韓国経済にチラつく悪夢のシナリオ 人民元SDR採用で輸出産業に大打撃か
ZAKZAK夕刊フジ
2015.11.28
国際通貨基金(IMF)は30日に理事会を開き、
中国の人民元を準備資産「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨に採用することを決める。
形の上ではドルや円などと並ぶ主要通貨となり、
習近平政権の悲願は達成されるが、韓国からは懸念の声が出ている。
「チャイナショックに最も脆弱(ぜいじゃく)な国」と指摘されるだけに、
SDR採用後に人民元安が加速、
韓国経済が大打撃を受けるという悪夢のシナリオが払拭できないようだ。
SDRは、IMFが1969年に創設した準備資産の仕組みで、
経済危機で外貨不足に陥った際にIMFへの出資比率に応じて加盟国に配分され、
ドル、ユーロ、円、ポンドの4通貨と交換できる。
近年では財政危機に陥ったギリシャが債務返済のため活用した。
構成通貨は原則5年ごとに見直しが検討され、
今年は5番目の通貨として人民元の採用が決まる見込みだ。
実際の採用は来年10月以降となる可能性もある。
習政権はこれまでIMFや主要国にSDR採用を強く働きかけてきた。
米国に次ぐ世界2位の経済大国にもかかわらず、
人民元が主要通貨に入っていない状態は耐え難いと考えていたようだ。
元内閣参事官で嘉悦大の高橋洋一教授は、
「SDR採用は、メンツを重視する中国にとっては至上の喜びだろう。
ただ、IMFの認定によって市場が本質的に変わるわけではない。
人民元は変動相場制ではなく、
完全に自由な交換が可能ではないという問題は残ったままだ」と指摘する。
金融市場でも、
国際通貨となる人民元への需要が高まるとみる関係者もいるが、
一方で人民元の急落リスクがかえって高まるとの声も根強い。
中国当局は今年7~9月に総額2290億ドル(約28兆円)に上る大規模なドル売り介入を行ったが、
人民元が安定しているように見せてSDR採用につなげようという狙いがうかがえた。
米大手銀行バンク・オブ・アメリカのグローバル金利・為替調査部門責任者、
デービッド・ウー氏はブルームバーグに対し、
「SDRに採用された後、中国には人民元相場を下支えするインセンティブ(動機付け)がなくなる」と分析、
米国が年内に利上げすれば「中国が元安を容認する口実を与えることになる」と指摘した。
米運用大手ピムコのルーク・スパジック氏もブログで「半年から1年後にかけて人民元が下落する余地が拡大している」と述べている。
通貨安と表裏一体のキャピタルフライト(資本逃避)も深刻だ。
米財務省の推計によると、今年1~8月の間に中国からは5000億ドル(約61兆円)の資本が流出。
10月にはひとまず流入超となったものの、
人民元が再び下落基調となれば、
資本流出も加速しかねない。
SDR採用で人民元安が加速するなど、中国経済変調の影響を最も強く受けるのが韓国だ。
中国が8月に人民元を突如切り下げた際にも、
韓国は株価急落やウォン安が連動するなど大混乱に見舞われた。
人民元が下落するなかでウォン安になっても、輸出拡大は期待しづらい。
韓国にとって中国は最大の輸出先であると同時に、
機械・石油化学・鉄鋼など製造業の輸出で競合する相手でもあるためだ。
韓国メディアによると、米格付け大手のムーディーズは、
輸出先の約6割が新興市場に集中し、
国内総生産(GDP)の約5割が新興市場に依存する韓国は、
「中国など新興市場の成長鈍化に最も脆弱(ぜいじゃく)」と名指ししたという。
韓国のシンクタンク、現代経済研究院も、
人民元が5%下落すれば、今後1年間、韓国の輸出額は約3%減少すると予想した。
人民元のSDR採用についても楽観的な意見がある一方で、
韓国大手の大信証券はリポートで「人民元がSDRに採用された場合、
人民元の需要拡大による資本流入より、
資本市場の開放に伴う資本流出の方が大きくなる」として
人民元に下落圧力が強まるとした。
また、聯合ニュースによると、
韓国のハイ投資証券は「中長期的にウォン資産への需要が減少する恐れがある」と影響を分析している。
『韓国経済阿鼻叫喚~2016年の衝撃~』(アイバス出版)の著書がある週刊東洋経済元編集長、勝又壽良氏はこう警鐘を鳴らす。
「SDR採用後に人民元が下落すれば、韓国は中国の輸出攻勢にさらされる。
加えて中国との自由貿易協定(FTA)が発効すれば工業製品でも競争力を失うことは避けられない」