韓国、「家計プア急増」個人が貧しくて経済はジリ貧型へ
2015-05-26 03:40:41
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
住宅担保の借金漬け
瓦解した家計経済へ
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輸出依存度を高めてきた韓国が現在、頼みの中国経済不調で曲がり角に立たされている。
IMF(国際通貨基金)の年次報告でも、輸出依存度を下げて内需依存型経済への転換を求められている。
輸出依存度が高いとは、内需依存度の低さを表している。
朝鮮戦争後の復興では、手っ取り早い輸出で稼ぐ戦略が求められた。
結局、それが現在まで続いているのだ。
韓国経済を支配している財閥制度は、この輸出依存度の高さと深い関係にある。
内需の低迷が、韓国経済の行く手を一段と暗いものにしている。
最近は、「家計プア」なる言葉まで登場している。
「家計貧乏」という意味だ。
先の利下げを契機に、家計の借入が急増している。
本来ならば、企業が借り入れて設備投資など前向きの資金需要に充当するのが筋である。
韓国では家計の借入が膨らんでいる。
米国では、年内の利上げが予想されている。
その場合、韓国も「追随利上げ」が見込まれる。
米韓の貸出金利のバランスを取らないと、韓国からドル流出の起こるリスク回避のためである。
韓国の追随利上げは、「家計プア」を直撃する。
早くも、その懸念が議論を呼んでいる。
住宅担保の借金漬け
『朝鮮日報』(5月15日付け)は、次のように伝えた。
① 「韓国では住宅担保ローンを借り入れ、元金を返せず、利息だけ払っている世帯は190万世帯に達すると推定される。
銀行業界の住宅担保ローン残高294兆3000億ウォン(約32兆2200億円)のうち、
利息だけ返済されているローンの割合は75%、約220兆5000億ウォン(約24兆1400億円)に達する。
問題は利息のみを払っている世帯の負債・所得構造が、元金も返済している家庭に比べて厳しいことだ。
この層は、金利上昇によって真っ先に影響を受けて、住宅ローン危機発生のの引き金になりかねな」。
住宅担保ローンのうち、利息だけ返済されているーローンの割合は75%にも及んでいるという。
理由は、所得が少なくて元本を返済する経済的なゆとりがないことだ。
日本のケースで見れば、ローンに対する所得制限が低いことにつきる。
本来ならば、貸付条件を満たさない人々まで融資されているのだろう。
かつて、日本で話題になった「サラ金」まがいの話しである。
② 「本紙が現代経済研究院に依頼し、統計庁の家計金融福祉調査のデータ(全国2万世帯対象)を分析した結果、
利息のみを支払っている世帯の年間可処分所得は4121万ウォン(約451万円)で、
元金も返済している世帯(4275万ウォン)に比べ154万ウォン少なかった。
通常、元金も返済している世帯は、毎月返済に充てる金額が多いため、可処分所得が相対的に少ないかと思われたが、
実際には利息のみを支払う世帯よりも手元に残る金額が多かった」。
利息のみを支払っている世帯の年間可処分所得は、約451万円である。
元利金も返済している世帯に比べて3.6%少なかっただけである。
このデータを見ると、一瞬、狐につままれた感じがする。
わずか、3.6%の可処分所得が少ないだけで、元金を返済できずに、利息だけの返済にとどまっている理由に合理性が見られないからだ。
この疑問を解くカギは、次のパラグラフで説明されている。
③ 「利息のみを支払う世帯の債務は1億1831万ウォン(約1295万円)で、元金も返済している世帯(9459万ウォン)に比べ、2370万ウォン多かった。
利息のみを支払う世帯は所得が少ないにもかかわらず、相対的に多くの債務を抱えていることになる。
現代経済研究院のチョ・ギュリム研究員は、『利息のみ支払う人には、元金返済が難しいほど低所得の人が多いとみられる。
いわゆるデレバレッジング(負債圧縮)が全く進んでいない層と言える』と指摘した」。
利息のみを支払う世帯の債務総額は1295万円である。
元利金の返済をしている世帯の債務総額は865万円である。
債務総額は、430万円も少ないのだ。
要するに、住宅担保ローンの返済で元金しか返済できない層は、もともと債務総額が過重であることを示している。
本来ならば、住宅担保ローンの貸付対象になりえない人々である。
日本の住宅担保ローンは、住宅を購入する際に組むローンが主な対象である。
そのほか、住宅ローンの返済が終わっていれば、金銭消費貸借契約で住宅が担保になって貸付けられる。したがって、
最初から過重なローンにはならない仕組みになっている。
韓国ではその点が曖昧なのだろう。
住宅が幾重にも担保に供されているから、無理な返済計画が認められているに違いない。
もう一つ疑問に思うのは、個人の信用情報が登録されていないのか、ということである。
日本でローンを組む場合は、信用情報機関に登録されることが条件である。
万一、月々の返済が滞った場合、個人の信用情報が登録される仕組みである。
韓国では、こういったシステムがなければ、過重債務が多発するのは当然であろう。
韓国紙『ソウル経済』(5月13日付け)は、次のように伝えた。
④ 「韓国5大銀行の家計融資規模は、4月だけでも8兆ウォン(約9000億円)以上急増した。
5大銀行が国内家計融資市場の約80%を占めることから、4月の家計融資増加額は10兆ウォン(約1兆1000億円)に迫るものとみられている。
統計が始まった2008年以降、家計融資が1ヶ月に10兆ウォン近く増加したのは前例がない。
昨年、政府が住宅担保認定比率(LTV:貸出の対象となる物件の評価額と、
実際の貸出金額の比率)と総負債償還比率(DTI:所得と元利金償還額の比率)を緩和した後、
個人向け融資の規模が爆発的な増加傾向を見せている」。
韓国は個人消費刺激のために、住宅担保認定比率(LTV)や総負債償還比率(DTI)の緩和策を打ち出した。
これが家計債務の「歴史的」な増加をもたらした原因とされる。
個人消費活性化策としては、決して褒められるべき政策でない。
所得減税などによる可処分所得増加策が行われなければならなかった。
過去、クレジットカードの利用促進策を採用して大失敗した前歴がある。
カード利用によって、個人消費のテコ入れを計ったものである。
だが、カード未決済者の急増を招いて「徳政令」を出さざるを得ない羽目に陥った。
今回の住宅担保認定比率(LTV)や総負債償還比率(DTI)の緩和は、前記の「クレジット倒産」を増やしたときと同じ失敗をする危険性を抱えている。
私は、韓国政府がLTVやDTIの緩和策採用を決めたときから、この政策の限界を指摘しておいた。
どうやら、それが現実化しそうな雲行きである。
『中央日報』(5月15日付け)は、次のように伝えた。
⑤ 「5月14日の韓国銀行の『金融市場動向』報告書によると今年4月、銀行の家計融資残額は579兆1000億ウォンで、1カ月前より8兆5000億ウォン増加した。
前月である3月の家計融資増加額(4兆6000億ウォン)を『ダブル・スコア』で跳び越えた。
韓銀が関連統計を取り始めた2008年以降の最大幅だ。
以前の最大記録は昨年10月の6兆9000億ウォンだった」。
前記の『ソウル経済』の記事と重複する面はあるが、『中央日報』記事と重ね合わせて読むと、病める韓国経済の実態が把握できるであろう。
4月の家計融資増加額は3月の増加額の2倍にも当たる「ダブル・スコア」と揶揄する記事になっている。
⑥ 「今年1月から4月まで増えた家計融資は18兆1000億ウォンに達する。
1年が半分も終わっていない現在、すでに2008~2012年の年平均家計融資増加額(26兆ウォン)に近くなっているほどだ。
増えた融資のほとんどが住宅を担保にした負債である。
今年に入って4カ月間で増加した住宅担保貸付は19兆6000億ウォンである」。
今年の1~4月の家計融資増加額は、18兆1000億ウォン(約1兆6500億円)である。
この増加額を年間ベースに換算すると4.95兆円になる。
2008~2012年の年平均家計融資増加額(26兆ウォン=2.38兆円)であるから、今年の1~4月だけの家計融資増加額がいかに急ピッチであるかが分かる。
今年増えた家計融資のほとんどが住宅を担保にした負債であるという。
こうなると、住宅担保融資条件緩和が韓国経済に重大な影響を及ぼすリスクが一段と高まるのだ。
ここで、マッキンゼー国際研究所が発表した、中国と韓国の部門別債務の対名目GDP比(%)を明らかにしておきたい。
比較時点は、2014年4~6月である。
韓国 中国
政府 44 55
金融 56 65
非金融105 125
家計 81 38
これを見ると、「借金漬け」中国と比べた韓国は、家計部門での債務が81%にも達している。
不動産バブルで苦悩する中国の家計債務は、38%に止まっているのだ。
韓国の家計債務がいかに過重であるかは明白である。
すでに限界を超えていることは間違いない。
韓国は一体どのようにして経済活性化を図るのか。
通常、経済の活性化と言えば、企業部門の生産を上げると同時に、それが賃上げに結びつけ個人消費を盛り上げるというコースである。
アベノミクスは、このセオリー通りの経済政策を展開している。
韓国では、個人消費の活性化の前段である企業部門が不活発である。
それに手を付けず、住宅担保融資の条件緩和策という「川下」だけに刺激を与えた。
可処分所得が増加せずに、家計債務だけが増える「奇形」になっている。