると、ここと思えばまたあちらで、神経が休まる間がない。
△8七歩に▲7九角はいかにもつらい。

第4図以下の指し手。△7五歩▲7七銀△8四桂▲8五歩△7六桂▲4七金△同歩成▲5六竜△8八金▲同角△同歩成▲同銀△6八角▲8四歩△7三金上▲7七歩△3五角成▲7六歩△4六と▲6五竜(第5図)

今度は△7五歩から攻めかかる。桐山九段は受け一方で、先ほどから大山十五世名人がひとりで指している気がする。
桐山九段も▲5六竜と転じるが、大山陣は上部に手厚く、ビクともしない。

第5図以下の指し手。△5六銀▲8五金△6五銀▲8三銀△同銀▲同歩成△同玉▲8四歩△同金▲同金△同玉(投了図)
まで、132手で大山十五世名人の勝ち。

△5六銀が決め手。将棋は、駒を盤面に打って空間を制圧してしまうのがいいのではないか、と思わせる。

△8四同玉まで桐山九段が投了し、大山十五世名人の残留が確定した。敗れた桐山九段は、下位の3勝勢が勝ったことにより、2位3勝で降級となった。結果的に大山十五世名人は、勝つしかなかったことになる。
局後大山十五世名人は、本局が降級の一番と考えず、B級1組から昇級の一番と考えることにした、と語った。何でもポジティブに考える、十五世名人らしいコメントだった。
また米長九段は本局の大山将棋を「大きな将棋」と讃えた。二人の間柄は人生観の違いなどから良好ではなかったが、お互いの将棋は認めていたと思う。
大山十五世名人の活字は現在も「将棋世界」で目にするし、評論本や実戦集がいまだに発行される有様である。大山十五世名人の肉体は滅びたが、大山将棋は現在も生きている。そう、大山康晴は今も私たちの中に生きているのだ。
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7月6日のLPSA麹町サロンin DIS(中編)

2017-07-25 00:49:16 | LPSA麹町サロンin DIS
24日は軽トラックを売った。ウチがもうほとんど使用しないこともあるが、契約しているディーラーの顧客が軽トラを欲しているらしく、強引に売却という形になった。
この軽トラは私が1月に事故を起こしていることもあり、売値は30万円。2年前の11月に85万円で購入したから、3分の1だ。最近は事故っても売値には影響しないという話も聞くが、ディーラーの査定はなかなかにシビアだ。こっちは急いで売る必要はないからもっと強気でいけたのだが、オヤジにその気はなかったようだ。
軽トラは酷使しなかったから新品同様。あちらさんはいい買い物だっただろう。私はもっとこの軽トラに乗りたかった。
まあ軽トラも、ウチで休眠しているより、新天地でバリバリ働いたほうが幸せだろう。
1年9か月の短い付き合いだったが、ありがとう。

   ◇

(きのうのつづき)

第4図以下の指し手。▲6六銀△7三金▲2三歩成△5四歩▲4三桂成△6六角▲同歩△8四金▲7四香△同金▲同歩△4九銀(第5図)

ほかの3人はいずれもいい勝負。ただ指し手のテンポはいまひとつのようで、私の将棋だけが終盤戦に突入していた。
第4図で誰でも指すのは▲6三桂成であろう。金を取りながら飛車取りだから気分がいい。もっと欲張るなら不成で金取りにするのもよい。しかし以下△7五飛▲6六金△同角▲同銀△2五飛でよく分からなかった。
それで渋く▲6六銀と上がったのだが、島井咲緒里女流二段に冷静に△7三金と寄られ、▲5五桂が空振りしてしまった。
しまった…。上の変化で、△2五飛には▲2八香があったんじゃないか。あー失敗した。
私は▲2三歩成とする。いま歩はいらないが、逆に△2四歩とされると△7六歩が厳しいと思った。それはそうだが、▲2三歩成は悠長すぎた。
島井女流二段は△5四歩。私はソッポに▲4三桂成とするしかなく、明らかに流れがおかしい。
△6六角から△8四金。この金はさっきタダで取れたわけで、ここまで活用されるとはシャクに障る。私は金を取らなかったことを激しく後悔した。
島井女流二段は△7四飛を保留し△4九銀。

第5図以下の指し手。▲6三銀△3八銀成▲7二銀成△同金▲2二飛△7一香▲6一角△3九飛▲6九金打△2九飛成▲7二角成△同香▲同飛成△7六桂(第6図)

△4九銀に飛車を逃げている棋勢ではない。一枚損するが、▲6三銀とスピード勝負に出た。
以下飛車を取り合い▲2二飛。△7一香に▲6一角は迫っているようだが、ちょっと足りなそう。
以下△3九飛に▲6九金打と一枚使わされたのが痛く、ここでは形勢逆転、劣勢を自認した。
本譜▲7二同飛成には△7一銀打がイヤだったが、島井女流二段は△7六桂と打つ。私が一拍置いたのを見て、島井女流二段が席を外した。
実はこの手は読み筋で、私には用意の手があった。

第6図以下の指し手。▲8五桂(途中3図)

△7一銀打▲7三歩成△7二銀▲同と(第7図)

第6図は△8九角▲同玉△6九竜▲同金△8八金までの詰めろ。それを防いで、私は▲8五桂と跳ねた。これが▲8二竜△同玉▲7三銀以下の詰めろ。いわゆる詰めろ逃れの詰めろで、何と2週連続で出現である。
島井女流二段は、そんな手があった…というテイで熟考し、△7一銀打。
こう受けられると、下手の指し手も難しい。たんに竜を逃げる手はないから、ひとつはA▲7三歩成が考えられる。
しかし以下△8八角▲8一竜△同玉▲7二金△同銀▲8二と△同玉▲7四桂△7一玉▲8二銀△6一玉▲6二香△5一玉(参考1図)はわずかに詰まない。

それならB▲7三香もあるが、これは明らかに詰めろでないので、上手を安心させる。しかし△同銀▲同歩成となれば、上手玉はほぼ受けなしとなる。問題は▲7三香の時に、島井女流二段が△同銀と取ってくれるかどうかだ。
だが▲7三香の感触が悪く、私はよく分からないまま▲7三歩成とした。本譜は△7二銀▲同ととなって、これが詰めろかどうか。
△8八角▲8二と△同玉▲7三銀△同桂▲同桂成△同玉▲7四歩△8四玉(参考2図)となって、どうも上手玉が詰まなそうである。というか、これは参考1図の▲8一竜を▲8二とに代えた変化に合流する。

だが上手が詰めろと錯覚していても、△7五飛が攻防の手で、これは下手が負けそうだ。
ところが、考えもしない手が飛んできた。

(27日につづく)
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7月6日のLPSA麹町サロンin DIS(前編)

2017-07-24 00:10:05 | LPSA麹町サロンin DIS
6日(木)のLPSA麹町サロンin DISは、島井咲緒里女流二段の回(18:30~20:30)に空きがあり、昼にメールで予約を入れた。いつもの私だったら家でテレビを観るところだが、島井女流二段とは最近あっちこっちで顔を合わせており、親近感が増している。いわゆる単純接触効果で、ここで一局お手合わせを…と望むのは心理であった。
ところが午後一番に得意先から電話があり、当日4時半にウチにきたい、とのこと。
ウチはもう廃業状態なのだが、ウチの製品は簡単にできるものではないので、アドバイスをもらいたい、というわけだった。
だが、夕方というのはまずい。話が長引いたら、麹町に遅れてしまう。もっともLPSAからもまだ、「諾」の返事をもらっていないのだが…。
結局、得意先との打ち合わせは5時過ぎに終わり、私はLPSAに電話確認をして、島井ちゃんとの対局が決まったわけだった。

夕方、例によって四ッ谷で降り、小諸そばで二枚もりを手繰る。準備万端で麹町サロンに入った。
先客は2人。うちひとりは見覚えがあり、4月のシモキタ名人戦で熊倉(当時)紫野女流初段に指導対局を仰いだ時、私の右で指していた人だ。
島井女流二段は相変わらずかわいらしかった。
まだ6時半まで時間があるので、しばし雑談する。
「この前の社団戦はどうでした?」
けっこうキツイことを聞かれる。私は1勝2敗で終わり、3局目は渡部愛女流初段に見守られたにも拘わらず、惨敗したことを告げた。
「この前、愛ちゃんに麹町サロンで勝ったようですね」
麹町サロンでは、お客との勝敗をメモしておくらしい。
「いやぁあれは、時間が迫っていたので、渡部先生が投げてくれたんです」
これは事実である。
「あのぅ、先にいただいていいでしょうか?」
「? …あ!」
指導料をお支払いするのを忘れていた。大野教室では真っ先に払うのに、何たる失態か。
そそくさと4,000円を払って、対局開始。

初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲5六歩△3二銀▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲5八金右△8二玉▲9六歩△9二香▲2五歩△3三角(第1図)

私の右の人は角落ち、左奥の人は飛車香落ちの手合いだった。私は平手でお願いした。
島井女流二段は四間飛車。▲9六歩には△9二香と突いた。いわゆる十八番の穴熊で、指導対局で得意戦法を繰りだしてくれるのはうれしい。
このあたりで4人目の客が現れた。白髪の紳士で、氏は席に座るやいなや、前回の指し掛け局面を島井女流二段に示し、「これは私の負けですね」と言った。Sug旦那もそうだが、この麹町サロンにも、常連がいるようだ。
紳士氏は平手での対局となった。
私は▲2五歩△3三角を決め、次の手が分岐点。

第1図以下の指し手。▲3六歩△9一玉▲3七銀△8二銀▲6八銀△7一金▲5七銀△5二金▲6八金直△7四歩▲2六銀△1四歩▲1六歩△6四歩▲3五歩(第2図)

私は▲3六歩。ここ、▲5七銀と上がって持久戦を目指す手もあるが、時間が決められているので長期戦は避けたい。それと、ガッツリ将棋を指すほど私は精神的に安定していない。
私は▲3七銀と棒銀を明示した。最近の常用戦法だ。島井女流二段は着々と穴熊を完成させる。
▲6八金直に△7四歩が島井流で、後の△7二飛を見ている。
私は▲2六銀といよいよ棒銀出撃だが、上手の△1四歩がやや早く、私は▲1六歩とお付き合いしたが、別の手を優先させるべきだったかもしれない。
△6四歩に▲3五歩と仕掛けた。

第2図以下の指し手。△4三銀▲3四歩△同銀▲3八飛△4三銀▲3四歩△2二角▲3五銀△6三金▲2四歩△4五歩(途中1図)

▲2二角成△同飛▲8八角△7二飛▲1一角成△7五歩▲同歩△4六歩(第3図)

第2図では△4五歩を考えていた。以下▲3三角成△同銀▲3四歩△同銀は、下手の棒銀が捌けない。それに上手の角頭が無防備なのだから、これを捌かせるのは損でもある。
本譜は△4三銀だがこれでは一手遅い感じで、私は▲3四歩から▲3五銀と押さえて好調。
しかし▲2四歩に、上手はやはり△4五歩(途中1図)ときた。
私は結局角を換えたが、次の▲8八角に期待した。以下香を取りながら▲1一角成とし、この戦果をどう見るか。もう少し得を拡げられた気もする。
島井女流二段は△4六歩と手筋の突き捨て。

第3図以下の指し手。▲4六同銀引△4四角▲2一馬△3二銀▲同馬△同飛▲5五桂△7七歩(途中2図)

▲7七同桂△7二飛(第4図)

第3図で私は▲4六同銀引。駒を中央に集めて、自然な指し手と思う。以下△7五飛なら▲7六歩△2五飛(△7六同飛は▲7七香)▲2八香△8五飛▲2一馬で下手優勢。
よって島井女流二段は△4四角と据えたが、私は▲2一馬と桂を取る。以下△9九角成なら▲4三馬と銀を取り、これが△7六香も消している。これでもかなり難しいが、下手が指せると思った。
果たして島井女流二段は△3二銀と先手を取ったが、私は読み筋とばかり馬を切って▲5五桂。三枚換えのうえに角筋を止めつつ、金取り。これで下手が悪い道理がなく、この将棋は早々に終わらせて2局目をお願いしちゃおうか、という気持ちになった。
しかしそんな気分も束の間、島井女流二段の△7七歩が好打だった(途中2図)。どう応じても味が悪いが、私は目をつぶって▲同桂。島井女流二段は、金を取るなら取れと△7二飛(第4図)。
ここで次の手がアホだった。

(つづく)
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はじめての愛(後編)

2017-07-23 00:16:41 | LPSA麹町サロンin DIS

第3図以下の指し手。▲6一銀△6五歩▲5二銀成△同金▲8一飛△5一桂▲3五飛△4八銀▲5三歩△同金▲4七金△5七銀打▲4八金△同銀成▲6二銀△4二銀(第4図)

第3図では▲7四銀と逃げる手があるが、△4四金▲5六歩△3四金とされ、勝負が長引くと思った。また▲5四歩は△6五歩▲5三歩成△同飛でおもしろくないと思った。
▲6一銀は決着をつけにいった手で、時間制限がなかったら、もう少し逡巡したと思う。
渡部愛女流初段は△6五歩と銀を取ったが、ここ△6二飛は▲5四歩△6五歩▲5三歩成△6一飛▲5二銀△3一玉▲6一銀不成(参考1図)で下手有利。

部屋は冷房が効きすぎて、渡部女流初段はカーディガンの袖を通してしまった。ノースリーブの全貌を拝みたかったが、これで可能性はなくなった。
本譜に戻り、私は飛車を取って▲8一飛の王手。当然△5一歩と思いきや、渡部女流初段は少考して△5一桂と受けた。5筋の歩は攻めに使いたいようだ。
渡部女流初段は△4八銀から反撃する。数手後の△5七銀打に私は▲4八金だが、ここではだいぶ盛り返されたと思った。

第4図以下の指し手。▲7七角△8八歩▲5三銀成△同銀▲6三金△4四角▲9五角△6二銀打▲5三金(途中2図)

△5三同角▲5五飛(第5図)

ここで指す手がまったく分からなかった。現在角が眠っているので▲9六歩を考えたが、いかにも悠長だ。
それで▲7七角とし次の▲8六角を狙ったが、△8八歩と打たれ、手が止まってしまった。△8八歩は文字通りノータイム。プロ的にこうした手は一目なのだろう。
私は▲5三銀成から▲6三金と張り付いたが、▲6三金では▲9五角とノゾく手があった。
もっとも△4四角に▲9五角が実現したが、形勢判断はまったく分からなかった。
本譜を進んで△6二銀打に▲2二銀と捨てようとしたが、△同金でタダだ。
「駒が離れてないから大丈夫です」
と渡部女流初段。私は半分待ったをし、▲5三金(途中2図)とすべらせる。この手が詰めろかどうかなど、ほとんど読んでいない。△3五角と飛車を取られたら下手は相当寒いが、そうなったらそうなったでしょうがないと思った。
渡部女流初段は△5三同角と取り、私は▲5五飛。

第5図以下の指し手。△8九歩成▲5三飛成△5八金▲同竜△同成銀▲同玉△2八飛▲6七玉△6六歩▲7七玉△6五桂▲8六玉△7八飛成(第6図)

このあたりでSug旦那の将棋が終わった。Sug旦那は終始積極的に指し、快勝。渡部女流初段に褒められた。Sug旦那はLPSA駒込サロン時代から女流棋士に指導を受けているが、齢を重ねてからの棋力向上は見事で、不断の努力が実ったわけだ。
渡部女流初段は△8九歩成。ここは△5二歩と受けられると思ったから意外だった。もっとも時間が迫っているので、渡部女流初段も勝負をつけにきているのだ。
渡部女流初段は△5八金から飛車を入手し、△2八飛。この手が厳しく、負けにしたかと思った。
私は▲6七玉と上がり、「あと3分くらいしか(指導の時間が)ありませんよ」と告げる。
たしか麹町サロンは終了5分前から感想戦に入ったと思う。まだ2局残っているし、暗に指し掛けを申し出たつもりだった。
が、対局はそのまま続く。

第6図以下の指し手。▲6四角△8五歩▲9六玉△7六竜▲8六銀(投了図)
まで、109手で一公の勝ち。

下手玉は△7六竜▲同玉△7五金までの詰めろ。私は▲6四角と詰めろ逃れの詰めろで応じたが、「▲8六玉」と「▲6四角」を2手続けて指した気がして、「あああっ!!!」と叫んでしまった。
「私が何かやりました!?」
と渡部女流初段も驚く。私の粗相で、たいへん失礼しました。
対局を再開し、△7六竜に▲8六銀。まだ最後の一山があるのかと思いきや、ここで渡部女流初段が投了してしまった。

「(途中2図からの)△5三同角がおかしかった。△8九歩成でしたか?」
渡部女流初段が開口一番、発する。
調べてみると、△8九歩成以下▲5一飛成△同銀▲同角成△3一玉▲4二銀△2二玉▲3三歩成(参考2図)で、以下清算してから▲4二角で上手玉が詰むようだった。

といって△8九歩成で△3五角も、▲6二角成で下手玉が詰まず、わずかに下手がいいようだ。
また第3図以降の△5七銀打に対して私は▲4八金と銀を取ったが、
「ここで▲5八歩(参考3図)と受けられたらどう指していいか分かりませんでした」

と渡部女流初段。そうかそうか、こう打てば上手の攻めは切れていたか。完全なエアポケットに入っていた。
もっと感想戦をやっていたいが、時間がない。渡部女流初段はほかの指導対局に戻り、まずTak氏を投了に追い込んだ。
が、感想戦の最中に次のお客さんが来てしまった。
Tod戦も、Tod氏が投了。ここでまた一人、次の客が来た。さすがに渡部女流初段も感想戦を終わらせたが、1時間半で4局すべての将棋を完了させた。さすがにうまくまとめるもんだと感心した次第。
今回、渡部女流初段には初めて麹町サロンで教わったが、渡部女流初段の魅力全開で、濃密な1時間半を過ごすことができた。また機会があったらよろしくお願いします。

帰りにTod氏と軽くお茶をする。しかし、お互い自由人でチョンガーなので、話す内容はさえない。
しかもTod氏とはこれからも麹町サロンで顔を合わせそうな気がするのが恐い。

   ◇

渡部女流初段は22日のマイナビ女子オープンで、初戦敗退してしまった。今はどんよりと落ち込んでいるだろうが、戦いはまだこれからも続く。腐らずに頑張ってください。
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はじめての愛(前編)

2017-07-22 00:13:45 | LPSA麹町サロンin DIS
6月29日(木)のLPSA麹町サロンin DISは渡部愛女流初段の担当だったが、前日までに1部と2部に1席ずつ空きがあり、私は1部に申し込んだ。これで6月は大野教室6回、麹町サロン2回、さらに社団戦にも参加した。働き盛りの男性が仕事もせずに将棋三昧とはバカ丸出しで、自己嫌悪に陥るばかりである。
当日は松戸でマトモトキヨシの株主総会があり、初めて参加した。進行はなかなかおもしろく、こんなことならもっと早くに参加するのだった。

家に戻り、午後2時に再び家を出て四ッ谷に着いたあと、駅前の小諸そばで二枚もりを手繰った。
左で食べていた女性はめんつゆがなくなってしまったようで、お代わりを所望していた。そばを食べていて、こんなことってありますかね?
ここで時間を取ってしまったので、麹町へは最短距離を行くしかない。かつての我が会社の前を通った。この会社での6年半は我が半生の黒歴史で、一切思い出したくない。
幸い昔の連中には遭わず、麹町サロンへ無事到着。部屋に入ると、渡部女流初段にSug旦那氏、Tod氏、Tak氏がいた。何だ、いつものメンバーだが、Tak氏はまたこの将棋のために上京したのだろうか。
「いやあ大沢さん、残り1席は大沢じゃないかって話してたんですよ」
とTod氏。どうも、すべて見破られていたようだ。
私は渡部女流初段に挨拶。渡部女流初段には6月10日に大野教室で教わったばかりだが、麹町では初めてである。13,000円を渡した。今回の指導料4,000円(ファンクラブ料金)に、「勝手にマッカラン勝負」の3勝分9,000円を足したものだ。これにて今年のマッカラン勝負は完了したが、来年は行えるかどうか。
もう3時を過ぎているので、すぐに駒を並べた。

初手からの指し手。▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀▲2六歩△8五歩▲7八金△7四歩(途中1図)

▲5六歩△7三銀▲4八銀△6四銀▲6六銀△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8二飛▲5七銀上△3二金▲5八金△4二銀▲2五歩△3三銀▲6九玉△4一玉▲3六歩△4四銀▲4六銀△5四歩(第1図)

渡部女流初段は人気があるので3コマ体制。それに伴い指導時間も1時間半に短縮されている。それでいて料金は4,000円で変わらないから、やや不満は残る。
もっともそれも、渡部女流初段の笑顔を見れば雲散霧消してしまうのだが。
「恐れながら平手でよろしいでしょうか」
と私。渡部女流初段は笑って応じる。
Tod氏は、
「一公さんにはいつも二枚落ちで指してもらってるんですが、今日は飛車落ちで…」
と言い、渡部女流初段が苦笑した。
Tak氏は飛車落ち。Sug旦那も飛車落ちで、中飛車を指していた。つまり先日の堀彩乃女流2級戦のときと同じ戦法で、とすると先日の手合いも飛車落ちだったに違いない。Sag旦那、数年間お会いしないうちに、腕をあげたということだ。
渡部女流初段は黒のノースリーブ。しかし残念、上にカーディガンを羽織っている。クーラーが効いているからこうなってしまうのだ。
「(渡部女流初段のカーディガンを脱がすには)北風と太陽だね」
とTod氏に言ったら、「何それ?」と返された。
「オレもよく知らないけど、太陽の熱さで脱がす話だよ」
ホントにバカな会話だと思う。
私の▲7六歩に、渡部女流初段△8四歩。私は▲6八銀とし矢倉を目指したが、渡部女流初段は△8五歩を決めて△7四歩(途中図)と、早くも攻勢の図だ。昨今は後手の急戦矢倉が主流で、「相矢倉」が死語になりつつある。
渡部女流初段は右銀を繰りだし、私は▲6六銀と対抗する。以前植山悦行七段に同じ手を指され▲6六歩としたら、「ここは▲6六銀としなきゃあ(ダメ)!」と怒られたことがある。私も学習しているのだ。
右側の銀も同じ動きになり、四枚の銀が中央で対峙した。

第1図以下の指し手。▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2五飛△7三桂▲3五歩△5五歩▲同歩△3五歩▲3四歩△6五銀▲同銀△同桂▲5六銀△5七歩▲4八金△6四銀▲6六歩(第2図)

△2三歩に▲2五飛。▲2八飛でもいいが、手詰まり解消の意味も含めて、ちょっと攻め味を出してみた。
渡部女流初段△7三桂と、後手番ながら攻勢を取る。右金は△6一金だが、中央に薄い分、飛車打ちには強い。
私が▲3五歩と先攻すると、渡部女流初段は△5五歩▲同歩を入れて△3五歩。私の▲3四歩はやや気が利かないが、ほかの手が分からなかった。
渡部女流初段は△6五銀。先日のKaz氏のような攻めだ。次に△7六銀があるので私は▲同銀と取るよりないが△同桂で、上手はこの桂が活躍すれば勝ち、私がこの桂を取りきれれば勝ち、の構図になった。
ここで▲6六銀は△5六歩があるので、私は▲5六銀と据える。これは▲6六歩の桂取りも見ている。
グズグズできない渡部女流初段は△5七歩を利かし、△6四銀。
私は待望の▲6六歩。しかし第2図で恐れていた手があった。

第2図以下の指し手。△5五銀右▲6五銀△4六銀▲同歩△5二飛▲5四歩△6二金▲5七金△6四歩▲5三桂△同銀▲同歩成△同金(第3図)

渡部女流初段は一手指すごとに局面を移るので、こちらはその分じっくり考えられる。ただし指導時間は1時間半だから、ややタイトである。
第2図で渡部女流初段は△5五銀右としたが、私は「左」で来られるほうがイヤだった。
こちらのほうが角交換になる変化があり、そうなれば△5七歩の拠点が残っている下手が忙しい。
本譜は▲6五銀と桂得し、この岐れは下手悪くない。以下△4六銀▲同歩で下手には△3六角(王手飛車)のスキができたが、まだ角は持たれないだろう。
渡部女流初段△6二金。ここ△6四歩なら▲同銀△5四飛▲6五銀で下手が指せると思った。私は▲5七金とイヤミな歩を払って一安心。
本譜に戻り△6四歩に▲同銀は△5四飛でゲームセットだが、▲5三桂が狙っていた手で、△5三同金まで下手が銀得となっては、さすがに有利を自覚した。
さて第3図でどう攻撃を続行するか。

(つづく)
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