2015-12-29
韓国、「失われた20年」日本型の長期不況に耐えられるか
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
韓国経済復元力を問う
名目成長率重視へ転換
韓国は、ひしひしと迫りくるデフレムードに身を固くしている。
あれだけ燃えさかった「反日」も、沈静化に向かいつつある。
産経新聞前ソウル支局長への「名誉毀損裁判」では、無罪が言い渡された。
その裏には、足元を洗い始めたデフレが、韓国を「正気」に引き戻したのであろう。
普通ならば、こういう判決結果が出れば、
韓国メディアを先頭にした市民運動グル-プが加わって、
一大「反日キャンペーン」を張ったはずである。
それが、なぜか音無である。
韓国政府はこれまで、中国べったりであった。
その中国経済が不振を極めていることから、
「中国依存症」の危険性を気付いたに違いない。
それにしても、これまでの韓国は「反日三昧」であった。
よくぞここまで、日本を侮辱してきたものと言わざるを得ない。
日本を軽く見て、過去の意趣返しをしてきた積もりなのだろう。
前記の韓国大統領名誉毀損は、世界中のマスコミからその不当性が指摘されてきた。
当の朴大統領は、自らの名誉毀損について何らの意思表示もせず、うやむやのうちに判決が出るという不可解なものである。
朴大統領をめぐる噂の「情報発信源」は朝鮮日報である。
そこには何らのお咎めもなく、引用した産経新聞(電子版記事)を起訴するという片手落ちな対応であった。
今回の裁判は最初から、「反日」の一環であった。
その「反日」を、経済的な事情から継続できなくなっているのだ。
韓国経済悲観論は、反日を棚上げするほど強烈な「エネルギー」を放ち始めている。
韓国与党が秘かに、それを調査レポートにまとめていた。
韓国経済復元力を問う
『朝鮮日報』(12月18日付)は、
「日本型長期不況に耐えられない韓国経済」と題して次のように伝えた。
①「韓国の現在の経済体力では日本型の長期不況に耐えられないという与党の内部報告書が明らかになった。
専門家の多くが日本の『失われた20年』に韓国が近づいていると指摘する中、
与党シンクタンクが『その可能性が高いだけでなく、
持ちこたえるのは難しい』との認識を示した格好だ」。
自惚れ心の高い韓国が、
ここまで韓国経済の将来を暗く予測している最大要因は、人口動態悪化に尽きる。
合計特殊出生率2.08が未達だと、一国人口はやがて減少に向かうという「法則」がある。
ここでいう「合計特殊出生率」とは、一人の女性が生涯において出産する子どもの数だ。
子どもの数が減れば、その国の人口がやがて減ることは自明。
韓国も、この「掟」によって将来人口の減少が不可避となっている。
この問題については、これまで繰り返し取り上げてきた。
それ故、もはや説明の必要もないであろう。
韓国は、今になってようやく事態の重大性に気付き、
「反日」などやっていられる経済的なゆとりのなさを自覚した。
人口減少は、日本の話しと高を括っていたのだ。
私は、その「迂闊さ」をこれまで再三にわたり指摘し続けてきた。
この事態に直面して、大慌てなのは噴飯物である。
「感情8割、理性2割」という韓国人の刹那的な判断能力の低さが露呈しているに過ぎない。
②「セヌリ党(注:与党)のシンクタンク、汝矣島研究院は12月17日、
党最高委員会に党外秘扱いで
『韓国経済緊急判断』と題する報告を提出した。
報告は米利上げの影響について、
韓国の外貨準備高が3640億ドルに達し、
短期対外債務の割合も安定しているため、
1997年のような通貨危機が到来する可能性は低いと指摘した。
一方で、『現在の危機は徐々に忍び寄る日本型長期不況の危機だ。
果たして韓国が耐えられるかどうか疑問だ』と警告した」。
韓国が、「反日」で盛り上がっていた背景は、日本経済が「失われた20年」で苦吟していた事実を横目で見てきた結果であろう。
「いい気味だ」と日本を冷笑してきたが、
韓国も同じ現象が起こることにはたと気付いたのだ。
ここが、理性的に物事を判断できない韓国の弱点である。
火の粉を被らないと、我が身のことと理解しないのである。
困った民族なのだ。
韓国の悲観論は、感情的な国民の特性通りの反応を示している。
「現在の韓国経済危機は、徐々に忍び寄る日本型長期不況の危機だ。
果たして韓国が耐えられるかどうか疑問だ」というところまで押し流している。
それほどの危機感があれば、野党を説得して経済改革案を国会で議決すればいいのだ。
それをやらずに、ただ騒ぎ立てる。
私には理解を超えている振る舞いである。
③「日本が長期不況入りする前の1989年の国内総生産(GDP)は世界2位、輸出額は世界3位、合計特殊出生率は1.57と比較的堅調だった。
韓国は、昨年時点でGDPが13位、輸出が6位、合計特殊出生率は1.21で、かつての日本よりも体力が弱いとの指摘だ。
汝矣島研究院のキム・ジョンソク院長は、『画期的な構造改革政策が急がれる状況だ』と報告した」。
上記の記事を要約しよう。
日本(1989年) 韓国(2014年)
GDP 世界2位 世界13位
輸出額 同3位 同6位
出生率 1.57 1.21
このデータを見ると、韓国が不利であることは自明である。
GDPの規模が違うことは、一人当たり名目GDPが段違いであることを物語る。
当然、国民の貯蓄額が異なる。
同時に、社会保障制度の成熟度が異なることでもあるのだ。
世界が不思議がったことは、
日本が「失われた20年」であるにも関わらず、
国民全体の家計金融資産残高は増えている。
例えば、2001年は1407兆円であった。
2015年7~9月は、1684兆円である。
19.7%も増えたのだ。
この裏では、「貧困世帯」問題が発生している。
ただ、社会全体で見れば、バランスが取れている。
韓国は、社会保障制度が未成熟である。
年金支給額も少なく、国民生活への財政的な保証は手薄である。
この環境下では、出生率が1.21と極端に低くなって当然である。
出生率を引き上げるような総合的な促進策がないのだ。
極端な年功序列賃金体系を改めて、若者の給与を引き上げる。
結婚し易い経済的な環境を整える。
韓国の将来に希望を持てる政策全体の見直しが欠かせないのだ。
安心して子どもが生める環境をつくらずして、大統領は韓国の将来を語るなかれ、だ。
「反日」で国民の不満を逸らしてきた。
そういう韓国政府の責任は極めて重い。
デフレにひとたび落ち込むと、
日本の例でも分かるように、
そこからの脱出は難しくなる。
韓国政府は、消費者物価の低迷脱却を大きな目的にしている。
16年度の経済目標では、実質成長率よりも名目成長率を掲げることになった。
名目成長率重視へ転換
『朝鮮日報』(12月17日付)は、次のようにつたえた。
④「韓国企画財政部が12月16日発表した16年度の経済政策運用方向は、
政策の『青写真』というよりも、政府の苦悩がにじみ出たものだった。
輸出を上向かせ、
成長動力にすることよりも低成長、
低物価によるリスクを避けようと全力を挙げる印象だ。
低物価と輸出低迷が重なり、
韓国経済は低物価→企業の売り上げ減少→成長低迷→所得減少→消費低迷→低物価という
悪循環に陥る兆しを見せている。
世界的な経済環境が大きく改善する見通しが立たない中、
企画財政部は16年の経済政策の軸を輸出よりも内需に置かざるを得ない状況だ」。
韓国は、輸出依存型経済の維持を断念した。
輸出の6割を占める新興国経済が不調のため、
経済政策の軸を内需に置き換えた。
内需振興によって、消費者物価をテコ入れしようという狙いだが、
その具体的な政策は示されていない。
普通であれば、政策金利の引き下げである。
だが、
米国の利上げに伴うドル高=ウォン安基調下で、
韓国が利下げに踏み切れば、
ウォン安に拍車をかけかねない。
それは、かつて経験した「ウォン暴落」の引き金になるリスクを招くのだ。
この状況下で、
内需振興策として浮かび上がるのは、
先にも指摘したような極端な年功序列賃金体系の改革である。
労働組合が反対しても韓国経済の底上げには不可欠な手段であろう。
企業にとって、支払賃金総額はたいした増加にならないでろうから、
労組の理解さえ得られれば早急に実行すべきだ。
これさえも実現できなければ、内需振興はかけ声倒れに終わる。
韓国経済は、すでに次に述べる悪循環に入りかけている。
(1)低物価→(2)企業の売り上げ減少→(3)成長低迷→(4)所得減少→(5)消費低迷→(1)低物価
番号で示すと、現在すでに
(1)から(3)の段階へ進んでいる。
2014年の企業売上は初めて前年比でマイナスになった。
これは、危険な前兆である。
後、(4)と(5)へ踏み込めば、
「失われた20年」の日本と同一コースとなる。
日本の場合、「アベノミクス」で再建途上である。
政策金利をゼロにしても資金流出のリスクもない。
逆に、世界経済での突発的な問題発生では、
「避難通貨」として「円」が買われるほど。
世界の信頼度は抜群である。
韓国では、「ゼロ金利政策」は実施不可能である。その点が、最大の弱点だ。
⑤「企画財政部は、
16年度の成長率目標を実質経済成長率3.1%、名目経済成長率で4.5%に設定した。
企画財政部はこれまで実質成長率を目標設定に使用してきた。
突然、名目成長率を掲げた。
名目成長率では、
実質成長率がマイナスに転落しない限り、
実質成長率よりも数値がやや上回る。
実質成長率を高めるのは難しいため、
政府が名目成長率で『錯覚効果』を狙ったとの批判もあるが、
企画財政部は『低物価のリスクを反映した』と説明した」。
16年度の成長率目標では、名目成長率を第一に掲げるという。
これは、世界でも珍しいケースであろう。
どこの国でも実質成長率が目標であって、その逆はないのだ。
韓国経済がここまで追い込まれている証拠と言える。
繰り返すが、その具体的な政策手段が明示されていない。
まさに、政府が「かけ声」だけかければ、後は民間が頑張るとでも見ているのだろうか。
民間経済を督励するには、アベノミクスの通り、環境整備に全力を上げるべきだ。
その意味でも「反日」ではなく、「知日」となって日本の経済政策を本格的に研究すべきであろう。
⑥「企画財政部幹部は、『日本は2000年から約10年、実質成長率が0.5%前後だったが、物価上昇率がマイナス1%だったので、名目成長率はマイナス0,5%だった。
低物価が進むと名目成長率が重要になる』と述べた。
政府は韓国経済で、
『低成長、低物価』が定着し、日本の『失われた20年』のような長期不況に入る可能性が高いと認めた格好だ。
低物価が続けば企業の売り上げや利益が減少したり、
横ばいで推移したりして、
投資不振と消費低迷につながる。
延世大の成太胤(ソン・テユン)教授は、
『名目成長率が低下すれば、企業の投資低迷だけでなく、政府の税収も減り、国家経済全体が縮小する』と指摘した」。
名目成長率が高まれば、税収が増えるので財政的に余裕が生まれる。
これは、現在のアベノミクスでも実証済みである。
アベノミクスが始まる2012年度と比べて、
税収は2016年度予算では14兆円の増収を見込んでいる。
4年間で14兆円である。
この間、消費税率3%の引き上げを含むが、消費税率引き上げに伴う景気落ち込みも計算に入れなければならない。
アベノミクス批判では、こういう側面を完全に無視した議論が横行している。
韓国が名目成長率重視に転じた裏には、アベノミクスの成果を研究していると思う。
韓国経済が、「失われた20年に」落ち込めば、ここからの脱出は困難であろう。
制度改革に対する野党の反対は理屈を超えており、
「感情的」な振る舞いをしているからだ。
また、
韓国の産業が重厚長大という過去の産業で成り立っている。
これをいかにしてグローバルなものに置き換えるか。
その具体的な手立ても存在しない。
日本を「敵」に回した反動は極めて大きいのだ。
「嫌韓」という言葉が日常化している現在、
日韓関係の実質的な立て直しは困難である。
日本の国民感情は冷え切っている。
(2015年12月29日)