
2025年3月21日、品川区の文化コミュニティ施設「きゅりあん」にて第68回燮会がオンラインとの併用で開催されました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。

初めに、3月14日にセルバ出版より発売となった、『交渉の戦略 孫子の哲学が導く意思決定の技術』をご紹介いただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

前回同様、今回も2部制で行われました。第1部は定例の「交渉理論研究」第26回。「第三者の介入(2)」と題してお話しさせていただきました。

前回は、仲裁者(メディエーター)が交渉に介入するパターンを扱い、これまで述べてきた統合型交渉のためのテンプレート作成と分析、評価のプロセスについてお話ししました。今回はそれを受け、増大したパイをいかに分けるのが公平と言えるのか?規範的に導かれる、以下に挙げる幾つかの基準についてお話ししました。公平分配については、「第22回交渉理論研究」でも扱いましたので、そちらもご覧ください。
●マクシミン解
●中間の中間
●マイモーン解
●ナッシュ解
●バランス・インクリメント解

第2部は、1級会員で弁護士専門経営コンサルタントの向展弘さんより、「無敵の交渉術(敵対的交渉の調和的交渉への転換)」と題してお話しいただきました。扱うのは、弁護士の事案解決術です。
弁護士にとっての経営的課題を大きく分けると二つあります。一つは「依頼者満足」であり、クライアントにできるだけ喜んでもらえる解決を目指すことです。それがリピートや紹介の増加、単価のアップにつながるからです。二つ目は、「効率化」です。時間、労力、ストレス、経費などを最小化する観点から、できるかぎり法廷での裁判ではなく、示談で解決する方が効率的だと言えます。そして、早い解決の方が、顧客満足度も高くなるのです。
訴訟を避けるには、敵対的交渉によって対立がエスカレートしないよう、交渉を調和的交渉に転換する必要があります。そのための技術が、今回の主題である「主導権の握り方」になります。
なぜ主導権を握る必要があるのかといえば、こちらが調和的交渉を望んでも相手もそうであるとは限らないからです。むしろ、現実の事案ではその方が普通であると言えます。調和的解決を望まない相手を導くには、交渉そのものをコントロールする、つまり主導権を握ることが欠かせないのです。
ところで、主導権とは何なのでしょう?向さんは、主導権を「相対的主導権」と「絶対的主導権」の二つに区別しています。前者は、一般的に我々がイメージするもので、相手より自分の力が強ければ、主導権を握れるというものです。一方、後者は、自分以外の力を自分の力にできることを言います。自分だけでなく相手や外部の力も取り込み、交渉をコントロールし、調和的解決のフレームをはめ込むのです。
この絶対的主導権を確立するために、向さんは二つの重要な視点を挙げています。一つ目は、向さんが「ヨットモデル」と名付けているもので、19世紀のアメリカの詩人、エラ・ウィーラー・ウィルコックスの「運命の風((The Winds of Fate))」という詩に次のような一節があります。
同じ風に吹かれながら
東へ進む船もあれば、西へ進む船もある
向かう先を決めるのは
吹く風ではなく、帆の向き
つまり、交渉をコントロールしているのは外部の要因ではなく自分自身だということです。風は交渉相手や外部の力です。それを受け止め、利用し、自分が進みたい方向を決めるのは、自分というヨットの中の帆なのです。
二つ目は、「合気道モデル」です。これは想像できますね。合気道で小さくて非力な人が大きくて剛力な人を倒すことができるのは、相手の力に逆らわず、それを自分の力としてりようしているからです。同じように、環境を上手に活用することができれば、主導権を握ることができます。合気道の創始者、植芝盛平の言葉に、次のようなものがあります。
合気とは敵と戦うことではなく、世界を調和させ、人類を一家のごとくまとめあげる道である。
外部の力を拒絶したり、抵抗したり、相手を負かすのではなく、受け入れ、調和し、自分の力として活用する調和的交渉の精神です。敵対的交渉は、意識の焦点が「相手」にあり、相手に囚われやすくなります。一方、調和的交渉は、意識の焦点が「自分」にあり、相手に囚われにくいのです。そのため、敵対的交渉は「Youメッセージ」になりがちであり、対立をエスカレートさせてしまうのに対し、調和的交渉は「Iメッセージ」が中心となり、相手に配慮しつつも自分の主張を的確に伝えることができます。
この後、「合気道モデル」に則っり交渉の主導権を握った事例が紹介されました。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
