呉明憲コンサルタントの中国ビジネス日記

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金融危機による景気低迷下の労働契約法

2009年01月07日 | 未分類
  労働契約法が施行されて1年が経過した。あれやこれや言われた労働契約法だが、この景気状況の中でいろんな問題が出てきているようだ。具体的には、①労働仲裁、②労働コスト上昇に伴う雇用抑制、③労働契約長期化による求職難、④労働契約法の拡大解釈、の4つのテーマで見ていく。

(1)労働仲裁
  とある服装会社の話だ。26人の従業員を解雇したことにより労働仲裁が発生した。当然従業員からすると遅配となっている給料や定められた経済補償金を要求するわけだが、この服装会社は余りにも経営状態が悪く、結局定められた金額を払うことができず、労働契約法で定められた金額以下で話がまとまってしまった。この会社は100-200人程度リストラしており、その中に妊婦も含まれていた。労働契約法は妊婦を解雇することは認めていないが、このような経済状況の中労働契約法といえども現実に対して譲歩せざるを得なかったケースだ。

(2)労働コスト上昇に伴う雇用抑制
  労働契約法の実施により企業の労働コストが上昇したと言われている。企業が労働コストをおさえるための行動として雇用を抑制するという行動が出てきているようだ。今回の金融危機で2500万の就業ポストが失われた一方で、4兆元の経済対策により1600万の就業ポストが創出されたというが、その差の900万については解決していない。

(3)労働契約の長期化による求職難
  労働契約法の実施に伴い契約期間を1年でまわしていたようなところも2年や3年契約するところが出てきている。労働者が長期に亘り働くことができるということで一見労働者保護のように見え、またこれが労働契約法の狙いでもあったはずだ。しかしながら、これにより一部の労働者は安定的に働くことができるようになったものの、底辺の労働者は逆に仕事にありつきにくいという現象が出てきているようだ。

(4)労働契約法の拡大解釈
  既に一部の地方で労働契約法をその内容どおりに執行しない現象が出てきている。北方の某省では、企業が確かに生産経営に困難が発生した場合、企業組合または従業員代表と協議一致すれば、給与支払い標準を引き下げることができるという通知を発表している。しかしながら、労働契約法では給与引き下げのような労働契約の変化は企業と労働者が協議一致して初めて行うことができるとされており、従業員代表との協議で決めてしまうのは労働契約法に符合しないはずである。

  このように、景気が低迷していることもあって問題があらわになってきているといえる。労働契約法実施条例は労働契約法だけでは不明確であった部分を明確にするものと思われていたが、なおも曖昧な部分が残っている。曖昧であるがゆえに今後は地方レベルで曖昧な部分を拡大解釈してよりソフトな運用が行われるのではないかと見られている。労働者保護を追求した労働契約法も景気低迷の下では軌道修正が必要ということなのだろう。景気低迷が一番の原因なのだろうが、中国の現状において労働契約法はまだちょっと早かったということか。