へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

くつろぎタイムは須庭寺で

2012-04-03 23:48:44 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

今日はとんでもない荒れた天気で、部活も午前中で終了して帰ることになった。
中島教授は温室が風で吹き飛ばされないようにあたふたしているし、結婚してくれの声も風にのって聞こえてきた。
春だというのに、この嵐はいったいなんだよ~。
同じように部活できていたたかのりが、
「午後ヒマなら須庭寺いかね?」
と、言ってきた。
「何しにいくんだ」
「ひまだし」
世間一般の高校1年生を迎えるあたりまえの15歳なら、カラオケいったりとかゲーセンいったりとかするだろうけど、なんで、
「須庭寺かあ」
になるんだ。
「ま、いいけど」
藤川家の菩提寺の須庭寺は、若い嫁…といっても不惑を越えた初々しいシスターと結婚した住職と、その長女と結婚した元ゾクの副住職と5人の子供たちで構成されている。
副住職さんと藤川先生は又従兄弟同士で、副住職さんの2番目の姉はシスターと大学時代の同窓生で須庭寺の末寺棒斐浄寺の尼さんだ。
ぼくとたかのりが須庭寺に向かうと、割烹着姿の百合絵さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいな、おいしいケーキができたところですのよ」
修道院での生活は十分充実したものだったのに、この不思議っこな元シスターも去年の地震で運命が大きくかわってしまった一人だ。
「地震さえなかったら、百合絵さんは今頃はオーストラリアの修道院に帰っていたの?」
たかのりの遠慮のない質問に、
「あら、わたくし、出てまいりましたのよ。京さまと日本が恋しくて」
と嫌がりもせず答えてくれた。
「まだ、好きなんですか?」
ちょっと興味があって聞いてみると、
「あら、今はもういい思い出ですわ」
と、ほおを赤らめた。
「じゃあ、今は住職様一筋ってこと?」
おいしいケーキはたっぷりあって、ここのうちの孫たちには大変好評だ。
そのケーキを食べる義理の孫たちに優しい視線をむけながら、
「さあ、わかりませんわ。だって、わたくし住職様しか存じませんから」
と意味不明なセリフが返ってきた。
「なんなんだ」
たかのりは、フォークをくわえたまま百合絵さんをつくづくを眺めている。
「オヤジも年だしな、いつおっちんでもおかしくないし、そしたら再婚もありうるしな」
どうみたってあぶないスジの人みたいな副住職さんは、面白くなさそうだ。
「パパは今でも反対なの?」
ことみさんにぎろりと睨まれ、副住職副住職さんは咳払いをしてごまかした。
「パパねえ」
ぼくは、平和でのどかな住職一家をちょっぴりうらやましく思った。
そういえば、ぼくのおかあさんと豆太郎君は今頃どうしているんだろう。
久しく忘れていたぼくが思いだそうとしても記憶にない母親と双子の兄のことが、一瞬だけ脳裏に浮かんで消えて行った。
そうか、ぼくは双子だったんだよ。



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