美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

江戸は近くにありて

2013-11-08 11:40:26 | レビュー/感想
明治初期、一般から徴用した兵士に行進をさせたところ、手足がいっしょに出るのを矯正するのに大変苦労したと、書いてるのをどこかで読んだ記憶がある。軍隊だけではない、教育機関を通して、近代化を妨げる「旧弊」の矯正があらゆる分野に浸透し、蓄積して、今日の我々日本「国民」の姿がある。しかし、身体感覚だけはどんなに否定しても身体の奥深くにしまわれていて剔出不能なのだろう。何かの拍子にこの固い鎧の隙間からひょろりとはみ出てしまう。陽気のいい時に、東京の繁華街を人ごみまみれて歩いていると、あれ、この歩いている人達の風情というのは、確かにぞろりと着物なぞ来ている人は一人も居ないが、日本橋なぞを描いた錦絵の中で見たぞ、という既視感にたやすくとらわれてしまう。どんなにニュートラルにクールにとりすました高層ビルが立ち並んでいようと、そういう江戸あるいはもっと昔の連続した世界に生きているという感覚に戻ってしまう。もはや後戻りできない歴史だが、そういう感覚が残存していることに自覚的であれば、江戸は思ったほど遠くはない。愁ひつつ岡にのぼれば花いばら( 蕪村)

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