朝、郵便受けから取り出した朝刊をエレベーターの中で開いた時に飛び込んできた一枚の写真に釘付けになる。写真の殆どが真っ黒。真ん中に小さなボートに乗った小さな子供を含めた数人の人々の姿が映っている。ボートピープルだ。添えられた見出しには「漆黒のエーゲ海 漂う命」「ギリシャ沿岸 押し返される難民」とある。アフガニスタンからイラン、トルコを経由して欧州を目指す人々だ。だが、ギリシャ当局に発見され、エンジンを取り外されると、警備艇に波を立てられギリシャ領海からトルコ領海に押し戻される。「ブッシュバック」だ。写真に映る人々は救命着をつけてない。この写真の人々は幸い救助されたか、発見されなかったら、その後は残酷な運命が待っている。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、年末までにアフガニスタンから50万人にも及ぶ人々が難民になる可能性があるとか。そして世界中ではどのくらいの人々が難民になっているか?俺にはバングラディシュのUNHCRで難民問題に奮闘しているNさんという知り合いがいて、彼女のことに思う度に一日百円でもいいから難民救済に寄付したいと思うのだけど、自分自身が家族から経済的支援をうけている身であることを考えると躊躇してしまう。男なのにナイチンゲール的指向の自分としてはそれが辛い。老老ブレックファースト(冷やし水沢うどんと冷やしトマトのスライス、さんまの煮つけ)の後、息子のAが顔を出してくれる。花屋に長いこと勤めていたAにベランダにおいた鉢植えやプランターの手入れの方法を指示されて、母は分かっているのかどうか不明だが、嬉しそうな顔を浮かべている。数日前にこの日記で二人孤独死のことを書いたけど、Aが発見者になる可能性が大きいので、万が一の時の各階へのエレベーターの使い方、鍵の場所などを教える。1時から渋谷で映画を見ることになっているのでAに車で送って貰う。ついでにすいざんまいでランチ。もう一人の息子のHと一年に何度か食事する時にも思うのだけど、彼らには父として何もしてあげられなかったのに、こんな幸せなひとときをもてるなんて、俺という人間は本当に恵まれている。渋谷のユーロスペースで見たのは瀧内公美主演の「由宇子の天秤」(脚本監督プロデューサー・春本雄二郎)と云う映画。瀧内公美は去年「火口のふたり」(脚本監督・荒井晴彦)でキネ旬で最優秀女優賞をとった女優だが、この映画は「火口のふたり」より更に彼女の魅力が増大した映画となった。そして、この映画は問題作を超えた問題作だ。