マクロをミクロで批判することなかれ

2021年05月29日 | 日記・エッセイ・コラム
「諸外国に比べれば日本のコロナ感染率は『さざ波』」という内閣参与の発言に、マスコミは「その『さざ波』で自分の母親は亡くなった」という遺族の談話を紹介して批判しました。同じ参与が「日本のロックダウンは海外にくらべれば屁みたいなもの」と発言したときには、「その屁みたいなもので、自分たちは苦境を強いられている」という飲食店経営者の声で応酬です。
 実際日本の感染率は、緊急事態と言われている現在でも諸外国に比べれば圧倒的に低く、同じスケールのグラフに重ねてみれば『さざ波』は一目瞭然ですし、銃を担いだ軍人が街を見回り、外出者に高額な罰金を科す欧米型のロックダウンに比べれば、日本の緊急事態は緩く、『屁みたいなもの』という表現の良し悪しはさておき、まあその通りなわけです。
 一方コロナで大切な方を亡くされた方はたくさんいるし、この緊急事態で飲食店は苦境のどん底にいることも事実です。
 間違っているのは、日本の感染率というマクロの視点を、死亡者遺族というミクロの出来事で批判する、わが国の緊急事態のありかたをマクロでみた意見を、苦境を強いられている飲食店というミクロな視点で批判している点です。
 個のできごとを通じて世の中の問題をあぶりだすのは、小説や映画などフィクションの手法としては有効なのですが、それを報道に持ち込んではいけません。
 テレビのニュースをみると(ネットでうっかりみてしまうと)、このマクロをミクロで批判する手法が多いことに閉口してしまいます。
 またもや緊急事態が延長されてしまいましたが、コロナよりもテレビニュースにはくれぐれもご注意くださいね。

善意の人の浅はかな理解は、悪意の人の絶対的な誤解より腹立たしい 2

2021年05月25日 | 日記・エッセイ・コラム
 会社の指示ということで、治癒退院後に延々とPCR検査を繰り返して陽性が続き、職場復帰できずにいる方がいて、本当にお気の毒です。PCR検査は感染が治ってから(感染力がなくなってから)も、2週間ぐらい陽性が続くことがあります。治癒後も(感染性のない)ウイルスの死骸がしばらく体に残っていて、その活性のないウイルスの遺伝子を拾って陽性と出てしまうからです。
 無症状となり退院した方へのPCR検査での感染確認は無意味です。
 安全安心の敵は、ウイルスではなく、無知と不勉強です。

新型コロナウイルスワクチン接種に出務しています~接種会場でのQ&Aご紹介

2021年05月23日 | 日記・エッセイ・コラム
 新型コロナウイルスワクチンの目黒区内接種会場に出務していますが、接種前の問診の際に、たくさんの質問をいただいておりますので、お役に立ちそうなものをご紹介いたします。
Q)接種後、入浴してよいか?
A)OK。ただし接種したところを強く擦らないでください。
Q)接種後、薬はいつも通りのんでもよいか?
A)OK。指示通り服薬を継続してください。
Q)今夜、お酒をのんでもよいか?
A)OK。特に制限はありません。
Q)明日、大学病院で検査なのだが、行ってよいか?(ほかの人に感染させるのではないか?という意味で)
A)OK。ウイルスそのものを接種するわけではないので、問題なし。ただし接種後に痛みや熱が出る場合があるので、体調に留意してください。また、2回目の接種の方が熱や痛みが強くでる傾向があるので、2回目接種の翌日や翌々日には、受診など大切な用事を入れない方がいいかもしれません。
Q)2回目の接種の予約はどうしたらいいか?
A)接種後に待機していただいている間に、この会場でご予約できます。会場スタッフがご相談をお受けします。
Q)2回目の接種が、3週目の日に予定があって、予約できない。どうしたらよいか?
A)今目黒区で接種しているファイザー社のワクチンは、1回目接種から3週間後に2回目の接種を行うことが推奨されていますが、多少遅れても2回目接種は行ってください。1回目から3週間以上期間があいても、2回目接種は有効、と報告されています。なお、大手町の大規模会場接種ではモデルナ社のワクチンが使用され、こちらは1回目接種から4週間後に2回目の接種が推奨されています。
Q)ワクチンを接種したあと、PCR検査を受けると陽性になるのか?
A)ワクチンで感染することはありませんし、PCR検査は咽喉や鼻や口腔に付着しているウイルスの遺伝子を調べる検査なので、接種により誘導された遺伝子を検出する可能性はありません。もし接種後に感染を疑う症状があったり、濃厚接触者ということで、PCR検査を受けて陽性、ということがあれば、それはワクチンの影響ではなく、実際の感染の可能性があります。
Q)一度コロナに感染して治ったのだが、接種したほうがいいか?2回目も接種したほうがいいか?
A)今のところ、感染治癒後の方にも未感染の方と同じスケジュールでの接種を推奨しています。感染しても無症状で治ってしまい、感染を自覚されていない方もたくさんいて接種を受けているので、その方々も同様とお考えいただければ、とおもいます。ただし、一度感染した方は、未感染の方よりも接種後の痛み、発熱といった副反応が強く出る、という報告があります。2回目接種に関しては、ご心配であれば、主治医に相談の上ご検討ください。
Q)ワクチンはどのくらいの期間有効なのか?(予防効果が続くのか?)2回目接種したあと、また打たなくてはならないことはあるのか?インフルエンザのように毎年打つことになるのか?
A)まだわからないです。このワクチンを接種して1年後どうなったかのデータがまだないからです。3回接種で現在騒がれてる変異ウイルスへの効果が高まるという報告もあるので、今後追加接種が検討される可能性はあります。また変異しやすいウイルスなので、インフルエンザのように型を変えながら毎年接種、ということになるかもしれません(が、毎年こんなことをやるのはたいへんですよね・・・)。
Q)接種後自宅に帰ったあとに(夜中などに)具合が悪くなったらどうすればよいか?
A)接種によるアナフィラキシーショックの90%は接種後30分以内に起こっていますので、30分会場に待機して異常がなければ、その後の心配は少ないとおもわれますが、万一体調不良が生じた場合は主治医※にご相談ください。また東京都の医療機関案内サービスひまわり(03-5272-0303)では24時間医療機関を案内していますので、ご利用ください。
 ※当院かかりつけの患者さんは、いつでもお電話ください。
Q)接種後に熱や痛みが出た時のために、解熱鎮痛剤をもらえないか?薬局で買った熱さましをのんでよいか?ロキソニンをのんでよいか?
A)接種会場では解熱鎮痛剤の提供は行っていません。万一痛みや熱が辛い場合は主治医にご相談ください。接種後の痛みや熱に対して、解熱鎮痛剤を使うことでワクチンの効果が落ちる、という報告はありませんので、辛い場合の服薬は問題ありません。消化器系の副作用の少ないアセトアミノフェン系をお勧めしていますが、ロキソニン等の消炎鎮痛剤を服薬しても構わないとおもいます。ただし服薬の指示は問診医の指導の範囲を越えますので、処方した医師、薬剤師の指示に従ってください。
Q)接種する前に(今)、予防的に痛み止めをのんでいいか?
A)服薬に関する指示は問診医は行えませんが、消炎鎮痛剤の接種前投与は、ワクチンの免疫反応を抑え、効果が減弱する可能性が否定できないので、お勧めしません。
Q)消毒用アルコールにかぶれるが、接種できるか?
A)問診票にもその旨記載しますが、接種の際にご自身からもお伝えください。接種時のアルコールによる皮膚消毒は必須ではありません。海外では消毒をせずに服の上から接種している例もあるくらいです。またアルコールアレルギーはワクチン接種によるアレルギー反応とは関連しないとおもいます。
Q)左腕が麻痺しているので、右腕に接種してもらえるか?
A)接種後の痛み、接種部位の腫れがある場合がありますので、利き腕の反対側への接種が一般的です。麻痺がある場合は、麻痺側に打った方が、麻痺していない方の腕が使えるのでいいかもしれません。

善意の人の浅はかな理解は、悪意の人の絶対的な誤解より腹立たしい

2021年05月07日 | 日記・エッセイ・コラム
 連休中は東京都の依頼で毎日発熱外来を開け、鷹番休日診療所と医療従事者向けのワクチン接種にも出務し、コロナ対策漬けの1週間でした。そんな努力もむなしく、東京都の緊急事態宣言は延長されそうです。
 当院もご多分に漏れず、減収と営業コストの上昇によって収益が悪化しており、その原因であるコロナ関連の業務や委託費で、減収を補填しているという皮肉な状況ですが、ともあれ労働で社会参加できることは幸せです。
 昨年来の緊急事態宣言や自粛要請で、飲食店や観光、エンターテインメント関連のお仕事をされている方々は、働くことを否定されている日々を送られています。
 感染拡大防止を錦の御旗に、酒は出すな、寄席は閉めろがまかり通ってしまっていますが、どのくらい感染リスクがあるかについてのしっかりした根拠があるわけではありません。酒や娯楽に対する敵意を感じる仕打ちです。
 感染のリスクがあるとしても、従事する人の労働を否定してまで、やめさせなくてはならないほどのことなのか?
 「どんな労働にも尊厳がある」キング牧師は、ごみ収集人のストライキの応援演説で言いました。
 労働者の社会的な尊厳を守ること、コロナ感染から人命を守ること、どちらも重い、比較できない。
 でも、すべて私たちが選挙で選んだ方々が判断して決めていること、悔しいけれど仕方がない。
 給料は定額振り込まれ、在宅ワークができて、外でお酒も飲まず、エンターテインメントも必要としていない常識的で善良な方々は、感染を終息させ人命を守るためには、緊急事態は延長して当然、飲み屋を開けるなんて危険なことはもっての他、旅行はもうしばらく我慢。仕事休んでいる人やお店閉めてる人は、給付金や協力金もらっているから大丈夫でしょ、とおもわれているかもしれません。
 これもキング牧師の言葉です。
「善意の人の浅はかな理解は、悪意の人の絶対的な誤解より腹立たしい」