老後の練習

しのび寄るコドクな老後。オヂサンのひとり遊び。

ベトナム☆民間版画展

2009-01-12 12:06:53 | アート
ベトナムの正月は「テト」と言って、日本でいうところの旧正月で今年は今月の26日になっている。年によって日が違うが、これは太陽暦に換算すると日がずれてくるというだけで、概念的にはずれるという感覚のものではない。ベトナムでは1月1日は一応祝日にはなっているが、日本みたいに天皇杯の決勝が行われたり初詣に行ったりということはなくて2日からは普通に仕事に行く。一方、このテトのときは、今年の場合は24日から休みに入って3月1日くらいまで国中が休みになる。ハノイあたりは町中がガランとして、あのバイクの騒音もなくなるらしい。

で、この版画は正月に飾る縁起モノ?というか、厄除け、家内安全などのお守り的に家の中に飾るものとして発達し、17~8世紀に最盛期を迎えたものらしい。「年画」とも呼ばれる。大きく分けて2種類あって、ハノイの北部にあるドンホー村で作られていたものが「ドンホー版画」で、ハノイ旧市街のハンチョン通りで作られてきたのが「ハンチョン版画」と呼ばれている。
この2つは作り方が正反対で、ドンホー版画は3,4種類の版木を使った多色刷り版画で、色の版を全部刷った後に黒の線画の版を刷って完成する。一方、ハンチョン版画は黒い線画を最初に刷ってそのあとは手で彩色する。だから見た感じは色の混じり具合とか濃淡があって鮮やかな感じがする。ハノイの富裕層が買っていたからそういう方向に発展したんだろう。

この前ハノイに行ったときに版画の店を見つけて3枚買ってきたんだがそれらは全部ハンチョン版画。ガイドブックではドンホー版画の店、って書いてあったんだが、店の中にあった数少ないハンチョン版画のほうに惹かれたということだ。
ただ今回の展覧会でドンホー版画の面白さもわかったような気がする。共産主義の下での政治的、教育的なものとか男女関係のものとか、庶民的な感覚で描かれているような感じがする。今度行ったらよく見てこなくっちゃ、ということで収集癖がうずいてきた。

2009.1.10 伊勢丹新館の上の吉祥寺美術館にて。

『夜光ホテル~スイートルームバージョン~』

2009-01-12 10:10:59 | 演劇
今年の1発目はNHKが若手劇団の評価の高かった作品を再演してテレビで放送しようという企画の第一彈。みんなの広場ふれあいパーク、っていう会場にはやや抵抗があったが、収録が一番の目的ならしょうがない。こういう企画はNHKにしかできないだろうし。
去年から始まったこのシリーズの、今年選ばれた作品はどれもおもしろそうで、どういう基準で選ばれているかはわからないが、この芝居の最初のシーンが金髪のニーちゃんがいきなりラメ入りブリーフ1枚になって、ホテルのビデオ見ながらティッシュの箱を横に置いて、、みたいな感じで、かなりNHK的でないことは明らか。時代の膿みを鋭くえぐりだしている、みたいなところか。
で、金髪ニーちゃんのほうは結局目的を達せられず、、そういうことに象徴される、今の若者が持っているいつも何かが満たされていない苛立ちのようなものが全編を通して舞台の上を空気みたいに漂っている。

ストーリーを簡単に書くと、10何年か前の東京の愚連隊仲間が函館の小さなホテルのスイートルームに集まって、中には家族を持ってまともな生活をしているのもいるのに、もう一度、昔の親分みたいなのの指示でシゴトをしようとしている。「仲間」から抜けようとするマトモ生活男は青森でリンゴ農家をやっていて、一生懸命りんごを作ればそんな悪いことをしている生活から抜け出せると言って昔の仲間を立ち直らせようとする。ところがそのマトモ男が10何年か前に東京でやったことがあばかれて、、そんな感じで話が一気に動き出す。
そういうどこにでもありそうな人間関係。学校とか、会社とか、PTAの付き合いとか、マイナスの連帯、とでもいうか、お互いに傷を見せ合うことで成り立っているキワメテニッポン的な社会の極端なカタチをつかって、そこから抜け出そうとするものを徹底的にたたきつぶすワレワレの中に共通してある暗い闇のようなものを見せつけてくれる。
結末は今のままそこにとどまっているのではなく、闇から這い上がっていかなくてはだめで、そのためにはすべてのことを何も考えずに受け入れるのではなく、とにかく考えろ、みたいな、やや教訓的な方向に傾いたが、その表現のストレートさがかえってキモチいいくらいに感じられるホントにいい芝居だった。

蓬莱サンの芝居はこの前、新国立で「まほろば」を初めて見て、それもやっぱり、まほろばというニッポン的な抽象的イメージを、女の妊娠という極めて具体的なはなしで表現していたが、今回のもニッポン人のココロの奥底にある深いモノを愚連隊の仲間割れみたいな俗っぽい世界を通して描き出そうとしているところに同じような方向性が感じられて、話の緩急のつけかたというか、途中までは淡々と人間関係の表面的なところが描かれて行って、途中から堰を切ったように奥深いドラマが展開していくあたり、ホントにうまいというか、凄い人だと思ったシダイ。

主役のケンちゃん役は荻原聖人サン。深く考えるオトコを渋く演じていてカッコいい。モダンスイマーズの他のメンバーもこの人たちじゃないとこの芝居は成り立たないっていうくらい、ピッタリはまっていた。
2月の新作「トワイライツ」が今から楽しみ。

作・演出 蓬莱竜太
2009.1.10 NHKみんなの広場 ふれあいホール