へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

困り果てた庵住さま

2006-07-27 23:21:54 | ひるまのもめごと
やっと、おてんとさまが顔を出したぜ。
梅雨明けは近い、海行って日焼けだ…、と思ったら部活だ。
こんなことでは、いつまでも彼女ができない寂しい30代男のけんちゃんだ

つくばった山のうっそうとした森から、数羽のカラスが飛んで現れてきて、近くの枝にとまると、じっと俺たちを見下ろした。
「何なの、あのカラスは」
匿名希望の東山先生は、気味の悪そうな顔で見回していた。
と、そこへ門の中から尼さんが顔を出した。そして、俺たちに目をとめ、
「あら、本家の坊や、お久しぶり」
と、藤川を見て笑った。
「本家の坊やったあ、誰のこった」
白いやつがにやにや笑ってる。 俺と匿名希望の東山先生は顔を見合わせた。 白いやつと藤川は、高校時代からの顔なじみらしいから事情は知ってるんだが、俺たちは学校以外での付き合いはないからさっぱりわからん。
「私、この子とは遠縁に当たるものでこの寺の庵住をしております」
尼さんは自己紹介をしてから、紀藤造園の親方に、
「この子、ちゃんと謝りましたか?」
と聞けば、
「いやあ毎度のことですからね」
と親方は、生々しい顔の青タンをなでた。バツの悪そうな藤川の素性は後回しにして、肝心なことをたずねなくては。
「あのこちらにご厄介になっているはずの…」
「前田先生のこと?」
庵住さまの表情がぱっと輝いた。
「ああそう、お迎えに見えたのね?ああそう…」
何でそんなに嬉しそうに話す。
「ここは女性しか住んでおりませんでしょう?確かに、男性がいてくれると便利は便利なんですが、ね~え」
ね~えって…。 聞かれもしないのにペラペラしゃべるのは、重宝がられているか、持て余されているかどっちかだ。のぶちゃんがとても役に立ってるとは思えないから、この場合後者だ。
「ほんにねえ、生き物は大切にしたいから、というのはわかるのですが、何もカラスを餌付けしなくてもいいのに…」
俺は頭を抱えた。のぶちゃんは、教師としては結構“できる男”だが、典型的な“ダメ亭主”になりそうな男である。律儀もの故、頑固で融通が利かない。ダメぶりを発揮しているな、俺はうなづきながらも、遠い中学時代生徒会長だったのぶちゃんを思い浮かべていた。

情けないぜ、のぶちゃん…。

つづく