中国経済転落の可能性
2013年05月02日(Thu) 岡崎研究所
4月2日付英Financial Times紙にて、Martin Wolf同紙副編集長が、中国は高度成長期が終わり、成長率が今後6.5%程度に低下することが予想され、高度成長経済から低成長経済への移行の管理は容易ではない、と述べています。
すなわち、中国政府の見解によれば、今後10年間で中国経済はおそらく急減速する。
2000年から2010年にかけて年10%を超えていた成長率は、2018年から2022年にかけて年6.5%にとどまるという。
経済が先進国に追いつき始めるときに起きる「自然着陸」(1970年代の日本、1990年代の韓国)の時が、10%の経済成長を35年続けてきた中国にも遂にやって来たのである。.
経済モデルを使って成長鈍化の理由を見ると、1. インフラ投資の潜在的可能性の著しい低下、2. 資産価値の低下と過剰設備の増大、3. 労働供給の伸び率の急速な低下、4. 都市化速度の鈍化、5. 地方財政や不動産分野でのリスクの増大、が挙げられる。
今後、GDPに占める投資の割合は、2011年の49%から2022年には42%に低下、GDPに占める消費の割合は2011年の48%から2022年には56%に高まる、と予想される。
またGDPに占める工業の割合は45%から40%に縮小し、サービス業の割合が45%から55%に急拡大するという。経済は投資主導から消費主導になる。
供給サイドでは、投資の減速に伴う資本ストックの伸びの鈍化が経済成長の鈍化の最大の原因となっている。
このように成長鈍化が間近に迫っているという見方は極めてもっともである。
しかしもっと楽観的な見方もありうる。
米国の一調査機関のデータによれば、現在の中国の1人あたりGDPは1966年の日本、1988年の韓国と同じである。その時点から日本は7年間、韓国は9年間超高速の成長を続けた。
また米国の水準と比較すると、中国は1950年の日本、1982年の韓国の地位にあり、中国の成長の可能性がさらに示唆されている。
中国の1人あたりGDPは、米国の5分の1の一寸上にあり、成長の余地が大きいと考えられる。
しかし、日本の経験が示すように、高投資・高成長経済から低投資・低成長経済への移行の管理は困難で、中国経済の見通しに悲観的にならざるを得ない。
少なくとも3つのリスクが考えられる。
第1に、予想される成長率が10%超から例えば6%に低下する場合、必要な生産資本への投資率はGDP比50%から例えば30%と、劇的に下がる。
第2に、急成長期には貸付の急増が、不動産投資をはじめ、限界収益が低下していく投資に向けられていたので、成長率が低下すると不良債権増える可能性が高い。
第3に、予想される消費拡大を維持するため、国営企業を含む企業部門から家計部門への所得移転が必要となり、企業収益が減少し、投資の激減を加速しかねない。
投資崩壊と金融混乱を招かずに成長率低下を管理することの難しさは、日本の経験が如実に物語っている。
中国はいまなお絶大な潜在成長力を持っているが、今後10年が過去10年よりずっと厳しい時期になる恐れがある、と述べています。
中国経済が先進国に追いつき始めたので、いわゆる「自然着陸」が起こり、成長率が鈍化するのは当然ですが、上記の論調は、高度成長から低成長への移行の管理は容易ではなく、中国経済が転落する可能性がある、との分析です。
転落とは、投資の劇的な減少と不良債権の増大ですが、分析はこれを投資崩壊と金融混乱と言っています。
確かにこれは起こりうることです。中国における過剰投資は、特にインフラや生産設備について指摘されており、中国政府は経済を投資主導から消費主導に舵を切ろうとしています。
論説はその舵取りがスムーズに行かない恐れがあると指摘しているのです。不良債権についても、特に政府系銀行で既に多額にのぼっていると言われており、これが成長の鈍化に伴って一層増加すると見られます。
中国経済だけをとっても、以上の他にも、労賃の高騰、環境問題、水不足など多くの問題があり、習近平政権の経済運営は容易ではありません。