とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

『ディーン&ミー』 第2章(5)

2012年04月10日 19時21分32秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
 当時のアトランティックシティは二つの顔を持っていた。ボードウォークの海側は、家族向けの健全な遊びが楽しめる場所。一方、陸側の地域では、昼夜をとわず大人の遊びがはびこっていた。だが、いずれにしても、A.C.はせまい町で、ちょっとでも変わったことが起きれば、噂はあっという間に広まった。  第2夜の最初のショウは、240席のうち200席が埋まった。客は、僕らがやることなすことすべてに笑ってくれ . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第2章(4)

2012年03月30日 14時46分00秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
 ディーンが見ている前で、僕はメーキャップ用のペンシルを取り出した。油のしみこんだ紙袋を破りとり、平らにならして、油の染みをよけながら書き始めた。   まずは「イントロ」。  次に「給仕係」。  それから「悪友たち」。  「イタリア人の木こり」  「4月の雨」。 「何やってんだよ?」と、ディーン。 「これでよし」と、僕。 「ネタだよ。親父がやってたのとか、僕が寄席でやったのと . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第2章(3)

2012年03月20日 14時30分17秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
 夕方5時15分前に、ディーンと僕は500クラブに着いた。まっすぐバンドの所へ向かった。バンドの連中は、みんないい奴ばかりだった。小編成のバンドだが、とにかくいい奴らだ。実際、バンドと言っても、ピアノとトランペット、ベース、ドラムの4人だけだ。ドラマーのバーニーは、鼻が大きいことをいつもみんなにからかわれていた。だからバーニーと僕は “義兄弟” になった。バーニーの鼻と僕の存在そのものを、み . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第2章(2)

2012年03月13日 19時28分36秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
 アトランティックシティのダウンタウンにあるワシントン通りのバスターミナルで、僕は待っていた。やがて、目当てのバスが見えた。バスが構内の停留所で止まると、僕は飛んでいって、降りてくる乗客を見つめた。女の人、子ども、また女・・・あ、来た! 「おーい、ディーン!ここだよ!」  その時、僕はベンチのそばに立っていて、子どもみたいに片足をベンチの上に無造作においていた。僕の姿を見て、ディーンは笑 . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第2章(1)

2012年02月29日 20時56分39秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
第2章  1946年夏のアトランティックシティは、いまとはずいぶんちがう顔をもつ町だった。 「ザ・バリー」や「トランプ・タージマハル」といった巨大カジノはまだ存在せず、賭博は合法化されていなかった。いまのように娯楽が屋内のものとなってしまう以前には、海岸沿いのボードウォークの辺りは、にぎやかで人でごったがえしていて、お祭り気分にあふれていた。手回しオルガンの音と、楽しそうな子どもたち . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第1章(4)

2012年02月21日 14時40分15秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
 ディーンに魅了されながら、一方で僕は、彼がまだ田舎臭さからぬけきっていないことにも気づいていた。たとえば、彼が履いている赤と白のツートンのエナメル靴ときたら、まるでポン引きみたいだ!それに、彼のしゃべりかたには、下層階級特有の訛りがかすかに聞き取れた。それは部分的にはイタリア移民の両親からうけついだアクセントだった(ディーンが言うには、5才まで英語がしゃべれなかったそうだ)。そこにウエスト . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第1章(3)

2012年02月12日 00時25分00秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
 ソニー・キングは、つるんで遊ぶにはゆかいな奴だったが、本当の友だちではなかった。僕は本当の友だちが欲しくてたまらなかった。家を空けてばかりのヴォードヴィリアンの両親のひとり息子として、僕はうまれた。父のダニーは歌手兼芸人だった。口上からものまね、漫談まで、父はなんでもこなした。母のレイチェルは、父のピアニスト兼指揮者だった。  親戚の家から家へ、僕はたらいまわしにされて育った。両親がたまに . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第1章(2)

2012年02月03日 12時06分31秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
「よう、ディノ!」  ちかづきながらソニーが声をかけた。 「調子はどうよ、ルー?」  と、今度は年配の男のほうにもあいさつした。  ルーと呼ばれた男はルー・ペリーといって、ディーンのマネージャーだということがあとでわかった。いかにもマネージャー然とした男だった。背が低くて、くちびるはうすく、醒めた目をしている。ソニーが僕を紹介したが、ルーは興味なさそうにちらっと見ただけだった。でもソニーは . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』 第1章(1)

2012年01月28日 17時53分34秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
第1章  トルーマンと、アイゼンハワーと、ジョー・マッカーシーの時代に、僕たちはアメリカを自由にした。第2次大戦後の10年間、ディーンと僕は単にショウビジネスの歴史上もっとも成功したコンビ芸人というだけではなかった---僕ら自身が、歴史そのものだった。  思い出してみてほしい---戦後のアメリカは、ずいぶんとおカタイ国になってしまっていた。ラジオには検閲がかけられ、大統領は帽子をかぶり、 . . . 本文を読む

『ディーン&ミー』プロローグ後編

2012年01月09日 17時20分22秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
プロローグ前編翻訳は→こちら  いつもの通り、僕らはそこで握手をした。だがその夜は、観客のあいだに歓声ではなくこんなつぶやきが広がった。 「ひょっとしたら、もう一度やりなおせるんじゃ?」  ざわめきは、巨大な振動となって、建物全体をふるわせた。  もったいぶった様子もなく、いつも通り淡々と、ディーンは三曲つづけて歌った。そこへ僕がわりこんでいって、お約束のネタが始まる。 「長々と歌ってくれて . . . 本文を読む

『ディーン&ミー(ラブ・ストーリー)』(仮)プロローグ前編

2011年12月28日 02時57分51秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画
ジェリー・ルイス!の記事でもふれた通り、現在『ディーン&ミー』(原題 ”Dean&Me~A Love Story” )を翻訳中です。 この本は2005年にアメリカで出版され、ベストセラーになりました。“キング・オブ・コメディ” ジェリー・ルイスが、かつての相方ディーン・マーティンとの出会い、成功、確執、解散にまつわる真実を、率直に、かつ感動的に語った回顧録です。 ディーン・マーティン&ジェ . . . 本文を読む