わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

柴咲コウの食ファンタジー「食堂かたつむり」

2010-02-05 16:08:45 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img232 小川糸のベストセラー小説「食堂かたつむり」が映画化されました(2月6日公開)。ヒロインの倫子に扮するのは、「世界の中心で、愛をさけぶ」などの柴咲コウ。その倫子が、失恋のショックで声を失い、疎遠だった母・ルリコ(余貴美子)が暮らす田舎に帰って小さな食堂を始めるという設定がユニーク。決まったメニューはなく、客は一日一組。そして倫子が作る料理は、食べた人の人生に小さな奇跡をもたらすという噂が広がっていく…。
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 見どころは、倫子が手がける風変わりで可愛い料理のかずかず。小さな村の人里離れた片隅で、人々をもてなす倫子。料理を作るシーンは吹き替えなし。料理好きの柴咲コウが、自ら調理を手がけたそうです。その柴咲が、ひと言も喋らず、表情と動作だけで感情表現する演技がみごと。全編にホンワカとした雰囲気が漂う。まさに、映画にセリフは要らない、という典型。そして、倫子と自由奔放な母との間に繰り広げられる葛藤。客や村の人々とのふれあい。これらのドラマが、アニメーションも交えて幻想的に繰り広げられていく。
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 監督は、サンダンスNHK国際映像作家賞受賞作「ウール100%」(05年)で劇場公開映画デビューし、CMやアニメの分野でも活躍する富永まい。そのメルヘンチックで静かな語り口に、才能の片鱗を見せます。でも、“食”に関するシーンは貪欲。たとえば、母・ルリコの結婚式では、彼女がペットにしていた豚のエルメスを料理して全員で食べてしまう、という具合。またラスト、倫子がついに言葉を発するくだりでも、意外な料理が用意されている。いわば、ブラックな笑いもこめられた食のファンタジーとでもいいたい作品です。

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真冬の庭に咲くラベンダー


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