2016-09-10
韓国、「サムスン」新型スマホの爆発事故「損害額は?」
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
世界のスマホ(スマートフォン)市場で首位のサムスンが、新製品「ギャラクシーノート7」でバッテリー爆発事故により苦況に立たされている。
自信満々で送り出した新製品が、発売後わずか2週間で思わざるに事故に遭遇した。
競合する米アップルは9月7日、新型「iPhone(アイフォーン)」を披露。サムスンに打撃となるのは必至だ。
私は、近著『サムスン崩壊』の「はじめに」の冒頭で、
「サムスンの弱点は技術軽視にあり、その弱点が経営の根幹を揺るがすはずだ」と指摘した。
不幸にも、それが現実問題として新型スマホに現れている。同業を含めたスマホ製品では初の爆発事故である。
事故の顛末は、次のようなものだ。
『朝鮮日報』(9月1日付)は、次のように伝えた。
(1)「サムスン電子の新型スマートフォン『ギャラクシーノート7』が充電中に爆発したとの通報が相次ぎ、同社が韓国の通信キャリア3社に対する同機種の供給を一時中断したことが8月31日までに分かった。
『ノート7』は8月19日に発売され、予約販売だけで約40万台が売れるなど好調な滑り出しを見せたが、バッテリー爆発という暗礁に乗り上げた格好だ」。
(2)「最初に爆発が伝えられたのは8月24日のことだった。
韓国のインターネット掲示板に『ノート7が充電中に爆発した』との書き込みが焼け焦げた本体の写真付きで投稿された。
29日には動画投稿サイト『ユーチューブ』にも米国のユーザーが爆発した『ノート7』の動画を投稿した。
最近1週間で国内外において6件の爆発が伝えられたことを受け、サムスン電子は爆発したとみられる商品の一部を回収し調べている」。
サムスンは、1週間で6件もの爆発事故が伝えられるに及んで9月1日、素早い対応策に出た。
先進国のスマホ市場はすでに飽和状態になっている。
世界首位のサムスンといえども、一瞬の油断が命取りの危険性を秘めている。
ここで対応を誤れば、消費者の信用を一挙に失い、失地回復は不可能になりかねない。
まさに背水の陣で臨んでいる。
本来ならば、問題を起こした製品の部品交換だけという手もあったが、
販売した「ノート7」全品の交換と在庫もすべて引き取るという思い切った対応を決めた。
この積極的な対応には、前例があった、1995年、不良モバイルフォン15万台を山のように積み上げて、社員の見ている前で焼き払って、品質が第一というイメージを確立したことだ。
これは現在、病床にある李健熙会長の決断である。
あの事件から11年後、今回の「バッテリー爆発事故」が起こった。
今回の全品回収策が、サムスンの信用を守るのかどうか、結論はこれからの取り組みかたであろう。
『ロイター』(9月2日付)は、次のように伝えた。
(3)「サムスン電子は9月2日、最新型大画面スマートフォン(スマホ)『ギャラクシーノート7』を回収すると発表した。
バッテリーに不具合が見つかったためで、米国など10カ国で当面販売を停止する。
サムスン電子は声明の中で、交換の準備に2週間程度かかるとの見方を示している。
販売再開の時期については明らかにされていない。
『ノート7』は10カ国で発売され、250万台出荷された。
このうち、中国で販売されているものは、異なるバッテリーを使用しているため、問題は発生していない。
このため、中国での販売は停止していないという。
韓国では9月19日から交換を開始する。また、別の機種への変更を認めることも検討している。
交換にかかる費用について、具体的な額は示せないが相当な額に上るとした」。
爆発したバッテリーの製造元がどこか、注目を集めた。
その後、サムスングループのサムスンSDIのバッテリーであることが判明。
サムスンの技術基盤の脆弱性が浮かび上がっている。
システムの不具合であれば致命的な問題になるが、爆発事故であれば部品を変えれば解決する、との見方も報じられている。
だが、充電中の爆発は、火災事故や人命損傷という大きな損害をもたらす。IT機器の事故について、安易な判断は避けるべきだろう。
(4)「記者会見したスマホ部門のトップ、高東真(コ・ドンジン)氏は既に消費者に販売した分だけでなく流通在庫も交換する方針を示した。
不具合によるスマホの回収は珍しくないが、サムスンとしては異例な規模となる。
アナリストはサムスンの評価を落としかねないとして、迅速に対応し打撃を最小限にとどめる必要があると指摘している。
韓国投資証券のアナリスト、ジェイ・ユー氏は『回収の費用よりも販売が減少する可能性を懸念している。
業績に悪影響を及ぼす公算が大きい』との見方を示した」。
すでに250万台が出荷済みという。
これらの製品が、最低限バッテリー交換を必要とする。
これだけならば、コストはそれほどかからないであろう。
(5)「クレディ・スイスは回収や販売の遅延により2016年のサムスンの営業利益が『最悪の場合』1兆5000億ウォン(13億4000万ドル)押し下げられるとの試算を示した。
ただ第4・四半期までに問題が解決し、より小幅な損失にとどまる可能性が高いとした。
サムスンは今年の営業利益を30兆2000億ウォンと予想している。
HI証券のアナリスト、ジェームズ・ソン氏は、サムスンは回収したスマホの部品を再利用し費用を抑えることができると指摘した。
同氏は、『サムスンが問題の機器を修理ではなく回収するのは賢明だ。消費者の信頼感を高め将来の売り上げの落ち込みを抑えることができる』と分析した」。
今回のバッテリー事故は金額的な損害よりも、サムスンが受ける負のイメージが大きい。
製造管理が甘いという評判を立てられると、これがサムスン・ブランド・イメージに取り返しのつかない損害を受けるからだ。
1995年の不良モバイルフォン15万台を焼き払った当時のサムスンは、世界的に見れば「追う側」であった。
現在は「追われる側」である。中国には新興スマホメーカーが群れをなしている。サムスンが、少しでも隙を見せれば、そこを衝いてくるのだ。
中国で、サムスンやアップル追撃を広言するスマホメーカーに、華為技術が存在する。
かねてから、数年後に世界一を目指すと豪語しているほどである。
サムスンは、安心していられないのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月2日付)は、「華為技術、2018年までにスマホ世界2位目指す」と題して、次のように伝えた。
中国の華為技術(ファーウェイ)は、2018年までに世界2位のスマートフォンメーカーとなることを目指している。
消費者向け事業を統括する余承東(リチャード・ユー)氏が9月1日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで明らかにしたものだ
(6)「余承東氏は、『今年と来年が成長にとって決定的に重要になるだろう。
われわれは一生懸命取り組んでいる』と述べた。
世界トップに上り詰める時期は、2位になった時点で見通しが立つとみている。
余氏はベルリンで開かれる国際家電見本市『IFA』で昨年も話した通り、『これから4〜5年以内に』世界最大手のスマホメーカーとなる目標に変わりはないと述べた。
市場調査会社ガートナーによると、華為技術は4~6月期の世界市場シェアが8.9%で3位につけている。
韓国のサムスン電子の22.3%、米アップルの12.9%には大きく水をあけられている格好だ」。
華為技術(ファーウェイ)が、スマホに異常な熱意を示している裏には、いろいろの説がある。
華為の経営トップは、中国人民解放軍出身であり、中国の情報戦略(諜報活動)の一端を担っていると見られている。
華為はむろん否定しているが、米国政府は華為の通信機装置全般の購入に対して警戒姿勢をとっている。
この結果、米国での華為製品はほとんど見られない。
それほど安全保障上で警戒されているのだ。華為製スマホでは、通話や通信などが中国へ筒抜けとなる装置が組み込まれていると指摘されている。
こういうカラクリが隠されているからこそ、スマホのシェア向上に全力投球しているのかも知れない。
(7)「市場全体が伸び悩む中、華為技術は急速な成長を狙う。
2016年は前年比30%増の1億4000万台を出荷する計画で、余氏はこの達成に自信を見せた。
来年についてはやはり成長を見込むとしつつ、具体的な数字には触れなかった。
華為技術は9月1日、中価格帯の新型スマホ『ノバ』をIFAで発表した。
州やアジアの主要市場で画面サイズの異なる2種を展開する。価格は399ユーロ(約4万6000円)から。余氏は『中型セグメントの強化の必要性を認識した』と語った」。
華為は、中国政府の「国策」に協力してスマホのシェア拡大に励んでいるとすれば、サムスンやアップルには手強い相手である。
中国政府が華為へ補助金をつぎ込んでくる可能性もあるからだ。
華為は4~6月期の世界市場シェアが8.9%で3位。
サムスン電子の22.3%、アップルの12.9%に次ぐ存在である。
華為が中国政府の支援を受けているとすれば、アップルとのシェア格差4%ポイントは、簡単に縮められるとも言えよう。
サムスンは、アップルとの競争というよりも、華為=中国政府との競争を強いられているようだ。
(2016年9月10日)