堂々と微熱でいましょう

2021年02月22日 | 日記・エッセイ・コラム
 息せき切ってたどり着いても、37.5度越えで会場に入れてもらえないなんてこともあり、いたる処で体温チェックが行われるようになった今、私も出かけるときは、こっそり冷えピタを忍ばせています。
 平熱の高い人には受難の時代になってしまいましたが、我々は食事を代謝してエネルギーを得て熱を産生しており、細胞が代謝を行うのに最も適した温度が37度前後です。日本人の平均体温は1957年の東京大学の調査によると36.9度だったのが、2008年のテルモ社調査では36.1度と報告されてます。
 日本人の体温が下がってしまった理由については、空調が完備されたこと、食事の欧米化、感染症が減ったことなど様々な要因が考えられますが、体温が下がると免疫力が低下し、生活習慣病の罹患率も上がり、低体温症の人が増えていることは人口減少の一因にもなっていると考えられます。
 体温が生活習慣病に関連している理由として、体温が上がることで血管内皮細胞からのNO(一酸化窒素)の産生が増えることがあげられます。NOは大気汚染の原因物質なのですが、体内では重要な役割を果たしています。NOは強力な血管拡張作用をもっており、狭心症の治療薬のニトログリセリンや、ED治療薬のバイアグラ等もNOによる血管拡張が主な作用機序です。
 また体温上昇により各種のヒートショック蛋白(HSP)が産生され、リンパ球の数を増やし、特にNK細胞が活性化されます。活性酸素を無毒化するHSPもあり、これらは、感染症やがんに対する免疫を高めます。またコラーゲン機能を高めるHSPもあり、美容やアンチエイジングの分野で注目されています。少ししなびたレタスやキャベツを短時間温水に浸けるとシャキッとするのもHSPの働きです。
 体温上昇を病気の治療に使う試みは紀元前から行われており、19世紀にはがん患者に細菌感染による発熱を起こさせがんを消滅させる試みが行われたり、現在も高周波でがん細胞の温度を上げて治療するハイパーサーミア療法が効果を上げています。
 鹿児島大学の鄭忠和先生らの提唱する「和温療法」は「室内を均等に60度に設定した遠赤外線乾式サウナ治療室で全身を15分間温めて、サウナ出浴後さらに30分間の安静保温を追加して、最後に発汗に見合う水分を補給する治療法」で、心不全治療に対して保険適用されました。
 医療としての「和温療法」には専用の設備が必要ですが、日常の入浴を工夫することで体温を上昇させ、「和温効果」を得ることは可能です。鄭先生は「脱衣所や浴室をしっかり温めて、41度のバスタブに10分間浸かる」入浴法を推奨されています。41度のバスタブに10分間浸かることで、中心体温は約1度上昇し、微熱の状態になり、代謝、免疫にとってベストコンディションとなります。
 シャワーだけで浴槽にお湯を張らない人が増えていますが、もともと日本人は温泉や銭湯が大好きな国民です。しっかり湯舟に入りましょう。入浴で体温UPして免疫力を高めることは、コロナ感染予防にも、きっと有効なはずです。

おひさまの下でオリンピックを

2021年02月12日 | 日記・エッセイ・コラム
「最後通牒ゲーム」は二人のうち一方が報酬の配分権を、もう一方が拒否権を持ち、例えば一方が配分を99万円対1万円と決め、もう一方がこれを「不公平である」と拒否する、と双方とも配分がゼロになる、というゲームです。100万円対0円でない限り、拒否権の行使には、発動者側には何のメリットもない(たとえ1万円でももらえた方が得)のですが、自分を犠牲にしても不公正を正したい、という人は、拒否権を発動します。東京医科歯科大学の高橋英彦教授が京都大学時代に行った研究によると、拒否権を発動する率の高い人は、脳内のセロトニントランスポーターの密度が低く、日本人の脳のセロトニントランスポーターの量は、世界でも一番少ない部類に入るとのことです。セロトニントランスポーターは脳内でセロトニンの量の調節を担っています。セロトニンが不足すると、ストレスを感じやすくなり、疲労、イライラ、協調性の欠如、うつ症状、不眠が起こりやすくなります。
 さて、相手の取り分はどうあれ、1万円でも千円でももらえればそれでいいという私からすれば、今、オリンピック委員会の会長を変えるのは、時間的にも経済的にも「損」でしかないとおもうのですが、どうやら損してでも、今回の不公正(のような発言)を正したいというのが、今の国民の声のようですね。
 今回は発言だけ(しかも多くの国民は、マスコミ報道による発言の「切り取られた一部分」だけしか知らない)で、実際に誰かに具体的な不利益を生じさせたわけではありません。それに謝罪もしているわけですから、それでおしまい、許してあげてもうひと頑張りしてもらったほうが「得」だとおもいませんか? 
 キリストも、「罪を犯したことがないものだけが、この女に石を投げなさい」と言っていますし、瀬戸内寂聴さんも「相手が悪いと思っても、とことん追いつめてはいけません。一つだけは必ず逃げ道を残しておいてください。それが愛というものです」とおっしゃっています。
 後任に名前の上がっている元オリンピックのスケート選手の大臣も、たしか、過去に若い男子スケーターに対するセクハラ行為が問題になったとき、この男子スケーターのおもいやりのある発言に助けられましたよね。
 日光を浴びると脳内のセロトニン合成がはじまります。おひさまにあたる時間が減ると、セロトニン分泌が低下してしまいます。
 みなさん、コロナを恐れて家でテレビばかりみていて、セロトニンが不足していませんか?
 

河豚鍋はいつ食べる?

2021年02月05日 | 日記・エッセイ・コラム
 旦那が幇間に河豚鍋を勧めるが、幇間は歯が悪いからと箸を付けようとしません。そこに乞食が物乞いにやってきます。まず乞食に食べさせてみようってことになり、乞食は押し頂いて帰ります。しばらくして幇間が乞食の住まいに行ってみると、乞食は元気にしているので、旦那と幇間は安心して河豚鍋をたらふく食べます。そこにまた乞食がやってきます。お代りが欲しくなったのか、と旦那が言うと、乞食が「お二人ともお元気なようなので、私も帰っていただくことにします」。落語の「河豚鍋」です。
 枕が長くなってしまいましたが、新型コロナワクチンの医療従事者への先行接種が今月中にも始まる見通しなので、「河豚鍋」を笑っていられない心境です。海外の報告からは、短期的にはこれまでのワクチンと同程度の副反応で、ほぼ安全ではないかとおもうのですが、長期的な安全性、将来の発がんや免疫疾患、生殖異常などについては未知数です。その未知の長期的危険性と、今コロナ感染を予防するメリットとの比較が、接種するかどうかの判断基準になります。ここでいうメリットは自分の身を守ることだけでなく、社会的な感染拡大を抑えるということも含まれます。私自身は順番が回ってきたら接種するつもりでいますが、自分の身を守るため、というよりは、社会的なメリット、いえそんなきれいごとではなくて、もし自分が感染して、それを他人に、特に患者さんに移してしまったときに「ワクチンを接種しなかったからだ」と責められたくないからです。もし自分が医療従事者ではなかったら、接種をためらっていたかもしれません。
 我が国の新型コロナウイルス感染者の死亡数は昨年2月からのほぼ1年間で約6,000名、多くが75歳以上の高齢者です。ヒトパピローマウイルス感染が原因の子宮頸がんで、20代から40代を含む約3,000名の日本の女性が命を落としています。わが国では国際スタンダードである子宮頸がんワクチンの積極的勧奨は行われておらず、これは先進国、いやアジアアフリカ諸国の中でも異端です。
 年間死亡数で新型コロナと同程度(子宮頚がん死亡は女性だけ)、しかも若年者の死亡が多く、人口問題に直結する子宮頸がんのワクチン接種の積極的勧奨を、副反応の問題で中止している日本が、副反応に関して未知の要素の多い新型コロナワクチンの集団接種に、専属の大臣まで配して躍起になるのは、一歩引いて眺めるとかなり滑稽です。
 新型コロナワクチン接種をいち早く開始し、接種率の高いイスラエルで、高い予防効果が得られていると報じられていますが、人口900万人に対する新型コロナの死亡数は約5000人という状況下での成績です。これに対して日本は人口1億2500万人に対して、約6,000人の死亡、人口1390万人の東京都での死亡者は900名程度です。これだけ死亡率の低い日本で、果たしてあわてて接種を開始するメリットは、デメリットを上回るのか?
 私は小学校医、保育園医として、新入学、新入園の子供たちへの各種ワクチン接種を強く推奨しています。ワクチン接種を拒む保護者に対しては、自分のお子さんだけなく、集団に対するメリット説いて接種をお願いしてます。多くのワクチンの社会的メリットと長期的な安全性はこれまでの長い歴史が証明してくれているからです。(残念ながら、アンチワクチン派の方々の多くはデメリットだけに凝り固まっていて、耳を貸してくれませんが)
 でも、今回のコロナワクチン、少なくともわが国における接種に対しては、接種のメリット、デメリットのバランスがまだわからない、というのが正直な気持ちです。河豚鍋の賢い乞食よろしく、もう少し海外での情勢みてから接種を開始してもおそくはないかな、とおもっています。そしてコロナワクチンを打つのが正しくて、接種しない人は間違った人という、凝り固まった考え方が国民に浸透することを、コロナの流行が続くことよりも恐れています。

鬼の豆撒き~新型コロナウイルスワクチンのお話

2021年02月02日 | 日記・エッセイ・コラム
 今日は例年より1日早い2月2日の節分です。私も一番鬼退治が必要な自分の胃の中に豆撒きしながら(当然アルコール消毒も欠かさず)、書いてます。
 新型コロナウイルスワクチンに関するご質問を多くいただいておりますが、果たして、ワクチンで「鬼は外」ができるのか?
 今回の新型コロナウイルスワクチンはmRNAワクチンという、画期的な製法で作られたワクチンです。ここが今までのワクチンと全く違う、豆が違うのです。
 今までのMR(麻疹風疹)ワクチンとか、インフルエンザワクチンは、弱毒化ワクチン、不活化ワクチンといって、病原体そのものを使ったワクチンです。
 MRワクチンなどの「弱毒化ワクチン」は、ウイルスを人為的に弱毒化したものを接種して、免疫を得るワクチンです。鬼を飼いならしていくうちに、鬼の格好はしてるけど、攻撃性のない奴が現れます。その連中だけを増やしたのが弱毒化ワクチン。弱毒化ワクチンを接種されると、我々の身体は、鬼が来たぞ、と備えます。でも接種で入ってきた鬼は根性なしですから、我々には悪さはしません。かくして我々の身体には鬼に対する備え(免疫)だけが残るわけです。
 インフルエンザワクチンなどの「不活化ワクチン」は、無毒化したウイルスを接種して免疫を得るワクチンです。鬼を殺した死骸を接種することで、我々の身体は、「鬼の死体があるってことは、鬼がやってきているに違いない、備えねば」ということで免疫を作ります。
 ところが、今回の「mRNAワクチン」はそれらとは全く異なります。鬼そのもの、ではなくて、鬼の角(コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質)の設計図データ(mRNA)を、我々の身体に入れるのです。すると、我々は、細胞内のリボゾーム(タンパク合成をする器官)にそのデータをインストールして、コロナ鬼の角の模型を複製して拡散します。かくして私たちの身体は自分で作った角の模型の山をみて、鬼が襲撃してきたと勘違いし、備え(免疫)をおこないます。でもこん棒を持った鬼そのものがいるわけではないので、もちろん発症はしません。いわば鬼の角の情報で豆まきをしているイメージです。
 というわけで、今回の新型コロナウイルスワクチンは、作用機序的には素晴らしく、これまでの検証からも効果は期待できるとおもいます。ただし、いつまでその免疫が続くかは今のところわかりません。「なんだ、ガセネタだったじゃないか」と気が付いて、すぐ免疫がなくなってしまうかもしれません。赤鬼さんには効いたけど、変異した青鬼さんはお友だちとおもって効きにくい、なんてことがあるかもしれません。またインストールした鬼の角の情報が、将来想定外のクーデター(発がん、免疫疾患、生殖異常・・・)を我々の身体に対して起こす可能性がないとは言いきれません。