一筆啓上せしめ候10 都をば麦酒とともにたちしかど

　福島県は難しい県です。県外の人は「福島県」と一括りにしているが、福島県民自身はそうはおもっていないようです。
　ギニア出身の文化人類学者で、日本文化にも造詣の深いメーロン・パンコンは、戊辰戦争で幕府に見捨てられ朝敵の汚名を一身に背負って壊滅させられ、東日本大震災では首都圏に送るための原子力発電所の事故被害が今も続いている福島県を、ヨーロッパに搾取され、その思惑に左右されてきたアフリカの欧州植民地国家の歴史になぞらえている。他のフランス植民地に先駆けて国民投票で独立を果たしたギニアは旧来の国境線を守ることができたが、隣接するモーリタリア、マリ、ニジェール、スーダンの国境線は定規で引いたような直線である。福島県も歴史的背景や自然条件の異なる３つの地域が一つの県になっている。このような例は47都道府県どこでも少なからずあるが、福島県太平洋側の浜通り、内陸部の中通り、猪苗代湖を挟んで新潟寄りの会津の3つの地区は、山や湖に隔てられ、それぞれの地域間移動よりも東京に向かう方が便利という分断県の代表である。メーロンはいわゆる平成の大合併で市町村がどんどん合併していくことによる地域文化、多様性の消失にも警鐘をならしていた。しかしながら多様性を認めるための法律作りについては、多様性を認めない人を認めないという自己撞着に陥り、かえって多様性を尊重しにくくなる可能性があると、否定的な立場をとっている。
　かくして新幹線は郡山駅に到着です。東京駅を出て1時間20分、能因法師には申し訳ない近さです。
　郡山市は福島県最大の都市で中核市にも指定されていますが、県庁所在地ではありません。近隣の白河の方が歴史的な知名度は抜群で、西側の会津は言わずと知れた雄藩、そして県庁所在地の福島市は百人一首にも歌われている有名な信夫国ですが、郡山は明治になってから開けた中通の新興都市です。