テレビやテレビゲーム等の健康への問題点(大岡山小学校学校保健委員会より)

2005年09月26日 | 日記・エッセイ・コラム
 テレビは子供のころから悪者でした。身体的には視力への影響、運動不足、寝不足など懸念され、精神面への影響として実体験を伴わない疑似体験漬けになることで、人間関係を保てない子供になるとか、暴力映像への長期接触が暴力的行動に結びつくといったことは昔から言われ続けています。
 それでもテレビが家庭の居間に一台しかない時代には、お父さんが早く帰って来た日は7時のニュースを見るのでウルトラマンは我慢したり、おばあちゃんが泊まりに来て連想ゲームをみていたので、仮面ライダーにチャンネルを変えられなかったとか、金八先生と太陽にほえろのどっちも見たいと悩んだり、テレビもそれなりに成長に必要な葛藤を与えてくれたものでした。
 テレビが家庭単位から個人所有が当たり前になり、ビデオ、テレビゲーム、インターネット、携帯電話と、あっという間にパーソナルなメディアツールが登場し、普及してしまったことで、問題は大きくなっています。
 私はメディアの普及と個別化の問題点は、情報過多によって思考力、想像力が育たなくなることだとおもいます。
 いくら簡単に大量の情報を手に入れることができたとしても、人間の持ち時間は1日24時間であることは変わらないのだから、情報を処理する時間が増える分、自分の頭で考え、想像する時間は減ってしまうのです。また人間は情報を手に入れる過程で遠回りしたり、道に迷ったりしながら、同時に思考、想像しているとおもうのですが、現在は自分の部屋に寝転がっているだけで情報の洪水が一気に押し寄せてくるので、溺れずにいるのが精一杯、考えている余裕はありません。
 子供のテレビを見る時間を制限して、良いテレビ番組だけ見せる。インターネットなどの情報は上手に活用させる、など総論としては賛成ですが、ひとたびツールを個別に与えてしまったら、その内容や接触時間は管理できないものと私はおもっています。
 テレビに問題を感じるのであれば、家庭からテレビを排除する、少なくとも子供に個別に与えない。パソコンも居間など共用スペースに置くことで、接する時間は制限できるし、おのずと子供も視聴する番組、アクセスするサイトにも歯止めがかかる。そして、これが大事なことですが、子供に禁を破るための努力をさせることができる。
 修学旅行のときに、見回りの先生の足音におびえながら、音をうーんと小さくして、家では観られない11PMを、みんなで固唾を呑んで見たことが思い出になっています。上級生からの情報で1年前から仲間内での期待は高まっていましたし、直前にはテレビガイドのタイトルから内容を想像してわくわくしていました。
 大人向けの深夜のテレビ番組は観てはいけない、観られないという制限があったからこそ、友達や上級生とのコミュニケーション、情報収集に必死になり、期待することができたわけですが、個人でパソコンを持っている今の子供たちにはそんな楽しみはわからないとおもいます。本当に気の毒です。
 私の下世話な「スタンド・バイ・ミー」の暴露で終わるのは恐縮なので、日本小児科医会が2004年1月に発表した「子供とメディアの問題に対する具体的提言」をご紹介します。

1.2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。
2.授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴は止めましょう。
3.すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを目安と考えます。テレビゲームは1日30分までを目安と考えます。
4.子供部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしましょう。
5.保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールをつくりましょう。



学童の牛乳の1日摂取量について(大岡山小学校学校保健委員会より)

2005年09月23日 | 日記・エッセイ・コラム
 9月22日に大岡山小学校において学校保健委員会が開かれました。その際に父母の方から寄せられたいくつかのご質問に、校医の立場からお答えする機会をいただきましたので、ご報告いたします。

 今日は「牛乳の一日の摂取量について」
 昔から牛乳を飲むと背が伸びるといわれています。
 7~8歳の学童に、学校で牛乳を190cc飲ませる群と、飲ませない群にわけ21.5ヶ月観察したところ、飲ませた群のほうが2.8センチ有意に身長が伸びていたという海外の報告があります。
 また日本の調査では、ある地区の小学校4年生の牛乳を1日500cc以上飲ませた群と、500cc以下の群を、3年後の中学1年生になったときに比較したところ、肥満度、血清コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、および動脈硬化指数の平均値において有意差を認めなかったが、体重増加の平均値は同じぐらいであるが、身長の増加は500cc以上飲んだ群のほうが有意に大きかったという結果が出ています。
 学童の肥満や高コレステロールに関して、牛乳は増悪因子にならないとおもわれます。
 牛乳は栄養素が効率よく含まれ、カルシウムについては量、吸収のしやすさについては群を抜いて優れた食品です。乳糖不耐症やアレルギーがない限り、積極的に摂取すべき食品といえます。
 米国では毎食時に牛乳を200ccずつとる「3-A-DAY」の食生活が推奨されています。日本人成人の平均は一日あたり100cc、世界最大消費国のフィンランドは500ccです.
 学童期も200ccずつ「3-A-DAY」を目安にしてはいかがでしょうか。
 身長増加については、一般にいわれているように、牛乳摂取はプラスに働くようにおもえますが、調査を行った研究者自身が指摘しているように、今回の調査では両親の身長などを考慮していないので、一概には言い切れません。
 ちなみにうちでは牛乳をたくさん飲みましたので、おかげで私は180センチあります。でも妹は150センチです。



ささやかなマニフェスト

2005年09月12日 | 日記・エッセイ・コラム
 往診鞄を乗せて自転車をこいでいると、ランドセルを背負った子供たちから指さされます。
 閉店間際のダイエーで、半額シールの張られた惣菜に手を伸ばすと、さっと奪われてしまい、顔を上げるといつも遅い時間にやってくる女性の患者さんと目が合って、こんなに気まずいことはありませんでした。
 ここまで来れば大丈夫と西小山のディスカウントショップで、安売りのカップ麺をまとめ買いしていると、先生そんなものばかり食べてちゃだめですよ、と後ろのおばあさんからたしなめられてしまいました。
 学芸大学の呑み屋さんでは、客が入ってくるたびにびくびくします。
 角のサークルKでは、もう立ち読みはできません。
 開業してからは、住んでいるだけだった街に自分が参加している、そんな感じを覚えます。
 昨日の選挙の投票所では、たくさんの患者さんにお会いして、何度もお辞儀をしました。
 世界を変えたり、日本を良くしたり、そんなこと私には到底できないけれど、地域の皆さんの役に立つ存在でありたいとおもいました。




ペプシノゲン法で朝日がん大賞をいただきました

2005年09月01日 | 日記・エッセイ・コラム
 三木一正東邦大学教授が「ペプシノゲン法による胃がんスクリーニング」の仕事が認められ、朝日がん大賞を受賞しました。私は三木教授が東邦大学に転任してきて以来、ペプシノゲン法の研究を手伝ってきたので、よろこびもひとしおです。
 ペプシノゲン法は採血で胃がんの前がん状態である萎縮性胃炎の診断する検査法です。
 胃がんそのものではなく、前がん状態のスクリーニングのため、ペプシノゲン法陽性イコール胃がんというわけではありませんが、陽性者のうち1.5パーセントから胃がんが発見されます。これはこれまでのバリウム検診と比較しても遜色のない数字です。
 またペプシノゲン法が陽性ということは、現在胃がんがなくても、将来胃がんになりやすいということを示しています。
 我々は胃がんのハイリスクスクリーニングとしてペプシノゲン法を利用することを、現在メインに検討しています。
 私たちが行ったある職域での追跡調査で、ペプシノゲン法陽性の人は陰性の人に比べて6~9倍胃がんになりやすいことがわかりました。
 また、ピロリ菌が胃がんの大きな原因といわれており、大規模な追跡調査からピロリ菌のいない人からは胃がんがほとんど発生しないこともわかっています。
 ピロリ菌検査とペプシノゲン法を組み合わせて、将来胃がんになりやすい人と、なる可能性の低い人を振り分けることができれば、具体的には胃がん検診を毎年受けたほうがいい人、5年に一度ぐらいでいい人、ほとんど受ける必要のない人というようにそれぞれのリスクに応じて、検診を実施できるようになります。
 それにより受診者の負担を減らすだけでなく、自治体や企業の検診にかける費用を大きく軽減できる可能性があります。
 ペプシノゲン法およびピロリ菌検査は、当院で目黒区住民検診を受診の方、内視鏡検査を受診の方には無料で実施しておりますので、ご相談ください。