勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
2015-04-29
日韓の大卒就職事情
観光も日本が一枚上
最近の韓国をめぐるニュースには、明るい話しがほとんどない。
気の滅入る話しばかりだ。
中でも胸を痛めるのは、大卒失業者が過去最高の50万人(大学定員58万人)を上回ったことである。
典型的な「学歴社会」の韓国で、「大学は出たけれど」職がない状況である。
昭和初期の日本に見られたように、大卒失業者が群れをなしていた。
その話しを彷彿とさせている。
現在、日本の大卒就職状況は「快調」そのものである。
この3月に卒業した大学生の2月1日時点の就職内定率は86.7%となり、
前年同期を3.8ポイント上回った。
4年連続の改善で、
リーマン・ショックの影響が深刻化する前の2009年2月(86.3%)を超えている。
来年の大卒予定者の場合、
すでに「内定辞退」が続出しているほどだである。
大学側が、学生に対して「内定辞退」のコツを伝授するという恵まれた状況にある。
この原因は、何を隠そう「アベノミクス」の成果である。
世に、アベノミクス批判は多い。
大卒就職戦線は皮肉にも、アベノミクス効果を満喫しているのだ。
日韓の大卒就職事情
『韓国経済新聞』(4月16日付け)は、次のように伝えた。
① 「韓国統計庁が4月15日発表した『2015年3月雇用動向』によれば、3月の大卒失業者は50万1000人(失業率4.3%)と調査された。
前月よりも2万人、前年同月と比較すると3万9000人増となった。
大卒失業者が50万人を超えたのは1999年6月に関連統計調査を始めて以来初めてだ」。
韓国には、学歴別の雇用統計があるようだ。
日本ではこうした学歴区分の雇用統計は存在しない。
儒教社会の学歴尊重というムードを反映したものだろうか。
この3月に卒業した大卒失業者が50万1000人もいる。
学舎を出たらすぐに失業者の群れに投ずる。
一見、失業者が路頭に迷っているイメージだが、
必ずしもそういった暗いものではなさそうである。
「不本意就職」をせずに、
再度の大企業の入社を目指す「就職浪人」のようである。
この問題については、先週のブログで取り上げた。
② 「3月の15~29歳の青年失業者は45万5000人で、昨年3月よりも4万3000人増加した。
失業率は10.7%で直前の2月(11.0%)と比較すると多少減ったが、
2000年に新たな失業率指標が導入されて以降3月基準では最高値を記録した。
四半期別で見ると20代大卒者の求職難はさらに明確だ。
今年1~3月期の20代大卒者失業率は9.5%で前年同期比1ポイント上昇した。
2000年1~3月期の9.4%を15年ぶりに更新した数字だ」。
3月の15~29歳の青年失業者は45万5000人に上がっている。
失業率は10.7%にもなっている。
大学卒当時は大企業目指して「就職浪人」を決め込んでも、
日々の生活を考えればいつまでも「理想の企業」ばかりにこだわってもいられまい。
適当に妥協して就職していることを窺わせている。
それが、青年失業者数を大卒時期よりも減らしている理由であろう。
それにしても、青年層の失業率は10.7%にも達している。
「理想の企業」を目指した就活が活発であることを示唆している。
就職しながら、失業者を装って求職票を出す。
そういう「ダブル・スタンダード」の人々が紛れ込んでいるに違いない。
韓国ではこれほどまでに「大企業願望」が蔓延しているのだ。
『朝鮮日報』(4月17日付け)は、
社説で「予算をつぎこんでも成果が出ない若者の失業問題」を次のように論じている。
③ 「韓国の大卒失業者数が3月、初めて50万人を超えた。
3月の大卒失業者数は2012年が37万8000人、13年が42万1000人、14年が46万2000人、
今年が前記の通り50万1000人と急増を続けている。
若者の失業問題が次第に深刻化していることが分かる。
実際に、20代大卒者の失業率は1~3月期が9.5%で前年同期比1ポイント悪化し、これまでで最も高くなった」。
韓国では、大学での就職指導がないがしろにされてはいないだろうか。
日本の大学ではきめ細かい「就職指導」が行われている。
どこの大学にも「就職部」が設けられているはずだ。
1980年前後と記憶するが、
上智大学は学生を一流企業に絞って就職させる「戦術」を採用したことがある。
これで一躍、上智大学の評判を高めて入試の偏差値を早稲田・慶応並みに押し上げた裏事情がある。
このように、就職問題は大学のレーゾン・デートル(存在理由)と深く関わっている。
上智大学の例は特殊だが、一流企業への就職よりも本人の適性に合わせた就職指導が重要である。
韓国は、日本の大学の就職教育を参考にすべきであろう。
このほか、韓国では儒教の悪弊が今なお残っている。
商工業を軽視するという風潮があるのだ。
職人的な仕事を軽蔑するムードである。
これは朝鮮李朝での科挙試験(公務員試験)において、職人には受験資格すら与えないという差別があった。
高学歴者は大企業に勤めるのが「ノーマル」という間違った認識が今なお遺っている。
これが、大卒の就職浪人を生み出している背景だろう。
④ 「この10年間、政府は20以上の若者失業対策を打ち出した。
朴槿恵(パク・クンヘ)政権に入ってからも、
『若者一人一人に合った雇用対策』『
若者の海外就職促進策』
『能力中心の社会づくり』などを次々と発表した。
数々の対策を打ち出し予算をつぎ込んでも、成果は出ていない。
若者が就職できないのは、
高い大学進学率により若者の理想が高くなっているのに対し、
それに見合った良質の雇用が少ないことが原因だ。
加えて、
通常賃金の範囲拡大や定年延長などで企業の負担が大きく増え、
大企業までもが新規採用を減らしている」。
「若者が就職できないのは、高い大学進学率により若者の理想が高くなっている」という指摘は正しいだろうか。
人間、理想の霞を食って生きて行けるものではない。
何らかの「定職」を得なければならない。
その際、職業を通して社会に貢献するという思想はないのだろうか。
プロテスタンティズムでは、真面目にビジネスをすることが神への奉仕とされている。
ビジネスでの謹厳実直さが、天国へ行けるかどうか。
神によって判断されるというのだ。
職業には貴賎がない。
キリスト教信者が韓国の29%も占めている。
キリスト教本来の教えに戻るべきだろう。
韓国は、余りにも儒教的な職業観に支配され過ぎている。
儒教的なキリスト教であろうか。
定年延長は、韓国のような労働力人口減少の社会で不可避である。
労働力人口減少は、
一国経済の衰退原因であって、
移民問題が議論されるほどの緊急性をもって語られる時代になっている。
それにも関わらず、
定年延長を忌避するような動きは間違っている。
後は、仕事のポストと給与体系をどうするかにかかっている。
韓国でも、定年延長による労働力確保と新たなビジネスをつくる努力が平行して求められている。
高学歴=デスクワークという誤解錯覚を打破することだ。
就職浪人をつくる社会は、勤労観において間違っている。
その誤った認識は、大学における職業教育によって矯正すべきものであろう。
⑤ 「若者の失業問題を解決するには、結局は企業の投資による活性化が必要だ。
教育や医療、観光など、
雇用創出効果が高く良質な雇用を生み出せるサービス産業を育成することが、
何よりも重要である。
これに向け、
政府はサービス産業発展基本法や観光振興法などを成立させるため、
より積極的に政界の説得に当たらねばならない。
併せて、労働市場の改革により企業の採用環境も改善する必要がある」。