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野口英世はなぜ間違ったのか(40)

2014-04-21 16:27:10 | 野口英世
「野口英世は初めから間違いに気付いていた」と言ったら驚くだろうか。
英世は黄熱病の病原体を発見したと発表したが、それは間違っていることを承知の上で発表したと思われる。
なぜそのような考えに至ったか順次説明しよう。

英世は1918年6月に黄熱病の研究のため、南米のエクアドルに向かい、7月15日にエクアドルの最大の都市であるグアヤキルに到着した。
彼は翌日から早速黄熱病の研究を開始した。先ず黄熱病患者の血液をモルモットに接種することで人間の黄熱病で観察されるものと非常に似た症状と傷害を起こすことができた(黄熱病27症例の血液を接種した74匹のモルモットのうち6症例の8匹)。その発症したモルモットの血液等に英世はスピロヘータの一種であるレプトスピラを発見した。それは英世がグアヤキルに到着してわずか9日目であったといわれている。



そのレプトスピラを培養し、モルモットに接種すると同様の症状を呈したことから、英世はこれが黄熱病の病原体であると確信し、それをLeptospira icteroidesと命名した。

さて、問題はこの後である。
英世はこの発見についてロックフェラー研究所のFlexner所長に1918年8月17日付けの手紙を書いている(「野口英世はなぜ間違ったのか(11)」)。
この手紙で英世は黄熱病の病原体を発見したことと、この病原体はモルモットに人間の黄熱病と同じ症状を起こすと書いている。
そして、その微生物を含むモルモットの臓器の懸濁液と回復期の患者の血清を用いてモルモット体内でパイフェル現象を起こしモルモットは感染から防御され、対照(血清の代わりに生理食塩水などを加える)は死亡したと書いている。パイフェル現象とは微生物検査必携 細菌・真菌検査(第2版)に以下のように記されている。
「段階希釈血清と病原性の強い株の培養または感染死モルモットの肝乳剤の混合物を200gくらいのモルモットの腹腔内に注入し、30分と2時間後に毛細ガラス管で腹腔液を採取し、暗視野鏡検してレプトスピラの有無を検する。反応陽性のときはレプトスピラは消失しモルモットは生き残る。反応陰性のときはレプトスピラは消失せず、モルモットは10日以内に死亡し、剖検すると黄疸出血と肝臓内にレプトスピラを多数認めることができる。」
すなわち血清中に存在する抗体が臓器中の微生物を不活化するため、モルモットが感染から防御され、抗体がなければモルモットは死亡する。

更に英世は手紙に「ロックフェラー研究所で自分が作製した三種類の免疫血清もモルモットを防御した。」とうっかり(?)書いている。
この一文が私が「野口英世は初めから間違いに気付いていた」とする根拠である。
英世はグアヤキルに来る前にワイル病の病原体としてのレプトスピラの研究をしていた。日本の稲田から、彼らが発見したワイル病の病原体であるレプトスピラを入手しており、アメリカでも同じようにワイル病の病原体を分離していた。更にヨーロッパ株も入手していた。
手紙に書いた三種類の免疫血清とはこれらのワイル病の病原体ある3株(日本株、アメリカ株、ヨーロッパ株)に対する免疫血清のことである。
すなわち、これらの血清がパイフェル現象でモルモットを防御したということは、その臓器に含まれている病原体はワイル病の病原体であると言うことに他ならない。
抗体と抗原としての微生物の反応は非常に特異的であり、ここで例えばコレラ菌の血清を用いてもモルモットは防御されない。モルモットが防御されたのは、ワイル病の病原体とその血清とを用いたからである。このことは英世は当然知っている理屈である。
このことから英世は自分が黄熱病の病原体としたLeptospira icteroidesはワイル病の病原体であることを知ったはずである。
この三種類の免疫血清がモルモットを防御したことについては、その後の英世の論文には一切書かれていない。それでも英世はそのままLeptospira icteroidesが黄熱病の病原体であるとして突き進む決心をしたのであろう。その背景には何があったのであろうか。
しかし、この隠し事は「野口英世はなぜ間違ったのか(34)」に書いたようにタイラーとセラーズによって明らかにされる。
自分の間違いに気付きながら、それを隠して論文を書いたとすると、論文の見方も変わってくる。以後そのような目で英世の書いた黄熱病に関する論文を検証してみよう。
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