一筆啓上せしめ候2 一筆書きあれこれ

2023年06月05日 | 日記・エッセイ・コラム
 内田百閒は旅随筆「阿房列車」の冒頭で、目的のない旅を楽しめる境涯は片道しか味わえない。復路には「帰る」という目的ができてしまう、と嘆いていらっしゃるのですが、一筆書きの旅ならずっと「行き」の片道を楽しめます。
 子供の頃、遊園地や動物園を一周するアトラクションの乗り物が大好きでした。運転手に見立てたサルを先頭に乗せた「おサル電車」が始まりのようで、上野動物園から全国の動物園や遊園地に広がったのですが、動物愛護の観点から廃止になりました。私はおサルが運転していたかどうかの記憶はないのですが、もっぱら電車の方に興味があったので、おサル抜きになっても楽しみは変わりません。余談ですが、おサル電車を題材にした「車掌の本分」という小説は、中学校の国語の教科書にも取り上げられました。おサル電車の人気が出て客車を増やし続けた結果、車両はループ状の線路でCの字を描き、最後尾の車掌とおサルの運転手が向き合う形になってしまったため、いくらご褒美のバナナをたくさんもらっても、おサルも車掌も電車の仕事に誇りが持てなくなってしまった、という当時の経済の高度成長と労使問題を揶揄した内容で・・・せっかくの旅が楽しくなくなるのでこのへんでおしまい。
 さてぐるっと一周鉄道アトラクションは嬉しいことに未だ健在で、ご近所の世田谷公園のミニSLはミニとはいえ堂々たるSLで、しっかりとした客車をけん引しています。最近流行りのネーミングライツで、「せたがや公園キンカン三姉妹ミニSL」という名前になっています。乗客は公園でうんと蚊に刺されて、鉄道を支えてほしい。他にも府中の東京競馬場にはこども広場を一周する新幹線のアトラクションがあり、競馬好きの大人だけでなく、鉄道好きの大人も(子供も)楽しめます。
 そんなに一筆書きが好きなら、山手線に乗っていればいいじゃないか、といわれますが、それじゃだめなのです。出発したところに戻ってくることが大切で、どこが結節点かわからない環状線では一筆書きの醍醐味がありません。因みに山手線は品川から田端までが山手線で、田端から東京が東北線、東京品川間は東海道線という寄せ集めの路線です。
 京成本線ユーカリが丘駅が始発の山万ユーカリが丘線は、駅の北側を宅地開発した不動産会社が運営する新交通システムで、ユーカリが丘駅を出発して反時計回りに一周して戻ってくる路線です。この駅の近くの病院に勤務していたことがあるのですが、何度も目的のない14分の旅を楽しみました。東京ディズニーランドを一周するモノレール、ディズニーリゾートラインはアトラクションではなく公共交通なので、入場料を払わなくても乗れるます。休園日に乗りに行きたいとおもっています。
 一筆書きで忘れてはいけないのは、我らが「東急バス目黒01系統」です。碑文谷二丁目から乗って、サレジオ教会→碑文谷三丁目→平町→大岡山小学校→碑文谷八幡→サレジオ教会の一筆書きを経て碑文谷二丁目に向かいたいのですが、そういう乗り方はダメみたいで、碑文谷八幡のバス停で、前に止まっている先発のバスに乗り換えるよう、運転手さんに降ろされてしまいます。