「大型連休には来ないで」 景勝地抱える地方 医療体制整わず感染拡大を懸念
和歌山県高野町への観光を控えてほしいと頭を下げる平野嘉也町長=平野町長のフェイスブックから
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)「自然の中なら大丈夫という考えはやめて」。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、海や山などの景勝地を抱える自治体が、大型連休で観光客が押し寄せないか懸念している。閉鎖されたキャンプ場に無断で侵入するグループなども既に確認されているといい、関係者は「医療体制が整っていない地方にウイルスが持ち込まれれば大変なことになる」と警戒を呼びかける。
世界遺産・高野山で知られる和歌山県高野町。観光は町の一大産業で、新緑が美しいこの時期は例年10万人ほどが人口約2900人の小さな町を訪れる。
ところが4月20日、平野嘉也町長が自身のフェイスブックで町への観光を見直し・延期するよう異例の訴えをした。「感染症患者が発生した場合、山間部という環境の中において医療体制も限られており、町民の安心安全を脅かすことにつながりかねません」
町によると、この前日、町管理の森林公園にある閉鎖中のキャンプ場で、和歌山県外のナンバーの車に乗った数人のグループがバーベキューや花見を楽しんでいたことが判明。町長が急きょ投稿したという。
新型コロナに敏感になるのには理由がある。町に感染した人を入院させる施設がない。そもそもPCR検査を受けるためだけでも車で50分はかかる和歌山県橋本市に行く必要があり、町は「一人でも感染者が出たら知らないうちに拡大する可能性がある」と危惧する。「気兼ねなく高野町への観光等ができるようになりましたら、町民挙げて笑顔で大歓迎して皆様をお迎えしたい」と町長は投稿を結んでいる。
千葉県一宮町も同じ心配を抱えている。町内の釣ケ崎海岸はサーファーの聖地。年間約60万人が訪れるという浜には、千葉県に緊急事態宣言が出された4月7日以降も、週末には多い時で100人が訪れるという。なかには「ウイルスは海水で洗い流すことができる」と主張する人もいるといい、町は海岸の駐車場を閉鎖し、馬淵昌也町長が自ら道路パトロールカーに乗り込み、「サーフィンは控えてください」と呼びかける取り組みも。一般社団法人日本サーフィン連盟(NSA)は「長い長い自粛生活にならないようするためにも、また、みんなが安心して楽しく海に戻れるように、今、外出自粛を強くお願いいたします」とホームページ上で声明を発表した。
一方、日本三大清流の一つとされる高知県の四万十川。大型連休では例年、川遊びを楽しむ家族などでにぎわうが、地元・四万十市の担当者は「今年は絶対に控えてほしい」と強調する。
市内のキャンプ場は現在、閉鎖しているが、他の場所にテントを張るなどして市内に滞在する人が出ることを警戒。担当者は「『テントだから誰にも迷惑をかけない』と考えているかもしれないが、地元から見たら例えば『感染した人が買い出しのため地元のスーパーを使うかもしれない』と不安になる。今は全国的にステイホーム。コロナが終息した後に『ゴー トゥー シマント』になってもらえれば」と話す。
感染のリスクが高まる3密(密閉、密集、密接)とは、ほど遠いイメージがあるからか、鳥取市の鳥取砂丘にも訪れる人が後を絶たない。例年、大型連休中には約11万人が訪れる山陰きっての人気観光地。入り口に「立ち入り禁止」の看板がないことから誤解する観光客もいるが、市によると出入りを規制する権限がないから設置していないだけだ。苦肉の策として連休中にはスピーカーを設置し「外出自粛要請中ですが、どうしても入るときはマスクを着用してください」と繰り返し呼びかけるという。
市の担当者は「『3密じゃない場所ならいい』との考えは捨て、全国的な外出自粛要請の意義について今一度考えてほしい」と訴えている。【園部仁史】