美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

降下した龍

2012-01-11 20:23:52 | レビュー/感想
辰年の新年早々、せんだいメディアテークで加川広重氏が描く巨大水彩画の新作を見た。展示されていたのは2点。メディアテークの一階のガラス越しに「星団の誕生」のカラフルな色彩がまず目に飛び込んで来た。色とりどりの尾を引きづりながら運動を続ける星々の巨大な渦。2011年、東日本大震災の前に完成した作品だと言う。星々の集まりというより、宇宙に渦巻く人知を越えた巨大なエネルギーの龍(エロスの龍)を描いているようにも見える。そして、それがたまさか、地上めがけて落ちて来ると、鎧袖一触、計り知れない災害を引き起こす。昨年、私達が築いてきた文明社会を破壊尽くし、生きとし生けるものをことごとく呑み込んだ大津波も、この天上の龍によって引き起こされたもののように思える。その意味でこの作品は予見的な作品のようだ。

さて、この「星団の誕生」の奥の壁いっぱいに展示されていたのが、もう1点の巨大水彩画「雪に包まれる被災地」。そこには天上の龍のアンビバレントな姿(タナトスの龍)が描かれている。画面中央には骨組みを剥き出しにされた建物。正面奥の吹き飛ばされた壁面の間からは、陸地に打ち上げられた巨大な漁船のシルエットが見える。陸地と海の境があいまいになった風景。地震と津波に翻弄されるがままであった建物や構造物の姿がまばらに描かれている。画面の前景をはじめ、あちこちに散在するこうした漂流物の固まりは、大地を暴れ回った結果、エネルギーを使い果たし、自らもずたずたに引き裂かれて大地に屍をさらしている龍の姿を思わせる。

画面全体を天上から落ちて来る大小様々な雪の粒が覆っている。このナチュラルな雪の粒は巨大画の奥行きのリアリティをさらに高め、荒らし尽くされた大地に静けさと美しさをもたらしている。実際、あの日の夜、大地を覆った雪と星空の美しさには、沈黙でしか答えられない無常の美があった。

この巨大画の前ではクラシックのコンサートが行われ立ち見が出来るくらい人が集まったが、涙を流している人の姿が多く見られた。画家がこの大画面の中に重ね合わせコラージュした様々な被災のシーンが悲しい思い出を喚起するのだろう。未曾有の大災害は今まで個人のイメージを描いていた画家に、初めてリアリズムをベースにした絵を描かせた。そのことが絵に思わぬ社会性を帯びさせることになる。実際に見た記憶が少しでも新しいうちに立ち向かわざる得ない必然性を感じ、それが被災された方を勇気づけることになればと思う、その一方で、被災者の方々にとっては誰にも伝えることの出来ない重い出来事であろう、それを描いてよいのかと画家は自問したが、「よく描いてくださいました」という被災者の言葉に逆に慰められたという。

写真は「雪に包まれる被災地」(5.40m×16.50m)の左半分


Large-scale Watercolor on Japan’s Tsunami Striken Areas
by Hiroshige Kagawa

Since 2003, Mr. Hiroshige Kagawa has painted numerous large-scale watercolors as big as a cinema screen. His 13th painting was released in January 2011 at sendai mediatheque, in Miyagi Prefecture, located in the Tohoku region of Japan. In this painting he drew a coastal scene of an area devastated by the tsunami triggered by the massive Japan quake on March 11, 2011 in northern Japan (Tohoku). The watercolor was painted based on numerous preparatory sketches of disaster-striken areas. This scene depicts snow falling over the debris, as if comforting the saddened people of Tohoku. I hope that as many people as possible will see this painting to understand how the victims really felt just after the terrible event.

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