とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

哀しいくらいきみが好きだから

2011年12月24日 20時57分33秒 | その他


中学2年の、秋の日でした。
放課後、クラスメート何人かと一緒に友だちの家にあがりこんで、小春日和の日だまりにねそべって漫画かなにか読んでいた。

遠くで、ラジオの音がかすかに鳴っていた・・・いや、ラジオじゃなく、レコードの音だったかな。それともカセットテープ?
突然、なにかとてつもなくきれいな音が流れてきて、わたしの耳をぐわしとつかみました。
La La La……La La La……
あわてふためいてがばりと起き上がり、耳を研ぎすました。
そのカセットテープを即借りて(と、いうことは、カセットだったんだな)飛ぶように家に帰った。

そして、くりかえし聴いた。くりかえし、くりかえし、くりかえし・・・
歌詞カードを見て、その曲のタイトルを知った。
「言葉にできない」

それが、わたしとオフコースのはじめての出会いでした。
それから、中学、高校と、わきめもふらずにオフコースを愛し続けました。
当時の自分は、いまみたいなちゃらんぽらんな浮気性じゃなく、もっとまじめで頑固だったので、オフコース以外のバンドには目もくれなかった。

初めて買ったオフコースのアルバムは『セレクション1978~81』。次が『over』。

わたしがファンになった時には、5人のオフコース(小田和正、鈴木康博、清水仁、松尾一彦、大間ジロー)から鈴木さんが脱退して、バンドは活動休止していた。雑誌やなんかで情報をかきあつめては、自分の知らない5人の、さらにそれ以前の2人の時代(小田和正、鈴木康博)のオフコースの物語を、心の中で必死に紡いでいた。4人で活動再開する頃には、もういっぱしのオフコース通になっていました。

ファンになってから初めて手に入れた“新作”アルバムも忘れられない。
『The Best Year of My Life』。
白をバックに緑色のタイトルが浮かび、4人が小さくその下に写るジャケット。
本当によく聴きました。それから、『as close as possible』、『STILL a long way to go』、英語のセルフカバーアルバム『Back Streets of Tokyo』。

愛媛のド田舎に住んでいて、やっぱり引きこもり気味だったわたしには、松山とか高松とかの“大きい町”へコンサートを聴きに行くなんていうのは想像の埒外にあったので、当然オフコースを生で見ることもなかった(とんねるずも然り・・・)。ついにその時がおとずれたのは、1988年の秋。この愛媛のド田舎に、オフコースがやってきたのです。

「君住む街へ」全国ツアーは、いったい何カ所ぐらい回ったのか・・・全国のすみずみまでツアーするというふれこみでした。会場になった文化会館では、知り合いや友だちに会ったりして、文字通り町民みんなが集まった。

オープニングの曲は「NEXTのテーマ」・・・イントロの静かなリズムが刻まれた瞬間にこの曲だとわかり、涙が滝のようにあふれでて、しばらくステージを観ることさえできなかった。この曲は、5人のオフコースが終わる最後にリリースされたアルバムの表題曲で、見えない未来を感じながら、共に走った「あの頃」に別れを告げる、オフコースにとっての記念碑的な一曲でもありました。

コンサートの後は、当然のようにほとんどの客が外に残ってメンバーの乗ったバスを見送った。ほんとに小さなホールだったのでね。窓際の席に座った小田さんが、ほおづえをついて、手を振るわたしたちをじっと見つめている横顔が、わたしの目に焼きついた・・・

それからまもなくして、オフコースは解散を発表します。
「君住む街へ」がオフコースの事実上の解散ツアーだったことを、はじめて知ったのでした。

青春が終わったことを、その時、痛切に感じた。
それまでは、自分が青春時代を生きてることすら知らなかったのに。

なんだってイブの夜に、オフコースの思い出や青春の終わりの話をしているんでしょうか。自分でもよくわかりません。ふとしたはずみでこんなブログの記事に出会って、ひさしぶりに「哀しいくらい」を聴いたからかもしれない。
ブログTapestryさん


オフコース ライブ 哀しいくらい 1982年




アルバム『over』収録曲で、中期オフコースのなかでももっとも好きな曲のひとつです。

この「哀しいくらい」のレコーディング風景は、82年にNHKのドキュメンタリー番組で放送されました。わたしは再放送かなにかで見たおぼえがあります。たしか「若い広場」だったと思うんだけど、Tapestryさんの記事ではNHK特集となってますね。

曲はできているのに詞がまったくできなくて、小田さんが七転八倒する姿が印象に残っています。意外だったんですよね。オフコース独特のあのさらりとした歌詞が、そんな苦渋の果てにうまれているとは想像していなかった。

音楽音痴のわたしは、オフコースのサウンドが、とか、アレンジが、とかはまったくわからないので、どうしても詞の世界に惹かれてしまう。

オフコースの詞の世界は、ドラマティックとか、やさしさとか、恋愛のバイブル的な見方をされることが多いけれど、まだ恋愛経験のない中学2年のわたしが直観したのは、“諦念”と“無常”でした。ずいぶん老成した中学生やな・・

「いまはこのまま夜よ明けないで 見えない明日はこないでいい」
(哀しいくらい)

「あなたがいたから立ち上がれたこともあった もうおそすぎる そこへはもどれない」
(心はなれて)

「こんなことはいままでなかった 僕があなたからはなれてゆく」
(秋の気配)

「よく晴れた午後には誰もしらない町へ ひとりで消えてゆきたい そんなときがあるから」
(倖せなんて)

「私の好きだったあのひともいまでは もう死んでしまったかしら」
(老人のつぶやき)

「老人のつぶやき」ですからね・・・そりゃタモリさんに「暗い」と嫌われるはずだ(笑)
しかもこの曲を作った頃、小田さんと鈴木さんはまだ20代だったんだから、風変わりな若者だったと言うしかない。

70年代のフォーク全盛の時代には、こういう若者は多かったのかもしれないけれど、でもオフコースが他のミュージシャンたちとちがっていたのは、彼らの詞が具体的な現在という時間を超えた、もっと抽象的で普遍的な世界へとつきぬけていたことじゃないかと思う。

オフコースの歌詞には「あのころ」とか「そこへ」とか「あの日あの時あの場所で」とか、指示詞がとても多い。それが、ひとりひとりの違う「あのころ」をよびさます言霊になる。あるいは、まるでセザンヌの絵のように、いつでもない抽象的な時間、どこでもない抽象的な場所にもなりうる。

それは、明るい未来へ向かうための言霊というよりも、過去への郷愁に身動きがとれなくなって、じっとうずくまるしかない、あきらめの心だ。わたしにはそう感じられます。すべてのものは変わってゆく。愛もいつかは終わる。ひとの心は切ないもの。哀しいもの・・・

それを、まるで俳句でもよむみたいに、小田さんや鈴木さんは淡々と歌っていた。そのつきぬけた感じが、つきぬけたからこそ軽い感じが、わたしは好きでした。

あきらめの心というものは、この国の風土に深く根付いた“気分”であり、良さである。もし外国人に「日本のどこが好きですか」と問われたら、迷わず「あきらめられるところです」と答えるでしょう。

今年、この国で大きな、ほんとうに大きな災害があって、たくさんの人々がたくさんのものを失いました。どんなに心が痛くても、被災者でない自分には、本当の苦しみはわからない。それは、とてもじゃないけど、相手の立場を想像すればわかるといった類いのやわな苦しみではないはずです。

それを、あえてわかったようなふりは、わたしにはどうしてもできない。それに、どこかであの災害の記憶を忘れたい、目をそむけたいと思っている自分も、やっぱりいる。あんなことがなければよかったのに、と思う勝手な自分がどこかにいる。そんな自分が、哀しい。

きっと、あきらめなくてはいけないんだろう・・・自然は、なにも人間が憎くて大地を揺らすわけではないのだから。自然には、感情など一切ないのだから。ただもう物理的法則にのっとって、変転しているのにすぎないのだから。だからこそ、自然はやさしくもある・・・

今年、つらく苦しい経験をしたすべてのひとたちに、自分ができることはほんとうに何もない。
ただ、ここにいて、流転してゆく世界をじっと感じながら、心の根っこの底にあるほの暗い場所にむかって、こうつぶやくしか・・・


哀しいくらい 君が好きだから 心ひらいて


ほの暗い場所のそのずっとむこうは、たぶん、すべての人の心のほの暗い場所と、つながっているはずだから・・・

イブの夜、オフコースを聴きながら、そんなことを思ったのでした。



きっと同じ/小田和正(オフコース)











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5 コメント

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なんだよぉ (ぬくぬく)
2011-12-24 22:05:33
こんなところにもファイアーさんと共通点があったの?
私がオフコースを知ったのは、あの武道館の直後。小田さん大好きの友達の影響で。
そして、すでに鈴木さんはなく。
フィルムコンサートで、
スクリーンの中のオフコースと、あの日の武道館の観客とともに
「NEXTのテーマ」を歌いました。
思いは同じです。ね。
私が好きな曲は「生まれ来る子供たちのために」とか。まぁOverが多いけど。
「秋の気配」も好きだし。
だけど鈴木さんの「ロンド」が大好きだったりもします。懐かしいね。いいね。
また聞きたくなってきた。
クリスマスに素敵なチョイスです。
返信する
こんばんは (FUJIWARA)
2011-12-24 23:10:16
We are
over
I LOVE YOU
NEXT
The Best Year of My Life

私がよく聞いたオフコースのアルバムです。

私はギターを中学生の頃にはじめました。
しかし、オフコースは難しくまわりでも弾いている人はいなかったです。
上記のアルバムはフォークサウンドからAORサウンドへの移り変わった
ものですよね。
楽器隊のテク、リズムなどやはり一流でしょうね。

私のオフコースの印象は
青春のなかでもがき苦しむ人々を綴り語りかけるとういう感じですかね。
それは生き方であり、恋愛であり。
どちらかというと「楽しむ」より「苦しむ」という言葉が出てきてしまいます。
オフコースと出合った時期で色々変わってくるのかもしれませんが。

ファイアーさんの音楽話新鮮でした。
やはり一筋通っている印象を持ちましたし
切り口が鋭くなるほどと関心するばかりです。

これからもお笑い以外のもたまに拝見したいですね。

残念ながらオフコースの音源が手元にありません。
その頃はレンタルレコードと結構頻繁に特集されていた
FMのオフコース特集を録音(エアチェック)して聞いていました。

これを書きながらYouTubeで、
夏の日、緑の日々、眠れぬ夜 、Yes-No・・・
などを聞いている次第です。

ファイアーさんのおかげで久しぶりにオフコースを聞けて良かったです。

メリークリスマス!

※やっぱり女子アナの料理は見ませんでした(笑)
岡村さんの家へはやっぱり無理だったかw
来週は見るぞ!
ナイツ最高。
ttp://www.youtube.com/watch?v=nQOVDsrbDEc
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ぬくぬくさん (ファイアー)
2011-12-25 11:13:36
メリクリ~^^
オフコースの話、以前ぬくぬくさんとちらっとしたような・・・勘違いかな??
(たぶんそうですね)
フィルムコンサートなんてあったんですね。いいなあ・・・
わたしも鈴木さんの曲好きです!
「ロンド」名曲ですよね。
「NEXTのテーマ」のアンサーソングの「流れゆく時の中で」も大好きです。
あったかいコメントありがとうございます!
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FUJIWARAさん (ファイアー)
2011-12-25 11:22:16
ええっFUJIWARAさんもオフコースファンだったんですかっ
うれしいなあ~。
アルバムタイトル並べてくれてありがとうございます。
ちゃんと続いてるんですよね。
ギターをやってらっしゃるのですか。
オフコースのサウンドってかなり凝ってるってよく聞きますね。
わたしのクズ耳ではとてもさりげなく聴こえるのですけど、
やっぱり演奏するのは難しいんですね。

>青春のなかでもがき苦しむ人々

そうかあ。そうですよね、やっぱり。
男性ファンが多いのも、そのあたりにも理由があるのかもしれない。

音源はわたしも今はそんなに持ってないです。
CDで何枚か買い直しましたけど、なんかちょっと・・・
LPやカセットだと、AB面あるでしょ?
その切れ目をもうカラダでおぼえちゃってるもんだから、
CDでその切れ目がなく曲が続いて行くのが妙に違和感があるんですよね。
わたしは、ですけど。

わたしもゆうべはずっとオフコースでした♪

来週、した特番楽しみですね~
ナイツやっぱ良い!!
去年の東京風でのやりとりも爆笑でしたもんね。
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ありがとうございます。 (オフコース愛好会)
2017-12-08 07:36:27
通勤途中で然り気無く開いたサイトに心打たれました

こんなに、オフコースの思い出を語り合える人が居たなんて…とても嬉しく感動しています。ありがとうございました。


今も、哀しいくらい を聴きながら通勤途中です
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