医療は崩壊だ!?

2021年01月26日 | 日記・エッセイ・コラム
 虫垂炎が疑われる患者さんにPCR検査を行いました。即入院、という病状ではないのですが、悪化して手術が必要になった場合、今入院できる病院を探すのがたいへんです。PCR検査が陰性とわかっていれば受け入れが早いですし、もし陽性であっても、それを前提に対応できます。幸い今のところ入院には至らず、PCR検査も陰性でしたが、これが心筋梗塞や脳血管障害ならたいへんです。直前にPCR検査を行ってから心筋梗塞や脳血管障害の発作を起こす、なんてことはできません。
 今、どこの病院もコロナ患者さんだけでなく、すべての疾患の入院患者の受け入れが困難になっています。病床やスタッフの数が足りないこと以上に、患者さんの振り分けがたいへんなのです。診断のついているコロナ患者さんが入院できない問題は、コロナ患者さん専門の受け入れ病床を増やすことで解決できます。でも心筋梗塞で受け入れた患者さんが、入院後にコロナ陽性であることが判明して、他の患者さんや医療スタッフに院内集団感染が起こってしまう、ということを避けるのは難しい。
 今、新型コロナ感染を心配するよりも、心筋梗塞や脳血管障害といった緊急性を要する重大疾患を予防することの方が重要です。
 塩分を控えて、運動しましょう(私もルームランナーを買いました)。生活習慣病の薬はちゃんとのみましょう。
 ここからは余談。
 誰が呼んだか知らないが、こんな状況が「医療崩壊」と言われているわけですが、医療をやっている側からすると、このネーミングは少し乱暴過ぎる、自分たちも含めて否定されている感じがしてしまいます。
 医師会の偉い方が「医療崩壊じゃない、このままだと医療壊滅だ」とおっしゃったの対し、テレビ番組の司会者が「医療崩壊とはどんな状態を指すのですか?」と質問、「医療を必要な人が適切な医療を受けられなくなる状態です」とご説明されました。
 だったら「このままだと、医療を必要な人が適切な医療を受けられなくなります」と言ってくれた方がよほどわかりやすい。
「医療崩壊を防ぐために、飲食店8時に閉めろ!」と言われれば「飲食店は崩壊してもいいのか!」と言い返したくなりますよね。
 感染爆発、パンデミック、医療崩壊、クラスター・・・、マスコミが大げさな表現や横文字で不安を煽るのは仕方ないとしても、政治家や医師会の偉い方、なんとか分科会の方など、国民の不安を和らげなくてはならない立場の人たちまでが、マスコミがふりまいている下品な表現を尤もらしい顔で使っている。
 上に立つ人は、もっと言葉に敏感になってほしい、とおもいます。
 
 
 

よかったら、読んでみてください

2021年01月24日 | 日記・エッセイ・コラム
「よかったら、使ってみてください」と言われると、
使ってみないことには、良かったかどうかわからないじゃないか?
といじわるを言いたくなります。
 昔問題になった「よろしかったでしょうか」を短縮した変異型なのか、今、ヨカッタラーが増えています。
「大変恐縮ですが、もしあなたのご都合がよければ、使用のためのお時間をいただけないか、いつもお使いのものの代替として試してみていただけないか」という、相手の都合を問うのが意図だとおもうのですが、「よかったらどうぞ」と差し出されてしまえば受け取らないわけにはいかない。どうも、よかったら、と差し出す人は、本来の意図である相手の都合を問うのではなく、「つまらないものですが」と同じように、へりくだりとして使っているように感じます。
 相手が使うかどうかは相手が決めればいいことなので、あえて「よかったら」と付け加えるのはおこがましいとおもいます。
 自信をもって「ぜひ、使ってみてください」と言われた方が気持ちがいいですね。

新型コロナウイルスPCR検査を巡るご質問にお答えします

2021年01月17日 | 日記・エッセイ・コラム
 当院でもPCR検査を受けられる体制を整えてから2か月がたちました。受診者の方からはご不満を含むたくさんのご質問を受けており、患者さんのお立場からすればごもっとも、とおもわれる内容がほとんどです。
 院内感染予防のため距離を置き、接触時間を極力減らしている中で、ご納得いただける対応ができておらず、申し訳なくおもっております。

〇費用に関するご質問
Q)職場で感染者が出ましたが、保健所からは濃厚接触にあたらないといわれました。無症状ですが心配なので保険診療でPCR検査が受けられますか?
A)保険診療でPCR検査が受けられる要件は「診察した医師が必要と認めた場合」ですので、診察を受けた上での判断になります。PCR検査に限らず無症状の方への臨床検査は保険診療の対象にならない、というのが原則ですが、接触者アプリ(ココア)で通知のあった方は、画面をお示しいただければ保健所の指示がなくても保険診療の対象になりますし、神奈川県では感染者増加により、保健所が濃厚接触者調査を行わないことを発表しましたので、これからは医療機関で判断するしかありません。また保健所から濃厚接触にあたらないといわれ、自費で検査を受けた方からの陽性(当該接触による感染かどうかはわかりませんが)も少なからずありますので、まずは受診していただき、診察をした上で柔軟に判断しています。

Q)自費で受けた場合おいくらですか?(23,000円+消費税)そんなに高いならやめます。
A)PCR検査の保険点数は1950点(19,500円)です。当院は(他のほとんどの医療機関も)検査会社に外注しており、1検査あたり、ほぼこの金額が検査会社に支払われます。他に検体を入れる容器、検体を入れた容器を入れる3重パッケージ(検体は万一検体が破損した場合に備えて内吸水外防水シートに1本ずつ包み、それを専用密封パック入れ、さらにそのパックを専用密封ケースに入れます)の費用が掛かります。
 検査結果が検査会社からFAXで届いた時点で、受診者の方にお電話で報告し、後日正式な検査結果レポートをご登録の住所に郵送しています。更に陽性だった場合には、保健所に報告書を作成してFAXしますので、これらの通信費、人件費がかかります。
 というわけで、当院としては決して高い金額を吹っかけているわけではないことをご理解いただきたくおもいます。検査会社にしても、検体回収のコスト、PCR検査自体がとても手間と時間のかかる検査であること、検査結果の返却のコスト(夜中にFAXが入ることもあり、当院から受診者への連絡が夜遅くなることがあるのはそのためです)を考えると、決してこれで大儲けしているとおもえません。
 とはいえ、自費で3,000円~10,000円という価格で実施してる機関もあり、それと比較すると確かに高額です。
 どうしてそのような低価格が実現できているのか不思議なのですが、例えば唾液回収だけを行っているところ(多くは医療機関登録をしていない)は、PCRの唾液検体だけををまとめて回収することで梱包コストを節約し、保険診療では認められていないプール方式(複数の唾液を混合して検査し、陰性であれば混合したすべての検体を陰性と判定、陽性であった場合だけ、一つ一つを調べなおす。無症状者が多く、陽性率の低い集団の場合には時短、コストダウンに極めて有用)で検査している可能性があります。また検査結果を人手を介さずダイレクトにメールで通知することで、通信コストを下げています。
 ちなみに医療機関でない検査機関で検査した場合には、陽性であっても「陽性の可能性があるので、医療機関を受診してください」という通知を出すだけで、保健所への報告も行っていないので、フォローは行われません。結局また改めて(ウイルスをばらまきながら?)医療機関を受診して検査をすることになり、なんとも悩ましい。
 医療機関が格安で実施できる条件としては、自前の検査機器とスタッフを持ち、検査キットを大量購入していることが考えられます。

Q)PCRは高いので、抗原検査、抗体検査を受けたい。
A)こちらをご参照ください。

〇検査時間(結果が出るまでの時間)について
Q)海外渡航に必要なので、3日以内に英文で診断書が欲しい。
A)検査会社から当院への検査結果のFAX連絡は、早いときで翌日昼、遅いと2~3日後になることもあります。その日の検体数(当院だけでなく、検査会社の契約医療機関すべての検体数)や、休日が入るなど検査会社の回収、検査のスケジュールによっても遅れますので、当院から受診者への結果返却時間に関するお約束はできない状況です。当院はFAXで結果が入り次第、遅い時間であっても受診者にお電話をするようにしていますが、スピードに関しては、それ以上の頑張り様がないのです。
 診断書等に関しては、FAX連絡は仮報告ですので、正式結果は検査会社の発行する最終結果伝票が届き次第(概ねFAX到着の翌日)、確認の上、伝票原本を受診者全員のご自宅に郵送しています。検査伝票ではなく診断書を、ということであれば、私が作成しなくてはならないので、更に時間がかかります。(早くて結果伝票の届いた夜、閉院後に書くことになります)
 というわけで、海外渡航用など、タイムリミットのある場合には、当院のように外注ではなく自施設検査を行っている施設をご利用されることをお勧めいたします。

Q)すぐ結果のでる抗原検査、抗体検査を受けてくるように会社の上司にいわれた。
A)「今感染していない」という証明として、抗原検査、抗体検査を受ける意義が薄いことについては、こちらをお読みください。
 会社から、上司から言われて受診、という方が多くて、お話を伺っていて滅入ってしまいます。業務上どうしても必要な場合もあるかとはおもいますが、多くの場合、不勉強で根拠もなく、安易に部下や従業員に不必要な、意義の薄い検査を強いている印象です。管理職の立場にある方は、検査指示を出す場合にはよくよくお考えいただきたいとおもいます。
こちらもご参照ください。

〇保健所対応について
Q)検査結果が陽性なら、必ず保健所に連絡するのですか?自費なら報告しないでもらえますか?
A)新型コロナウイルス感染症は2類感染症に指定されていますので、診断した医療機関は保健所への報告義務があり、これは法律で規定されているので、PCR検査陽性、抗原検査陽性であれば、保険診療、自費診療にかかわらず、必ず報告いたします。
 抗原検査陽性者はほぼ感染者といえますが、PCR陽性=感染ではありません。PCR検査は、付着しているだけの、感染力のないウイルスの欠片を拾っている場合も大いにありますので、無症状のPCR陽性者をすべて感染者として報告することは、とても悩ましい(保健所の業務も圧迫してしまう)のですが、現状では仕方がありません。

Q)(お電話にて)PCR陽性で、在宅療養中ですが、熱が出てきました。お薬出してもらえますか?保健所には電話がつながりません。
A)新型コロナウイルス感染症は(今のところ)2類感染症なので、診断がついた時点で当院のような一般医療機関での加療ではなく、保健所の紹介する専門医療機関で診療してもらうことになります。ただし、保健所も、専門医療機関もパンク状態にありますので、軽症の在宅療養者には手が回らないのが現状です。
 保健所の許可なく、在宅療養者の方に直接当院に来院してもらったり、私が往診することはできませんが、遠隔診療で病状を伺ってお薬の処方をお届けすることは可能です。当院の電話も24時間つながるようにしてあります。


日本語はむずかしい

2021年01月16日 | 日記・エッセイ・コラム
 某政党のポスターに『困った人にやさしい政治』というキャッチフレーズがありました。
 さて、困った人とは、コロナ禍で仕事を失って生活に困窮している人(peple who need help )のことなのか?それとも、飲食店に時短営業要請し、会食を控えることを国民に強いておきながら、自分はステーキやふぐのパーティに参加している総理大臣や、元自民党総裁候補のような困った政治家みたいな人(annoying person)なのか?
 そしてやさしい政治とは、優しい(kind)政治なのか、易しい(easy)政治なのか?
 政治も日本語も本当にむずかしくて、困ってしまいますね。
 この政党の応援でも批判でもありませんので、念のため。

新型コロナウイルス抗原検査、抗体検査にご注意ください

2021年01月11日 | 日記・エッセイ・コラム
 新型コロナウイルスに感染していないことの証明として、抗原検査、抗体検査をご希望される方が増えています。PCR検査は結果が出るまでに時間がかかり、自費で行った場合の費用も高いので、まずは早くて安い抗原検査、抗体検査を受けたいというご要望なのですが、どちらの検査も「感染していない」という目的には推奨できません。素性のわからない検査キットも出回っていて、個人でも入手できるようなので、更に悩ましい。
 抗原検査は、感染してもある程度ウイルス量が増えないと陽性反応が出ないので、無症状感染者や感染直後の軽症者では偽陰性になることが多い検査です。抗原検査が陰性の場合には、PCR検査を追加実施することが推奨されていることはそのためです。発症後2日以上たって有症状が持続している場合には、抗原検査陰性で新型コロナウイルス感染を否定できるキットもありますが、いずれにせよ無症状や軽症者の方が「安心のため」に受けるには適切ではありません。
 抗体検査は感染による生体側の免疫反応を見る検査で、感染初期に上昇するIgM抗体と、感染後ある程度の期間が過ぎてから上昇し治癒後も持続するIgG抗体をセットで判定します。IgM抗体が上昇するのは感染後概ね2~3日後なので、陰性だから感染していない、とは言い切れないですし、免疫反応には個人差があるので、感染しても抗体価が上がりにくい人は偽陰性となります。
 PCR検査にも偽陰性はありますし、付着しているだけのウイルスやウイルスの死骸を拾って、感染していない(すでに治癒している)のに陽性に出てしまうこともあるので、100%の検査ではありませんが、いまのところ「感染していない」を証明するのに一番近い検査は、PCR検査しかありません。ただし、検査を受けてから結果が出るまでに感染してしまう可能性はありますし、何より検査を受けに外出することも感染リスクです。
 私は「陰性証明を求めること」自体がナンセンス、PCR検査陰性は免罪符ではなく、自分を含めたすべての人が感染者であるという前提で常に行動するしかない、逆にそこをしっかり意識して対策を立てていれば、旅行も、人と会うことも、飲食店の利用だってOK、そして、コロナに限らず人生にゼロリスクはあり得ないので、常にリスクとベネフィットのバランスをとりながら行動選択するしかない、とおもっているのですが、このご時世、そんなことは大きな声では言えません、飛沫が危ないので・・・。