「行者(ぎょうじゃ)さま」から「阿闍梨(あじゃり)さま」へ−。大津市の比叡山延暦寺・善住院住職の釜堀浩元さん(43)が18日、「千日回峰行」を満行した。人間の限界を試すともいわれる難行の戦後14人目の達成を、詰め掛けた200人の信者が見守った。
 山麓から続く登山道の石段を登り、白い麻の浄衣(じょうえ)を着た釜堀さんが明王堂に姿を現したのは午前九時。念珠をこする音以外には足音も、つえ音も立てず、決められた巡拝場所にまっすぐ向かい手を合わせていく。石段を三度行き来し礼拝する十五分ほどの間、集まった信者はそれぞれ両手を堅く合わせ、釜堀さんが唱える真言の声に耳を澄ませた。
 「ありがとうございました」。三度目の礼拝を終えると、釜堀さんは出迎えた先輩の僧侶らに頭を下げた。引き締まった表情は最後まで崩さなかった。
 兵庫県西宮市から参拝した女性(42)は、修行中の釜堀さんから何度も加持を受けてきたと言い「今朝は一段とすがすがしい表情に見えた。無事の満行を見届けられてよかった」と感激していた。
 回峰行の道のりは一日三十キロ、最終年にある「京都大回り」では日に八十四キロ。風雨の日も欠かさず巡拝する苦行が続く。断食断水、不眠不臥(ふが)で九日間、真言を唱え続ける「堂入り」も経験。しかし「師匠と同じ(行者の)衣に初めて腕を通した時の喜びが、今も続いている」と修行を振り返った。
 一生をかけて修行を続けるという意味を込めて、千日回峰行は九百七十五日で「満行」とみなされる。釜堀さんは「私を応援し、支えてくださった方々のためにお祈りして、日々精進していく」と静かに語った。

 (野瀬井寛)