へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

棒斐浄寺、イルミネーションを外す

2011-02-17 22:59:27 | へちま細太郎

こんばんは、棒斐浄寺の京ちゃんよ。

今日は久しぶりにバカ弟が訪ねてきて、
「バレンタインデーまでで、あとは外すって言ってなかったか」
と、イルミネーション用のライトを見上げて文句をぶちかましてきた。
「昔あんたが乗っていた4輪に比べたらマシだと思うけどね」
弟はこれでも元暴走族だ。
「おかげで客も来てね、こんな山奥でも儲かってしょうがない」
弟は顔を覆い、激しくため息をついた。
「情けない、これが僧侶とは」
「人のこと言えんのか」
わかっている人はわかっているだろうが、こいつはうちの藤川家の菩提寺須庭寺の副住職だ。住職の娘に手を出して、本家のご隠居と住職にどつかれゾクから足を洗い、遠い北陸の地まで修行に出された。
私は、はめられたんだけどね。
「たまにさ、田吾作のバカがあらわれて、私を脅すんだけどさあ、いまさらなんなのって感じよねえ」
「は?田吾作?ねえちゃん、気は確かか」
「確かだよ~。あんまり憎たらしいから護符代わりに人参をぶら下げておくとさ、恨みがましい目でにらむんだわ」
「こんな山奥で無理もないとは思うけどさあ~」
やな視線を向けてくるな、こいつ…。
と、都合よく田吾作がふわふわと現れた。
「ほれ、見えるべ、あれだよ」
指さしてやれば、
「げっ」
弟は一瞬ひるんだが、
「おのれ、成仏させてくれるわ~」
と、数珠を取出し田吾作に向かって経を唱え始まった。
「このくそガキがあ」
田吾作のバカも負けてはいない。
「何なんだ」
さっきから背後で梯子を持った紀藤造園のおやじが呆れている。
「食い地と女好きだけじゃないんですねえ、藤川家は」
このおやじもとぼけてはいるが、しっかり田吾作が見えている。無視の仕方が半端なく、何とか気づかせようと田吾作もいたづらをかましているが、それでも知らんふりだ。
「で、どうします?外しますよ、イルミネーション。ご住職からも言われていますので」
じろりと横目でにらまれて、さすがの私も考えてしまう。
「そうだねえ」
弟と田吾作の不毛の対決をみつつ、少しは寂しいけれどイルミネーションを外す気になったのよ。
つまんないわねえ。



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