タミフル?イナビル?ゾフルーザ?

2019年01月25日 | 日記・エッセイ・コラム
 インフルエンザの流行が本格的になっています。
 今シーズンは1回服用で効果のある新薬「ゾフルーザ」が登場し治療の選択肢が増えましたが、ゾフルーザの販売は、従来薬に対する非劣性(劣っていない)が条件で承認されており、優れているという評価ではありません。
 当院では以下の理由で、今のところゾフルーザを院内採用していません。(どうしてもゾフルーザをご希望される方には、院外処方にて対応しています)
1)価格が高い
2)耐性ウイルスの懸念
3)服用後の嘔吐への対応が難しい、未知の副作用のリスク
 
 ゾフルーザのメリットは1日1回服用と簡便なことと、従来の治療薬、増殖したウイルスをその細胞の中に閉じ込めることによって拡散を抑制する薬、とは作用機序が異なり、ゾフルーザはエンドヌクレアーゼ酵素阻害薬(ウイルスの複製を抑制する薬)で、「ウイルスそのものの増殖を抑える」ため、より速やかな効果が期待される点です。また、服用後のウイルスの排出量が従来の薬よりも少なく、まだ未検証ですが、周囲への感染予防効果も高い可能性があります。またタミフル、イナビルには耐性ウイルスがありますが、ゾフルーザはそれらにも効くとされています。
 しかしながら、1)薬の価格が従来薬より高く設定されており、成人の投与量で比較すると、
 タミフル5日分2,720円、イナビル2キット服用4,280円に対し、ゾフルーザ1日分4,789円です。
 この価格差に見合うメリットがあるか?ということが処方するかどうかのポイントとなります。
 その新薬でなければ治療できない、新薬の方が圧倒的に効果がある、ということであれば別ですが、従来薬で十分であれば高価な新薬を使う必要はないと、私は考えています。これはインフルエンザだけでなく、すべての疾患について同じ考えです。
 自己負担3割では個人にとっては600円の差に過ぎませんが、保険が残りの1400円を負担して、掛ける全国のインフルエンザの患者数となると、国の医療費負担は相当の額になります。
 また、2)耐性ウイルス出現の可能性は開発時より指摘されてます。従来薬タミフル、イナビルにも耐性ウイルスが出現していますが、ゾフルーザはその作用機序から耐性ウイルスをより生じやすいことが懸念され、すでに1月24日、国立感染症研究所は「ゾフルーザ」を使った患者から、治療薬に耐性をもつ変異ウイルスが検出されたと発表しています。これは直ちに服用者の不利益になるものではありませんが、近い将来、治療薬のない耐性インフルエンザが流行してしまう恐れがあります。細菌感染に対する抗生物質の濫用が薬剤耐性菌を生んでしまいましたが、ウイルスは細菌よりもずっと変異が起こりやすいので、更に心配です。
 3)「服用後吐いてしまったが、どうしたらよいか?」という問い合わせが多いのですが、タミフルであれば残りの薬を継続する、イナビルは吸入薬なので、服用後に嘔吐しても効果に変わりはない、のですが、1回服用のゾフルーザを吐いてしまったあとの対応は難しい。どの程度身体に吸収されたかわからないので、追加処方はリスクが大きいですし、少なくとも保険診療で追加薬を処方することはできません。
 また、いまのところゾフルーザの重篤な副作用は報告されておりませんが、今後どのような有害事象があるかはわかりません。これまでも承認販売から時間がたってから有害事象が報告され販売中止になった薬はたくさんあり、ゾフルーザがそうならないとは限りません。インフルエンザは従来薬で十分効果が得られているので、未知の副作用を懸念しながらあえて新薬を使うまでもない、小児や、合併症やそれに対する併用薬のある患者さんに対しては特にそうおもいます。
 以上の理由から、私はゾフルーザの処方に積極的ではないのですが、大きな期待も持っています。
 現在、学校保健安全法で子供たちの出校停止期間はインフルエンザ発症から5日と決められており、大人に関しても多くの企業がこの基準に準じて出社停止としているようです。ほとんどの患者さんは服薬から2~3日で熱も下がり元気になって、残りの待機期間を過ごされています。もし、ゾフルーザ服用後の周囲への感染予防効果が証明され、出校出社停止期間が短縮されれば、その経済効果は薬価差を上回るかもしれません。