とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

とんねるずイズム5「男男-2」

2011年12月13日 22時28分37秒 | とんねるずコント研究



前回記事では、 “互いなしでは存在しえないほどの「アツアツぶり」、コンビとしての一心同体ぶり、といったバディ的なありようこそ、日本のエンタテイメントにおいてとんねるずを特異な存在にした最大の要因だった” と書きました。

今回は、この「バディ的なありよう」ってなんじゃい、という問題について、もうちょい掘り下げてみたいと思います。
(ちなみにとんねるずへの言及は今回非常に少ないです。あしからず)


少し前に朝日新聞ネット版で興味深い記事をみかけました:

asahi.com イケメンいろいろ「バディ映画」好みも様々、1人では弱い

いま日本映画にバディブームが起きているのではないか、という記事です。

『GANTZ』、『まほろ駅前多田便利軒』、『探偵はBARにいる』など、記事中で挙げられている作品はいずれも男優ふたりのダブル主演で、確かに「バディブーム」であるようにも見えます。

わたしは『まほろ駅前~』以外は劇場で観ていないので、現在の日本映画界については何とも言う資格はありません。記事中で評論家やジャーナリストのみなさんが分析しておられる通りなのだろうと思います。

ただ、バディ映画愛好家としてひとつだけツッコませていただくとすれば、

バディ映画というジャンルに対する認識があまりにも浅い。定義が雑すぎる。

まあ新聞報道にはままあることですけれども(記事の文字数が少なすぎるよね、日本の新聞て)。

この記事の書き手はどうやら、ふたりの有名男優が主役、あるいは主役と準主役で出てさえいればバディ映画だと考えているらしい。映画ジャーナリストの言葉を引用して、“『ルーキーズ』のような「イケメン大量戦略」の延長” と位置づけたり、“1人の俳優ではなかなか客を呼べない今の映画界を象徴” しているなど、どうもバディ映画というものを否定的にとらえたがっているようです。

つまり、“石原裕次郎や勝新太郎といった一枚看板の大スター” がおらず、ひとりの俳優だけじゃ集客力がないから、しかたなく、苦肉の策としてもうひとりくっつけとこう的なのが今の日本映画界の戦略であるとして、それを「バディ映画ブーム」と呼んでいる。

しかし、それはまったくの誤解です。

日本映画界の戦略分析はさておくとしても、それをバディ映画とごっちゃにしてはいけない。バディ映画という、歴史も伝統もあるジャンルそのものへのいらぬ誤解をまねきかねません。

この記事でもっとも問題となるのは「1人じゃ弱いから2人にする」という認識。

本来のバディ映画においては、これはまったく逆なんです。むしろ「強い1人同士を組ませてもっと強い2人にする」というのが基本的な考え方なのです。

たとえば、近年ヒットしたバディ映画といえば、ガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』(2009)がありました。ホームズをロバート・ダウニーJr. が、ワトソンをジュード・ロウが演じた。ふたりの俳優の相性、そこから醸し出される色気、といった諸々の要素がまさに伝統的バディ映画を踏襲していて、高い人気を呼びました。

特に、ワトソン役を美男子俳優のジュード・ロウが演じたことが大きかった。ホームズものの慣習からいうと、ワトソン役には落ちついた年配の役者やコミカルな個性派(ありていにいえば、二枚目じゃない男優)が演じるのが通例。これを超イケメン男優が演じたことによって、ホームズ物語の潜在的な“バディ”的要素が、ものすごく際立ったわけです。







この映画のキャスティングをするとき、果たしてプロデューサーはこう言ったでしょうか、「ダウニーJr. ひとりじゃ弱いなあ。ジュード・ロウでもくっつけとくか」と?

そんなはずはありません。

それぞれひとりでも客を呼べる立派な「一枚看板」である。そんなふたりがまさかのコンビを組む。そこに強力なパワーが生まれるわけです。「1人じゃ弱いから2人」なんかでは決してない。2人でなくてはならない理由が、ちゃんとあるのです。

だいたい、日本映画においても、裕次郎や勝新さんの時代には逆にバディ映画的作品は多かったんじゃないかな? わたしはそんなに観てないけど、日活映画や東映時代劇、股旅映画、やくざ映画などには、ふたりのスターが共演する作品(小林旭と宍戸錠のコンビとか)は多かったと思う。

つまり、本来バディものというのは「強いスター」がいてこそ成立するのです。

だから、現在の日本映画にもし「バディブーム」が起きているのだとすれば、それはむしろ「強いスター」が増えてきた証拠であるか、あるいはその流れをバディブームと呼ぶこと自体が間違っているかのどちらかだということになります。

これはあくまでわたしの印象なんだけど、こと映画にかぎっていえば、日本人はバディもののジャンルにあんまり関心が高くないという気がしますね。このジャンルにおいては日本人は欧米人よりずっと個人主義的です。眠狂四郎、座頭市、木枯紋次郎、遠山の金さん、寅さん等、個人で活動するキャラクターか、あるいは四十七士のような団体行動か、そのいずれかで中間がない。これはこれで、おもしろいことではあります。


一方、バディ映画が突出して多いのがアメリカです。英文のウィキペディア記事Buddy filmが(めずらしく?)このジャンルに関してなかなかよくまとまった解説をしています(どなたか翻訳して日本語版に掲載してくれないもんだろうか)。

「バディ映画の歴史 History of the genre」の項を見ていくと、実に1930年代からこのジャンルがはじまったことが記されています。以下、ここであげられている作品を参考にしつつ、私見を述べていくことにしましょう。


バディ映画の先駆者は、30年代に大人気だったコンビ芸人、ローレル&ハーディ(極楽コンビ)でした(これについては後日記事をあらためて書きたいと思ってます)。

その後40~50年代にかけて、アボット&コステロ(凸凹コンビ)、クロスビー&ホープ(腰抜けコンビ)、マーティン&ルイス(底抜けコンビ)といったコメディアンのコンビたちが、バディ映画を一手に引き受けていた。







60年代に入り、スタジオシステムが崩壊して、パワフルなコンビ芸人がいなくなると、アメリカン・ニューシネマを担う俳優たちによって新しいバディ映画が作られるようになりました。

『明日に向かって撃て』(ニューマンxレッドフォード)、『真夜中のカーボーイ』(ホフマンxボイト)、『スケアクロウ』(ハックマンxパチーノ)など、70年代にかけてシリアスで悲劇的なバディ映画の名作が次々に誕生します(そこにベトナム戦争の影が落ちていたことは言うまでもありません)。







80年代に入ると、ふたたびバディ・コメディが復活。

『48時間』、『大逆転』、『大災難P.T.A』、『ブルース・ブラザース』等々、主にサタデー・ナイト・ライブ出身のコメディアンたちががんばった。80sキッズの聖典『バック・トゥ・ザ・フューチャー』トリロジーもマーティとドクのバディものと言っていいでしょう。

また刑事アクションのバディ映画も大量に作られるようになりました。ウィキでは『リーサル・ウェポン』となぜか『ダイ・ハード』を挙げていますが、個人的には、刑事もの+ロード・ムービー+バディものの合わせ技『ミッドナイト・ラン』(88)が傑作だったと思います。








90年代以降、ハリウッドのバディ映画はやや小粒なものが多くなりました。大ヒットしたのは『ウェインズ・ワールド』くらいでしょうか。ベン・スティラー(『スタスキー&ハッチ』)やオーウェン・ウィルソン(『シャンハイ・ヌーン』)らフラット・パックと呼ばれる喜劇俳優たちがなんとかふんばって牙城を守ってくれてはいるが、レベルは下がっていると言わざるを得ない(そこにブロマンス映画という新ジャンルのつけいる隙もあったのかも)。

変則的に生まれた傑作としては、女性のバディもの『テルマ&ルイーズ』がありました。








90年代後半から00年代にかけて新たなバディ映画の地平を切りひらいたのは、なんといってもケヴィン・スミスです。

デビュー作『クラークス』から彼が一貫して撮ってきたのは、オタク男ふたりの友情物語。その中から、新時代のラブ・ストーリー『チェイシング・エイミー』、マット・デイモンとベン・アフレックの唯一のバディもの『ドグマ』、オタクドタバタナンセンス喜劇『ジェイ&サイレント・ボブ帝国の逆襲』などの傑作が生まれ、若者から圧倒的な支持を受けています。







ハリウッドが元気がないぶん、がんばったのが香港映画でしょう。

おそらく90年代にチョウ・ユンファ、トニー・レオン、アンディ・ラウ、レスリー・チャン、チャウ・シンチーといったスーパースターたちが誕生したことと無関係ではない。『インファナル・アフェア』などは、まったく新しい視点で描いた一種のバディ映画だと言ってもいいんじゃないでしょうか。おそらく00年代以降の韓国映画にも同じようなことがいえるんじゃないかと思います。







こうしてあらためて書いてみると、バディ映画の世界ってやっぱり奥が深いなあ!
この歴史をまとめるだけで一冊本が書けそうです(ぜひ書きたい!)。

「で、結局、バディものって何よ?」との声におこたえして、わたしなりにまとめてみるとこんな感じ。


一、バディものとは、ふたりの、同じくらい人気も磁力もある「強いスター」が共演しなくてはならない。

一、バディものとは、ふたりの男がはじめから、あるいは最後には、無二の親友とならなくてはいけない。

一、バディものとは、メインプロットに女性キャラを介在させてはならない。女性はいるんだかいないんだかわからないくらいな無個性なキャラでなくてはならない。

一、バディものとは、ふたりの男が生きるか死ぬかの危機を共に闘い抜くシビアな物語でなくてはならない。喜劇か悲劇かは関係ない。

一、バディものには、男の色気がなくてはならない。イケメンであることは絶対の条件ではない。くたびれたオッサンふたりであっても、ふたりの間に強力な絆が築かれていることがほのめかされさえすれば、観客は色気を感じるものなのである。

一、バディものは、女性客だけをターゲットにしてはならない。バディものにグッと来るのは実は女性より男性客のほうである。



長年にわたるバディ映画愛好歴の結果、わたしがはじきだしたのは、こういう定義であります。
この定義は、日本のエンタメにはまったくあてはまらないのだろうか?

いえいえ、そんなことはない。

伝統的なバディものをいま日本で受け継いでいるのは、ずばり、お笑い芸人のみなさんだと、わたしは思います。お笑いコンビに「コンビ愛」を求める風潮は、まさしくバディ映画に対する観客の思い入れと同じ。バディものブームは、映画界ではなく、日本のお笑い界で起きているのです。

その先鞭をつけたのがとんねるずであった、ということは以前別の記事(とんねるずからはじまった)で書きました。次回は、とんねるずとコンビ愛=バディものの関係についてもうすこししつこく考えてみようかな、どうしようかな、と思っております(笑)

今日はこれまで。バーイさんきゅ!







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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
初めまして (ハシビロコウ)
2013-06-17 15:25:15
日本のバディ映画で最高と思うのは

高倉健と池部良の「昭和残侠伝」シリーズです!
健さんと池部良が、二人並んで殴りこみに行くシーンの
その色っぽいこと!ゲキ萌です!


勝新太郎と田宮次郎の「悪名」シリーズ

正にバディ映画の代表だと思います

勝さんの、やんちゃで男気のある浅吉と
田宮次郎の、チャラチャラの弟分が最高ーです。
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キャー (ハシビロコウ。)
2013-06-17 19:17:42
間違ってます

浅吉ではなく 朝吉です。
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ハシビロコウさま (ファイアー)
2013-06-18 08:06:41
はじめまして。コメントありがとうございます!
日本のバディ映画について教えていただいて、感謝します!
このあたりは、本当に観ていないので、すごくすごーくありがたい情報です。
そうですか~健さんと池部良で激萌えですか。
これはぜひ観てみないと!
やはりスターたちがたくさんいた黄金時代には、バディ映画が作られていたんですね。
『悪名』くらい観とけって感じですが、こちらも未見・・・
あと『兵隊やくざ』もバディ映画だと最近聞いたんですが、そうですか?

いや~まだまだ勉強ですね。
また何かありましたら、どうぞ教えて下さい。よろしくお願いします♪
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ありがとうございます (ハシビロコウ。)
2013-06-18 15:56:43
「兵隊やくざ」ですか・・・
私偏食が激しくて、観ていません{汗}

もう、ただただ、「悪名」で八尾の朝吉を演じる
勝新太郎がすてきです、それと田宮次郎がこてこての
大阪弁を喋って、朝吉にまとわりつくのも笑えますよ。
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ハシビロコウ。さん (ファイアー)
2013-06-19 23:11:03
田宮さんって関西出身だったんだそうですね!
勝新さんはチャーミングですものね~男も惚れるって感じで。
『悪名』観てみます!
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恥ずかしい~ (ハシビロコウ)
2013-06-21 11:27:45
またまた・・・間違い

次郎ではなくて 二郎です{涙}

まだ「シャーロック」 2話しか見ていませんが

もう~メチャ面白い!楽しい!
シャーロックがジョンを手の内で
転がしまわるのが、可笑しい~

ジョンの悲惨なデート?に爆笑してしまいました
マリーちゃんも応援したくなります{笑}


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ハシビロコウ。さん (ファイアー)
2013-06-27 11:23:57
ごていねいに訂正をありがとうございます。
漢字まちがいはわたしもしょっちゅうなので、どうぞお気になさらず!
情報をいただけるだけでありがたいです。

えっっ、シャーロックご覧になってるのですか!!イェーイ♪

>シャーロックがジョンを手の内で
転がしまわるのが、可笑しい~

さすが、目の付けどころが萌え!
よろしければまたシャーロック記事へのご参加もどうぞ♪
マリーちゃんは、モリーちゃんのことかな?^^イェーイ(笑)
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は~ (ハシビロコウ)
2013-06-29 11:49:52
マリーちゃんではなく、モリーちゃんです{涙}

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ハシビロコウさん (ファイアー)
2013-06-30 10:24:05
イェーイ^^d
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