アリセプトを服用中の患者さん、ご家族の方へ

2005年06月27日 | 日記・エッセイ・コラム
 新聞報道などでご存知の方も多いかとおもいますが、アルツハイマー型痴呆症(認知症)治療薬のアリセプトを服用中の患者さんの副作用による死亡報告がありました。
 亡くなったのは70歳代の男性で、横紋筋融解症という副作用症状が悪化してなくなりました。この患者さんは投与直後から歩行困難の症状を呈し、徐々に増悪、嚥下困難もきたし、投与開始37日で薬を中止しました。しかしその後、褐色の尿がみられ(横紋筋融解の兆候)、腎機能低下、肺炎を併発し多臓器不全に至り、投与中止53日で死亡されています。
 アリセプトによる横紋筋融解症についてはこれまで8例が報告されていますが、死亡例は今回が初めてです。
 アリセプトはアルツハイマー型痴呆症(認知症)に効果のある唯一の薬であり、現在わが国で30万人が服用しています。横紋筋融解症の頻度はきわめて低いので、これまで服用して問題のなかった方はそれほど心配する必要はないとおもっており、投与を継続しておりますが、
 1)筋肉痛
 2)脱力感
 3)褐色の尿が出る
といった症状が見られた場合には、お申し出ください。
 


医師の偏在は解決できないとおもう(消化器集検学会ニューズレター71号より)

2005年06月21日 | 日記・エッセイ・コラム
 「大いなる休暇」というカナダ映画を観ました。
 カナダ・ケベック州の架空の小さな島、サントマリ・ラモデル島を舞台に、住民が島に医者を定住させるために奮闘するお話しです。
 サントマリ島かつては漁業で栄えた村でしたが、今では住民は125人まで減少し、そのほとんどが生活保護を受けているという零落ぶり。そこにプラスチック工場誘致の話が来ます。住民は勢い立ったのですが、企業から出された条件にため息をつきます。
その条件とは、島に定住する医者がいること。
会社は自前の産業医を置く予算がないので、医者が定住していることを条件にしたのかな、と業界的なことを考えてしまいましたが、それはさておき、サントマリ島はここ15年間無医村、本土の病院まで6時間もかかるので、緊急時には肉屋さんが医者の代わりを勤めている。
 そこで村長はケベック州の医者全員に、サントマリ島に遊びに来るように手紙を書きます。果たして応募してきたのはコカイン中毒の美容整形外科医のルイス医師、たった一人だけ。
 住民たちはルイス医師を離してなるものかと、あの手この手で島を気に入ってもらおうとします。
 ルイスが恋人に掛ける電話を盗聴し、先回りして準備する。クリケットが好きと知れば、ルールもわからないのに島をあげてクリケット大会をやり、ビーフストロガノフが食べたいといえばあわててレストランのメニューに加える。ルイスが幼くして父親を亡くしたと知れば、村長はルイスのことを死んだ息子のようだ、と言って釣りに誘い出す。ルイスが釣れないでいると、島民が潜って釣り針に大物を引っ掛ける。(釣り上がったのはカチンカチンに凍った魚!)
 お人よしのルイスは、そんなことには気づかず、島を気に入り定住することを決意します。喜ぶ島民に、村長は「釣りは魚が掛かってからが勝負だ。あわてて引き上げるのではなく、魚に船の甲板がすばらしいところだということを信じ込ませなくていけない」という祖父の戒めを引き合いに出し、ルイスにこう告げます。医師の応募があり、採用が決定した。
 街に残してきた恋人が親友と付き合っていることを知らせる電話がルイスに追い討ちをかけます。二人の関係はずいぶん前から続いていて周知の事実、知らなかったのはルイスだけ。
 応募の件は破談になったといって、改めてルイスの就任希望を受け入れようとしていた村長は、この電話を盗聴して困惑します。島民がこの先ずっとルイスをだまし続けることができるのか、そんなことをしていいのか?
 そしてルイスは、それまでのおだて作戦を冷ややかに見つめていた島でたった一人の若い娘から真実を知らされます。怒り狂うルイス・・・。
 最後にはルイスと島民の気持ちが通じ、ルイスは島の医師となり、無事プラスチック工場も誘致され、めでたしめでたしとなりました。
過疎地域の医師不足がカナダでも深刻であることを知りました。
 さて前置きが長くなってしまいましたが、我が国では医師不足解消のため70年代に1県1医大が整備されました。しかし今度は医師が過剰になるということで、医学部の入学定員が削減されはじめた80年代に私は大学に入学しました。
 また映画の話で恐縮ですが、その頃観た映画「ヒポクラテスたち」、これは医学生の臨床実習の1年間を描いた作品ですが、原田芳雄演じる外科の指導医が、長時間の手術見学に耐えられなかった医学生に、
「医者なんかだぶだぶに余っているんだから、お前らみたいに体力のないやつは食っていけないよ。僻地に行こうとしてもだめだよ。僻地にはちゃーんと自治医大から医者が行くことになってるんだから」とはっぱを掛けるシーンがとても印象に残っています。
 あれから約二十年、自治医大を含む医大の新設や、それによる医師過剰時代が言われながらも、医師不足が解消されていない地域はいまだに多くあります。
更に卒後2年間の臨床研修が義務づけられたことで、医学部卒業生の出身大学定着率が低下しています。また大学医局と地域病院の医師派遣をめぐる問題から、医局制度を廃止する大学や、医局人事としての医師派遣を禁止する大学が増えたため、閉院に追い込まれる地方病院も出てきています。
国や地方自治体は地域医療振興対策として、医学部入学者の「地元枠」を設けています。札幌医大、岩手医大、福島医大、信州大、滋賀医大、和歌山医大、佐賀大がすでに実施し、弘前大、秋田大が来年度から実施することになっています。
 医学生は医学ではなく英語や数学の試験を受けて入学し、大学に入って初めて医学を学ぶために進路を具体的に考えるのは、卒業してからです。入学の時点で進路を約束したとしても、そのとおりの希望を持ち続けられるかどうかはわからないのです。
 医師は免許をとってしまえば、それで一生仕事をできるものではなく、常に研鑽が必要ですし、その機会は都市部のほうが圧倒的に多い。私自身が都会での勤務を選択し続けているのは、医師会や企業の主催する勉強会などに参加しやすく、大病院や専門医のバックアップがあり、安心して医療を行えるからです。地域医療振興対策には、医学生の入り口で進路を確約させることよりも、安心して地域医療に参加できるような環境づくりがいちばん大切なのではないか。たとえば決して便利とはいえない場所にある千葉県のK総合病院や長野県のS総合病院は、全国から研修を希望する医師が集まっていて、高度先進医療と地域医療の両立が行われています。
 カナダの離島に赴任した美容整形外科医の前途は多難なのではないかとおもっています。




父の日に

2005年06月20日 | 日記・エッセイ・コラム
 物騒な話しで恐縮ですが、父親を殺してしまう夢をよく見ます。
 息絶えた姿を見下ろしながら脂汗をかいて目覚めたり、跳ね起きることもあります。
 心理学的には異常なことではなく、有名なエディプスコンプレックスというやつで説明がつくのかもしれませんが、私の場合はそれだけではないようです。
 子供の頃から今に至るまで、迷惑を掛ければ掛けるほど、助けてもらえばもらうほど、父に反発する気持ちは強くなります。父の視線を避け、呪縛を逃れようとしています。そのくせ困ったときにはいつも父に泣きついて、尻拭いさせている不肖者です。
 私はいつも「診療所は診療がすべて」と言っていますが、そんなきれいごとを言っていられるのも経営に関わる雑務を父がすべてやってくれているからで、私はそれを見て見ぬふりをしています。
 イチロー選手や松井選手のお父さんのように息子の活躍で脚光を浴びる父親もいれば、浜口京子選手や横峰さくら選手のように、二人三脚で栄光を掴む親子もいます。
 古稀を過ぎて息子に酷使され、息子を心配し続けているわが父親は、そんな親子たちをどのようなおもいで見ているのか、怖くて想像できない。
 そんなスーパー親子ではなくとも、友人やいとこが実家に帰って父親と二人で酒を呑んだなんて話を聞くと、私は背筋が凍りつきます。
 父が息をひきとるとき、当人は私のことを心配しながら死に切れないに違いないのだろうけれど、私はきっとほっとしている。そして思いきり悲しむとおもう。現実問題として、当院の経営はどうなってしまうのだろうと、目の前が真っ暗になるに違いない。
 うちの父はインターネットなんか絶対に見ることのないので、ここでは安心して言えます。
 お父さん、ありがとう。



日本脳炎の予防接種について

2005年06月11日 | 日記・エッセイ・コラム
 日本脳炎ワクチンの使用と重症ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の発症に因果関係があることが、動物実験(マウス)で認められたことから、厚生労働省では日本脳炎の予防接種を積極的に勧奨しないということになり、東京都医師会、目黒区医師会でも同様の立場をとることになりました。
 ADEMは脳神経系のまれな病気で、ステロイド治療で回復する例が多いのですが、10%程度の方に運動障害などの後遺症を残す可能性があります。ちなみに日本脳炎ワクチン接種後のADEM発症は、因果関係がはっきりしないものも含めて平成6年から現在までで21件報告されています。
 この件については新聞などでも報道されたため、当院にもお母さん方から今後接種をどうしたらいいかについての問い合わせがありました。
 当院では、当面区内のお子さんに対する日本脳炎の予防接種は原則的に行わないことにいたしました。
 その理由は、
1)日本脳炎は重篤な伝染性疾患ですが、日本においては1970年以降発症は激減していて、現在は年間数例に過ぎず、予防接種中止によって急に流行するとはおもえない。
2)日本脳炎はヒトからヒトへの感染ではなく、ブタなどの体内でウイルスが増殖し、そのブタを刺したコダカアカイエカという蚊が、ヒトを刺すことによって感染する病気だが、当院の近隣には養豚場はなく、コダカアカイエカの発生しやすい水田もないので、環境的にも流行の恐れは少ない。
3)ADEMのリスクのより低いワクチンが開発中なので、新しいワクチンが出回るまで、接種を待ったほうがよい。
 ただし、日本脳炎の流行地域である朝鮮半島、台湾、中国、ベトナムなど東アジア、東南アジア諸国に今後滞在の予定のあるご家族などでは、接種を行ったほうがいいかもしれませんので、ご相談ください。
 またすでに予防接種を行ってしまった方も心配されて、お電話をいただいていますが、日本脳炎ワクチンにによるADEM発症の確率は70~200万分の1ときわめて小さく、接種後数日から2週間程度で頭痛、発熱、痙攣などの症状が出ます。したがって接種してすでに2週間以上たっている方は、ご心配には及びません。