エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

「エコポイント2.0」(シリーズ;「フリー・ビジネスモデル」に対応した新しい貨幣)

2010-12-07 00:00:01 | Weblog
エコポイント2.0がマネーと異なる大きな特徴の一つは、貨幣経済と非貨幣経済の2つの経済にまたがって流通する貨幣であるということです。この点を、クリス・アンダーソンの「フリー・ビジネスモデル」に依拠しながら説明してみましょう。
スマートグリッド革命による「You Energy」へのパラダイムシフトの下では、消費者はピーク時に商用電力系統から自家用発電に切り替えて料金を軽減できます。また、電力会社に売電したり、相互に融通したりできます。インターネットでのデジタル信号(京都大学の松山教授の「オンデマンド電力ネットワーク構想」)や電気自体に埋め込まれたデジタル信号(東京大学の阿部特任教授の「デジタルグリッド構想」)を通して、分散型電源システムが価格をリアルタイムでモニターできるようになるでしょう。
今後は、エンドユーザが生む出す電力を「エネルギーウェブ」を介して集めた「ヴァーチャル発電所」の電力が、電力会社が集中型の大規模発電所で発電する電力と併存するようになるでしょう。そうなれば、インターネットにより出現したデジタル経済のように、電力の生産と流通に革命が起こります。そこではが真の「プロシューマー」(生産消費者)が出現します。
インターネットにより出現したデジタル経済は、「フリー・ビジネスモデル」という新たなビジネスモデルを産み出しています。「フリー・ビジネスモデル」とは、顧客に無料で商品・サービスを提供する一方、そのことで得られる信用力などを有効に活用して、別ルートで大きな収益を得るビジネスの仕組みのことを言います。クリス・アンダーソンが09年に出版した『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』(“Free:The Future of a Radical Price”)で提示した考え方で、現在大きな反響を呼んでいます。
その典型は、グーグルのビジネスモデルが、Gメールなど50以上の製品を無料で提供してユーザから圧倒的な支持を勝ち取り、無料で提供されるサービスに付随する「Googleアドワーズ」(検索連動型広告)や「Googleアドセンス」(コンテンツ連動型広告)などで会社全体の収益の97%を稼ぐというものです。その底流に流れているのは、デジタル化によって価格がゼロにまで引き下げられて新たに潤沢になったものを浪費して、大量の顧客、巨大な市場にリーチするとともに、他方、希少になったものを押さえて収益率を高めるという発想の転換です。「You Tube」は、「フリー・ビジネスモデル」の前者の側面を象徴しています。
クリス・アンダーソンは、「非貨幣経済で得た信用をどうすれば貨幣に交換できるか、それが21世紀の主戦場だ」と言っています。「You Tubeのエネルギー版」と言える「You Energy」のパラダイムは、さらに、貨幣経済のみならず非貨幣経済をも包摂した経済を出現させるものです。「第3の波」の考え方を提唱したアルビン・トフラーは、『富の未来』において、貨幣経済と非貨幣経済の2つのシステムが相互に影響しあいながら新たな富を作り出し、「プロシューマー」(生産消費者)への報酬として代替貨幣が流通するという世界観を提示しています。「You Energy」のパラダイムの下では、このトフラーの世界観が現実化します。
そこでは、既存のビジネスモデルは苦戦を強いられ、ラディカルなビジネスモデルが創造され、貨幣経済と非貨幣経済の2つの経済にまたがって流通するエコポイント2.0が取引の媒体となることは間違いないと考えられます。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;ワイヤレス給電による空間電力伝送)

2010-12-06 06:37:05 | Weblog
近年、電子機器がネットワーク化されるなか、データ伝送においてはワイヤレス化が進んでいますが、電力供給に関してもワイヤレス化のニーズは年々高まっています。従来のワイヤレス給電システムは、コイルからコイルへと電力を給電する電磁誘導方式ですが、最近では、電界共鳴方式や磁界共鳴方式の研究開発が進んでいます。
 こうした中、ソニーが電源コードを接続することなくテレビなどの電子機器へ、離れた場所から高効率で電力を供給できる「ワイヤレス給電システム」を開発しました。同システムには、送電デバイスから供給された電力エネルギーが空間を介し同じ周波数で共鳴している受電デバイスのみに伝播する「磁界共鳴型」の非接触給電技術を採用しています。この方式には、デバイス相互の位置関係がずれていても高効率の給電が可能となるほか、送電・受電デバイス間に金属があってもその金属が熱くならないという特徴があります。
ソニーは、ワイヤレス給電技術の電子機器全般への応用について研究開発を進めるとともに、早期実用化をしていきたいとしています。プラグインハイブリッド車や電気自動車への応用も可能です。これが実用化されると、空間への電力伝送が可能となります。将来、プラグインハイブリッド車や電気自動車に乗る人々は、充電スタンドの存在を忘れ、さらに充電という作業からも解放される時代がやってくるかもしれません。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;IT革命はスマートグリッド革命の序曲に過ぎない!)

2010-12-05 08:25:27 | Weblog
最近、日本国内でも様々な場面で「スマートグリッド」という言葉が用いられるようになりました。新聞紙上にも、ほとんど毎日のように関連する話題が載っています。しかし私は、「スマートグリッド革命」の本質というものがしっかり議論されていないと感じています。
次世代電力ネットワークの整備といっても、それは電力会社に関係することで自分にはあまり関係がないというのが一般の人々の意識だと思われます。いまのところ、単に「家庭にスマートメーターが設置されたり、グリーンテックという新しいベンチャーが登場したりする」といった話が多いためか、企業やビジネスマンにとっても、関係する業種以外のところでは自らの企業戦略やビジネス基盤に影響する大きな事象だという感覚が必ずしも共有されているわけではないように感じられます。
これは、スマートグリッドの引き起こす「You Energy」へのパラダイムシフトについて、十分な理解が進んでいないためです。実は、現在の「You Tube」に至る現象が15年前の米シリコンバレーで起こりました。インターネットによるIT革命の勃興です。当時、私は,シリコンバレーに駐在していました。eコマースなどインターネットの商用利用が始まるとともに、ネットスケープ、ヤフーなどのITベンチャーの勃興期で,様々な企業が誕生しつつあったときです。そこで私は、インターネットが登場し瞬く間に社会やビジネスの在りようを大きく変革していく様を目の当たりにしました。インターネットによるパラダイムシフトを臨場感持って感じることができました。
そのインパクトというか、社会を変革する力というのはすさまじいものでした。私は「これこそが革命だ!」と直感し、1994年10月、日本に一時帰国をして800人の聴衆を前に「シリコンバレー・モデル」という「革命」「が起こっていることをお伝えし、パラダイムシフトの前向きな取組みを訴えました。それまでは「マルチメディア」という言葉がよく使われていたのですが、以来「インターネット」がIT革命を主導するネットワークを形容する言葉となりました。その後、IT革命の大きなインパクトについて国内外に情報発信したり、シリコンバレーに「シリコンバレー・マルチメディア・フォーラム」(SVMF)という団体を立ち上げたりするなど啓蒙的な活動を進めました。それらの一連の取組みの成果を、『シリコンバレー・モデル』(1995年、NTT出版)という本にまとめています。
そうした経験から言うと、今回の「スマートグリッド」には、90年代半ばにインターネットが登場してきたときと同じような“うねり”を感じます。それどころか、スマートグリッドが起こす変革の大きさというのは、IT革命をはるかに凌駕する規模になります。それは,ネットワークの規模を比較すると一目瞭然です。IT革命は、「スマートグリッド革命」の序曲にすぎないとさえ言えます。

「エコポイント2.0」(シリーズ;消費にこそ着目した成長戦略のツール)

2010-12-04 06:34:32 | Weblog
以前は、「消費にも着目した成長戦略でなければ意味がない」として、政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点を指摘しましたが、今回は、「生産年齢人口の減少→就業者数の減少→消費の減退」が、日本経済が「失われた20年」を経験した本当の原因であり、「消費にこそ着目した成長戦略でなければ意味がない」ということを指摘してみたいと思います。この観点からも、消費の喚起のためには消費者に退蔵されるマネーではだめであり、有効期限があり、かつ、名目金利がゼロで貨幣の流通速度を格段に上げるエコポイント2.0を活用すべきだという結論になります。
日本では95年頃を境として生産年齢人口の減少がおこり「生産年齢人口の減少→就業者数の減少」が起こっています。この人口トレンドは中長期的に継続します。10~15年には、史上最大勢力の団塊の世代が65歳を超え、これからの5年間こそ日本が最大の「人口オーナス」を経験する時代です。さまざまなモノの価格が低下し、税収が落ち込み 住宅、オフィス、土地の供給過剰がさらなる価格低下を生むことになります。その先も生産年齢人口の減少と75歳以上の後期高齢者の増加し、25年に団塊の世代が75歳以上となっても、生産年齢人口の減少は続きます。そして、50年には団塊ジュニアまでもが75歳以上となり、生産年齢人口は今の6割程度となります。
年齢別の一人当たり消費を観察すると、どこの国でも40~50歳代の年齢で一人当たりの消費がピークになる「逆U字曲線」が観察されます。このため、「就業者数の減少→消費の減退」がおこります。政府の新成長戦略の基礎となっている経済理論では、GDPを成長させることができれば、いくら生産年齢人口や就業者数の減少が起ころうと、個人所得、個人消費、企業業績も良くなると教えていますが、これは事実と反します。96年から02年にかけての「戦後最長の好景気」の中では、輸出は伸び、GDPは回復しましたが、このことは起こりませんでした。国内新車販売台数、小売額、雑誌書籍販売部数、国内貨物総輸送量、自家用車による旅客輸送量、たんぱく質や脂肪の摂取量、国内酒類販売量、一人当たり水道使用量などは、96年から02年にかけての「戦後最長の好景気」の中でも減少しました。生産年齢人口の減少こそが日本経済を苦しませているデフレの真の正体です。
私が指摘したい正しい経済理論は、生産年齢人口の減少する経済においてはデフレが常態化し、個人所得、個人消費、企業業績が落ち込み、GDPの維持や成長は極めて難しいとするものです。たとえて言えば、生産年齢人口の波は潮の満ち引き 景気の波は普通の波であり、生産年齢人口の減少による大きなインパクトを補い、経済を成長させるためには、景気という小さな波では力不足です。よく、生産年齢の減少は生産性の向上でカバーできると主張されますが、生産性向上では「生産年齢人口の減少→付加価値額の減少」を原理的に補いきれません。それは、労働生産性=付加価値額(企業の利益+人件費などのコスト)÷労働者数であり、生産性をあげるために人を減らせば、分母のみならずその過程で分子も大なり小なり下がることになります。生産性をあげること時代が自己目的化すると、人員整理で逆に付加価値を下げてしまうことになりがちです。
政府の成長連略の中では、インフラ、スマートグリッド、原発、新幹線などのシステムを輸出して外貨を稼ぐことが対策として掲げてあります。しかし、を日本経済の問題は外貨を稼ぐこと自体ではなく、稼いだ外貨を国内で回すことなのです。日本には、優れた技術力のおかげで国債となっている分を除いても400~500兆円の個人金融資産が蓄積されています。また、毎年十数兆円の金利配当も流れ込んできます。

この状況の下で必要なのは、輸出に一層の目を向けるのではなく、バランスの取れた行動、つまり生産年齢人口の減少が引き起こす消費の減退という問題を直視し、消費を直接増加させるための対応です。以上の考察からも、エコポイント2.0を成長戦略として活用すべきだということになります。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;中国で加速するスマートグリッド)

2010-12-03 06:48:43 | Weblog
中国では、スマートグリッドは中国政府の低炭素政策を支えるものとされています。中国は、05年に制定された再生可能エネルギー法に基づいて、「再生可能エネルギー中長期発展計画」を作成していますが、その中で太陽光、風力などの再生可能エネルギーや原子力の1次エネルギーに占める割合を20年までに15%にまで引き上げることを謳っています。また、再生可能エネルギー法と再生可能エネルギー発電価格と費用分担に関する管理試行弁法にもとづき固定価格買取り制度を導入するとともに、各種の補助金で助成しています。
このうち中国が力を入れている太陽光発電に関しては、08年3月国家発展改革委員会が作成した「再生可能エネルギー開発第11次5カ年計画」では、10年待つまでに太陽光発電の総発電容量を300メガワット(MW)に拡大すること、メガワット級の太陽光発電モデルを実施すること等が示されました。さらに具体的な政策として、09年5月国家エネルギー局は「新エネルギー産業振興策」の概要を作成し、その中で、再生可能エネルギー推進に1300億元(1元=約13円)を投入し、20年までに総発電容量を1万メガワット(MW)に引き上げ、そのため1740メガワット(MW)の太陽光発電所を建設するとしています。
10年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)において、温家宝首相は11~15年の次期5カ年計画の主要事業としてスマートグリッドを位置づけ、国家エネルギー局が国内の大半の地域の送電を手がける国有企業、国家電網などと協力して整備を進める方針を明らかにしました。11~15年で2兆元、16~20年にも1兆7000億元の投資を計画しています。10年は準備段階として、天津市、南京市などで研究施設の開設や送電網の実験などを実施することとしており、2000億元超の資金を投じる予定です。
スマートグリッドに関する米中協力も推進しており、09年11月オバマ大統領と中国胡錦涛国家主席が、スマートグリッドに関する共同研究を含む「米中クリーン々エネルギー技術に関する共同イニシアティブ」を発表するなどの動きを示しています。この中では、米中再生可能エネルギーパートナーシップの立ち上げや、米中エネルギー協力プログラムの設置について合意しているます。民間ベースでは、既にアメリカのGE社は、スマートグリッドを含む業務提携の合意を取り付けています。インテルは、中国本土の80%と10億人のユーザをカバーすべく、State Grid Corp of China(SGCC)との間で、グリッドモデリングのためのシミュレーションソフトウェア、ネットワークの隔離と発電所の自動化、組み込み機器向け技術のアプリケーションの開発を行うための技術協力協定を結んで活動を展開しています。
 また、中国政府とアメリカのソーラーメーカーであるファーストソーラーは、09年9月8日、内モンゴルの砂漠で2ギガワットの太陽光発電を行うための協定に調印しました。19年完成を目指すもので、これは、内モンゴルのオルドス市に11.9ギガワットの再生可能エネルギー発電パークを建設する計画の一環です。日本最大のメガソーラーは、現在シャープが堺市に建設しているもので28メガワットですので、今回のファーストソーラーものはシャープのものの71倍、原子力発電一基で1Gワット程度ですから、原子力発電の2基分に相当します。また、家庭の太陽光発電は一軒当たり通常3.5キロワット程度ですので、380万軒分に相当する巨大なものです。中国は現在原子力発電建設にも積極的に取り組んでいますが、原子力発電2基分に相当する巨大なソーラー発電への取組みは、中国政府の意欲的な電源開発への取組みを示すものです。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;IT革命はスマートグリッド革命の序曲に過ぎない!)

2010-12-02 06:01:48 | Weblog
最近、日本国内でも様々な場面で「スマートグリッド」という言葉が用いられるようになりました。新聞紙上にも、ほとんど毎日のように関連する話題が載っています。しかし私は、「スマートグリッド革命」の本質というものがしっかり議論されていないと感じています。
次世代電力ネットワークの整備といっても、それは電力会社に関係することで自分にはあまり関係がないというのが一般の人々の意識だと思われます。いまのところ、単に「家庭にスマートメーターが設置されたり、グリーンテックという新しいベンチャーが登場したりする」といった話が多いためか、企業やビジネスマンにとっても、関係する業種以外のところでは自らの企業戦略やビジネス基盤に影響する大きな事象だという感覚が必ずしも共有されているわけではないように感じられます。
これは、スマートグリッドの引き起こす「You Energy」へのパラダイムシフトについて、十分な理解が進んでいないためです。実は、現在の「You Tube」に至る現象が15年前の米シリコンバレーで起こりました。インターネットによるIT革命の勃興です。当時、私は,シリコンバレーに駐在していました。eコマースなどインターネットの商用利用が始まるとともに、ネットスケープ、ヤフーなどのITベンチャーの勃興期で,様々な企業が誕生しつつあったときです。そこで私は、インターネットが登場し瞬く間に社会やビジネスの在りようを大きく変革していく様を目の当たりにしました。インターネットによるパラダイムシフトを臨場感持って感じることができました。
そのインパクトというか、社会を変革する力というのはすさまじいものでした。私は「これこそが革命だ!」と直感し、1994年10月、日本に一時帰国をして800人の聴衆を前に「シリコンバレー・モデル」という「革命」「が起こっていることをお伝えし、パラダイムシフトの前向きな取組みを訴えました。それまでは「マルチメディア」という言葉がよく使われていたのですが、以来「インターネット」がIT革命を主導するネットワークを形容する言葉となりました。その後、IT革命の大きなインパクトについて国内外に情報発信したり、シリコンバレーに「シリコンバレー・マルチメディア・フォーラム」(SVMF)という団体を立ち上げたりするなど啓蒙的な活動を進めました。それらの一連の取組みの成果を、『シリコンバレー・モデル』(1995年、NTT出版)という本にまとめています。
そうした経験から言うと、今回の「スマートグリッド」には、90年代半ばにインターネットが登場してきたときと同じような“うねり”を感じます。それどころか、スマートグリッドが起こす変革の大きさというのは、IT革命をはるかに凌駕する規模になります。それは,ネットワークの規模を比較すると一目瞭然です。IT革命は、「スマートグリッド革命」の序曲にすぎないとさえ言えます。

「エコポイント2.0」(シリーズ;真のイノベーションを実現するエコポイント)

2010-12-01 07:02:45 | Weblog
日本経済の成長のため自然利子率を高めるためには、「真のイノベーション」を起こすべく、「アニマルスピリット」を高めてリスク・テイクを増やす環境を整えるとともに、マネーによる購買力の退蔵を回避して消費を喚起する手段を登場させることが必要です。前者で重要になるのは、期待収益率を高めるための政府による明確なコミットメントや技術開発促進策とスマートレギュレーション(賢明な規制)ですが、後者に関しては、現在の家電エコポイント&住宅エコポイントを発展させて新エコポイントを流通させることが処方箋となります。エコポイントは、巷間考えられているようなイメージとは異なり、「真のグリーンイノベーション」を実現する手段です。
エコポイントには、利子がつかないすなわち名目利子率ゼロであり、ポイントの有効期限が設定されているというマネーとは異なる性質があります。日本経済が陥っている「流動性の罠」の下では、マネーは家計等に退蔵されてしまい消費が喚起されません。現に、前麻生政権下で実施された2兆円の定額給付金によって増えた消費支出はわずか6300億円で、名目GDPに占める割合は0.13%にすぎません。これに対してエコポイントは、利子を生まないので長期保有のメリットがなく、逆に有効期限が来ると価値を喪失しまうので、次に使われることを想定した価値媒体であると言えます。したがって、「流動性の罠」の下でも貨幣の流通速度を上昇させることにより(現在の日本経済における貨幣の流通速度は0・7程度ですが、90年出し後半に登場した地域通貨に関する実証分析では、7倍以上高まることが明らかにされています)、消費財に関する消費貯蓄選択を刺激して消費需要を増大させることができます。そうなれば、経済において消費と投資は同時決定なので、投資需要も喚起されます。

具体的には、太陽光発電、電気自動車、エコキュート、エネファームなどの個人の省エネ・創エネを促進するために交付されている補助金の一部をマネーではなくエコポイントで交付することが考えられます。先例としては、08年度より開始されている「京都エコポイント」において、京都府の太陽光発電導入補助金(国の補助金の上乗せ補助)が「京都CO2削減バンク」を通じてエコポイントとして交付され、エコポイントは京都商店街(合同会社KICSの加入メンバーである1200店舗)でのお買い物、各種私鉄を利用する際の運賃をして活用できるようにしているケースがあります。これは、私が手掛けた05年愛・地球博において成功をおさめたEXPOエコマネーを京都に移植した「電車deエコ」のスキームを発展させたものです。
また、私は「家庭・オフィスCDMとエコポイント」というスキームを提唱しています。この「家庭・オフィスCDMとエコポイント」は、HEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System)を基礎としたスマートグリッドの構築と合わせて、国内クレジット制度を活用します。家庭やオフィスにおけるCO2削減分(省エネ・創エネ分)について、

① スマートプロジェクトに設置される「エコポイント・バンク」(民間機関とも連携)が仲介して、大企業が排出クレジットとして取得し(大企業のクレジット購入費は税法上損金参入可能とし、温暖化対策防止法上の報告制度上のインセンティブも付与する)

② 大企業から「エコポイント・バンク」に渡ったマネーは「エコポイント・バンク」においてエコポイントに変換なされてCO2削減主体にわたる

③ CO2削減主体は、受け取ったエコポイントを電子マネー、商品券等に交換して公共交通機関の利用、地域商店街でのお買い物等に消費することにより景気浮揚効果、経済活性化効果も期待できるように制度を工夫します。

 このスキームの下では、エコポイントの原資は国ではなく排出クレジットを取得する大企業となるので国に財政負担が生ずることはありません。また、大企業が国内クレジット制度を活用して排出クレジットを取得することは、京都CDMの活用スキームの発展形と言えますが、これにより、海外への資金流出を抑制することもできます(http://www.smartproject.jp/cdm_money)。
さらに、再生可能エネルギーの全量固定価格買取り制度を活用した「エコポイント・マネー」が考えられます。太陽光発電などの売電対価や各種ポイントを現金化したお金が専用の「エコポイント・バンク」に開設される口座に入金され、エコ商品・サービスの購入や電気自動車に充電する場合の支払い手段としてエコポイント・マネーが利用されます。また、口座を利用して決済する場合にエコ消費用のポイントが付与されます。

 エコポイントは入り口(エコマネー獲得時)だけがエコですが、エコポイント・マネーは入り口のみならず出口(エコポイント・マネーの使用時)もエコという性格を有します。エコポイント・マネーの名目利子率もマネーのそれとは異なってゼロなので、エコポイントと同様貨幣の退蔵は起こりません。しかも、エコポイントと異なって取引金額全体をカバーするので、消費の活性化、それによる経済の成長を促進する効果ははるかに大きくなります。