素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

絶滅と進化―《絶滅した日本のゾウのはなし》その「補遺編」として―(5)中本博皓

2022年09月30日 18時33分41秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
     絶滅と進化 -《絶滅した日本のゾウのはなし》
        その「補遺編」として-(5)



  絶滅と進化 古代ゾウの祖先のなかまいろいろ(その1)

〔ゾウの祖先:エリセリュウム〕
いまからおよそ6000万年前、地質時代では中生代から新生代に代わった古第三紀の頃に現れたゾウの祖先はどれも体がたいへん小さかっただけでなく、鼻や耳も小さかったと言われています。現生で見た人がいるわけではありませんから、本当のことは全く分かりません。

 小生も素人の情けないところですが、化石に関する文献を手掛かりに想像的なイラストに頼るしかありません。およそ6000万年前に生息していたであろうと推測されているゾウの祖先のそのまた祖先、元祖とでも言いますかね。

 2009年にフランスの古生物地学者でもあるパリの国立自然史博物館のアラブ・アフリカの生物多様性や進化に関する研究者エマニュエル・ゲールブラント(Emmanuel Gheerbrant)博士によって最初に命名されたゾウの祖先エリセリユウム(Eritherium)の化石は、北アフリカに位置する国、モロッコの都市クーリブガ(Khouribga)市の近くにあるオウレド アブドゥン(Ouled Abdoun:ウラド アブドンとも読むことがあります。)というリン酸塩の堆積盆地の採石場であるシディ・シェナンから発掘されたと言われています。

 エリセリュウムの化石は、主としてリン酸塩層の「下部骨層」(the "lower bone bed" of the phosphate layer)から発見されたと言われています。

 この近隣の地層や岩石からは、他にも哺乳類など脊椎動物の化石が多く産出される場所としても知られ、そして最近では長鼻目類、絶滅してしまった属、エリセリュウムの化石の発見された産地として知られています。

 さて、6000万年前長鼻類が最初に出現したことで、KT (白亜紀 - 第三紀) 境界の頃に有蹄目哺乳類が急速に放散したことを示唆するものだとも言われています。このような急速な哺乳類の放散は、ネイチャー誌でも報告されていますように、最近のゲノミクス研究とも一致するものだ、と言われています。

 2012年9月2日付けのネイチァー(Nature)No.82 に、エリセリュウム アゾゾラム(Eritherium azzouzorum)についての記事が掲載されているのをネットで見つけました。それによりますと、新しく発見された化石は、ゾウの祖先から現生のゾウへの進化が少なくとも6000万年も前から始まっていたことを明らかにした内容で、なかなか興味をそそるものでした。

 いろいろ調べていて分かったことですが、非常に大切なことは、 Eritherium azzouzorum が正規基準標本として存在するということ、そしてエリセリュウムは、最も古く、最も小さく、最も原始的なゾウの先祖であるというか、ゾウの親戚の元祖として知られているということなのです。

 この点に関して言及している論文の一つが、わが国の学術雑誌(『豊橋市自然史博物館研報』・No.23(甲能直樹氏「ゾウの仲間は水の中で進化した?―安定同位体が明らかにした長鼻類の揺籠(ゆりかご)―」2013、57頁)にも掲載されていましたので、そのほんの一部分を紹介(下記の《 》部分)しておきます。

 《1990年代以降,フランス国立自然史博物館の E. GheerbrantC. Delmerらは,一連の発掘を通じてモロッコの前期始新世の海成層からフォスファテリウム(Phosphatherium)やデゥイテリウム(Dauitherium)あるいはアルカノテリウム(Arcanotherium)などの原始的な特徴を持つ長鼻類化石を次々と報告し,初期の長鼻類はおおよそ体高が1 mあまりしかない中型哺乳類だったことや,メリテリウムと同様に「長鼻」を持っていなかったことなどを明らかにしていった(Gheerbrant et al., 1996, 2002; Delmer, 2009).また, Gheerbrant(2009)はモロッコの後期暁新世の海成層から現時点で最古の長鼻類となるエリテリウム(Eritherium)を記載し,当時の長鼻類は現代型のゾウ類(ゾウ亜目)からは想像もつかないような,20 kgにも満たないウサギ大の小型哺乳類であったことを明らかにした.》
 
  *Eritherium のカタカナ表記の場合、「エリテリウム」と表記されている場合が多いようですが、本稿では「エリセリュウム」で統一しておきます。なお、Gomphoteriumは「ゴンフォテリウム」と表記します。

 上述のエリセリュウムのホロタイプ(holotype)標本 (日本語では「正規基準標本」といいます。) は現在、リヨンのギメ自然史博物館(1772創立の歴史ある博物館)に所蔵(標本番号 MNHN PM69)されています。博物館は、リヨン市を流れるローヌ川の東岸にひろがるテテドール公園(Parc de la Tête d'or)に隣接して建てられています。

 リヨンのギメ自然史博物館に所蔵されているエリセリュウムの標本は、上顎 (頬骨と連なっている2つの上顎枝、それぞれ前方の2本の小臼歯 (P3とP4) と後方の3本の大臼歯 (M1~M3)うち各1本)です。ここでPは小臼歯を、Mは大臼歯を示す記号です。少しばかり調べて見て分かったことは、祖先ゾウの特徴の一つが「臼歯」にあったようです。

 さらに、化石には頭蓋骨 (前頭骨と鼻骨)、下顎の破片と臼歯、上顎と下顎を含むほか、 15 の標本となり得る化石物も含まれているそうです。ギメ自然史博物館所蔵のエリセリュウムの標本の大きさは、縦約15.24センチ(6インチ)、横12.70センチ(5インチ)、そして高さ7.62センチ(3インチ)と言われています。

 以上の化石標本から、ゾウの祖先エリセリュウムの体長は約60センチ、体高(足元から肩までの高さ)約 20 センチ、体重は約 5 ないし 6 kg 位だったと推定されています。ちょうど小型犬くらいの大きさに過ぎなかったようです。現生の重さ6トンも8トンもある大きなゾウを見慣れているわれわれには、とてもゾウの祖先とは想像することさえも出来ないのです。

 エリセリュウムについてはもっと書いておきたいこともあるのですが一応ここまでにして、次回はメリテリユウムについて考えてみます。
 


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