美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

橋の下の隠れ家 Kirsten Dirksenのyoutube映像から

2019-09-08 08:01:58 | レビュー/感想
橋の下の隠れ家

高速道路の橋の下にはたっぷりした空間がある。しかし、スペインの配管工Fernando Abellanas以外に、これを利用してこんな遊び場を作っちゃおうなんてことは考えもつかないし、まして実現した人なんていなかったに違いない。手回しのゴンドラを動かして橋梁に押し付けると、誰にも邪魔されずに本を読んだり、絵を描いたり、ビデオを見たり、夜はマットを引いて寝ることさえできるインビジブルなプライベートルーム(まるで子供の隠れ家のようだ)が出現する。

彼が住むペイポルタはスペインのバレンシア市近郊の小さなベッドタウンだが、彼のリアルな生活空間である自宅もこれまたユニーク。通りに面したアパートメントの裏に接合してたてられていた粗末な建物を解体し、3年かかって構造体以外はすべて自分で少しづつデザインし立て直したものである。彼は18の時に高校を辞めて工場で働いたが、現職の配管工のトレイニングを受けたり、いろんな仕事を経験して2年後には独立した。本人も言うように基本的に独学の人なのだ。そして扉が一切ないオープンスペースの室内。そこに設置された家具や階段やキッチン、椅子など、彼の望むところを独自な発想とセンスを持って形にしたものである。

廃棄された公共物を利用した痛快な企みが映像の最後に出てくる。理屈っぽく、分からないのはバカだと言うばかりで、その実ビジネスをしっかり考えたインチキ現代美術よりよほどこちらの方が面白い。アートのエッセンシャルな部分は、子供の純粋な遊びのようなものによってなりたていることを教えられる。言葉で説明してもその面白さは分からないと思うので、とにかく映像を見てほしい。しかし、これは何かとうるさい日本では、難しいだろうな。ゲリラ的にハプニングとして実行しないとダメだ。おそらく山のような許可書類を書くうちに気持ちも萎えてしまうことだろう。




忘れられた巨人シリーズ Kirsten Dirksenのyoutube映像から

2019-09-08 07:51:59 | レビュー/感想
忘れられた巨人シリーズ

トップ映像の野原や森林のあちこちに置かれたいろんなポーズの巨人像にまずびっくりした。登ったり、滑り台にしたり、くぐり抜けたりして、夢中になって遊んでいる子供たちの姿が見られる。もっと驚くのは、これら6つの魅力的な巨人像がすべてコンテナなど廃材のみで作られていることだろう。

デンマークのトマス・ダンボ(と二人の従業員)は、通勤途中はもちろん、ビッグシティ、コペンハーゲンの街中のゴミ集積場所や大きなゴミ箱や建築現場、マーケット、フェスティバル会場などを漁ってあらゆる使えるゴミを集めてくる。運転免許をとる時間もトラックを買う金もないので、それらを運ぶのはもっぱらリアカー付きの自転車である。

ワークショップのための倉庫には、それらありとあらゆるところから集められてきたマテリアルが、種類別に本当に実に綺麗に合理的に整理され保管されている。中には彼の祖母が一年間かかってためてくれたプラスチックの食品コンテナもある。これらを使って多様なリユース製品を作って売っているが、それら製品の一つ一つは、トマスが詳しく出どころを含め紹介しているので映像を見てほしい。

プラスチックは、彼に言わせれば丈夫で可塑性を持ったアメージングなマテリアルだそうだ。それをパーツに解体して作った動物や人のスカルプチャ(無許可でゲリラ的に街角に設置して歩いている)は、元がプラステイックゴミとは思えないアート的にも素晴らしい出来ばえだ。子供達にも100パーセントリサイクル素材で作られたクリスマスビレッジなどイベントや学校のワークショップを通して、リサイクルの必要性と楽しさを教えている。

2016&17年にはそれら活動の集大成だったのだろう。河畔にテーマパークLIMBO PARKを作り上げた。あらゆるリサイクルゴミに再びクオリティを与えるその芸術的センス、無尽蔵のアイデア、そして活動を多方面に市民を巻き込んで継続的に展開し、社会に浸透させているエネルギーとパワーにはほとほと感心する。同じゴミ問題を抱える日本にも、彼を真似するポリシーを持ったリサイクル業者やポジティブなアーティストが現れないかなあと思う。

何年か前からKirsten Dirksenのyoutube取材映像をアップロードされるごとに見逃さずに見ている。以上に取り上げたのはその映像の一つである。ここには、スマフォを片時も手放せない人や漫然と評判のラーメン屋に長い列を作っている人は決して登場しない。皆、世の通勢に流されず、また既存組織などに依存せずに、自分で生き方や暮らしを考え選んで、たくましく生きている自立した個人である。

Kirsten Dirksenがどういう人かはまったくわからない。ただ、名前からするとドイツ系あるいはスウェーデン系のアメリカ人のようだ。おそらくこのビデオの実質的にはプランナーであり、ディレクターであろう、夫とともに、ビデオカメラを回して、世界中を飛び回って(日本にも何度か来ている)、自分たちが面白いと思ったユニークな生活を実践している人を取材してyoutubeにアウトプットしている。主役の登場人物に、バック音楽なしでそのままもっぱら語らせて、余計な誇張した編集をしないのがいい。初めは二人だったが、途中からよちよち歩きの幼児が加わり、それも姉、弟となり、最近の映像では姉の方は、小柄な母親と見間違うほどの背丈になってきた。