素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

絶滅と進化―《絶滅した日本のゾウのはなし》ーその「補遺編」としてー(4)

2022年09月20日 20時20分03秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
      絶滅と進化 -《絶滅した日本のゾウのはなし》
        その「補遺編」として-(4)



  絶滅と進化 日本の古代ゾウの場合(下)

 ゾウの祖先、ゴンフォテリウム(学名:Gomphotherium)は、前回も述べましたが、日本列島に生息するようになったゾウとしては最も古いゾウの仲間です。

 アネクテンスゾウとも呼ばれております。その化石は、日本を代表する古生物学者であり動物学者であった松本彦七郎博士(1887-1975)が、岐阜県可児郡御嵩町中切の瑞浪層群平牧層から見つかった上顎骨の化石を基に1924年学名をGomphotherium annectens名付けて、新種として記載された標本です。

 地質時代でいいますますと、少々大雑把ですが新生代の新第三紀中新世の前期(2300万年前~1900万年前)の頃のものです。数年後には同一個体のものと推定される下顎も見つかっています。

 日本産のアネクテンスゾウは、大阪市立自然史博物館『ゾウのきた道―日本のゾウ化石―』(1995)によりますと、ゴンフォテリウム類の中でも原始的な類とされています。ヨーロッパ産のアングスチデンスゾウ(Gomphoterium angustidens)は、日本産のアネクテンスゾウによく似ていたそうです(前掲、1995)。

 ゴンフォテリウム属は15種ほど確認されていると聞いています。その一般的な特徴は、国立科学博物館に展示されている標本を観察するのが最も分り易いかと思います。簡単に言えば、一つはゾウの仲間は上顎に左右2本の切歯がありますが、ゴンフォテリユウム類(Gomphotheres)には下顎にも2本のナイフのような牙がありました。二つに耳が小さかったことも特徴でしょう。そして三つには、鼻が短かったことです。もしかすると短い鼻で草をむしり取って食べるのは困難だったため、下顎の2本の牙を持つように進化したかもしれません。

 さらには進化した現生のゾウのように、木の枝を折り曲げたり、枝を長い鼻で巻きちぎったりして食べることは叶わなかったように思います。そうしたことも長い間には絶滅原因の一つにと繋がって来ると考えられます。

 初期のゴンフォテリュウムは、森や草原と言うよりは水辺に近いところに生息域を持ち、水辺の草や陸地の草の根を掘り返して餌を得ていたものと思います。長い年月を経て、草原で生息するようになって、歯の形態と摩耗の度合などの研究で、木の小枝や木の葉を餌としていた食性から、イネ科などの草食性に進化したことなどが専門家によって明らかにされるようになりました。

 また、日本列島に初めて現れたゾウの仲間がゴンフォテリユウム類のアネクテンスゾウだったといわれています。頭が前後に細長く,胴長の体型を有していたことが骨格化石の標本から推測さています。

 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員でアラバマ大学地質科学部講師)は、ゴンフォテリュウム類は、足元から肩までの高さ(体高)は、雌雄によっても異なっており、大きな個体では2.5〜3.1メートル、体重は4トンくらいあったのではないかと述べています。

 体が大きくなると体高も高くなり、多くのイネ科の草を食べていたことがゴンフォテリュウムの化石骨が見つかった地層と同じ地層から採取された植物化石の分析から明らかにされていす。日本のアネクテンスゾウはこんもりした森に生息していたようですが、鼻も首も短かった時代は、餌をとるのも水を飲むにも、膝をかがめなくてはならず、捕食者に狙われ易くなります。

 しかし、立ったまま餌を食べたり水を飲んだりできれば、逃げたり戦ったりが容易になります。それゆえ、ゾウ類では短い鼻が長くなったと考えられます。ゾウの鼻が長いのは生き延びるための戦略的進化だったのです。十分に進化できなかったゴンフォテリュウムの多くは生存競争に負けて絶滅することになったとも考えられます。ゾウ以外の大型草食獣では、首を長くすると言う進化を遂げて繁栄して来た動物も多いのです。キリンなどもそうでしょうね。

 もう一つ大切なことは、ゴンフォテリュウムの仲間の歯について調べて見ますと、現生のゾウの歯との違いです。現生のゾウの歯は水平交換と言う方式で、すり減った歯が抜け替わります。

 ところがゴンフォテリュウムの仲間は、現生ゾウのように水平交換ができず、歯がすり減って十分な餌が食べられなくなりますと子孫を残すことが出来なくなり、生存競争に負けてしまい絶滅してしまいます。水平交換に成功した種は子孫を増やし繁栄したと考えられます。それが進化なのです。

 岐阜県可児郡御嵩町の瑞浪層群平牧層で産出されたゴンフォテリュウム・アネクテンスゾウの歯を見てみますと、絶滅した原因の一端を垣間見ることができます。
 


コメントを投稿