assassinioよ、お前もか!

2024年07月30日 | 日記・エッセイ・コラム
 その後ずっと気になっているのは、11世紀以前に英語圏では「暗殺」のことをどう呼んでいたのか、ということです。ちなみにフランス語はassassinat ドイツ語はattentat スペイン語ではasesinoで、英語のassassinationと語源は同じです。
 「ブルータスよ、お前もか!」と、ジュリアス・シーザーは紀元前44年3月15日に暗殺されているので、さすがにイタリア語にはオリジナルの「暗殺」があるとおもったのですが、こちらもassassinioです。ご丁寧にスパゲッティ・アッラッサッシーナ(spaghetti all'assassina):暗殺者のスパゲティ、というプーリア州の郷土料理もあります。
 ラテン語で「暗殺」はSicarius(シーカーリウス)、さらにギリシャ語ではドロフォノス、暗殺がお家芸のロシアでは、ウビーイツァで、assassinationに由来しない言葉のようです。
 欧米で、11世紀にassassinationのような「暗殺」とイスラム教を結び付ける言葉が発生したことには、何か深い訳がありそうです。ご存知の方、ぜひ教えてください。

どうしてassassinationなの?

2024年07月16日 | 日記・エッセイ・コラム
英語で「暗殺」はassassinationで、麻薬の一種であるハッシシを飲んだ人を意味するhashshāshǐnが語源とのこと。11世紀にイスラム教シーア派の暗殺教団の指導者ハサン・サッバーフが、部下ハッシシを飲ませて犯行させた、以上Wikipediaの情報です。
 英語で殺人に関する言葉は、suicide(自殺)、genocide(大量虐殺)など語尾が~cideの言葉が多く、殺虫剤も
Insecticideです。暗殺も~cide系の言葉があってもよさそうですが、assassinationは別格扱いです。
 日本語の「暗殺」は自殺、虐殺など~殺の系列ですが、アサシネーションと音が似ているので、ポルトガル語のタバコが煙草になったり、オリンピックが五輪のように音を漢字に当てたのかとおもいましたが、そういった和語ではなくて、漢語由来です。
 どうして英語で「暗殺」assassinationが別扱いなのか、しかもイスラム教に由来する言葉なのかは興味深いのですが、いまだに先進国において暗殺が横行している、人間は進歩しないということを感じます。

おまわりさんを減らせ

2024年07月14日 | 日記・エッセイ・コラム
 私たちは時間の流れを生きています。時間は過去から未来への一歩通行なので、すべての物事は、原因があっての結果であり、現在の状況は過去に原因があり、未来は現在どうするかで変えられるとおもっています。
 現在、すなわち結果だけを見た場合には、判断を誤ってしまう可能性があります。ジャレドダイアモンドさんの著作に、地球にやってきた宇宙人は、この星の支配者はトウモロコシで、人間を奴隷にして繫栄しているとおもうだろう、という記述がありますが、広大な畑に繁茂するトウモロコシに、人間が水を撒いたり、農薬を散布する姿を宇宙船から覗いた情報だけからは、そう見えるかもしれません。
 医学研究でも、我々は病気という結果から原因を考えて行くわけです。例えば動脈硬化が進んでいる患者さんはコレステロールが高い、コレステロールが悪さをしているに違いない、と考える。認知症の患者さんの脳にはアミロイドβが沈着している。アミロイドβを減らせば認知症の進行を抑えられるかもしれない。
 でもそれらは、事故現場にはいつもおまわりさんが集まっている。おまわりさんを減らせば、事故が減るのではないか?という誤解かもしれません。
 軍備を増強すれば敵が攻めてくる、という人もいますが、軍備を減らせば、戦争が無くなるとはおもえません。

胃がん検診をぶっ壊~す!

2024年07月08日 | 日記・エッセイ・コラム
 東京都知事選挙が行われ、さて都民は知らん仏より知ってる鬼、いえ、知らん鬼より知ってる鬼を選んだようです。
 今回は過去最多の56人が立候補し、当選者含む上位3名以外は、得票が有効投票数の1割未満ということで、供託金300万円が都に没収されます。300万円払えば注目度の高い都知事選で、テレビでの政見放送や選挙公報への掲載ができ、費用と手間は候補者持ちですが、都内全域にポスターも掲出できる。当選者は1名なので、間違って当選してしまうこともないということで、自己PR目的の立候補者が乱立したわけです。多額の税金を使って実施する選挙で、53名から300万円を没収しても見合わないので、供託金の金額をもっと高くするべき、という意見もあります。
 実は今から10年以上前に、私も選挙への立候補を考えたことがあることをおもいだしました。
 腫瘍内科医の岡田直美先生から、新刊書「『治らない』と言われてもあきらめないがん治療」(東京新聞)が届き、
その本の中で、私が岡田先生に立候補の相談したときのエピソードを紹介していただきました。
 幼少期のピロリ菌感染が胃がんの主たる原因であり、感染による胃粘膜萎縮が進むことで胃がんのリスクが高まります。採血検査でピロリ菌感染の有無と、胃粘膜萎縮の度合いの指標である血清ペプシノゲンを測る検査「胃がんリスク検査」を受けることで、将来胃がんになる可能性がABCDの4段階でわかります。ピロリ菌感染がなく胃粘膜萎縮もないA群の人は一生ほぼ胃がんにならず、B<C<Dの順に胃がんの発症率が上がります。放射線被ばくを伴うバリウム検診を毎年繰り返すよりも、生涯一度「胃がんリスク検査」を実施し、ピロリ菌感染のあるBCD群だけに胃がん検診を実施すべき。更にはBCD群の人はピロリ菌を治療することで、将来胃がんになる危険度を下げることができる。「胃がんリスク検査」は費用も数千円と安く、採血だけなので一般健診と同時に実施できる。
 私はこの「胃がんリスク検査」を全国に広める活動をしていたのですが、我が国では「胃がん検診」を全員一律に実施し、しかも集団検診ではバリウム検診が主流で、当時「胃がんリスク検査」を住民検診に導入している自治体は都内でも同志のいた足立区、葛飾区、そして目黒区の3か所だけで、全国でも10市町村もないぐらいでした。
 そこで、私は「胃がん検診の前に胃がんリスク検査を!」のワンイシューで各地の選挙に立候補し、胃がんリスク検査のABCDのマトリックスを選挙ポスターにして、全国に掲示することを目指したのです。
 そんなことを考えていた矢先「NHKをぶっ壊す!」で立花孝志さんが登場し、格の違いを見せつけられ、私は立候補を諦めました。今回の都知事選で立花さんは、希望者に選挙ポスターを張り出す権利を売り、注目を集めましたが、おかげさまで今では胃がんリスク検査を実施する自治体は全国で増え、都内ではほとんどの市区町村で実施していますので、選挙のお世話になることは止めました。
 

アブない やかラの話2

2024年07月04日 | 日記・エッセイ・コラム
 我々の体内の過剰なグルコースはアセチルCoAを経て、炭素数16の脂肪酸パルミチン酸となります。更にパルミチン酸は長鎖脂肪酸伸長酵素により、炭素数18のステアリン酸になり、ステアリン酸からω-9脂肪酸のオレイン酸が合成されます。ω-9とは脂肪酸の炭素鎖の末端から9番目のところに2重結合があるという意味です。オレイン酸の語源はオリーブで、オリーブオイルに多く含まれる脂肪酸ですが、このように動物の体内でも合成することができるので、動物性油脂にも多く含まれています。
 植物はオレイン酸からω-6脂肪酸であるリノール酸、ω-3脂肪酸のα-リノレン酸を生成することができるのですが、我々動物はリノール酸、α-リノレン酸を作る酵素を持っていないので、体外から摂取する必要があります。リノール酸、α-リノレン酸が必須脂肪酸と呼ばれる所以です。
 リノール酸は植物性油脂の主成分で、大豆油、コーン油などいわゆるサラダオイルと呼ばれている食用油に多く含まれています。植物油が動物性油脂に比べて健康的と言われるのは、動物が合成できない必須脂肪酸が多く含まれていることも一因です。
 体内に取り入れられたリノール酸は、アラキドン酸に変換され、アラキドン酸は酵素シクロゲナーゼ(COX)の働きでプロスタグランジンに、またリポキシゲナ―ゼ(LOX)の働きでロイコトリエンになります。プロスタグランジンもロイコトリエンも、我々の身体を守るために重要な役割を果たしている物質ですが、炎症物質ですので過剰に働くと不快な症状をもたらし、慢性炎症は動脈硬化性疾患や発がんの原因になります。頭痛や発熱のときに飲む消炎鎮痛剤は、COXの働きを抑えて炎症物質であるプロスタグランジンの生成を抑制する薬です。ロイコトリエンは血管透過性を増し気管支を収縮させる作用があり、その過剰な働きはアレルギー症状や気管支喘息を悪化させます。ロイコトリエン拮抗薬はアレルギーや気管支喘息の治療薬です。
 必須脂肪酸のリノール酸を多く含む植物性油脂も、摂り過ぎると「危ないヤカラ」になってしまうわけです。
 食用油脂が貴重品だった時代には少なかった、喘息やアレルギーの患者さんが増えているのは、植物油脂の生産量、消費量が飛躍的に増えたことが原因の一つだと私はおもっています。
 また、オリーブオイルは身体にイイ油といわれていますが、オレイン酸が多くリノール酸の比率が低いため、比較的「危なくないヤカラ」ぐらいにおもって、過剰な摂取は避けた方が無難です。


上腸間膜動脈症候群のおもいで

2024年07月01日 | 日記・エッセイ・コラム
 名古屋の病院で、救急搬送された男子高校生が研修医による重大な医療過誤で、昨年死亡したと報道されました。
 男子高校生は腹痛、嘔吐の症状で救急車にて受診し、研修医が診察し、腹部のCT検査などを実施し、胃の拡張などの所見を認めたものの、採血検査で異常なしで、急性胃腸炎と診断し帰宅させたとのこと。その後症状改善せず、高校生は再度、救急外来受診するのですが、別の研修医が「新規の症状なし」と判断し、翌日に近医を受診するように指示しました。翌日近医を受診したところ、緊急性ありとのことで、元の病院に紹介し入院となるも、ショック状態から心肺停止となり、亡くなったとのこと。
 死亡の原因は「上腸間膜動脈症候群」でした。
 研修医の落ち度を時系列に並べた記事なので、実際の症状経過はわかりませんが、たとえ研修医と言えども、本当に危険な状態の患者を2度にわたって、しかもそれぞれ別の研修医がみて帰宅させるとは考えにくく、もし少しでも心配な所見があれば上級医に相談するはずなので、マスコミ報道だけでこの研修医を責めることできません。

 「上腸間膜動脈症候群」は腹部大動脈と上腸間膜動脈に十二指腸が挟まれて消化管閉塞を起こす病気です。上腸間膜動脈は腹部大動脈から出る枝で、十二指腸はその枝の分かれ目の下を通っているので、構造上この2本の血管に挟まれる可能性があります。ここは内臓脂肪も豊富な場所で、脂肪がクッションになって十二指腸が閉塞を起こす程しっかりと挟まれてしまうことは稀です。内臓脂肪の少ない痩せた若年者では閉塞を起こす可能性もあるのですが、少し挟まれて腹痛などの症状が出ても、吐くことで圧が下がって、来院したときには症状は改善し、そのまま治ってしまうこともあります。今回の事件でも、2度の救急受診をする直前は激しい症状があったものの、おそらく診察室ではかなり軽減していて、研修医は帰宅させたのだと推察されます。そして3回目の時には完全に挟まれて元に戻らずに、腸閉塞から敗血性ショックへ進んでしまったのかもしれません。
 実は、私も「上腸間膜動脈症候群」の患者さんを経験したことがあり、同業者でした。急激な腹痛や嘔吐を繰り返すも、吐くと楽になるので、自分で点滴しながら仕事もしていたのですが、いよいよ痛みが強くなり改善しない、熱も出てきたと相談され、もしかしたらとレントゲンを撮ったら案の定腸閉塞をおこしていて緊急手術となり、幸いなことに救命できました。彼は自分が医者なので、自己治療して救急受診を繰り返さなかっただけで、経過としては、今回の事件とそっくりです。

 令和2年の114回医師国家試験に「健常人の腹部造影 CT の連続スライスを別に示す。急激な体重減少などにより腹部大動脈との間隙に十二指腸が挟まれ、食後の嘔吐や腸閉塞の原因となり得る血管はどれか」という出題があり、CT画像から上腸間膜動脈を選択できれば正解です。4年前の国家試験なので、名古屋の研修医たちも過去問題として勉強しているはずです。彼らが「上腸間膜動脈症候群」を知らなかったはずがない。ただ診断名、原因、病態を知っていても、目の前の患者さんのリアルな経過から、この診断を思い至ることは難しかった可能性はあります。またもし思い当たったとしても、自然軽快する場合も少なくないので、経過観察としてしまったのかもしれません。
 報道だけで「研修医の誤診事件」と判断することには躊躇しますが、当分は全国の医師が腹痛の患者さんを診察するときに、この病気が頭をよぎるはずです。救われる患者さんが増えることを願っています。

スナフキンとの別れ

2024年06月29日 | 日記・エッセイ・コラム
 彼とはある採用面接で出会いました。もう一人の面接官が年齢を理由に彼を不採用にしたのですが、気になった私は連絡先をメモしました。
 男は年を取るごとに友だちはできにくくなる、とよくいわれますが、彼とは不採用にしたにもかかわらず、その晩から呑み歩き、彼の博識に酔い、友だちになりました。もっとも友だちだとおもっていたのは私の方だけです。彼は知り合いという言葉はよく使いましたが、友だちということはありませんでした。
 知恵袋の彼とはよく旅行しました。旅慣れた彼は、いつも東ドイツ製の小さな肩掛け鞄一つ。あれやこれやで大きなバッグを膨らませている私とは好対照です。
 深夜バスで旅した時のこと、休憩のサービスエリアでタバコを吸いながら、運転手さんと親しそうに談笑していました。席に戻ってきた彼に、運転手さんお知り合いだったの?と聞くと、何で?と彼は怪訝そうでした。私の親戚の家に世話になったとき、気難し屋で皆が苦手にしている〇〇さんとすぐに仲良く話し始め、伯母が〇〇さんがあんなに楽しそうに話しているのをはじめてみた、と言いました。背が高く、ちょっとエキゾチックな顔立ちの彼は、外人さんに話し掛けられることも多く、相手にあわせて英語以外の言語を使いこなします。若いころ長く海外を放浪していた彼いわく、ヨーロッパ人は英語が苦手だからね。
 彼と呑み歩くと、行く先々で知り合いに出会います。そして私を差し置いて嬉しそうに彼と話し始めてしまいます。私の数少ない友人も彼と会うと、私以上に親しい知り合いになってしまうので、私は何度も寂しいおもいをしました。
 彼のご両親は90歳を超えてご存命、両方の祖父母も長寿を全うされたとのこと。彼は私よりも年上でしたが、きっと私より健康で長生きするはずなので、腰の悪い私は、将来同じ老人ホームに入って車いすを押してくれるよう、いつも頼んでいました。
 そんな彼が、ちょうど2年前、体調不良で私の処に相談に訪れました。精査してみるとかなり絶望的で、知り合いの専門医にすぐ紹介したのですが、手術も叶わず年内もつかどうか、という診断でした。根治は無理ながらも化学療法を始めたところ、さすが彼です。主治医も驚く回復をみせました。学会用にとたくさん写真を撮られたと自慢され、どう返していいかわかりません。外来で抗がん剤を点滴したその足で呑み歩き、禁煙も中止、海外旅行者相手の仕事も再開。2年前の年内どうかのはすが、昨年の正月も、今年の正月も私の家で、いつものように彼の博識と蘊蓄を肴に、知り合いたちも呼んで飲み明かしました。ゴールデンウイークにまた会う約束をしたのですが、連休中は仕事が忙しいということで、会えず仕舞いでした。
 数日前の深夜、私は携帯電話で起こされました。某所で男性の遺体を確保しているが、所持品に私の名刺があった、と警察からの連絡でした。某所で私の名刺、彼に間違いありません。
 一人暮らしの彼は、荷物を極力減らして小さな部屋で闘病していたことがわかりました。ドイツの青信号の歩行者のデザインの小さな鞄を肩に掛けて、細長い脚で申し訳なさそうに歩いている彼を、すでに鬼籍に入った知り合いたちが嬉しそうに出迎えてる様子が目に浮かびました。
 こちらでは、彼が居なくなって困る人はいませんが、たくさんの知り合いが、彼との別れを寂しくおもっています。
 スナフキンが去ったあとのムーミンは、きっとこんな気持ちなのかな、とおもいました。


耳有りフランク

2024年06月25日 | 日記・エッセイ・コラム
 風呂上りに自分の左の耳たぶをみて、びっくり。
 耳の穴から連なるくぼみの下側の耳屏間切縁、から耳朶に、縦に真っすぐな皺をみつけてしまいました。
 耳朶の皺は、「フランク兆候」といって、動脈硬化の兆候といわれています。フランクとは、1973 年にこの学説を唱えたサンダース T. フランクの名前です。フランク学説の発表以降、耳朶の皺と動脈硬化疾患の関連に関してはたくさんの研究が行われていますが確定的な報告はありあません。耳朶の皺と動脈硬化疾患の罹患と死亡に「関連がある」という積極的な報告は少なのですが、逆に関連がないと言い切る論文もないのです。耳たぶは血管が少ないので、動脈硬化によって血流が低下した場合に影響が出やすく、病理学的に耳朶の皺と動脈硬化には因果関係がありそうですが、耳の皺を無くせば、動脈硬化が改善するとは考えにくい。それでも毎日耳朶に保湿剤を塗っています。


アブない やかラの話

2024年06月23日 | 日記・エッセイ・コラム
 ヤカラという言葉を知りました。夜中に集団で騒いだり、お店でささいなことで店員さんを恫喝したり、通りがかりの市民に文句を言って絡む、そんな不良連中をヤカラと呼び、彼らが着ている竜や虎の刺繍の入ったジャンバーやダボダボのズボン、目立つゴールドの装身具などをヤカラ系のファッションと呼ぶそうです。
 ヤカラ、輩は、~の輩、不逞の輩のように使う、仲間、同類の言葉で、先輩、後輩、吾輩のような使い方もしますので、輩自体には否定的な意味はないのですが、~の輩(ヤカラ)というときには、肯定的なグループではない、例えば親切な輩、とはあまり言わない。そこからヤカラの部分だけで、不良連中を指すようになったのだとおもいます。関西では、ヤカる、ヤカられるのように動詞化もしていて、理不尽な因縁をつける、つけられるという意味です。
 医学用語でポルチオというと、子宮膣部(子宮頸部の膣内にある部分)のことですが、これはラテン語のPortio vaginalis uteriのPortioで、英語ではportion、部分という意味。子宮を意味するのはvaginalis uteriの方なので、これもヤカラ系の言葉です。余談ながらpotion(rがない)は水薬の意味で、コーヒーミルクポーション(スジャータのような使い切りのコーヒーミルク)はこちらのpotionです。
 タイのバンコクを流れるチャオプラヤ川は、日本人からメナム川と呼ばれていました。メナムはタイ語で川の意味で、メナム・チャオプラヤをメナム川と呼んだのです。ヤカラの輩ですね。

 さて、危ないアブラのお話です。
 一般に油脂のうち、常温で液体の物を油、固体の物を脂と呼んでいて、植物油の多くは液体で、動物性脂肪は固体の物が多く、固体の脂の方が身体に悪いイメージがあります。牛や豚の体温は38~39度、鶏は42度と人間よりも高体温のため、これらの脂を摂取すると人間の体の中で脂が固まり、血液どろどろになって血管が詰まる、みたいな説明がまことしやかにされたりします。同じように、魚類は海水の中にいて、海水温は高くても20度台で人間の体温より低いので、魚油、特に北の海で摂れた魚を摂ると血液がサラサラになる。植物は体温調節ができず、液体の油でなければ植物の中を流れることができないので、植物油は身体にイイ。
 これらの説明は大筋ではなんとなく正しそうですが、当たっていない部分もかなりあります。
 人間の身体にとって良いアブラ、危ないアブラは確かにあるのですが、実はなぜ良いのか、悪いのかの理由はよくわかっていません。危ないといわれているアブラを多く摂っている人の脳血管系、循環器系の病気の頻度、死亡率が高い、ということから、統計的に判断されているのです。
 光合成により植物細胞の葉緑体内で合成された炭水化物の一部は脂肪酸に変換された後、小胞体に輸送されて中性脂肪となります。植物の脂質のほとんどは種子に蓄えられています。脂質は同じ重さの炭水化物に比べて倍以上の熱量を産生しますので、大量のエネルギーを消費する発芽成長には、種子や果実に脂質を蓄えておくことが有利です。植物内での脂肪酸の移動には液体の方が都合がよさそうですが、油滴の形で細胞間の移動はできないので、これはイメージに過ぎません。実際、植物油には常温で液体の物が多く、それは脂肪を構成する脂肪酸の化学構造が理由です。ただしココナッツバターのような例外もあります。
 マーガリンは植物性油脂を構成する脂肪酸の炭素(C)の二重結合に人工的に水素(H)を結合させてつくった油脂です。炭素には4本の手足があり、脂肪酸は複数の炭素が繋がってできています。右と左の炭素同士の結合に両手を使い、両足には水素が結びついているのが単結合(ーH2CーCH2-)、右の(左の)炭素と両手でつながり、左の(右の)炭素とは片足でつながり、残った足は水素とつながっているのが二重結合(ーHC=CH-)です。脂肪酸は一般に二重結合が多いほど常温で液体で、単結合が多いと固体である傾向があります。そこで植物由来の液体油脂の二重結合に水素を付加して単結合にすることで、人工的に乳脂肪(バター)のように二重結合の少ない固形の油脂を開発したのです。植物由来なので健康に良く(とおもわれ)、価格も安いということで、マーガリンは食卓に瞬く間に広まりました。二重結合がある油脂は不安定で酸化、変質しやすいのですが、水素付加した植物油は変質しにくい。また液体の油よりも常温で固形の油脂の方が保存運搬に便利ということもあって、水素付加した固形植物油はファストフードを中心に外食産業にも受け入れられました。
 その後、欧米を中心に、植物油脂を固形化した油脂の消費の多い地域では、脳血管系循環器系の死亡率が高いことがわかってきました。ニューヨーク市など外食依存率の高い地域では、その傾向が強く、原因は食品のアブラということがわかったのです。
 脂肪酸の二重結合に水素が付加して単結合になる反応は動物の体内でも起こるのですが、その場合多くがシス型と呼ばれるタイプになります。人工的に水素を付加するとシス型とトランス型が出来てしまいます。シス型とトランス型は全く同じ組成ですが、構造上右手と左手のような関係にあります。そして同じ組成ながら作用に違いがあるのです。右手用の手袋は左手にはめられないみたいな。作用機序はわからないのですが、どうやら、この自然界には少ないトランス型の脂肪酸が身体に悪いということがわかってきました。
 トランス脂肪酸の多い食事をとっている人の血中LDLコレステロール、中性脂肪は高く、HDLコレステロールは低い傾向にあり、冠動脈性心疾患の発症を増やす、メタボリックシンドローム関連因子及び糖尿病のリスクに加えて、冠動脈性心疾患死亡や心臓性突然死のリスクも高いということが、世界各地での大規模調査から統計的に証明されました。
 WHOは2010年の「人間栄養における脂肪及び脂肪酸に関するFAO/WHO合同専門家会合報告」において、「トランス脂肪酸の摂取量を反すう動物由来のものと工業由来のものを合わせて総エネルギー摂取量の1%未満とする」目標値を設定しています。
 2012年厚生労働省は、日本人の大多数がWHO の勧告(目標)基準であるエネルギー比の1%未満であり、また、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる。しかしながら、脂質に偏った食事をしている個人においては、トランス脂肪酸摂取量のエネルギー比が1%を超えていることがあると考えられるため、留意する必要がある、としています。

脂肪の経済学

2024年06月22日 | 日記・エッセイ・コラム
 脳血管内のグルコース濃度が下がると、脳を低血糖から守るために副腎髄質からアドレナリンというホルモンが分泌されます。アドレナリンは緊張やストレスなどで交感神経が亢進したときにも分泌されるホルモンで、心拍数の増加、血管の拡張、呼吸を促進します。緊張するとドキドキして息苦しくなり、顔が真っ赤になるのはそのためです。
 アドレナリンは肝臓や筋肉に蓄えられているグリコーゲンをグルコースに変換させる作用があります。グリコーゲンは多数のブドウ糖が鎖状に連なった物質で、食事から摂取した糖質はグリコーゲンとして保存されており、筋肉に300g(1,200kcal)、次いで肝臓が100g(400kcal)、血液全体では15g(60kcal)、脳には2g(8kcal)貯蔵することができますが、体内に貯蔵しているグリコーゲンをすべて動員しても、私たちが1日に必要とするエネルギー(約2,000 kcal)には足りません。
 そこで我らが中性脂肪の登場です。
 アドレナリンは脂肪細胞の細胞膜に作用し、蓄えている中性脂肪を血中に放出させます。中性脂肪は加水分解され、脂肪酸とグリセリンとなって血中に出ます。脂肪酸はアルブミンと結合して血中を運ばれ、からだの各組織の細胞内に取り込まれます。脂肪酸は細胞のミトコンドリア内で酸素と結合し二酸化炭素と水になり、大きなエネルギーを産生します。グルコースのエネルギー産生量が1グラムあたり4.1 kcalに対し、脂肪は9.3 kcalの熱量を産生します。運動時には、まずグリコーゲンが優先的に利用され、次いで脂肪の利用が始まります。瞬発的な運動には糖質が必要で、持続的な運動で脂質が消費されます。脂肪酸燃焼には大量の酸素を必要とします。脂肪を消費するには、瞬発的な激しい運動よりも、持続的な有酸素運動の方が有効です。脂肪細胞内の脂肪滴は、中性脂肪を放出しながら縮小していきます。
 血中を流れているグルコースがお財布の中の小銭、脂肪酸はお札、グリコーゲンが普通預金、脂肪細胞内の中性脂肪が定期預金のイメージです。
 定期預金をどんどん取り崩して、経済を回して健康になりましょう。