***以下の内容はネタバレしています。「シャーロック」第3シリーズ未見の方は十分ご注意下さい***
レビュー1
レビュー2
例によって、ここまでのレビューで、ミステリーに関してはまったくふれてないわけですが(笑)
テロリストの地下組織が、ロンドンで大規模なテロを起こす計画を秘密裏にすすめている。それを阻止するため、シャーロックが英国政府=マイクロフトに呼び戻された・・・というのが、ストーリーの前提です。
ロンドンの地下鉄(チューブ)が、その重要な舞台になる。ご存知のとおり、ホームズ譚と鉄道は切っても切れない関係にあります。前2シリーズでまったく鉄道が登場しなかったことが、番組への数少ない不満のひとつだったので、これはとてもうれしかったですね。というか、単にチューブが大好きだし。
ウエストミンスター駅で撮影されたようで、奥にいるのは普通の乗客のようにも見える。こういうショットをがんばって撮ってくれるのが、うれしいのよねえ。
ホームズものドラマの大きな魅力のひとつは、ロンドンの街を“体験”できることでしょう。「大いなるゲーム」のコメンタリーでゲイティスも言ってましたが、『シャーロック』は、わざとらしくロンドン的名所を見せることなくロンドンを感じさせてくれるドラマとして、記憶されていくに違いありません。21世紀初頭のロンドンの記録にもなっているわけです。
うれしかったことが、もうひとつ。マイクロフトとシャーロックの“推理合戦”、これは今シリーズの名場面のひとつでしょう。なんといっても、マイクロフトこそ“ホームズ兄弟の賢い方”なんですからね。マイクロフトというキャラクターを創造したコナン・ドイルは、マジに天才だと思う。
推理合戦のシーンは、原作小説『ギリシャ語通訳』の引用。帽子で推理をめぐらせるのは『青い紅玉』(大好きな短編!)。『青い紅玉』ではホームズがワトソンに推理をさせるので、すでに「大いなるゲーム」のスニーカーシーンに引用されてますが、ここではマイクロフトとシャーロックに変えたんですね。シャーロックが帽子をかぶってみせる所まで『青い紅玉』そのまんまです。
原作へのこのたえまない引用、つまり伝統をなにより大切にする姿勢が、『シャーロック』をすぐれたホームズ譚にしているひとつの要因だと、わたしは思うのです。
モファットとゲイティスのインタビューを見てると、原作のおもしろさに言及してないものはない。しつこいくらいにドイルのプロモーションをしてるんですね。ドイルの遺族に訴えられないよう、予防戦をはってるのかもしれないけど(笑)
でも彼らのホームズ愛はほんものだし、その「愛」こそが『シャーロック』をこれほどおもしろくしているんでしょう。
伝統、というキーワードを出したので、ここでアンダーソンにふれよう。
このエピソードでアンダーソンは、シャーロックファンダムの象徴になった!なんとも奇妙でおもしろい展開ではありませんか。
シャーロックの自殺で自責の念にさいなまれたアンダーソンは、シャーロックは死んでいない、死を偽装したのだという考えにとりつかれる。死のトリックの仮説を立てるのに人生をささげ、ヒゲもさもさになったアンダーソンのすがたは、かなり衝撃的でした(アンダーソンのヒゲとジョンのヒゲ・・・シャーロックの亡霊にとりつかれた2人・・・)。
それは実際、この2年間ファンがひたすらやってきたことなので、笑うに笑えないってところもあって。でも、アンダーソンと“ファンクラブ”のシーンは、じつはもっと示唆的です。アンダーソンは、シャーロックファンダムというよりも、シャーロキアーナを信奉する昔からのシャーロキアンのパロディではないだろうか?
かぎりなくファンフィクション的な仮説(シャーロックとモリアーティが一緒に死を偽装してかけおちする)を立てる女の子に、アンダーソンは「正気かよ?マジメに考えろ!」と怒る。しかし女の子は至極マジメで、逆にSilly hatをメンバーにかぶらせるアンダーソンをバカにしている(I don't think we should wear the hat.)。
1年程前のいまごろ、保守的なシャーロキアンとベイカー・ストリート・ベイブスとの間で、ちょっとした論争があったのをおぼえてらっしゃるでしょうか。
詳細はこの記事で紹介しました→“アカ=ファン”の正常な愛情(2)(ファンとは何か)
アンダーソンとファンクラブのシーンは、あの論争を思い出させました。「ホームズは実在する」とかたくなに信じる保守的シャーロキアン=アンダーソンと、その妄執を軽蔑しながらもファンガール的妄想におぼれている新人類シャーロキアン・・・
とはいえ、両者がおなじ部屋でひとつの「倶楽部」(実在するベイカー・ストリート・イレギュラーズのような)として話し合っているというのは、『シャーロック』の作り手たちが、どちらの肩をもつのでもなく、ホームズファンダムの伝統を“現代化”して見せた、ということでしょう。おもしろいですね!
いずれにしても、いまやアンダーソン=ファンダムなわけですから、シャーロックがアンダーソンだけに死のトリックの真相を明かした(録画までさせた)のも、作り手からファンへのメッセージだったのかもしれない。シャーロックの説明を聞いてアンダーソンががっかりすることも含めてね(笑)"Oh Everyone is a critic."というシャーロックのひとことが、すべてでしょう。
このシーンでは、トリックそのものより、
・アンダーソンの名前はフィリップである。
・シャーロックは同じコートを何着も持っている(いつクリーニングに出してるんだろう、と心配してたので)。
・実はシャーロックとマイクロフトがはじめから協力して、モリアーティ打倒のためにうごいていた。
・・・の方が、驚きでした。
それにつけても、モリアーティ・・・
なんなんですか、あのカムバックのしかたは・・・あんなことが、ドラマの本編で、本物のキャストによって、おこなわれてもいいんですか・・・
いいんです。ぜんっぜんいいんです!!
あの瞬間、モリーのキス以上の悲鳴が全地球にとどろいたのは、まちがいない・・・
“シャリアーティ(Sherliarty)”
Sherlock & Moriarty Kiss | | Love Is A Many Splendored Thing
やっぱり今回も書き切れなかった・・・さらに続きます!
sherlock/moriarty; don't you know that you're toxic.
一応、バケーション中なのに未だにエピソード3の咀嚼中。今シリーズは余りにもレイヤーがありすぎて、何度でも見てしまいます。沢山の遊びとファンサービスとオリジナリティがありながら、原作の尊重というところで、絶妙なバランスをとっているのですよね。それにしてE3のホームズは格好良かったです。
米国では明日PBSで放映。私は電気の来ていないところ(アメリカにはそういうところがあります)に滞在するので視聴率に貢献できないのが残念です。
S3E3を見終わって1週間経ちますが、私の中で出た結論は、今回はエピソードごとに語るのがとても難しい、ということでした。なぜなら、三つのエピソードが織物のようにからまっていて、シリーズ3が一つの物語のように思えてきたからです。S1とS2は、まだエピソードごとに語ることができたのですが、S3E3の後では、E1とE2だけを語ることが困難です。あまりにもいろいろな要素が緻密な計算の元にちりばめられていて。
ああ、楽しい!
わたしも行きたいバケーション!!
いよいよアメリカで放映ですね~と、言いつつ電気が来ていない場所に!
ええっ 自家発電ですか?
PBSはどのシーンをカットしてるかも、ある意味気になりますね。
イントロダクションは誰でしょう?あれ結構好きなんです。
ではひきつづき休暇を満喫なさってください^^
まっっったく仰る通りです!!
実はE3を2度目に観た直後、あまりの衝撃と感動に、すぐE3をレビューしようかと思ったんです。
そこからE2、E1とさかのぼっていこうかと。
でも、それって絶対不可能なんですよね。今期は特に。
エピが進むごとに物語が深まって、E3ですべてが結実する、という感じですよね。
確か撮影も、1から3へ順番に撮っていったはず。
E3はある意味過去3シリーズすべてのしめくくりという気もします。
(S1E1との呼応を指摘してるファンもいました。ちょうど対になってると)
うちのレビューも、もしかしたらエピごとじゃなく、トピックごとに、
エピ横断的にやったほうがよかったかもしれませんね。
自然にそういうレビュー内容になっちゃってるようにも思います。
ああ楽しい!!
http://www.nytimes.com/2014/01/18/arts/television/benedict-cumberbatchs-sherlock-is-back-on-pbs.html?ref=arts&_r=0
ちゃんとファンの声を聞いてフレキシブルに動いてるということでしょうか。
S1とS2もいまPBSのサイトで見られるみたいですね。
EWの特集も大きいようですし、NYタイムスの記事も力が入っていますね。
実はファイアー様のお陰で、今さっきやっとのことで、私S3を全て観終わりました。
本当にありがとうございました。
kuwachannさんのおっしゃる通り、ファイアーさんの記事は、スルメを噛むごときかな…
まゆみさんがおっしゃる通り、本エピソードは織物のように複雑で美しい伝統工芸のごときかな…
私の希薄な語彙力では十分に語り尽くせぬ感動に、今この瞬間も包まれております…
それにしてもファイアーさんのブログは素晴らしいです
出来れば本にして欲しいくらいです
タイトルを考えるのはおこがましいので副題として
「BBC NEW SHERLOCK を語る…」みたいな感じで
いかがでしょうか…
S3、無事ごらんになれたんですね~良かった!
日本でのちゃんとした放映を、あとは待つばかりですね・・・