2016-09-14
韓国、「企業破産」手術台に乗る1150社「経済急変」で大童
一部省略
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
破産担当判事が不足
日本の来た道を歩む
韓国経済はSOSである。韓国最大で世界8位の海運企業、韓進(ハンジン)海運をはじめとして今年に入ってから倒産企業が続出している。
正式には、「法定管理申請」(企業再生手続き)した企業である。裁判所が「法定管理申請」を認可し管理する企業数は、すでに1150社と過去最大に達した。
「裁判所の破産部判事でさえ、『あまりにも突然の増え方で怖いほど』と憂慮している」と報じられる始末だ。
韓国経済が、ここまで追い込まれてきたのは輸出不振による。
しかも、重厚長大産業という一時期を終えた産業構造が災いしている。
日本の資本と技術でスタートした韓国産業は、明らかに賞味期限切れになっている。
重厚長大産業に代わる産業群が育たないのだ。
サムスンは、日本のメモリー半導体技術を窃取して半導体ビジネスの基礎を築き、スマホで大成功した。
だが、メモリー半導体から上級のシステム半導体へ発展する研究基盤がないのだ。
この結果、スマートカー(全自動運転車)という、21世紀最大の成長分野と目される分野の部品製造で、大きく出遅れている。
サムスンすらこの状態である。他の企業では推して知るべし、だ。
重厚長大産業に代わる、次の産業が見当たらない深刻な事態になっている。
問題は、倒産企業の続出が一過性で終わらない点にある。
それは、韓国経済が「底冷え」状態に陥っているからだ。
その証拠は、物価の低迷である。物価は経済の「体温計」である。
ここから判断すると、韓国経済は企業倒産続出が象徴するように、嵐の到来を予告しているようだ。
破産担当判事が不足
『中央日報』(9月5日付)は、「韓国、管理企業1150社、裁判所『私たちも怖いほど』」と題して次のように伝えた。
この記事では、日本でいうところの「会社更生法」に該当する企業を、韓国では「管理企業」と呼んでいる。
(1)「9月4日、最高裁によれば今年に入ってから7月までに法定管理(企業再生手続き)を申請した企業は562社で、同期間に史上最高値を記録した昨年の540社を超えた。
破産申請も401件で前年同期(362件)よりも10.8%増えた。
全国14カ所の裁判所破産部が管理する法定管理企業は史上最高の1150社で、1年前より100社以上増えた。
今年の1~7月までに、「法定管理」を申請した企業数は562社である。
過去最高の昨年同期を4%も上回っている。
この結果、裁判所破産部が管理中の法定管理企業は史上最高の1150社にも上がった。
前年同期よりも9.5%の増加である。
このように、裁判所が管理する「法定管理企業」が累増している背景は、経営破綻会社の立ち直りが遅いこと。
経営不振企業が立ち直れる外部要件は、物価上昇過程が必要である。
物価が上昇している過程では企業の売上も増加する。
これが、企業再建の大きな条件である。
増収でなければ、固定費の増加分を賄えないからだ。
その肝心の物価が「底冷え」状態では、経営不振企業の再建は難しくなる。「法定管理企業」が累増している大きな理由はこれであろう。
(2)「法定管理企業の経営全般を管理・監督する破産担当判事は84人で、(定員は)ほとんど足踏み状態だ。
ソウル中央地方裁判所は破産部判事18人が450社を担当している。
さらに資産規模6兆7000億ウォン(約6240億円)に達する韓進海運は、破産部のキャリアが6カ月余りに過ぎない部長判事に割り当てられた。
韓国の裁判所で、法定管理企業の破産担当判事は84人であるという。
この担当判事の定員は増えていないから、担当判事が増加する「管理企業」の業務で多忙を極めているという。
こうして、韓国経済の将来を懸念するほどだ。確かに、「管理企業」が累増している事態は由々しきことである。
「管理企業」を学校に喩えれば、「卒業生」よりも「新入生」が多い状態は、韓国経済の停滞を強く印象づける。
前述のように、物価が上がらない経済は低温体質である。
日本経済もこの症状に悩み、アベノミクスを実施している。
韓国も同じ症状になりかかってきた。日本の企業は、この低温体質に抵抗力をつけてきた。
技術開発力で新分野を切り開いている。だが、韓国企業はほとんど「無抵抗」状態である。
「イノベーション能力」の欠如が災いしている。
ここで、過去の韓国経済を襲った2度の通貨危機(1997年と2009年)当時のGDPデフレーター(総合物価指数=国内で生産されるすべての財とサービスの価格)によって、「経済体温」を挙げておきたい。
1997年アジア通貨危機 2009年韓国通貨危機
1995年 68.25 05年 88.93
96年 71.16 06年 88.80
97年 74.05 07年 90.93
98年 77.47 08年 93.62
99年 76.55 09年 96.54
2000年 77.38 10年 100.00
01年 80.21 11年 101.59
02年 82.66 12年 102.65
1997年と2009年の通貨危機を比べると、1997年のアジア通貨危機の方が、GDPデフレーターで負の影響が認められる。
問題は、これからのGDPデフレーターの推移である。
2013年 103.52
14年 104.10
15年 106.42
16年 107.00(IMF予想)
IMF予想では、16年は前年比0.54%の上昇である。
今後の世界経済は、中国経済の急減速の影響を受けて輸出環境が停滞予想である。
この前提に立てば、これからGDPデフレーターは、1997年のアジア通貨危機以上の停滞が予想される。
アジア通貨危機はアジア経済圏に止まった。
今後の輸出停滞は、世界規模の広がりが予想される。
となれば、韓国経済は高い輸出依存であるだけに、そのダメージは過去にない大きさとなろう。
こういう物価状況=経済体温を想定すると、韓国の「法定管理企業」の累増は、韓国経済の不振を予告していると見られる。
現に、4~6月期の実質GDPは前期比0.8%増に止まった。
今年1~3月期の前期比0.5%増を0.3ポイント上回ったものの、昨年10~12月期の同0.7%増以降、3四半期連続で0%台の成長率にとどまる。
韓国国内で、「低成長が慢性化するのではないか」との懸念が広がっている。
私は、一貫して韓国経済の低成長を指摘してきたから、当然の結果と見るのだ。
その根拠は、人口動態の悪化である。日本経済が通ってきた道である。
遅まきながら、韓国でもこの人口動態の悪化に注目が集まっている。
日本の来た道を歩む
『朝鮮日報』(9月2日付)は、「韓国、生産年齢人口減で産業現場に打撃、日本と同じ道歩む」と題する記事を掲載した。
私が韓国経済の将来を悲観視してきた理由は、総人口に占める生産年齢人口比率の低下にある。
ようやく、韓国でもこの認識が深まった。余りにも「能天気」だ。中国も同様な状況にある。
生産年齢人口の推移は一国経済と深い関係にあるのは当然である。
ちなみに。GDPの伸び率=①労働人口の増加率+②資本投入増加率+③生産性伸び率である。
この式を思い出せば、生産年齢人口の減少がどれだけ大きな影響を与えるか。それが分かるはずだ。
ついでに指摘すれば、中国も韓国と事情は全く同じである。
前記の①、②、③すべてが減少に向かっている。
それでも「中華の夢」とか言ってはしゃぎ回っている。
とりわけ、人民解放軍は日本を敵視している。
軍事力も経済力が衰えれば自然に、下降に向かうものだ。
この当たり前の理屈が分からず、今日も尖閣列島周辺をうろついているのだろう。合理的な思考力に欠ける不思議な軍隊である。
(3)「韓国では生産年齢人口(15~64歳)が来年から減少に転じる。
韓国経済が本格的な人口減少局面に直面すると、産業現場ではどんな業種が最も影響を受けるのか。
韓国の生産年齢人口は今年の3704万人がピークとなり、来年以降は減少する。
その衝撃を最も早く受けるのは住宅産業になる見通しだ。
30~50代は2014年現在で韓国のマンションの76%を保有する不動産市場の主役だ。
しかし、30~50代が人口全体に占める割合は48%から2030年には42%に低下。
人数は240万人減少する。30~50代は自動車の登録台数ベースで77%を保有しており、自動車産業も同様の状況と言える。
自動車生産は11年の461万7000台をピークとして、それ以降は450万台前後にとどまっている」。
韓国の生産年齢人口は、来年から減少すると指摘している。
総人口に占める生産年齢人口比率は、すでに2014年がピークであった。
それ以降は、「人口オーナス期」に入っている。
この状態になると、経済成長率は下降に向かうのだ。生産年齢人口の減少は、総人口に占める生産年齢人口比率よりも若干遅れる。
だから、来年になるのは不思議でない。
こうして、韓国経済は誰の目にも明らかに下り坂に入る。
一国経済の核になる「30~50代」の人数が減っていくわけだから、住宅や自動車の需要が低下する。
韓国では、景気回復の促進剤に住宅需要を刺激すべく、ローン条件を緩和してきた。
これが家計債務を過去最高水準に押し上げている。
「時限爆弾」と言われるほどだが、「30~50代」の人口減少は、確実にこの「時限爆弾」を破裂させるに違いない。人口動態の変化から読み取れるのだ。
(4)「住宅、自動車の販売減少はそれに必要な鉄鋼など原材料にも打撃を与える。
ポスコ経営研究院動向分析センターのチョン・チョルホ首席研究員は、
『鉄鋼産業に迫る人口減少の衝撃』と題するリポートで、『建設業、自動車の生産が減少し、材料として使われる鉄鋼の生産も大きく減少が見込まれる』と指摘した。
韓国の鉄鋼需要の42%を建設、19%を自動車が占める。韓国の粗鋼生産量は14年に7154万トンでピークを迎え、昨年は6976万トンに減少した」。
30~50代の人口減少は、住宅と自動車の需要減となって跳ね返ってくる。
それは、鉄鋼業に現れるはずだ。現に、粗鋼生産量は14年に、7154万トンでピークを迎えた。
昨年は6976万トンに減少した。これは、内需の減少だけでなく輸出需要の減少の影響もあるが、主体の内需がすでにピークアウトしていることを示唆している。
(5)「韓国に先立ち人口減少期に差し掛かっている日本の場合、既に鉄鋼消費、新規住宅建設、自動車の新規登録台数などが落ち込んでいる。
日本の生産年齢人口は1995年の8659万人がピークで、2015年には7696万人まで減少した。
20年で主な消費層が約1000万人も減少した計算だ。
生産年齢人口の減少が始まると、新規住宅建設が96年から減少に転じた。
自動車(登録台数ベース)は90年がピークだった。
昨年の日本の鉄鋼消費は、生産年齢人口が最多だった95年の81%にすぎない。
韓国経済研究院(KDI)マクロ経済研究部のクォン・ギュホ研究委員は、
『生産年齢人口の減少は資産バブル崩壊とともに1990年初めに始まった日本の長期不況の原因だ』と指摘した」。
ここに挙げられている日本経済に関する記述は、すべてこの通りである。
これまで韓国は、日本経済の「後退」を半ば嘲笑してみていた。
はっきり言えば、「いい気味だ」と。だが、その原因は人口動態の悪化という不可避的な原因にある。
韓国もこの認識を深めた結果、「いい気味」と言って傍観しているわけにいかなくなった。
明日の韓国が直面する姿でもある。
韓国は、こうした「景気後退」への備えがあるのか。
実態は、ゼロである。嘲笑してきた日本の姿が、明日の韓国の迎える事態である。韓国は今、これを知って愕然としているのだ。
(2016年9月14日