コエンザイムQ10 は一日30ミリグラムまで

2005年08月31日 | 日記・エッセイ・コラム
 サプリメントのコエンザイムQ10が人気です。
 コエンザイムQ10はユビテカレノンという心不全の治療薬と同じ物質で、ユビテカレノンはノイキノンなどの商品名で処方されています。
 心筋の酸素利用率を高め、心臓の働きをよくする効果がありますが、効果はいまひとつで単剤で使われることはほとんどありません。処方量も減っており、忘れられた薬の感があったのが、サプリメントとして復活、一躍脚光をあびています。
 コエンザイムQ10は細胞のミトコンドリア内でエネルギー物質であるATPを産生するのに必要な成分で、生体内でもつくられるが、加齢とともに減少することや、普通の食事では少量しか摂取できません。
 美肌効果があるということが人気の理由ですが、問題はその摂取量。
 医薬品のユビテカレノンは1日30ミリグラム(10ミリグラムずつ一日3回)が常用量ですが、サプリメントでは60ミリグラムの錠剤が販売されたりしています。
 サプリメントは食品扱いなので、一日の投与量は規定されていません。
 正直なところ、ユビテカレノンはひじょうに副作用の少ない薬で、過剰投与されたとしてもそれほど心配はいらないとおもうのですが、サプリメントとなるとどの程度大量に摂取するかわからない。美肌を求めて大量に飲む人がいても不思議じゃない。そうなるとユビテカレノンでは現れなかった強い副作用が出る可能性もあります。
 医薬品では投与量が規定されているのに、同じ物質が食品扱いなると規定がなくなるというのはおかしな話です。
 早急に規定の見直しが求められる所以ですが、とりあえずはコエンザイムQ10を召し上がる際には1日30ミリグラムを目安にしていただきたいとおもいます。
 


サプリとアロマとマッサージと私

2005年08月30日 | 日記・エッセイ・コラム
 先生はいつもお疲れだからと、ご自分の愛用されているサプリメントを紹介してくださる患者さんがいます。腰痛が治ったから先生もぜひご一緒にとヨガ教室に誘ってくださる方もいます。メンズエステのお試し券をくださった患者さんは、ご主人も行かせてとてもよかったので、とのこと。
 そんなお心遣いがとてもうれしいです。
 実は私も健康食品やサプリメントは大好きで、宅配の黒酢ドリンクと豆乳を毎朝飲んでいますし、アガリクスも試しています。ビタミンやミネラルのタブレットも常備していて、食事が偏ったときには、口に放り込みます。そして疲れたときには栄養ドリンクを呷ります。アロマセラピーのオイルは診察室でも使っています。ヨガやエステにはなかなか時間がなくて通えませんが、疲れたときのマッサージは何よりの安らぎです。
 サプリや健康食品、アロマセラピー、マッサージといったいわゆる代替医療が、今大流行です。しかし、認可基準がまだあいまいで、安全性に関することや、詐欺まがいの販売で事件もたくさん起きているので気をつけなくてはいけません。
サプリメントや健康食品は、位置づけとしては薬ではなく食品ですから、病気への治療効果をうたうことはできません。特定保健用食品(トクホ)として厚生労働省が安全性を確認して効能表示を許可したものは、現在400品目ほどあります。
 医薬品は有効性と安全性が厳しく審査されています。具体的には、投与されたグループと、使わなかったグループで有意差をもって投与されたグループの人たちの病気が改善され、重篤な副作用のないことを大規模に証明しなければ、厚生労働省から認可されません。医薬品がそうしたエビデンスを得て市場に出るまでに莫大な費用と時間がかかります。そして今、世界中の研究者は、血眼になって医薬品となる有効成分を探しています。少なくともサプリメントや健康食品として認知されている物質については、医薬品としての可能性はすでに検証済みで、それほどの効果が期待できないからサプリに甘んじていると考えるべき。
 したがって、飲めば癌にならないとか、膠原病が治るといったようなサプリや健康食品はありえないと考えるのが妥当です。癌が消えた、アトピー性皮膚炎がよくなったとか、子供の不登校がなおった(親が飲んでるのに!)なんていう体験談を見かけることがありますが、すべてがでっち上げとはいいませんが、冷静に受け止めるべきです。
 私が代替医療を選ぶ基準は、まずサプリメントのように身体に入れるものは、普段食品としても摂取している成分であるかどうかということです。たとえばアガリクスの有効性成分はベータグルカンで、一般のきのこにも含まれている成分です。ビタミンやミネラルは本来食品として摂取するべきものです。
そういったものを食生活の乱れを補う意味で補助的に摂取することで、体調を維持し、長い目でみればひょっとしたら疾病予防にプラスになるかもしれないとおもっていますが、それ以上の効果は期待していません。
 代替医療には一般の医療のような開発費がかかっていませんから、あまりに高価なサプリや健康食品はおかしいと考えるべきです。派手に効果を宣伝しているものも眉唾。そんなに効くものであれば医薬品になって、製薬メーカーが大もうけしているはずです。
 またマッサージやアロマセラピーなどの代替医療施設を経営するのに、一般の医療機関以上のコストがかかるとはおもえません。したがって法外な施術料を要求したり、高い器具や健康食品を売りつけるところは絶対におかしいので、近づいてはいけません。
 当院の患者さんには代替医療と上手に、楽しみながらつきあっていただくことを願っています。
 本当は自分が大好きな代替医療を当院での診療に取り入れられるといいのですが、今のところは法的に難しいのが残念です。




インターネットの医学情報を生かしましょう

2005年08月29日 | 日記・エッセイ・コラム
 ホームページの記事をプリントした紙をどっさり持って来院される患者さんが、ときどきいます。よく勉強されていて、専門家顔負けの知識をお持ちの方もいらっしゃいます。
 医学など専門性の高い情報は、学会誌や専門書に掲載されるため、一般の人の目には触れにくく、昔は家庭の医学みたいな本で、病気についての概説を知るのが精一杯で、そういった一般向けの本の内容は少し時代遅れ、というのが通り相場だったのですが、インターネットの普及で、一般の方でも最新の知見を簡単に手に入れられるようになりました。
インターネットでは、検索サイトにキーワードを入力するだけで、学会報告や専門雑誌の掲載内容や、大学や研究機関の報告などを簡単に探し出せます。
 私はインターネットによる医学情報が増えたことによって、患者さんやご家族が、病状について主体的に考えることができるようになったとおもいます。これまでは情報が乏しいため、病院の言いなりにならざるを得なかったのが、今は治療法、そしてどこの病院がその治療を先進的に行っているかがわかるので、病院を選ぶことも可能になりました。しかし受け取る情報は正しくても、患者さんの側が偏って受け入れている可能性があるいうことも常に念頭においていただきたいのです。一つ一つの情報は間違っていないのだけれど、全体がその患者さん自身にあてはまっていないということがしばしばあるのです。
 たとえば頭が痛いから脳腫瘍ではないか心配で、調べたらあてはまる症状があったので、検査を受けたいという方。みぞおちの痛みが続いていて食欲もなく、症状から調べてみると胃がんではないかとおもって来院された方。たいへんお気の毒な例ですが、他の病院で肝がんといわれ治療を受けているが、インターネットで調べたらもっとよい治療法があることを知ったので、その治療をしてくれる病院に紹介状を書いてほしいといって来院された方。
 群盲象を評する、という言葉があります。たいへん失礼ですが、まさにそういうおもいにかられます。断片的な知識を集めれば病気が解決できるのであれば、お医者さんはいらない。
 脳腫瘍を疑って来られた患者さんは、確かに脳腫瘍のときにもみられる持続性のある頭痛が続いていたのですが、お話からは仕事上のストレスの方が大きいのではないかと判断、軽い抗うつ剤をお出ししたら、症状は改善しました。鎮痛剤で痛みを抑えているわけではないのだから、脳腫瘍のことはとりあえずお忘れになったら、ということで納得していただきました。
 胃がんを心配されていた方には、とりあえず胃酸を抑える薬を2週間お出しして、これで症状は改善しました。もし万が一胃がんであったとしても2週間発見が遅れることが致命的にはならないということを申し添えました。その後症状はとれたけれども、せっかくだから検査は受けたいということで、胃カメラを実施し異常はありませんでした。あわせてペプシノゲン法は陰性で、ピロリ菌感染もないので、将来胃がんになる可能性は少ないことも伝え、安心してもらいました。
肝がんの方は全身状態や病気の進行状況から、ご相談を受けた治療方法はデメリットの方が大きいことをよくご説明して、元の病院での治療を継続してもらっています。
 インターネット情報を上手に利用してください。そして自己判断なさらずに、お医者さんに相談してください。
 患者さんの訴えから、病気の全体像を描いて診断、治療を行っていくことが、われわれの仕事です。それは今のところまだコンピューターにはできません。
 



先生、あなたにだけ一大事なんです

2005年08月12日 | 日記・エッセイ・コラム
 郵政法案に反対した議員の選挙区に「刺客」を送り込む?
 この夏は終戦60年目、そして日航機墜落事故から20年と、マスコミは命の尊さを訴える一方で、選挙の当落を人の生き死を比喩にして誇大に表現する。
 そんなマスコミに煽られているせいなのか、議員たちの品位に欠ける言葉遣いには閉口させられる。
 ヒトラーでもそんなことはしない? 反対した人たちをガス室に送るわけではありません。たかだか党に公認されないだけで、世紀の大虐殺者をもちだす感覚が理解できない。
 ローマ皇帝が処刑人を猛獣と戦わせてもてあそんだのを思い出す? おいおい、被害妄想もいい加減にして。あなたには選挙の劇場から逃げる自由はあるんですよ。
 ライバル議員が「A級戦犯」? この季節に「A級戦犯」なんて表現を軽々しく使うような人のいる党に政権を語ってほしくないなあ。



ちょっと前の想定外の話

2005年08月08日 | 日記・エッセイ・コラム
 骨粗しょう症で通院中だったTさんのご家族から電話がありました。
 最近お見かけしないとおもっていたら、外出先で転んで腰を打たれ、そのまま整形外科の病院に入院されているとのこと。
 ご家族がおっしゃるには、Tさんは入院後の経過は良好であったが、現在40度近い熱が3日ぐらい続き、意識がもうろうとしてきた。目もうつろで焦点が合わない感じ。担当医はCTも採血も異常がないからしばらく様子をみると言っているが、家族からみてもどうも普通じゃない様子で心配。どうしたらいいでしょうか?というご相談です。
 他の病院に入院中の患者さんを、しかもご家族のお話だけで判断することは難しいけれど、ウイルス性の髄膜炎の可能性が考えられます。当然主治医もそれは想定しているとおもいますが、念のためウイルス性の髄膜炎の可能性はないかどうか、伺ってみてください。と私は答えました。
 翌日ご家族からお電話がありました。
 担当医にウイルス性の髄膜炎のことを聞くと、その医師の顔色が真っ青になって、Tさんを直ちに別の総合病院の脳外科に転院させました。そして脳外科での髄液検査の結果、案の定、髄膜炎の診断がついたそうです。
 実は私も研修医になってすぐに、ウイルス性の髄膜炎の患者さんを受け持っているのです。心筋梗塞で入院してきた患者さんだったので、私は心臓にばかり気をとられていて、髄膜炎のことは想定外でした。熱が下がらないが、採血では異常がないことを指導医に報告すると、すぐに髄液検査をするように指示されました。指導医が髄液検査の「ず」を発したときに、私は、あっ、とおもいあたったのですが、言われなければ正直なところ、気がつくのが遅れていたとおもいます。
ウイルス性の髄膜炎は家庭の医学のような本にも載っているポピュラーな疾患です。
 でも医者が病気についての知識があるということと、目の前の患者さんについて、その疾患の可能性を想定するということは別なのです。特にすでに別の病気で入院している患者さんが、入院中に全く分野違いの病気を併発したときには、主治医が「想定外」に陥ってしまう可能性が大きい。
 今回のケースは私の岡目八目が役に立ったわけですが、患者さんとしては、診断や治療方針に不安や疑問点があるときは、かかりつけ医や知り合いの医者にセカンドオピニオンを求めたり、ご自分で調べたりなさったことなどを、遠慮なく主治医に相談することが大事なのではないかとおもいます。