「母上何処かへお出かけですか?」
「ええ、ちょっと反物を買いにね」
「私のでしたら不要ですので」
「咲、本来ならば何処の馬の骨とも判らぬような男と言いたいところですが、恭太郎の友人ということですし、誠実そうな男ゆえよろしいのですよ」
「えっ?」
「このまま仕事に邁進して、女子なのに着物に何の興味も持つこともなく行き遅れになるくらいなら、あの男と一緒になってもよいと言っておるのです」
「母上、そういう気持ちではありませんから」
「あらっそうですか?最近の咲はなんだか楽しそうですよ、あの男も咲のことをいつも優しい眼で見ていますし」
それは私が奥方にそっくりだからであって・・・ そして私はそんなに最近楽しそうに見えるのでしょうか?
う~ん、あっこういうときにゴロゴロすると良いのかも。ゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロ(痛っ)
*
「先生、なにか考え事ですか?」
「実はこの家を改造して診療所を開こうと思うのです。それで明日大工さんの棟梁が来ることになっていて、なにか希望があったら言って欲しいと言われているのですが、どう言えばよいものかと」
「先生はどの部屋を診察室にしたいのですか?」
「こっちのこの部屋を診察室にして、そっちを待合室にして」
「ではこことここのふすまを外して、廊下まで広げると広く使えますね、待合室は明るい方がいいだろうからここに窓をつけて、家の玄関と診療所の玄関は別にしたほうがいいから、あっなにか書くものありますか? 紙と定規が・・・なければものさしでもいいんですが」
「はいっ 只今お持ちします」
「これは知人から頂いた舶来品の鉛筆というものですが、高野さんには筆よりこちらの方が使い勝手が良いのではと思いまして」
「そっか~もう明治初期には鉛筆が入ってきてたんだな、ちょっと書いてみます」
「はい」
「こっちが図面で、こっちが出来上がり予想図です」
「まあまあこれはなんと見事な! 高野さんはこういうお仕事をされていたんですか? 大工さんなのですか?」
「大工とはちょっと違うんですが、似たようなものですね」
「私が思い描いていたものよりずっとずっと良き診療所になりそうでとても楽しみです(笑顔)」
「良かった! やっと先生のお役にたてそうです(笑顔)」
「先生?・・・どうされたんですか?」
その大きな瞳からは涙が零れ落ちていた。
「あの方も・・・そんなふうに眼を細めて、人なつっこい笑顔で無邪気によく笑っておられました。」
美味いな~やはり咲さんの揚げ出し豆腐は絶品です・・・
こんなときだからこそ笑いましょう、咲さんも笑ってください・・・
「あんなにお慕いした方なのに、その名前もお顔も思い出すことは出来ず、なれど・・・もう一度、もう一度だけお会いしたかった」
「・・・・・」
「もう一度逢えて嬉しゅうございます」
この人はずっと一人の人を想って生きていくのだろうか?
両の眼から落ちる涙はあまりにも清らかで切なくて胸が締め付けられた。
そして涙を流しながらも微笑むその姿はとても可憐で美しく・・・美しかった。。。
*
先生は元気であられますか? 私は今日先生のお顔を思い出すことができました。
またすぐに忘れてしまうやも知れませぬが、もう一度先生にお会いできて咲は幸せです。
私は毎日を元気に生きております。 先生もどうかお元気で。
「南方先生、オペの用意ができました」
「はいっ」
この命必ず助ける! 助けてみせる!
まだ朝靄の残る澄んだ空気の中にいると清々しいあなたを思い出します。
咲さん・・・元気でおられますか?
私がそう問うまでもなく、あなたは花のような笑顔で毎日をひたむきに生きておられるのでしょう。
私も生きています。今日をこれからを全力で生きていきます。
愛しい人よ、されど二度とは逢えぬその人よ・・・どうかお元気で笑顔でお過ごしください。
*
俺は棟梁に呼ばれて診療所の改築を手伝うことになった。
「この図面ていうのがあると仕事がし易いな、俺も書いてみようかな」
「ええ是非、そう難しくはないですから」
「今度教えてくれよ」
「はい」
「それはそうと何時先生と祝言を挙げるんだ?」
「えっ? あっいや、そういう間柄ではないですから(^^;」
「ない言ってんだいっ 同じ家に住んでてよ~男ならケジメつけねぇとな、お似合いの二人じゃねぇか、まっ取り敢えずは診療所が出来てからだな」
参ったな、そんなふうに見えるのか(^^;
「ここが私が倒れていた川原なのですか?」
「ええ」
「全然覚えてないです(苦笑)」
「子供の頃ここで水遊びをしました」
「武家の娘がですか?」
「お転婆だったんです(笑)今日は夕焼けが殊のほか綺麗でございます」
「空気が澄んでいるから尚一層美しいのでしょうね、私の住んでいる時代は空気も水もこんなに澄み切ってはいませんから」
「いつか帰れますよ、きっと(微笑)」
「ええ・・・ だけど、もし私が帰れないのだとしたら妻に伝えたいことがあります」
「それは?」
「私が二度と帰れないのだとしたら・・・私のことは忘れて幸せになって欲しいと」
「私の幸せは私が決めます」
「えっ?」
「奥方はそうおっしゃるのではないでしょうか?(微笑) そろそろ陽が落ちます。帰りましょうか」
「はい、足元滑りますから気をつけてください・・・どうぞ手を」
「あっ でも」
「この時代に手を繋いで歩いていると祝言挙げるって思われちゃいますかね(笑)」
「そうかも知れませぬ(笑)」
「大丈夫ですよ、周りに誰もいませんから」
「では・・・」
そして時は優しくゆっくりと過ぎてゆく。
*
「なにを作っておられるのですか?」
「月見団子です。今日は中秋の名月ですから」
月見団子? 確かあの日も、今日は満月だし暇だからってなんとなく月見団子を作っていたんだ。
「あらっなんだか雲行きが怪しくなってきましたね、これでは中秋の満月は見られないかも」
そして走っていると雨が降ってきた。 もしかしてあのときと同じ状況で同じ場所に行けば何かが起こるということがあるのではないだろうか?
「あの・・・ちょっと出かけてきます」
「そうですか、なら雨が降るやも知れませぬゆえ、この蛇の目傘をお持ちください」
「はい・・・ありがとうございます」
「では、お気をつけて」
「あの・・・いえ、行って来ます」
俺はもしかすると帰れるのか? そしてもうここに帰ることはないのか?
だとしたら・・・お元気で。
優しく強く清らかで、花のように微笑むあなたよ、どうかお元気で。。。
帰れるかどうか何もわからぬままに俺は走った、ただやみくもに走った。
「ヒヒーン」
「危ない! 暴れ馬だ! 逃げろー!」
えっ!? 振り向いた俺の顔面に馬の足が迫っていた。
*
「ぶちょおーーー!」
「ホタル!?」
キキキー!
「ぶちょお大丈夫ですか? ちょっと~ここ進入禁止でしょ! なんで車が走ってくるのよ!」
ウ~ウ~ウ~
「今度はパトカー? たく~なんなのよ」
「ホタル!」 ホタルを抱きしめるぶちょお。
「ぶちょお?(震えてる?) 大丈夫ですか」
「ああ、ちょっと驚いた」
「スピード違反の車が進入禁止の道路に逃げ込んで、それをパトカーが追い掛けて、待ち伏せしていたもう一台のパトカーに捕まったって派出所の冴島さんが言ってました」
「ぶちょおもビックリしたでしょ?」
「ああ、びっくりしてそれでよろめいて、しりもちついてしまった」
「怪我がなくて良かったです」
「でもホタルがあのとき、ぶちょおーって呼ばなかったら、あの角を曲がって出会い頭に車にぶつかって跳ねられて、もしかすると死んでいたかも知れないな。それか車に飛ばされた瞬間に江戸時代か何処かにタイムスリップしてたりして(^^;」
「え~! タイムスリップなんてあるわけないだろって言って、今評判のドラマ・仁を一度も見たこと無い超現実的なぶちょおがタイムスリップなんていうなんてビックリです」
「そっか?」
今こうしてホタルと縁側で一緒に月見団子を食べていると、あのことは夢だったような気がしてくる。。。
夢かうつつか幻か・・・
いや決して幻ではなく、 だけどそれは記憶の中で段々と薄れていくのだろう。 少しはにかみながら微笑むその笑顔は。。。
「それはそうと今日はもっと遅くに帰ると言っていたのに早かったんだな」
「実は実家で昼寝してたら夢を見たんです」
「どんな?」
「ぶちょおが何処か遠くに行ってしまう夢でした。起きたら右頬に畳の跡、左頬には涙の跡でした。それでなんだか不安になって1本早い電車で帰ったんです」
「もしかして正夢になったかも知れないな、君のぶちょおー!に感謝しないとな、ありがと
」
「えへっ」
「俺も夢を見てた」
「どんな?」
「凄く恐くて悲しい夢、 だけど切なくて、 少し愛おしくて」
「その愛おしいってなんだか気になるんですけど~」
「うん、この月団子美味いな、なかなか良く出来てる」
「あっ話そらした~」
「だって夢だからよく覚えてないんだもん、そうだっ!来月の中秋の名月には二ツ木夫妻を呼んでお月見会でもするか」
「賛成~」
「けどその夢の中で覚えていることがあって・・・」
「ん?」
「もし俺が二度と君のところに帰れないのだとしたら、俺のことは忘れて幸せになって欲しいって言ってた」
「ぶちょお」
「ん?」
「私の幸せは私が決めますから(微笑)」
そっか・・・(微笑)
「なんだか眠くなってきたな」 ゴロ~ン←ホタルの太股に頭を乗っけるぶちょお。
「あらまあ、子守唄でも歌いましょうか?(笑)」
「気持ちいいな~ホタルの膝枕」
「どうせ私の太股は肉付きが良くて気持ちいいんでしょ。」
「うん、食べたいくらいに」
「いいですよ~食べても(照)」
「・・・・・・・」
「な~んだ寝ちゃったのか、良く寝てるな~。 私ってぶちょおの寝顔が大好きなんだよね。幸せを感じるひとときでありんす。」
たまにはここ(縁側)で寝ようかな、えーと枕だけとってこよう~と。
「行かないで・・・ホタル、何処にも行かないで」
「ぶちょお?」
泣いてる・・・また恐い夢見てるのかな?
「大丈夫ですよ、私はここにいます。 こうして・・・誠一さん、あなたの手をずっと握ってますからね(微笑)」
*
エピローグ・・・
「お帰りなさいまし兄上、今日は中秋の名月だから月見団子を作ったんです。疲れたときには甘いものが良いといいます。沢山食べてくださいね」
「それにしても随分沢山作ったんだな、私が今日帰るとは思ってなかったんだろ?」
「はい」
「咲と母上と二人で食べるには多過ぎないか?」
「さようでございますね、私は何故こんなに沢山作ったのでしょう?」
「うん美味い! これならたんと食べれそうだ」
「良かった」
「あっそういえばさっき言うのを忘れたが、土手に橘と書かれたうちの蛇の目傘が落ちてた。少し痛んでたから修理に出したんだが」
「それは良かったです」
「なにが良かったのだ? 修理に出したことか?」
「いえ、ただ・・・蛇の目傘だけが土手に落ちていたことが、大層良きことのように思えるのです(微笑)」 end
直人さん、39歳のお誕生日おめでとうございます!
←なにも贈ってませんが(^^;
直人さんが演じたぶちょおというキャラは未だこんなにも私の中で活き活きと息づいています。
今後もっと良き作品に巡り会い、素敵な人物を演じてくれるようにと願います。
まずは大河ドラマの西行ですね! 楽しんで力いっぱい演じてください、楽しみにしてます。
そしてまたあの楽園
で直人さんとファンの皆さんと一緒に楽しく弾ける日がくることを首を長くして待ってます!
番外編という形で書いた小説ですが楽しんで頂けたなら幸いです。
「ええ、ちょっと反物を買いにね」
「私のでしたら不要ですので」
「咲、本来ならば何処の馬の骨とも判らぬような男と言いたいところですが、恭太郎の友人ということですし、誠実そうな男ゆえよろしいのですよ」
「えっ?」
「このまま仕事に邁進して、女子なのに着物に何の興味も持つこともなく行き遅れになるくらいなら、あの男と一緒になってもよいと言っておるのです」
「母上、そういう気持ちではありませんから」
「あらっそうですか?最近の咲はなんだか楽しそうですよ、あの男も咲のことをいつも優しい眼で見ていますし」
それは私が奥方にそっくりだからであって・・・ そして私はそんなに最近楽しそうに見えるのでしょうか?
う~ん、あっこういうときにゴロゴロすると良いのかも。ゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロ(痛っ)
*
「先生、なにか考え事ですか?」
「実はこの家を改造して診療所を開こうと思うのです。それで明日大工さんの棟梁が来ることになっていて、なにか希望があったら言って欲しいと言われているのですが、どう言えばよいものかと」
「先生はどの部屋を診察室にしたいのですか?」
「こっちのこの部屋を診察室にして、そっちを待合室にして」
「ではこことここのふすまを外して、廊下まで広げると広く使えますね、待合室は明るい方がいいだろうからここに窓をつけて、家の玄関と診療所の玄関は別にしたほうがいいから、あっなにか書くものありますか? 紙と定規が・・・なければものさしでもいいんですが」
「はいっ 只今お持ちします」
「これは知人から頂いた舶来品の鉛筆というものですが、高野さんには筆よりこちらの方が使い勝手が良いのではと思いまして」
「そっか~もう明治初期には鉛筆が入ってきてたんだな、ちょっと書いてみます」
「はい」
「こっちが図面で、こっちが出来上がり予想図です」
「まあまあこれはなんと見事な! 高野さんはこういうお仕事をされていたんですか? 大工さんなのですか?」
「大工とはちょっと違うんですが、似たようなものですね」
「私が思い描いていたものよりずっとずっと良き診療所になりそうでとても楽しみです(笑顔)」
「良かった! やっと先生のお役にたてそうです(笑顔)」
「先生?・・・どうされたんですか?」
その大きな瞳からは涙が零れ落ちていた。
「あの方も・・・そんなふうに眼を細めて、人なつっこい笑顔で無邪気によく笑っておられました。」
美味いな~やはり咲さんの揚げ出し豆腐は絶品です・・・
こんなときだからこそ笑いましょう、咲さんも笑ってください・・・
「あんなにお慕いした方なのに、その名前もお顔も思い出すことは出来ず、なれど・・・もう一度、もう一度だけお会いしたかった」
「・・・・・」
「もう一度逢えて嬉しゅうございます」
この人はずっと一人の人を想って生きていくのだろうか?
両の眼から落ちる涙はあまりにも清らかで切なくて胸が締め付けられた。
そして涙を流しながらも微笑むその姿はとても可憐で美しく・・・美しかった。。。
*
先生は元気であられますか? 私は今日先生のお顔を思い出すことができました。
またすぐに忘れてしまうやも知れませぬが、もう一度先生にお会いできて咲は幸せです。
私は毎日を元気に生きております。 先生もどうかお元気で。
「南方先生、オペの用意ができました」
「はいっ」
この命必ず助ける! 助けてみせる!
まだ朝靄の残る澄んだ空気の中にいると清々しいあなたを思い出します。
咲さん・・・元気でおられますか?
私がそう問うまでもなく、あなたは花のような笑顔で毎日をひたむきに生きておられるのでしょう。
私も生きています。今日をこれからを全力で生きていきます。
愛しい人よ、されど二度とは逢えぬその人よ・・・どうかお元気で笑顔でお過ごしください。
*
俺は棟梁に呼ばれて診療所の改築を手伝うことになった。
「この図面ていうのがあると仕事がし易いな、俺も書いてみようかな」
「ええ是非、そう難しくはないですから」
「今度教えてくれよ」
「はい」
「それはそうと何時先生と祝言を挙げるんだ?」
「えっ? あっいや、そういう間柄ではないですから(^^;」
「ない言ってんだいっ 同じ家に住んでてよ~男ならケジメつけねぇとな、お似合いの二人じゃねぇか、まっ取り敢えずは診療所が出来てからだな」
参ったな、そんなふうに見えるのか(^^;
「ここが私が倒れていた川原なのですか?」
「ええ」
「全然覚えてないです(苦笑)」
「子供の頃ここで水遊びをしました」
「武家の娘がですか?」
「お転婆だったんです(笑)今日は夕焼けが殊のほか綺麗でございます」
「空気が澄んでいるから尚一層美しいのでしょうね、私の住んでいる時代は空気も水もこんなに澄み切ってはいませんから」
「いつか帰れますよ、きっと(微笑)」
「ええ・・・ だけど、もし私が帰れないのだとしたら妻に伝えたいことがあります」
「それは?」
「私が二度と帰れないのだとしたら・・・私のことは忘れて幸せになって欲しいと」
「私の幸せは私が決めます」
「えっ?」
「奥方はそうおっしゃるのではないでしょうか?(微笑) そろそろ陽が落ちます。帰りましょうか」
「はい、足元滑りますから気をつけてください・・・どうぞ手を」
「あっ でも」
「この時代に手を繋いで歩いていると祝言挙げるって思われちゃいますかね(笑)」
「そうかも知れませぬ(笑)」
「大丈夫ですよ、周りに誰もいませんから」
「では・・・」
そして時は優しくゆっくりと過ぎてゆく。
*
「なにを作っておられるのですか?」
「月見団子です。今日は中秋の名月ですから」
月見団子? 確かあの日も、今日は満月だし暇だからってなんとなく月見団子を作っていたんだ。
「あらっなんだか雲行きが怪しくなってきましたね、これでは中秋の満月は見られないかも」
そして走っていると雨が降ってきた。 もしかしてあのときと同じ状況で同じ場所に行けば何かが起こるということがあるのではないだろうか?
「あの・・・ちょっと出かけてきます」
「そうですか、なら雨が降るやも知れませぬゆえ、この蛇の目傘をお持ちください」
「はい・・・ありがとうございます」
「では、お気をつけて」
「あの・・・いえ、行って来ます」
俺はもしかすると帰れるのか? そしてもうここに帰ることはないのか?
だとしたら・・・お元気で。
優しく強く清らかで、花のように微笑むあなたよ、どうかお元気で。。。
帰れるかどうか何もわからぬままに俺は走った、ただやみくもに走った。
「ヒヒーン」
「危ない! 暴れ馬だ! 逃げろー!」
えっ!? 振り向いた俺の顔面に馬の足が迫っていた。
*
「ぶちょおーーー!」
「ホタル!?」
キキキー!
「ぶちょお大丈夫ですか? ちょっと~ここ進入禁止でしょ! なんで車が走ってくるのよ!」
ウ~ウ~ウ~
「今度はパトカー? たく~なんなのよ」
「ホタル!」 ホタルを抱きしめるぶちょお。
「ぶちょお?(震えてる?) 大丈夫ですか」
「ああ、ちょっと驚いた」
「スピード違反の車が進入禁止の道路に逃げ込んで、それをパトカーが追い掛けて、待ち伏せしていたもう一台のパトカーに捕まったって派出所の冴島さんが言ってました」
「ぶちょおもビックリしたでしょ?」
「ああ、びっくりしてそれでよろめいて、しりもちついてしまった」
「怪我がなくて良かったです」
「でもホタルがあのとき、ぶちょおーって呼ばなかったら、あの角を曲がって出会い頭に車にぶつかって跳ねられて、もしかすると死んでいたかも知れないな。それか車に飛ばされた瞬間に江戸時代か何処かにタイムスリップしてたりして(^^;」
「え~! タイムスリップなんてあるわけないだろって言って、今評判のドラマ・仁を一度も見たこと無い超現実的なぶちょおがタイムスリップなんていうなんてビックリです」
「そっか?」
今こうしてホタルと縁側で一緒に月見団子を食べていると、あのことは夢だったような気がしてくる。。。
夢かうつつか幻か・・・
いや決して幻ではなく、 だけどそれは記憶の中で段々と薄れていくのだろう。 少しはにかみながら微笑むその笑顔は。。。
「それはそうと今日はもっと遅くに帰ると言っていたのに早かったんだな」
「実は実家で昼寝してたら夢を見たんです」
「どんな?」
「ぶちょおが何処か遠くに行ってしまう夢でした。起きたら右頬に畳の跡、左頬には涙の跡でした。それでなんだか不安になって1本早い電車で帰ったんです」
「もしかして正夢になったかも知れないな、君のぶちょおー!に感謝しないとな、ありがと

「えへっ」
「俺も夢を見てた」
「どんな?」
「凄く恐くて悲しい夢、 だけど切なくて、 少し愛おしくて」
「その愛おしいってなんだか気になるんですけど~」
「うん、この月団子美味いな、なかなか良く出来てる」
「あっ話そらした~」
「だって夢だからよく覚えてないんだもん、そうだっ!来月の中秋の名月には二ツ木夫妻を呼んでお月見会でもするか」
「賛成~」
「けどその夢の中で覚えていることがあって・・・」
「ん?」
「もし俺が二度と君のところに帰れないのだとしたら、俺のことは忘れて幸せになって欲しいって言ってた」
「ぶちょお」
「ん?」
「私の幸せは私が決めますから(微笑)」
そっか・・・(微笑)
「なんだか眠くなってきたな」 ゴロ~ン←ホタルの太股に頭を乗っけるぶちょお。
「あらまあ、子守唄でも歌いましょうか?(笑)」
「気持ちいいな~ホタルの膝枕」
「どうせ私の太股は肉付きが良くて気持ちいいんでしょ。」
「うん、食べたいくらいに」
「いいですよ~食べても(照)」
「・・・・・・・」
「な~んだ寝ちゃったのか、良く寝てるな~。 私ってぶちょおの寝顔が大好きなんだよね。幸せを感じるひとときでありんす。」
たまにはここ(縁側)で寝ようかな、えーと枕だけとってこよう~と。
「行かないで・・・ホタル、何処にも行かないで」
「ぶちょお?」
泣いてる・・・また恐い夢見てるのかな?
「大丈夫ですよ、私はここにいます。 こうして・・・誠一さん、あなたの手をずっと握ってますからね(微笑)」
*
エピローグ・・・
「お帰りなさいまし兄上、今日は中秋の名月だから月見団子を作ったんです。疲れたときには甘いものが良いといいます。沢山食べてくださいね」
「それにしても随分沢山作ったんだな、私が今日帰るとは思ってなかったんだろ?」
「はい」
「咲と母上と二人で食べるには多過ぎないか?」
「さようでございますね、私は何故こんなに沢山作ったのでしょう?」
「うん美味い! これならたんと食べれそうだ」
「良かった」
「あっそういえばさっき言うのを忘れたが、土手に橘と書かれたうちの蛇の目傘が落ちてた。少し痛んでたから修理に出したんだが」
「それは良かったです」
「なにが良かったのだ? 修理に出したことか?」
「いえ、ただ・・・蛇の目傘だけが土手に落ちていたことが、大層良きことのように思えるのです(微笑)」 end
直人さん、39歳のお誕生日おめでとうございます!

直人さんが演じたぶちょおというキャラは未だこんなにも私の中で活き活きと息づいています。
今後もっと良き作品に巡り会い、素敵な人物を演じてくれるようにと願います。
まずは大河ドラマの西行ですね! 楽しんで力いっぱい演じてください、楽しみにしてます。
そしてまたあの楽園

番外編という形で書いた小説ですが楽しんで頂けたなら幸いです。