勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
2015-02-26
日本の世話にならぬと言うが
意地を張る虚しさ滲ませる
韓国、「日韓通貨交換」外交対立で失効「空威張り」の裏で後悔
韓国は、これまで国際的な通貨危機のたびに、自国通貨の「ウォン」が脅かされてきた。
それを側面から補強してきたのが、他国通貨とのスワップ協定である。
自国通貨を担保に使い、相手国から米ドルの提供を受ける。
これにより、投機的な自国通貨安を防ぐ。その防波堤役がスワップである。
日韓では、互いに「円」と「ウォン」を預け合い、万一の通貨危機に備えてきた。
むろん、日韓通貨スワップでは「円」が「ウォン」の補強役になってきた。
国際的な「円」と「ウォン」の評価の違いから、日本が韓国のお役に立っていたのだ。
通貨スワップの仕組みを、もう一度説明する。
通貨危機が発生した場合、韓国が100億米ドル相当の韓国ウォンを渡し、日本から100億米ドルを受ける。
逆に、日本が通貨危機に直面すれば、韓国が100億米ドルに相当する日本円を受けた後、韓国の保有する100億米ドルを渡すというものだ。
自国通貨を相手国に渡して、その見返りに100億米ドルを受け取れるのは、実に便利な「通貨貸借」方式である。
難しい手続きを必要としないで、居ながらにして貴重な国際通貨の米ドルを借り入れできるのだ。
韓国は外貨準備のほかに、この通貨スワップも使える。
万一の通貨危機には、それだけ外貨準備で厚みが出るのだ。
ましてや「円」は、国際的な安全通貨としての評価が確立している。
世界的事件が起こるたびに「円高」になるのは、「円」が安全通貨として認識を受けている結果だ。
その「高評価」の円と縁を切る。韓国にとっては、本当に大丈夫なのか。
そういう懸念が、韓国国内で生まれている。
日本は、周知のように「対外純資産」が23年間も世界一である。
2013年は296兆3150億円も保有している国だ。
この「大資産家」日本と、韓国は縁を切った。
日本にとって100億米ドルは、保有する米国債を売却すれば簡単に捻出できる金額である。
国債発行では大借金国の日本も別途、世界一の「対外純資産」の保有で、揺るぎない信頼を得ている。
韓国は「メンツ」から、日本に対して「日韓通貨スワップ」の更新を求めなかった。
2月27日に満期を迎える100億米ドルの「スワップ」を自動的に終了させたのだ。
これで、日韓の通貨スワップはゼロである。
日本にとってなんの痛痒もないが、韓国にとっては痛恨事のはず。
韓国有力紙の『朝鮮日報』と『中央日報』は、揃って「後悔の念」を滲ませている。
韓国は空威張りし過ぎたのだ。
日本の世話にならぬと言うが『朝鮮日報』(2月18日付け)は、社説で「韓日外交摩擦、経済関係への飛び火を防げ」と論じた。
①「韓日通貨スワップは2001年に20億ドル規模でスタートし、11年に700億ドルまで拡大した。
しかし、韓日両国の外交的対立が深まり、通貨スワップの規模は徐々に縮小され、最後まで残っていた100億ドルの協定も終了が決まった。
韓日通貨スワップは韓国が通貨危機に対応するための手段の一つだ。
韓米、韓中の通貨スワップとは異なり、一度も使ったことはなく、通貨スワップ全体に占める割合も低い。
その上、韓国の外貨準備高は1月末現在で3621億ドルに達し、2008年の世界的な金融危機当時に比べ1000億ドル以上増えた。
昨年は894億ドルという過去最高の経常収支黒字も計上した。
韓日通貨スワップ協定は韓国にとってそれほど必要なものではない」。
日韓通貨スワップが、期限切れで自動消滅したことに「無念」さが現れている。
一方では、韓国の外貨準備高が1月末現在で3621億ドルに達し、2008年の世界的な金融危機当時に比べ1000億ドル以上増えた、と胸を張っている。
果たして、韓国が突発的に襲ってくる為替投機に対して十分、対抗できる厚みの「瞬間支払能力」があるだろうか。
繰り返すが、通貨危機は事前に予告されて起こるものではない。
国際金融情勢の激変から、津波のように押し寄せてくるものだ。
「防波堤」である外貨準備の支払能力が手厚くなければ、国際投機筋の餌食にされる。
今年1月末現在の韓国の外貨準備高は、3621億9000万ドルである。
資産類型別に見ると、
有価証券3346億2000万ドル(92.4%)、
予備預金177億2000万ドル(4.9%)、
金47億9000万ドル(1.3%)、
SDR31億9000万ドル(0.9%)、
国際通貨基金(IMF)ポジション18億6000万ドル(0.5%)で構成されている。預金が177億ドル余である。
もし、日本との通貨スワップが生きていれば、「予備預金177億2000万ドル」に対して、さらにスワップ分の100億ドルが加わる。
緊急時の対応としては有効なはずだ。
日本は外貨準備の9割を米国債、1割を外貨預金で保有していると言われる。
安全性と流動性の確保でバランスを保っている。
韓国の場合、有価証券では韓国国債の比率が多いとされる。
通貨危機時では、韓国国債は暴落しているはずだ。
とても、緊急時対応で間に合わないのである。
日本との通貨スワップの失効は、手痛い打撃になっていることは間違いない。
「韓日通貨スワップ協定は、韓国にとってそれほど必要なものではない」というのは、ただの空威張りである。
②「両国の外交的対立が、経済分野にも波紋を広げていることは警戒すべきだ。
1997年にも両国の外交的対立で日本が韓国の債務繰り延べ要求を冷たく断った。
それが韓国の通貨危機に陥った決定打になったという分析もある。
今回も日本は、『韓国が延長を提案するならば検討したい』と通貨スワップ問題を韓国に対する圧力カードとして使うような態度を見せた。
韓国の政府と政財界は、韓日通貨スワップの終了をきっかけとして、両国の政治・外交的対立が経済に広がらないように対応策を取るべきだ」。
1997年、日本が韓国の債務繰り延べ要求を冷たく断ったことで、韓国は通貨危機に陥る決定打になった、と主張している。
韓国自らの責任を棚に上げて、原因を日本に転嫁してくること自体、はなはだ迷惑な話である。
韓国の脆弱な国際収支構造こそが問われるべきであろう。
仮に、日本が債務繰り延べに協力しなかったとしても、日韓関係が円滑でなかった結果であろう。
こうした「万一」の経済危機を想定した国家運営を図るべきなのだ。
普段の外交はやりたい放題で、経済的に困ったときだけ協力を求める。
余りにも身勝手で過ぎるのだ。他国に頼みごとをするには、日常の行動が大事なはずである。日本へ甘えているとしか言いようがない。
意地を張る虚しさ滲ませる
『中央日報』(2月18日付き)は、社説で「韓日通貨スワップ、本当に終了させなければならなかったのか」と論じた。
③「韓日政府が通貨スワップを終了することにした。
日本側からはすでに、『韓国の要請がない限り延長しない』という立場が現地メディアを通じて伝えられ、これに対し韓国も『われわれも惜しくはない』と対抗したところ結局終わりを見てしまったというだけだ。
意地の張り合いの空しい結末としかみることができない」。
日韓通貨スワップが、自然消滅した舞台裏が明らかにされている。
日本の立場からすれば、韓国側の申し出がない限り、自動延長する必要性は全くない。
韓国は、日本の「甘い言葉」を期待していたのだろうが、それは認識不足である、朴大統領が海外であれだけ「日本批判」を繰り広げ、なお首脳会談を拒否している現在、日本が揉み手に出て「ご機嫌伺い」するはずもない。
韓国外交は、幼児的な面を持っているのだ。
④「今年、米国の利上げがどんな影響を及ぼすのか予測不可能だ。
さらに国際原油価格の急落で危機説が飛び交っているところだ。
韓国に問題がなくても、アジアや南米などで通貨危機が起きた場合、これに巻き込まれないという保障はどこにもない。
いずれにしても通貨スワップは金融市場の信頼を得るために必要な象徴として締結するものだ。
基軸通貨国である米国との通貨スワップが、すでに2010年に終わっているところへ、日本との通貨スワップまで手放すことは軽く見るようなことではない。
子供じみたチキンゲームを行う時でもない。
暗鬱だった通貨危機と2008年金融危機当時の辛い思い出をすでに忘れてしまったようだ」。
今年は、米国の量的金融政策が「出口戦略」に入る時期である。
米国外の借り手(金融機関除く)によるドル建て債務の残高は、国際決済銀行の試算では9兆ドルとされている。
この巨額な債務をめぐって、発展途上国を中心に大きな波乱が予想されている。
その筆頭が中国である。
1兆1000億ドルもの債務が国外へ流出すれば、中国経済は混乱が予想される。
この中国への輸出に依存する韓国経済も無傷ではいられまい。
どのような影響が出てくるか、予測は不可能である。
とすれば、ここは通貨危機が起こらぬように万全の体制を取るべき時期である。
それが、日本への意地を張って「空威張りする」構図は、滑稽ですらある。
⑤「ちょうど今年は、韓日修交50周年の年だ。独島(ドクト、日本名・竹島)や慰安婦など、
いくら政治・外交的な問題で両国間の葛藤が鋭くなったといっても、経済官僚まで揺れてはいけない。
このような形なら、両国財務相会談が今年5月から再開されても正常な経済協力は期待できない。
韓日関係が正常化するどころか逆回りしている。どうするつもりでこのようなことをするのだろうか」。
韓国外交は、中国外交に似た「傲慢さ」を見せている。
外交問題と経済問題を別々に扱っているのだ。
自らの外交的な立場を貫いて妥協せず、経済問題では日本の手心を期待するからだ。
中国は、尖閣問題で国際法を破っている。
軍事力をちらつかせて日本へ圧力をかける。
それにも関わらず、日系資本の対中進出の増加を期待しているから驚く。
韓国は、1965年の日韓基本条約に反して、慰安婦問題を蒸し返し賠償と謝罪を要求している。
一方では、日韓通貨スワップの継続を願っていた。
中韓ともに、経済面で日本に依存している事実を忘れ、外交的に暴走しているのだ。
もう少し、バランスの取れた外交戦略が組めないのだろうか。
不思議である。
もう一つ、中韓に共通なことは自国経済への「過信」である。
中国はGDP世界2位への自画自賛。
韓国は、外貨準備高が1月末現在で3621億ドルに達したことで有頂天になっている。
中国経済の脆弱性については、このブログで再三指摘しているところだ。
韓国も実態は弱体である。
世界の韓国経済を見る目は、決して韓国が考えるほど高くはない。
その点を、次に取り上げたい。
韓国『聯合ニュース』(1月22日付け)は、次のように伝えた。
⑥「韓国国債の5年満期クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムは、1月19日の米ニューヨーク市場終値基準で67.96bp (1bp=0.01%ポイント)で、昨年2月26日(68.57bp)以降、11カ月ぶりの最高水準となった。
同日、日本のCDSプレミアムは63.89bpで韓国よりも4bpほど低かった。
CDSは債権を発行する企業や国家が破産申請後、元本を確保するための派生商品である。
破産の可能性が高いほどCDSプレミアムは高くなるため、国家や企業の破産リスク指標ととらえられている」。
このニュースは、韓国でも衝撃的に受け取られたようだ。
ただ一般的に、デフォルトを意識する数値としては、「200bp以上」とされている。
今回の数値は、「100bp以下」であり、数値の上昇は株価における利益確定と似て、需給における調整局面と見られている。
だが、今回のCDSの上昇は、意外にも韓国経済の抱える弱点をかいま見せていることも疑いない。
韓国の外貨準備高が、3600億ドル強になったことで「得意」であること自体、「井の中の蛙」という印象が濃い。
ちなみに、日本の外貨準備高は、1兆2690億ドル(2014年11月)である。
日本は、韓国の3.5倍もの外貨準備を擁している。
この日本に向かって、韓国が自慢するのはお門違いだ。
(2015年2月26日)