とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

蜘蛛の巣

2012年09月29日 16時14分07秒 | わたくしの詩と小説
1  森不二夫は、33才の春、世界でもっともすぐれた奇術師のひとりとよばれた。  かの“偉大なるゼウス”のひとり息子としてうまれた彼は、父が飛行機事故であっけなく死んだ15才の冬にその仕事を継いだ。  ゼウスは息子に奇術をおしえなかった。公演旅行で不在がちな父の記憶は、不二夫にはほとんどなかった。おぼえているのは、夢におびえて泣きだした幼い不二夫を、車の助手席に乗せ、真夜中の街をドライブす . . . 本文を読む

青灯

2012年08月17日 19時04分34秒 | わたくしの詩と小説
青灯                        作・いいをじゅんこ  あなたになりたい、と、藍子は泣いた。  あなたはわたし、と、陽子は笑った。  「光はどこ?」だれかが囁いた。  光は藍子の手の中にあった。  母はその手をふわりとつつんだ。光と、罪を、わけあった。  母は年をとった。母は盲目だった。  娘も年をとった。ふたりは、はたらきづめにはたらいた。  母がてさぐりで織り上げ . . . 本文を読む

みずうみ

2012年04月19日 20時26分37秒 | わたくしの詩と小説
 湖が見えたとき、雨雲はすでに重く降りていた。  車の通りが途絶えた県道の脇に立ち、おれたちは、眼下にひろがる湖面をぼんやり見下ろした。  まだ、時間はある。 「いってみようか。みずうみ」 「ああ」  おれと村田は、ガードレールが一カ所途切れたせまいすきまから身をよじって入りこみ、湖へ続く斜面を降りていった。  ほそいけもの道が、ここ数日ふりつづいた雨でぬかるんでいる。地元の住人がふみかため . . . 本文を読む