へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

キチロー・・・

2016-07-23 08:31:06 | へちま細太郎

はい、藤川家の筆頭家老の地位を窺う悠樹です。

先週から、北海道にある藤川家の農場にきているんだが、ここは後継者がいなくて閉鎖しようとしていた農場を、経営者ごと引き受けたところなんだそうだ。
経営者は、そのまま住んでいて、気の毒なことにキチローのめんどうを見させられている。
ところが、都会に出てそのまま結婚してしまった息子家族とはめったに顔を合わせない経営者夫婦は、キチローを徹底的にかわいがっているらしい。
「なんでえ~、つまんねえ」
と、勝手にくっついてきた美都地区豪農コンビは、面白くない。田舎者のふたりは、4世代同居なので年よりには弱い。むしろ甘え切っているキチローに腹立てている。
さらにパワーアップして体重も増えているキチローに、
「動け。年よりを動かして申し訳ないと思わないのか」
と、ムチをふるわんばかりに追い立てていた。
「キチローちゃんをそこまで…」
という経営者夫婦に、御隠居は、
「あれの母親は元レディースでな、徹底的に鍛えてくれ、と頼まれているんだな。お二人も遠慮せずにこきつかってやってくれ」
と、豪農コンビのすることを頼もしく見ている。
「いやあ、でも、孫と重なって…」
とおばあちゃんは、ため息をつく。
「孫だと思うからいかん、あれは、ヲタクという怪獣じゃ」
「か、怪獣?」
じいちゃんは、じゃがバターを落とさん勢いだ。何もそんなにびっくりしなくても…。
「ああ、そういえば、思い当たることもなくはないな、なあ」
と、ばあちゃんに視線を向ければ、ばあちゃんは、
「怪獣というよりは、ねえ。。。」
と、言われてみれば、と改めて外で豪農コンビに使われて草むしりをしているキチローを眺めてはため息をつく。
まあ、想像通りの反応だな。
と、茶をすすった瞬間、
「何やってんだ、てめえはあああ」
という、水嶋の怒鳴り声がした。
何事か、と外に出てみれば、しゃがみこんでいるキチローを見下ろしてふたりが、怒っている。
「何やってんだよ」
声をかけてみれば、
「このやろー、ポ○モ○ご~をやっていた」
「ポ○モ○ごーだあ?」
キチローの手にはポ○モ○の画面がうつっているスマホ。で、ちゅーが小栗の体にへばりついていた。
「草むしりをしているかと思えば、このやろー」
と、小栗が手を伸ばそうとしている瞬間、
「成敗っ!!」
と、御隠居の木刀がスマホを跳ね上げ、落ちたスマホを、さらに木刀が粉砕してしまった。
「ああ」
という間もない。
「ぶああかもんがあああああ」
怒髪天を衝くような大音声に、全員の耳がき~んき~んとなった。
キチローは目ん玉をひらいたまんま硬直し、経営者のじいちゃんばあちゃんは腰をぬかしたが、豪農コンビは、大爆笑していた。
なんだ、こいつら。
御隠居は、
「助さん格さん、懲らしめてやりなさい」
と、言い捨てて去っていってしまった。
あの~、御隠居さま?それをいうなら、藤川家は違うのでは?と発言しようとしたけど、
「お許しがでたぞ、いくぞ助さん」
「OK、格さん」
と、豪農コンビがまだ形を残しているスマホをさらにこなごなにし、
「ほれ、おめえは、ブタのクソそうじだ」
と、ショックのあまり声も出ないキチローの襟をつかんで引きずっていってしまった。
「ひえええええええ」
やっと声の出たじいちゃんとばあちゃんは、
「てえしたもんだああ」
と、妙に感心し、
「甘やかしてはいかんなあ」
「そうだねえ、これから見習おうっか」
と、うなづき合っていた。
キチロー、おめえの安住の地はない。