認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構 設立8周年のご挨拶

2016年08月24日 | 日記・エッセイ・コラム
国立がん研究センター 「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年度版において、対策型・任意型胃がん検診に、胃x線検査に加えて、新たに胃内視鏡検査が推奨されたことにより、多くの自治体で胃内視鏡検診導入の動きが始まっています。
また、同ガイドラインには、ペプシノゲン検査とヘリコバクターピロリ抗体検査を組み合わせた、A・B・(C+D)の3群による胃がんリスク層別化が可能であることも記載されました。
当NPO法人が掲げている、胃がんリスク検診によるリスクに応じた内視鏡検診の実施という目標が、設立8周年目にして、ようやく実現しつつあります。
しかし、法人設立時には想定していなかった問題点も明らかになってきております。
胃がんリスク検診における、ヘリコバクターピロリ抗体検査のカットオフ値の「陰性高値」問題が、その一つです。
かねてから、A群からの胃がんの発生、いわゆる「A群問題」は議論されてまいりましたが、A群の中でもヘリコバクターピロリ抗体値が3以上10未満の場合に、胃がんリスクの低くない、ピロリ菌の現感染や感染既往が混在している可能性が高いことがはっきりしてまいりました。
また、ヘリコバクターピロリ抗体検査キットは従来のEIA法に加え、複数の会社から上市されたラテックス法によるキットが普及し、検診現場に混乱を招いております。
ラテックス法は短時間で大量の検体処理ができるのがメリットですが、胃がんリスク検診で用いるには未解決の点が多く、測定値をEIA法と同等に扱うことができません。
早急に、胃がんリスク検診にふさわしいヘリコバクターピロリ抗体検査のカットオフ値を、各検査キットごとに設定しなくてはなりません。
胃がんリスク検診のカットオフ値を変更し偽陰性を減らすことにより、偽陽性が増えます。その対策として、内視鏡検診の普及にあわせ、また従来の胃x線検診においても、がんのあるなしだけではなく、画像所見からピロリ菌の感染状態や胃粘膜萎縮の程度を客観的に診断する「画像診断による胃がんリスク評価」を行うことが、これまで以上に重要になってまいります。
ピロリ菌除菌の普及に伴う、「除菌後胃がん」が増えていることが、胃がんリスク検診の信頼性を損なう要因になってきています。
まず除菌後の受診者がA群に紛れ込んでしまうことは、避けなくてはなりません。除菌後は胃がん有リスクの「E群」に分類し、定期的な内視鏡検査が必要であることを、受診者に、そして現場の医療従事者に徹底していくことが、改めて重要になってまいりました。
あわせて、これまで使ってきた「胃がんリスク検診」という用語では、胃がんのリスクの有無をみる、と誤解される恐れがあるので、「胃がんリスク層別化検査」と改め、胃がんリスクが高いか低いかに分類する検査であることを強調していくべきと考えております。
若年者(中・高生)に対するピロリ菌検査、及び除菌療法を公費補助する自治体も出てきています。
上記ガイドラインにおいて、無症状者へのピロリ菌除菌による胃がん罹患抑制効果については、傾向は認めるものの確定的ではないとしています。
しかし、ピロリ菌感染による胃粘膜萎縮が胃がん発生のリスクである以上、萎縮が進む前の若い時点で除菌することのメリットは明らかであり、機会を逸してはならないと考えます。
「若年者のピロリ菌検査と除菌」は根本的胃がん対策として、実施方法を標準化し、疫学的な評価を行える体制を作らなくてはなりません。
一難去って更なる多難、ではありますが、皆様のご意見、ご協力を仰ぎながら一つ一つ解決し、胃がん撲滅の道を進んでいく所存であります。
引き続き、ご支援よろしくお願い申しあげます。

おたふくかぜが流行っています

2016年08月22日 | 日記・エッセイ・コラム
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)はムンプスウイルスに感染して起こる病気です。感染すると唾液を分泌している耳下腺とその下にある顎下腺に炎症が起こり、首から頬が腫れて痛み、熱が出るのが一般的ですが、片側だけ腫れる場合もあれば、日にちがずれてもう片側も腫れだしたり、最初から両方とも腫れたりと症状の出方には個人差があります。38度前後の発熱が一般的ですが、ほとんど熱の出ない場合もあります。あまり症状の出ない不顕性感染は低年齢での感染に多く、罹ったことに気付かないこともあります。
3歳から6歳で全患者数の6割を占めていますが、乳児や思春期以降、大人にも感染するので注意が必要です。

●おたふくかぜの感染経路と潜伏期間
おたふくかぜは、およそ4年に一度の全国規模の流行を繰り返しています。
ムンプスウイルスは保菌者との接触や飛沫(咳やくしゃみによる唾液が飛ぶこと)によって周囲の人に感染していきます。潜伏期間が長く14日から25日間で、潜伏期間にも感染力があります。発症を顔が腫れ始めたときとすると、その7日前から9日後の、合計16日間が他人に移してしまう可能性があります。特に腫れ始める3日前から4日後の一週間が最も感染力の強い時期です。

●おたふくかぜの治療と療養法
おたふくかぜは、紀元前4世紀ごろにヒポクラテスが、耳の近くが腫れる流行り病として記録しているほど歴史のある病気なのですが、特効薬はありません。基本は対症療法で、発熱と痛みに対しては鎮痛解熱剤の投与を行います。
安静にして、脱水症状を起こさないようにしっかり水分を取らせることが重要です。食事は口を開けることが痛くてつらいので、やわらかくて噛まずに食べられるものを、飲物は細めのストローを使えば口を開けずにすみます。酸味のあるもの、辛いもの、しょっぱいもの、甘すぎるものなど、味の濃いものは唾液腺を刺激し痛みが強くなるので避けましょう。
ほとんどの場合、3、4日で熱は下がり、腫れも1週間ぐらいで治まります。

●おたふくかぜの登校・登園停止期間
おたふくかぜは法律によって学校保健安全法で「第二種感染症」に指定されており、「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が始まった後五日を経過し、かつ、全身状態が良好となるまで」出席停止と定められています。

●おたふくかぜの合併症
「無菌性髄膜炎」は3~10%にみられ、発熱・ 頭痛・ 嘔吐を主症状として、首が固くなって前に曲がらなくなる項部硬直、けいれんや譫言(うわごと)などが多く認められますが、年少児ではこれらの症状がはっきりしない場合もあります。耳下腺の腫れから5日くらいで発症することが多いのですが、耳下腺の腫脹より前に発症したり、耳下腺の腫脹を認めずに発症する場合もあります。 通常、入院治療が必要になりますが、後遺症を残すことはほとんどなく予後は良好です。
「ムンプス難聴」は5000人に1人の割合で、3歳~7歳に起こりやすい。。発症後4日後くらいに突然片耳が聞こえにくくなり、聴力障害が残ることがあります。自分で異常を知らせられなかったり、親も気付けずに発見が遅れてしまうことも少なくないので、耳のすぐそばで、手をこすり合わせるなど高周波の音を聞かせてみてください。反応がなければ耳鼻科を受診すること。
「膵炎」は唾液腺と同じくアミラーゼを産生するすい臓の組織にムンプスウイルスが感染することで起こります。強い腹痛があった場合は膵炎を疑います。
「睾丸炎・卵巣炎」は不妊の原因として有名な合併症です。思春期以降の男性がおたふくかぜにかかると、20~30%程度で睾丸炎を合併しますが、そのすべてが男性不妊の原因になるわけではありません。思春期以降の女性も5~7%で卵巣炎を合併しますが、同様です。機能障害は炎症の程度によりますし、精巣も卵巣も両側に2つあるので、同時に両方が機能しなくなる可能性は少ないのです。

●おたふく風邪の予防接種について
おたふくかぜワクチンは生ワクチンです。生ワクチンは弱毒化されたウイルスで、これを接種することで、ごくごく軽くその病気にかかり、免疫を得ることが目的です。
従って、自然感染するよりも低頻度ではありますが、おたふくかぜでみられる症状がでてしまうことがあります。熱が出て耳の下が腫れる症状は100人に3人くらい、無菌性髄膜炎は1000人から10000人に1人くらいの割合で発生していますが、睾丸炎や卵巣炎、膵炎はワクチンの副反応としてはほとんど現れません。
おたふくかぜは、集団生活を始めるとリスクが急激に高まるので、予防接種1回目は保育所や幼稚園に通うようになる前の13か月齢で、2回目は小学校入学前1年間で接種する2回を推奨します。
大人の接種も可能で、すでに免疫を持っている人がワクチン接種を受けても問題ないので、罹ったことがあるかどうか判らない時でも安心して接種してください。
おたふくかぜワクチンによって免疫が成立するのは、接種後およそ1か月です。
兄弟や親しい友達がかかったからと言って慌ててワクチンを打つのはお勧めできません。もし感染して潜伏期間中だった場合、さらにウイルスを追加してしまうことになるので副反応が出やすくなります。従っておたふくかぜが流行しているときの接種は避けた方がよいといえます。

●おたふくかぜの免疫検査など
採血検査でムンプスIgG抗体を測定することで、おたふくかぜに免疫がある(過去に罹ったか、予防接種が効いている)かどうかを検査することができます。また症状が出たときにムンプスIgM抗体を測ることでおたふくかぜの初回感染かどうかが診断できます。あわせて血清アミラーゼの唾液腺型が上昇していれば、現在唾液腺に炎症が起こっていると診断できます。

●反復性耳下腺炎
おたふくかぜとよく似た病気に「反復性耳下腺炎」があります。おたふくかぜは感染による獲得免疫が終生有効になる感染症です。充分な免疫が獲得できないこともあるので100%とはいえませんが、生涯に2回以上罹患することは普通ありません。何度もかかる人は、反復性耳下腺炎を繰り返している可能性が高い。
唾液腺は口の中に開口しているで、口内細菌が唾液腺に逆行して耳下腺炎を起こす可能性があるのです。
また、ムンプスウイルス以外、手足口病の原因のコクサッキーウイルスや、呼吸器疾患の原因になるパラインフルエンザウイルスも耳下腺に感染して炎症を起こすことがあります。
反復性耳下腺炎の特徴は、
1) 片方だけ腫れる
2) 熱が出ないことが多い
3) 痛みは軽く、2~3日で治る
4) 他人にうつらない
5) 何度も繰り返す
治療は消炎鎮痛剤と、細菌感染が疑われる場合には抗生物質を投与します。


コアキングのビフィーター

2016年08月13日 | 日記・エッセイ・コラム
友人が、都心のビルで開業医をしていた父親から相続したクリニックを改装して、新しいビジネスを始めるという。
「コアキング、結構需要があるんだよ」と友人。
「コアキング?」
初めて聞く言葉だ。
「そこにバーを併設して、夜は呑みながら仕事ができるようにしたいとおもっているんだ」
ますますわからない。
「昼間は何するの?コアキングって」
手広く商売している彼が、謙遜して小商人なんて言うのなら、ちょっと嫌味。
「レンタルオフィス、みたいなものだよ」
「コアキングって、レンタルオフィスのフランチャイズ会社の名前?」
「フランチャイズ?そうじゃなくて、異業種のベンチャー企業が、一つのフロアに入るレンタルオフィスだよ」
友人は、そんなことも知らないのか、と怪訝な顔をする。
「異業種が一緒に働けば、相乗効果が・・・」
「わかった、コ・ワーキングね!CO-WORKING」
私は手を叩いた。
「コアキング、新しいポケモンか何かとおもったよ、コ・ワーキングね、コ・ワーキング・・・」
独り言ちている私に、友人は更に怪訝そうである。
「それで、バーのことで、酒に詳しいお前にアドバイスもらおうとおもってさ」
「ふふふ、じゃあ、ジンはビフィーターだ」
「ビフィーター?」
ビフィーターは、ボトルに赤い制服を着たロンドン塔の衛兵ビフィーターの姿がボトルに描かれている、イギリスを代表するジンである。
ビフィータージンは、力強い風味を持つ製品の名称に、屈強なことで知られた衛兵の名を採用したのである。
あまりに有名すぎて、私はこのビフィーターの語源に疑問を持ったことがなかったのだが、
漱石の「倫敦塔」に、衛兵のことを、ビーフ・イーター(BEEF EATER)と分ち書きしてあるのを読んだときに、目からうろこが落ちた。
ロンドン塔の衛兵は、かつては国王の親衛隊で、晩餐会などで当時高級品の牛肉を口にすることができたので、やっかみでビーフ・イーターと呼ばれるようになり、正式名称のヨーマン・ウォーダーよりも、ビフィーターの方が定着している。
私がひとしきり蘊蓄を披露すると、今度は友人が手を打って、
「やっぱりバーはお前に任せるよ。マスターとして、利用者にそういう話をしてほしい」
かくして私は「コアキング」に仕える「ビフィーター」になりそうです。