一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

駒の効率

2012-08-10 01:36:20 | 将棋雑考
大野教室などで大野八一雄七段や植山悦行七段に駒落ちの指導を受けていると、将棋は駒の働きが重要なんだなあ、とつくづく感じる。上手には角がないのに、それをほかの駒が補って、実に巧みに働くのだ。
将棋のおもな形勢判断は、1.駒の損得 2.駒の働き 3.手番 が挙げられよう。これまで私は、駒の損得がいちばん重要と考えていたのだが、最近は駒の働きこそが重要なのではないかと思うようになった。
やや旧くなるが、7月2日に行われた達人戦・羽生善治王位・棋聖対谷川浩司九段の一戦が、その典型だった。
将棋は珍しく、先手羽生の中飛車。谷川が持久戦模様に進めると、羽生は▲1五歩と突き越していながら穴熊を指向するという、変則的な展開になった。
羽生の攻め、谷川の受けと、虚々実々の応酬が繰り広げられる。しかし羽生は大駒をすべて切り、小駒のみの攻め。駒割りを見ると、飛車・角と金の交換である。
実はこの将棋、ネットで鑑賞する前から羽生の勝ち、と知っていたのだが、109手目に▲4四金と打って、羽生の持ち駒は桂と歩4枚。ここからどうやって羽生が勝つのか、まるで分からなかった。
しかし羽生は少ない手駒を効果的に打ち、谷川玉に網を絞る。
▲3三金△同桂▲同歩成△同角▲3四桂(王手)。この時点で、飛車・角と桂を交換した勘定である。しかもこの局面で谷川が投了したので、私はさらに驚いた。
しかし盤面をよく見ると、△3四同角は▲同銀で一手一手。△3二玉も▲3三桂成以下寄りなのだ。
駒割りも、羽生が大損しているが、羽生の遊び駒が▲9八香1枚だけなのに対し、谷川は△8三飛の位置が中途半端で遊んでいる。△1三桂、△1四銀、△5七銀もいまひとつ働きが弱い。
というわけで、冷静に見れば先手が勝ちだが、どこか釈然としないところもある。本当に何か、羽生マジックを見ているかのようだった。
そしてもう一局。7月20日に行われた王座戦挑戦者決定戦・羽生二冠対中村太地六段戦である。
この将棋は、羽生の横歩取りに中村が△8四飛型に構えた。空中戦法らしい華やかな戦いになり、終盤、羽生が▲5三角成の強手を放つ。
それはそれでむずかしい戦いだったが、92手目中村の△8九歩成が敗着。続く▲1五桂の素朴な縛りが存外厳しく、そのまま投了となってしまった。
終局図で駒の損得を計算しても意味がないが、一応先手の角損である。しかし先手陣は残りの駒がすべて働いていて、1枚の遊び駒もない。
対して後手は、△7二金が取り残されている。やはり、見た目ほど駒の損得はないのだった。
だがこの投了図も妙な感じで、一見して受けがありそうである。中村六段だって▲1五桂は見えていたが、受けはあると読んで△8九歩成と桂を補充したのだ。
それで受けなしとは、先手の駒がすべて急所に利いていた証である。
かようなわけで、少ない手駒でも各自が目一杯働けば、多少の駒損は補って余りある、ということが何となく分かった。私がこれから将棋を指すうえで、勝ち方のヒントになりそうな2局であった。
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