一筆啓上せしめ候7 白黒つかない

2023年06月12日 | 日記・エッセイ・コラム
 新幹線は栃木福島県境の黒川に差し掛かります。新幹線の那須塩原から新白河間の約10分はほとんどトンネルですが、黒川を渡る第二黒川橋梁の手前で一瞬地上に出て、数秒間ですが進行方向左側の車窓から黒川を見ることができます。右側は壁です。関東と東北、かつての大和の国と蝦夷地の境界というには、黒川は控えめな佇まいです。在来線の黒川橋梁は上路トラス(鉄骨の梁が下側から橋桁を支える構造)のため、梁に邪魔されることなく那須連峰をバックに橋上を走る列車を眺めることができ、撮り鉄には有名な撮影スポットです。
 5世紀ごろにヤマト政権が北方の蝦夷に対抗するために建立したという文献記録の残っている白河の関ですが、実在の場所ははっきりしておらず、寛政の改革を行った老中、白河藩主松平定信が1800年に白河神社の建つ場所を白河の関跡と定め、その後の調査でも関の遺構・遺物、遺跡らしきものがみつかっため、ここを国史跡の「白河関跡」としたようです。東北新幹線の第二黒川橋梁から15キロほど東側です。
 朝廷支配が東北地方まで及んだことで、軍事的な拠点としての意義を失った白河の関ですが、平安時代には歌枕として都人の憧景の地となり、白河の関を詠み込んだ和歌がたくさん残されています。白河の名称は付近を流れる白川に由来すると言われていますが、福島県に「白川」という名前の川は残っていません。「白河関跡」の近くに細い川が流れていて、これを昔白川と呼んでいたのかもしれませんが、それにしても川ではなく大河を意味する河の字を当てたのは、都人の誇大妄想だったような気がします。京都にも白河という地名があり、白河法皇、後白河法皇など天皇の諡号にもなっていますが、洛外にある天皇の隠居場所、高級リゾート地を憧景の地白河に見立てたのでは?と私はおもっています。明治になると東北地方は戊辰戦争に敗れた「賊地」として蔑視され、薩長土肥などの官軍側からは「白河以北一山百文」と言われました。仙台に本社のある東北の地方新聞「河北新報」の社名はこの「白河以北」から。地下鉄半蔵門線の駅「清澄白河」のある江東区白河は、町内の霊巌寺に松平定信の墓所があることが町名の由来です。
 それにしても、栃木福島県境のこの川が「黒川」というのは腑に落ちません。白河の清きに魚も棲みかねて黒川になったのでしょうか?

一筆啓上せしめ候6 黒磯の関と新白河の関

2023年06月12日 | 日記・エッセイ・コラム
 宇都宮を出ると、30分弱で郡山ですが、この栃木福島県境は、たった30分で駆け抜けてしまってはもったいない区間です。
 首都圏発の在来線の東北本線(宇都宮線は上野~宇都宮間の愛称)は宇都宮終着か、途中の小金井止まりですが、かつてはその先の黒磯行がたくさんあり、黒磯が関東の最後の駅、もしくは東北方面からの関東の入り口として存在感を示していました。
 電車の電源には直流方式と交流方式があり、関東ではほとんどが直流式です。直流式は発電所から送られてくる交流電流を基地にある変電装置を通して直流にしてから電車に送る方式で、電車のモーターを回すのに必要な直流電流が直接供給されるため、電車自体の構造がシンプルにでき、費用も安く済みます。交流方式は発電所からの交流電源をそのまま電車に供給する方式で、電車に交流を直流に変換する装置を積んでいます。そのため交流方式の電車は製造コストが高くなりますが、外部に交流を直流に変換する基地がいらないというメリットがあります。電車の本数の多い関東では、外部に交直変換基地を作って安い直流式電車をたくさん走らせた方が効率的ですが、東北地方などの運行本数の少ない地域では、変換基地のいらない交流式電車の方がメリットが大きい、ということで黒磯駅までが関東圏用の直流式電車、黒磯以北が交流式電車という運用で、黒磯駅は「鉄道の関所」だったわけです。そのため黒磯駅には直流と交流両方の電車が入線できるように切り替え装置がありました。しかし、この切り替え装置で作業員が感電するなどのトラブルもあったことから、2018年に黒磯駅は直流のみになり、黒磯駅と下り新白河方面の隣駅である高久駅の間に「デットポイント」と呼ばれる架線に電源の流れていない区間を設けて、直流と交流両方で走ることができる「直交両用電車」を走らせることにしました。黒磯駅を直流電源で出発した電車は、デットポイントでは架線に接するパンタグラフからの電源の供給が断たれ、「惰性運転」になります。惰性で動いている間に電車を直流から交流運転に切り替えておき、デットポイントを過ぎるとそこから先は架線から交流電源が供給されて運行が継続されるという仕組みです。直交両用電車E531系は製造コストやメンテナンスコストが高く運転手の負担も大きいため、JRはできるだけ持ちたくない。ということで、運用は東北線や常磐線の一部に限られており、東北線でも黒磯⇔新白河間のみの運行で、新白河から以北は、同じホームの交流電車への乗り換えが必要です。なお新白河駅では東北線の線路がホームの半ばで分断されていて、直通運転できないようにコンクリートの壁が作られてしまいました。「新白河の関」です。
 新幹線で27分の宇都宮→郡山間ですが、在来線で行くと(東京13:08→15:06)宇都宮15:19→16:11黒磯16:17→16:41新白河16:44→17:23郡山、と乗り換え2回(東京からだと3回)で2時間4分(同4時間15分)の、更に充実した旅が楽しめます。