とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

とんねるずイズム5「男男-4」

2012年01月29日 02時26分41秒 | とんねるずコント研究


連載記事「とんねるずイズム」のシリーズ内シリーズ「男男」も、今回で4本め。
ずいぶん長々とひっぱってきました。

最初の記事で「今回のテーマは手強い!」と書きました。男同士のコンビというものの存在論的な意味についてかんがえてみたい、というのがこのシリーズのもくろみであったわけですが、確かに、テーマとして手強い。「バディもの」を視座にした今回のアプローチはあくまでひとつのアプローチにすぎず、これだけではとてもいいつくせないものがあります。

しかし、ここまでシリーズをひっぱってきた理由は、じつはもうひとつある。
自分自身の「男男コンビ」へのこだわりの根っこがいったいどこにあるのかを、なんとかしてさぐってみたい、という思いもあったからです。それは、とりもなおさず「なぜとんねるずを愛するのか」をさぐる営みでもある。

思えば、物心ついたころから、なぜか「愛し合う男と男」に魅力を感じてきました。

わたし自身のつまらないヰタ・セクスアリスを綴ってみると、最初に強烈な印象を残したのは、忌野清志郎と坂本龍一がコラボレーションした「い・け・な・いルージュマジック」のMVだった---

って、文章にしてみると、あまりに俗なきっかけで、ちょっと(というかかなり)恥ずかしいなあ。「森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』を読んで『賤のおだまき』に興味をもちました」とかなんとかカッコいいことを書きたいんだけど、まあしかたがない。

ともかく、MVを見た当時のわたしはまだ小学生で、ド派手な化粧をした若い男ふたり(当時はまだお二方ともうらわかき青年だった)が手錠でつながれ、しまいにブチューとディープキスをするMVが幼な心にあたえたインパクトは、非常に大きかった。






(余談。2009年に放送されたアメリカン・ミュージック・アワードのステージで、アダム・ランバートがベーシスト(男)とキスをしたパフォーマンスに苦情が殺到したんですって。1982年に小学生が男同士のキスを普通に目撃できた日本の寛容さは、誇っていいのかもしれんね。)


中学生になり思春期に入ると、偶然本屋でみかけたそっち系の漫画本とか小説が多少気になったりもした。当時の言葉でいえば「やおい」ということになるんでしょうが、その言葉自体まったく知らなかったし、また、興味はあっても、その道にのめりこむということは、なぜかありませんでした。

何度も書いてきたとおり、その頃からお笑いは大好きで、マンザイブームも人並みかややそれ以上に熱心にテレビで追っていました。春やすこ・けいこやハイヒールといった魅力的な女性コンビもたくさんいたものの、ほとんどが男性コンビだった。しかし、特定のコンビのファンになるということはなかった。

これもいままで何度か書いてきたけれども、わたしが最初にとんねるずを目撃したのは、彼らが「貴明&憲武」から「とんねるず」と改名して挑んだ「お笑いスター誕生!!」の8週目でした。このときのネタに関して以前記事にしたこともあります。ネタの内容についてはこちらの記事をご参照ください。

衝撃でした。「い・け・な・いルージュマジック」以来2度目のディープインパクトだったと言ってもいいかもしれない。このコントの内容をのちのちまでかなりハッキリとおぼえていたことが、衝撃の大きさを証明していると思います。

暴力的な番長役のタカさんが、おとなしい生徒のノリさんをよびだして、何を言うのかと思いきや「おまえが好きなんだ」---そして、もっと衝撃的だったのは、告白されたノリさんがすこし驚いただけであわてずさわがず「ボクでよかったら」と答えた場面。

この展開をまったく予想していなかったわたしは、完全に意表をつかれました。びっくりしたり笑ったり黄色い悲鳴をあげたりと、大忙しだったのをおぼえています。

いま、あらためてあのコントのおもしろさをふりかえってみると、じつはあれは同性愛をネタにしていたからおもしろかったわけじゃないんじゃないか?と思えてきます。ましてやゲイを茶化すとか蔑むとかいうネタでは決してなかった。

むしろ、そういう展開を観客が無意識に予想してしまうのを、ノリさんのセリフが一瞬であざやかに裏切って、普通のさわやかな青春ドラマとして演じたことがおもしろかった。いわば「価値の転倒」を瞬間的に提示してみせ、セクシャリティにたいする世間の固定観念を一瞬でひっくりかえしてみせた。そのことこそが、おもしろかったんじゃないだろうか。

タカさんもノリさんも、このコントをごくマジメに、ごく普通に演じました。番長の告白をおおげさに拒否したり、おネエっぽくなってみたり、といったクリシェは一切やらず、ふたりは真剣にこの青春ドラマを演じていました。そのことも大きかった。

今になって思えば、このときわたしは、性的マイノリティにたいするとんねるずがもつ誠実さみたいなものを、子ども心に感じとっていたのかもしれないと思う。

おそらくとんねるずにとってもっともきわどいキャラクターだった保毛尾田保毛男にしても、同性愛者への蔑視ではないかという声もあるにはあったそうですが、しかし「ホモ」という言葉をゴールデンタイムのテレビ番組で正々堂々と使ったのは、おそらく「おかげです」が初めてだったのではないでしょうか。

このキャラに関しては、最初は「蓼科に住む公務員」という設定しかなかったのに、やがて連続コント「保毛尾田家の人々」でその生い立ちをドラマ仕立てで描くことになりました(この壮大なコントの志を継いだのは「笑う犬」シリーズの「てるとたいぞう」だった)。

男性コンビなら、同性愛的な空気を“ネタとして”出す、というのは、ままあることです。キスをしたり手をつないだり、といったことを“見せ物”的にやって女性客を喜ばせるというのは、バラエティ番組でよく見かけます。

そういう、ある意味フリーキッシュな同性愛ネタも、別に否定はしないけれど(実際ゲイのみなさんがどう感じているのかはわかりませんが)、わたしが記憶するかぎり、とんねるずがそういうネタをふざけてやったことはこれまで一度もない。つまり、女性ファンを喜ばせるためだけのわざとらしいゲイネタというものは。

とんねるずの場合、すべてが“自然”なのです。石橋貴明と木梨憲武のあいだに流れる独特の空気感、化学反応。それがごく自然なものとして映像を通して伝わって来る。

時には、番組中ふたりがほとんど目を合わさないこともあるし、見ていてもどうも雰囲気が悪いな、と毎週のように感じる時期も以前はありました。そんなときでも、無理に仲をとりつくろうようなふたりではない。すべてを自然なままに見せてくれるふたりだから、ファンはいつまでもふたりから目が離せない。

男同士のコンビにとって、単なる友だち以上、もっと言えば女房子供以上の深い絆を真摯に観客に伝えることは、とても大切なことです。これは、世間一般でかんがえられているよりもずっと大切なことで、「BL」や「腐女子」(「腐男子」も?)といった文脈でとらえることはもちろん重要だけど、それだけであっさりかたづけることのできないものでもあります。

とんねるずは、この重要性をきっとだれよりも知り抜いている。男性コンビの絆に人々が見いだす価値というもの、時に純粋で、時に倒錯的で、それがはかりしれない魅力をもつのだということを、とんねるずは知り抜いているんだと思う。

ノリさんについて語る時のタカさんが「肌を合わせればずっと一緒にいられるかどうかわかる・・・」なんて、聞く者がどきりとするような一言をさらっと言ってしまえるのも、とんねるずにとってコンビ愛と同性愛のはざまをゆらゆらゆれうごくような色気こそが身上だと、タカさんが知り抜いているからではないだろうか。

こんなふうに形容すると叱られそうでちょっとこわいけど、日本における「萌え系女ヲタ」の大大先輩である白洲正子は、『両性具有の美』という本のなかでこう書いています。

「伊勢物語の中では親王との交遊について一番多くの言葉をさいているように記憶するが、それは一連の物語としてまとまっているからであろう。男の友情もここまで深くなれば男色関係などあってもなくても同じことで、男女や主従を超えたところにある美しい愛のかたちが、雲間を出ずる月影のように、あまねく下界を照しているように見える」

この本を読むと、男同士の「美しい愛のかたち」は階級をとわず古来からごく自然に存在していて、それが多くの日本人の心をとらえ、また、白洲正子の心をも強くとらえてはなさなかったことがよくわかります。

「自然に発生した同性愛を、両性具有の思想にまで高めるか、ただ一過性の経験に終るかは、それぞれの人間の器量による」と言い切る正子の潔さに、心ならずもはげまされるような気がしてならない。

とんねるずというコンビが放つパワーとはなんなのか。

それは、ふたり一緒になって両性具有のひとつの人間となるような、神秘的な「両性具有の思想」をふたりが体現していることだ。30年以上の長い歳月にわたって、ふたりがそれを守りつづけ、わたしたちに提示しつづけてきてくれた、それだけでもう、わたしにとっては奇跡的なことなのです。







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7 コメント

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マイノリティ (chirira)
2012-01-29 13:39:17
ああ、そうです。
思い出しました。
自分がこういった所謂『腐女子思考』に傾倒したきっかけが何だったのか…
完全に深みにハマったのは間違いなくとんねるずだったんだけど、今回のファイアーさんの
記事を読んで記憶がうっすらとではありますが蘇ってきました。
歌番組で『いけないルージュマジック』を歌っているド派手な2人の男性が、間奏部分で
いきなりキスしたんですよね~。
まだ小学生だった私にはものすごい衝撃でした。
とは言えファイアーさん同様、そこからそっちにいったのかというと全くそんなことはなく・・・
あくまでも、こういう世界もあるんだという一番最初の扉にすぎませんでした。

残念ながら私はお笑いスタ誕のとんねるずは記憶にないんです(あるのはコロッケくらい)。
でも関東から全国区へとその人気を爆発させた頃(一気~西麻布)、2人にそういった
『男同士の・・・』を感じ取ってしまった私は、きっと自分は圧倒的マイノリティな思考の
持ち主なんだとそれを隠そうとしていました。
けれど、そういう思考が自分が考えていたほどマイノリティではなかったことを、その後
様々なとんねるずファンとの交流で知るのですが(笑)

コンビ愛の深さにやたらとスポットがあてられる昨今、それを決して『見せよう』じゃなく
自然に『感じさせてくれる』2人が好きです。
私の場合、そこからさらにおかしな方向へと思考が転がっていくのですが・・・。
まぁそれはあくまでも個人的思考(妄想)の自由ということで(笑)

とんねるずが、コンビ愛と同性愛のそのギリギリを体現していくれている(本人たちにその
意識はないでしょうけどw)限り、2人が60になっても70になっても2人から目が離せ
ませんね。


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同性愛ネタ (FUJIWARA)
2012-01-29 15:36:13
お笑いスタ誕が土曜日の昼ということで見れませんでしたけど、
その後同性愛ネタはネットの普及によりようやく見る事ができました。
とんねるずの番組でのスタ誕の回想は大抵、星一徹の眉毛とかでしたし(笑)

が、番組名は不明ですが(コラとんが有力かな)、私がアルタイムで見た同性愛ネタ(コント)には
きちんと部室のセットがあり、お客さんの笑い声とかも確かあまり無かったような感じでした。
シュールな雰囲気が満載と同時に、度々話題になる「暗さ」を感じました。
「禁断」という言葉がぴったりという感じでした。
いぜん誘拐犯コントをファイアーさん取り上げていましたが同じ匂いを感じましたね。

「ボクでよかったら」今ならこのオチはありかと思いますが当時は新しい感覚だったかと思いますね。
ニューウェーブ、新人類・・・「同性愛」というのが「文化」といったら語弊になるのか解りませんが、
丁度オープンになりつつあった問題を得意の時代を先取るニューパワーで感じ取った
ネタだったのかもしれませんね。
しかしそれは中々コントとしては出来ない事ですよね~凄すぎる!


最近、私はとんねるずの同期と言われる風見しんごさんの研究をしていました(笑)
カッコいいしお笑いもやって、歌、ドラマ、映画と共通する部分が多々ありますよね。
歌に関しては経歴を見ると殆どヒットしているのにプッツリ辞めた感じですね。
そして、得意のブレイクダンス以前、以後で曲調も変わってきます。(どちらも良い曲ばかりですが)

私が風見さんの映像を懐かしく見あさったキッカケは
この「涙のtake a chance」でした。凄くないですか?
http://www.youtube.com/watch?v=cCo0FvKZU6s&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=oZHnAjcyQHY&feature=related

(勝手な風見しんご押し、すみませんw)
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chiriraさん (ファイアー)
2012-01-30 12:42:02
すてきなコメントをありがとうございます。

>そういう思考が自分が考えていたほどマイノリティではなかった

まったくそうなんですよね。
そこはわたしも驚きというか・・・あ、自分だけじゃないんだ、みたいな^^
そもそも同性愛自体、マイノリティといっていいのかどうか。
潜在的な数はヘテロと同じくらい多いんじゃないかと思うんですけどね。

腐女子的志向って世界的にあるみたいですね。
ユーチューブとか見てると、好きな男コンビとかドラマ、映画の
好きな場面のコンピレーションが「スラッシュビデオ(slash)」としてアップされてる。
モンティ・パイソンまであるから驚きです。こんなのとか。
http://www.youtube.com/watch?v=gKthVjZUHoI
ご本人たちはいまやもう70のオジさまたちだけど(笑)
chiriraさんもとんねるずで作ってみては!?
絶対永久保存版にします!
返信する
FUJIWARAさん (ファイアー)
2012-01-30 12:52:26
>「ボクでよかったら」今ならこのオチはありかと思いますが当時は新しい感覚

ああ~そうかもしれないですねえ。
当時はこの方面を打ち出してくるコンビってなかったかも。
やるとしても、妙にオカマっぽくやるとかね。
逆に今はネタになりづらいかもしれない。
「ピカルの定理」でも同性愛コントやってますけど、いまひとつだからなあ。

それにしても風見しんごですか!
ダンスのキレがすごいですね!変わってないわ~
歌が微妙にヘタなところもなつかしい(笑)
「週刊欽曜日」むっちゃ見てましたもの~
あと「ヤヌスの鏡」ね。あれの彼の演技はすごく良かったですよね。
こうしていまもカッコ良く元気にいてくださるって、なんだかうれしいですね。
ひきつづき研究の成果を聞けるのを楽しみにしております!
返信する
デビュー (FUJIWARA)
2012-01-31 21:03:40
研究ですが途中から違う方向の研究へ移行となりました(笑)

風見しんご、1962年10月10日生まれ、1982年、『欽ちゃんの週刊欽曜日』オーディションに合格してデビュー。
したSPの時に、たけしさんが同期は?とノリさんに聞いたところ、
風見しんごと中井貴一と答えていましたね。

同期の概念ですが、雨トークで以前、誰が先輩で誰が後輩かハッキリさせよう企画がありました。
有吉さんも出ていましたが、これが意外とそのメンバー内では後輩だったという展開でした(笑)

その時の条件としてプロとしての芸暦スタートは養成所、付き人時代は含まず、
舞台、TVなど媒体は問わないがギャラを貰った年からという条件だった思います。

とんねるずの芸暦、同期は?と考えますと

・1980年ドバドバ大爆弾出場(日時不明)
1980年7月12日 貴明&憲武 お笑いスター誕生出場
10月1日とんねるずに改名??
もしこの年これだけだったら、私はこの年がプロデビューとは言えないと思うんです。
が、コルドンブルーに出演し始めたという話がありますよね。
そこでは少なからずともギャラが発生するはずです。
あとファイアーさんもご存知なCM、森永ドーナッチョが1980年説もあります。
http://www.youtube.com/watch?v=5lyFo8v5sVs
そうなるとやはりプロデビューは80年なのかなと思います。

・1981年「とんねるす」としてお笑いスター誕生出場
「ピョン吉・ロックンロール」「モーニングサラダ」「KON」
これはもうプロの仕事ですよね。

・1982年4月10日お笑いスター誕生グランプリ

という訳で結成(改名?)=1980年デビューという結論となったのですがどうでしょう?

お笑いスター誕生が素人参加番組と考えがちですがプロ、アマOKの番組でした。
ただ世の中の風潮、本人達も実際胸を張ってプロと言えるのは栄冠を勝ち取った1982年なのかもしれませんね。
何とか食えるようになったのは1984年くらいなのかなぁ。
完全にブレイクしたのは1985年雨の西麻布。

俳優、タレントを同期と言う気持ちも解ります。
↓とんねるずデビュー時は狭間の期間ですしね。
http://wiki.fdiary.net/geinin/?%C7%AF%C9%BD

まあ、コレだけ長い期間活動してますと、一、二年のプラスマイナスなど関係無くなってくると思いますし、
先輩、後輩なども関係なくなってくると思いますが。

以上、報告を終わります。
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FUJIWARAさん (ファイアー)
2012-02-02 22:37:18
充実のご研究、ありがとうございます!!

>したSPの時に、たけしさんが同期は?とノリさんに聞いたところ、風見しんごと中井貴一と答えていましたね

これおぼえてます。なぜに風見しんご?と思ったおぼえが(笑)
62年10月生まれということは、一学年下なんですね。

「ギャラをもらった年がプロデビュー」という定義はおもしろいですね。
それでいくと、やはり森永のCMが決まった時点がとんねるずのデビューということに?
1980年プロデビュー説に、わたしも賛成です。

だけど最近(トークダービーだったかな?)確かノリさんが、
森永のCMはギャラの話が最初とちがったとか、もらえなかったとか・・・
言ってませんでしたっけ??

とんねるずの場合、同期かどうかと同時に、同学年かどうかっていうのも
けっこう重要な要素かなあと思いますがいかがでしょう?
同学年なら先輩後輩関係なくタメ口になる傾向があるような。
吉本とかだと、とんでもないことでしょうけどね。
タテ社会だから。

リンクありがとうございます。
こんないい年表があったの知りませんでした!
これは今後活用させていただくことになりそうです。

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FUJIWARAさん (ファイアー)
2012-02-04 18:53:41
ごらんになられたと思いますが、こんなニュースが。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120204-00000058-spnannex-ent
秋元康プロデュースの風見しんごさんの新曲。
どんな曲になるか、楽しみですね。
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