一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

三十七たび大野教室に行く(後編)・悪夢を見た

2012-11-28 00:06:28 | 大野教室
二枚落ちの下手を指すのは久しぶりで、考えてみたら高校1年のとき真部一男七段に教わって以来、31年ぶりだった。そのときはガチガチだったが、いまはリラックスしている。当時とは景色も違って見えて、相手に飛車角がないと、こんなに下手がラクなのかと思った。
私は4手目に▲4六歩。真部七段のときはここで▲5六歩と指して、△5三銀▲4六歩に△4四歩を間に合わされ、早くも戦意喪失してしまったのだった。
私は銀多伝を用いる。植山悦行七段は横のソファーにすわってこちらを見ている。植山七段は下手(一公)必勝と見ているようだ。
大野八一雄七段、指し手に窮して、△9五歩、△1五歩と突き捨てる。
「いろいろやるんですよ」
と植山七段が苦笑した。▲1五同歩△同香▲同香△1四歩▲同香△同金▲1九飛。大野七段は泣く泣く△1三香。これは下手がかなりポイントを稼いだ。
しかしさすがに上手はいろいろやってくる。数手後に△8六歩と垂らされ、ゴチャゴチャやっているうち角を取られてしまった。
その角は盤上でアクロバティックな動きをし、△9六馬と香を取る。何だかこちらが劣勢になってきたが、▲6五歩、▲5五歩が上手玉の急所を衝き、まだこちらに利があるようだった。
大野七段△8五玉。私は▲5九の飛をひとつ左に寄る。次に▲6五飛を狙ったものだが、これが大ポカ。大野七段に△6九同馬!と取られ、突然の投了となってしまった。
▲6九飛では▲7六銀と打ち、△9五玉に▲9七歩と馬を殺しておけば、下手が優勢を持続できた。
20秒なら下手にも余裕がある、とタカを括っていたのだが、どこかで冷静さを欠いていたのだろう。
まだFuj氏は来ないので、引き続きもう一局お願いする。今度は大野七段の意を汲んで10秒将棋である。
対局開始。△6二銀▲7六歩△6四歩!▲4六歩△6三銀! さらに△7四歩~△7三玉。これは上手が本気を出してきた。
私は前局に続いて銀多伝を目指したが、上手のちょっかいに、満足に組めない。大野七段、△1五歩。まただ。これが上手の秘手らしい。▲同歩△同香に、今度は▲1七歩と謝る。しかし大野七段は1筋からズンズン迫ってくる。大野七段、△2五桂。私は左辺で別の手を指す。
大野七段、△1七桂成!! あっ、しまった!! そうか、△2五桂には▲同桂だったか! 後悔する間もなく、横から秒読みの電子音が迫ってくる。私はとりあえず指し手を進めるが、完全に自分を見失った。
この後は目についた手を指すばかりで、混迷を極める。こうなってはもういけない。気がついたら綺麗に左右挟撃され、投了に追い込まれていた。
何と…。10秒将棋は上手の土俵とはいえ、こんな完璧に負かされるとは…。
私は呆然としたが、めげずに六枚落ちで申し込む。実はこれにも伏線があって、私たちは「某七段がアマの四、五段相手に六枚落ちの10秒将棋で不敗」という伝説を、かねてから聞いていた。プロの強さは私たちもよく理解しているが、六枚落ちである。これならいくら何でも下手が勝つだろう、なぜ下手が負けるのか分からない、どうやったら負けるのか、上手のマギレを見てみたい等々、Fuj氏などとよく語り合っていたのだ。
いい機会だから、それを大野七段にお願いしたのだ。大野七段も快く??応じてくれ、ついに待望の六枚落ち戦が始まった。そしてその結果は…。
――私が負けた。もう、途中経過を書くのもおぞましい。序盤から上手ペースで、途中からは頭が真っ白になっていた。恥をしのんで、終了局面を以下に記しておこう。これは盤に並べて損はない、悲惨な投了図である。

上手(六枚落ち)・大野七段:1四歩、2三歩、3四歩、4三歩、5四玉、5六金、6七銀、7八金、8五桂 持駒:金、歩3
下手・一公:1三と、1九香、2五歩、2六飛、2九桂、3七歩、3八銀、4七歩、8四角、8六銀、8七歩、8八玉、9三成香、9九銀 持駒:金、歩6
(△7八金まで)

いやはや、プロの将棋の恐ろしさをイヤというほど体感した。もう、この1局だけで3,500円の価値があったといっても過言ではなかった。そしてふだんの指導対局で大野、植山の両七段は、相当緩めてくれている、ということが分かった。
六枚落ち戦の途中でFuj氏が現れたので、みんなで食事に出る。Fuj氏は対局内容を聞いてくるが、私は無視した。食事会のメンバーは、大野七段、植山七段、W氏、Hon氏、Is氏、Fuj氏、Minamiちゃん、私。今夜はクルマでだいぶ走ったところにあるガストに行く。
車内では植山七段が「大沢さん静かだねえ」と声を掛けてくれた。六枚落ちで負けて落ち込んでいる?私への配慮である。
それはありがたいが、私は元もと寡黙である。だが今回はそれが言い訳になってしまう。
店は混んでいて、4人掛けと2人掛けのテーブルに8人がすわったからキツかった。私ははみ出した端っこの席にすわり、ブスーッとしていた。
私は牡蠣の料理にライス・ポタージュのセットを頼む。料理が運ばれてきたが、いつまで経ってもポタージュがこない。
店員に問うと、怪訝な顔である。「あ、これ?」とHon氏が自分の飲んでいるポタージュを指さした。…!! Hon氏、目の前にあったポタージュを、自分の頼んだセットと勘違いして、飲んでいたのだ。
何をやってるんだHon氏。自分の頼んだメニューぐらいは把握しといてくれよ。
きょうは女流最強戦の上田初美女王×室谷由紀女流初段の一戦が行われているが、Fuj氏がその将棋を見たいと所望する。やっぱり来たか。室谷女流初段がタイトル保持者相手にどういう将棋を指すか楽しみではあるが、私は将棋より戦う表情を見たい。
将棋は上田女王の貫禄勝ちだった。室谷女流初段は、最後の数手が余計だった。
きょうはもう一局、将棋日本シリーズの決勝戦が行われ、久保利明九段が羽生善治王位・王座・棋聖を破り、うれしい初優勝を飾った。
大野七段が久保九段に電話をし、W氏に代わった。W氏は久保九段の大ファンで、うれしそうに会話をしている。W氏は棋士との交友範囲が広いが、私は狭い。
私は翌日以降の業務を考えると憂鬱だったが、それでもみんなと談笑して、しばしそのウサを忘れることができた。
今夜は午後10時40分退店。しかし1年が経つのは早い。今年大野教室に行けるのは、あと何回だろう。
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2 コメント

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六枚落ち (ちんぴょ)
2012-11-28 01:00:16
分からないときは自陣を整備して、
自滅さえしなければいいような気がしますが、
実際はそんな単純ではないんでしょうね。
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圧倒された (一公)
2012-11-29 00:39:43
>ちんぴょさん
ちんぴょさんのおっしゃるとおりです。実戦は、二人がかりで負けてしまいました。
冷静になったいまでは自分の指し手に呆れるばかりですが、対局中の大野先生はものすごい迫力でした。
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